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マレーナさんと僕(3回目/全3回)

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マレーナさんと僕(3回目/全3回)

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12.いざ、空京大学へ

「良いか野郎共、てめえらの神!
 ドージェ・カイラスのパートナー・マレーナがピンチに陥ってる!
 ここで男を見せなけりゃパラ実生の名折れだ!」
 おお! と声が上がる。
 その数は北斗の全舎弟も加わり、最早数えきれない。
「飛空挺持ちはドラゴン共を打ち落せ!
 バイク持ち、蛮族上がりは、落ちたドラゴンをフルボッコだ!
 全員突撃――!」
 味方を煽った後、自分は強化型光条兵器“ミストリカ”を掲げて、ドラゴンの中に斬り込んだ。
 
 相手はレッサードラゴンだ。
 北斗一人の手にはあまる。
 窮地に陥る度に、憧れの、ドージェ・カイラスの姿が浮かんだ。
「ドージェはいつだって、その背中に弱い奴らを背負ってた。
 あいつが帰ってくるまでそれを守り切れなくて、何がパラ実だ!
 何が自由だ!」
 せい、と剣をふるう。
「ドラゴンが何だ、ただのでかい爬虫類じゃねえか!
 あいつはもっとでかかった!
 器の比べあいで、この俺が、負けられるかあああ!」
 気合い一発!
 仲間達と共に、ドラゴンを倒す。
 
「馬鹿北斗、加勢するわよ!」
 光る箒に乗ったベルフェンティータが氷術を放つ。
 次いで、「恐れの歌」。
 弱ったドラゴンは、一時退く。
「……私の大事なメル友にちょっかい出すなんて。
 貴方達、余生が惜しくない様ね……」
 ふふっと笑う。
「……良いわ教えてあげる。
 最強の剣の花嫁が……誰かって事をね」
 直後に再び、氷術!
「さあ……無様に凍って、凍えて、凍て付いて……――死になさい」

「凍るばかりじゃないわよ! ドラゴンさん」
 イッツショータイムっ!
 レビテートで飛んできて、クリムリッテが加わる。
 ベルフェンティータの攻撃の直後に、「火術」
「ふふ、温い温い、温すぎるわよドラゴンさん。
 このクリムちゃんを焼きたいなら、
 その百倍の火力もってらっしゃい!」
 フォースフィールドを展開させる。
「ここは炎の戦場よ、さあ我慢比べを始めましょ
 私が力尽きるかあんたが黒焦げになるか」

 ■

 そうして、数分後――。
 北斗達は数多の仲間達と共に、ドラゴンを全滅させたのであった。
 
 ■
 
「ありがとう! 北斗」
 キヨシは北斗に礼を述べていた。
 小型結界を受け取る。
「ドラゴンも全部退けた。君のお陰だよ!」
「いや、それは違うぜ。
 こいつらのお陰さ、キヨシ」
 言って、北斗は仲間達を紹介する。
 和希、カレン、ベアトリーチェの3名が控えている。
「みんなみんな、下宿とキヨシのことを心配して。
 それで捜し回ってくれた、あんたの友達さ」
「え? えええーと、その……」
 キヨシはいきなり紹介されて、頭をかく。
 なにせ、知人とはいえ、みんな女の子たちばかりだ。
「ありがとう」
「『ありがとう』ばっかだな? キヨシ。
 んなボキャじゃ、空大受からねぇぞ」
 和希の言葉で、キヨシは我に返った。
「そ、そうだった、受験!」
 サッと空を見る。
 まだ明るいが、陽が落ちるのは、まもなくのこと。
 夜になれば、嫌でも試験は終わる。
「遅刻」でも、受けることは出来ないのだ。
「また、一年か……」
 キヨシは落胆する。
「折角、皆に助けてもらったのになぁ……」
 涙目になる。
 
 苦しい講座と、それなりに楽しかった下宿の日々。
 総て水の泡と消え去るのか?

「諦めるのは早いよ! のぞキヨくん!」
 排気音と共に、建物全体が揺れる。
 金色に輝くイコンがある。
「あ、あれは!
 ロイヤルガードのエンブレム……て、まさか!!」
「そのまさかだよ、のぞキヨくん」
 ハッチを開けて、美羽が顔を出した。
「【西シャンバラ・ロイヤルガード】が責任を持って送り届けるんだからね!
 絶対に間に合ってみせるから!」
 
 ■
 
 キヨシは外に出た。
 だが、その瞳はうろうろして心もとない。
「間に合うとか、間に合わねぇとか。
 そういう問題でもなさそうだな?」
 皐月が気づく。
「どうしたキヨシ?」
「うん、僕……」
 座り込んだ。
「なんだか、緊張が解けたら、腰が抜けちゃったみたいで」
「ヘ・タ・レ」
 皐月が手を貸した。
 皐月ばかりではない。
 その場にいた誰もが、手を差し伸べる。
 その手を掴んで、へへへと笑った。
「だからさ、皆が来てくれたら。
 なんだか、僕、受かりそうな気がするんだ。
 空大に」
「全員? のぞキヨくん?」
 美羽の困惑した声が響く。
 
 だが次の瞬間、美羽のイコンは夜露死苦荘の受験生達全員を載せて、空京を目指すのであった。
「定員オーバーよね? 間に合うかな?」
 美羽は細心の注意を払って、空大の正門を目指す。
 
 夕暮れ時――。
 門が閉まり行く。
「皆! しっかりつかまって!」
 イコンは正門を駆け抜けた。滑り込みセーフ。
「キヨシ!」
 受験票を片手に掲げた菫の姿があった。
「これもって、早く!」

 ■
 
 かくして、夜露死苦荘の受験生達は無事、空大を受験することが出来ましたとさ♪
 
 ■
 
 夜。
 受験生達全員の帰宅を待って、夜露死苦荘では「勝利の宴」が催された。
 主催者はもちろん、オーナーの信長である。
「料理は、ワイとエクスさんと邦彦さんの3人の作さ。
 豪華だねぇ」
 切が大皿料理を次々と運んでくる。

 受験生達の合格を確信した信長が、祝辞を送る。
「まずは合格を祝おう。尚かの地にはわしもおる。
 天下に打って出るが為、手始めに空大の天下を頂く為にである。
 その際には共に参れ、我が力となれ。
 さすれば今回の如く栄光を約束をしようぞ。
 我らが、そうおぬしらがパラミタを上より動かす新たな存在となる時代が来るのである!」
 スッと息を吸って盃を掲げた。
「今宵は大いに飲むが良いぞ、騒ぐが良いぞ。
 勝ちし者も敗れし者も今宵は酔えよ」

 その後、宴は無礼講となった。
 
 宇都宮祥子は、酔った勢いでマレーナに尋ねる。
「そういえば。
 マレーナは受験の結果が出たあと、どうするの?
 このまま、夜露死苦荘の管理人続ける?」
「ええ、そのつもりですわ。祥子さん」
 マレーナは頷く。
 
 トライブ・ロックスターは飯をかき込みながら。
「マレーナ姉ちゃん!」
 片手をあげた。
「今までお世話になりました!
 ありがとうございます!」
「まだ、受かったと決まったわけではないのですよ? トライブ」
「うん、でも手ごたえがあるかんな!」
 傍らの媛花にウィンクを送る。
 
「マレーナ、明日の買い出しはどうしますか?」
 朔が尋ねる。
「おそろいの服を買う約束ですよね?」
「そうでしたわね? 蛾痛にしましょう」
「う……ん、でもセンスがいまひとつですよ? マレーナ」
「では、町にしますわ。
 それでよろしくて?」
 鬼崎 朔(きざき・さく)とマレーナはファッションの話に花を咲かせる。
 
「マレーナさん」
 声を駆けてきたのは、師王アスカだ。
「合格間違いなし、とのお噂。
 聞きましたわよ、アスカさん」
 あはは、とアスカは照れ笑いを浮かべる。
「おめでとうございます」
「ううん、まだ早いわよぉ、マレーナさん」
 そうして、スッと一枚の絵を差し出すのであった。
 見事な肖像画を。
「これは……っ!」
「うん、マレーナさんとドージェさんのよぉ」
 ふふっとアスカは笑った。
 驚いたマレーナの顔が、思いのほか幼かったので。
「ディーバの激励の気持ち。
 受け取って欲しいわぁ〜」
 【アメイジンググレイス】を歌うのであった。
 歌姫の美声に、全員が酔いしれる。
 
 立川るるはキヨシ達受験生と語っていた。
「お疲れ様ーっ!」
 まずはジュースで乾杯。
「るるさん、受かったら何したいっすか?」
「うん、トラックの運転とかやってみたいな。えへへ」
「へー、車の運転か。
 でも、チョット危なっかしそうっすね?」
 キヨシは助手席に座るるるの姿を想像する。
(乗ってくれた方がいいんだけどなあ……彼氏かぁ……)
 ハァと溜め息をつくキヨシなのであった。
 
「よお、キヨシ」
 日比谷皐月が肩に手を置いた。
「それで、受験はどうだったんだ?」
「うん、こいつのお陰でね!」
 ブルーローズブーケをみせる。
 今朝、皐月から「合格の前祝い」としてもらったものだ。
「大丈夫そうだよ! 皐月」
「……そっか、よかったじゃねーか」
 キヨシはそいつの意味に気づいてなかったんだな。
 マレーナを見て、なぜかホッとする皐月なのであった。
「幸せならさ、それでいいじゃねーか」

(あ、歩さんだ!)
 キヨシは酒を一気に飲み干す。
(今がチャンスっす!
 けど、素面じゃとてもいえないからなぁ……)
 ヘタレな彼は、酒の力を借りようとする。
 
 ……そうして、キヨシは酔った勢いで歩の肩に手を載せるのであった。
 両目は、既にすわっている。
「歩、俺の女になりやがれぇ!」
「いやです、キヨシさん」
 歩はくすくすと笑うのだった。
 だって、マレーナさんのことが忘れられないんでしょう? ということらしいが。
「お友達から始めましょう? ね?」
「……うっ!」
 ぐすん。
 不覚にも涙が浮かぶ。
 だが、ここで暴れる訳にもいかない。
「ち、畜生!!」
 彩の美しい、海鮮丼が目に入った。
 何やら変わっているが、涙でぼやけたキヨシには分かるはずもない。
(振られた腹いせだ!
 一気食いしてやるう!!)
 
 ……そうして、キヨシは下宿の診療所行きとなるのであった。
 ロザリンド・セリナが心配そうな顔で、タンカを見送る。
 
「砂糖とチョコレートをご飯と魚の間に敷いたのですよ。
 確か疲れた時は甘い物がいいと聞きましたので。
 え? 味付け? 牛乳まろやかに致しまたのよ?
 でもまた、美味し過ぎてしまったのかしら?」
 
 そこに、武明がパタパタと上がり込んでくる。
「あ、歩殿。
 この、下宿の様は!!
 まさか、誰かがアビリティを使って喧嘩でも……」
 と、そこで海鮮丼が目に入った。
 目を丸くして、一言。
「む、また面妖な料理を作られたのですね? マスク殿」
「…………」

 駿河北斗は周囲を珍しそうに眺めていた。
 みんなみんな、ここでは幸せで、楽しそうだ。
 
 パラケルスス・ボムバストゥスが女の子相手にちょっかいを出し。
 レティシア・ブルーウォーターがジュースで酔っ払い。
 それを肴に、東園寺雄軒が皆と酒を酌み交わし。
 神楽月九十九は雰囲気に寄ったのか、何だか見ているだけで楽しそうだ。
 彼女の傍らで、伏見明子は元カツアゲ隊の面々の肩を叩いて、話を聞いている。
 激励しながら、預かった物を返しているようだ……が、元隊員達は話をやめない。
 その様子は、希望に満ち溢れている。
 
「なぁ、マレーナ」
 北斗は思わず語りかけた。
「マレーナは、幸せか?」
「ええ、北斗さん」
 マレーナは躊躇なく頷く。
 スッと台帳を開いて、北斗に文字を示す。
「北斗さんは257号室。
 ベルフェンティータさんは258号室。
 クリムリッテさんは259号室」
 パタンッと閉じて、それは綺麗に笑うのであった。
「いらっしゃいませ、皆さま。
 そしてようこそ、夜露死苦荘へ」
 
 ■
 
 そして、宴会の終了後。
 新しくなった女風呂では、チョットした騒ぎが起こるのであった。
 
 時系列を追って、詳しく説明して行こう。

 ■
 
 まず、宴会前。

 自室の真ん中で、閃崎 静麻(せんざき・しずま)は窓から露天風呂の方角を睨んでいた。
「今宵こそは、やってやるぜ! 覗きをっ!!」

 彼は、ここに至るまでに、並々ならぬ、情熱と、努力と、根性と、時間と……つまり、労力を惜しまず「覗き」にかけてきたのだった。

「俺が、パートナー達を騙して引き込み。
 肉体労働やら、知的労働やら駆使して、風呂の改築に関わったのは、
 今日のこの日の為だぜ!!」
 
 くうっと拳を作って、感慨を深める。
 はたから見れば、「よく頑張ったね? 静麻。大丈夫、成功の女神は君にきっと微笑むからね?」とか言って、肩を叩いてあげたい程の努力だ。
 くれぐれも、「その根性の使い方は、絶対に間違っている!」とか水をさしてはならない。
 
 静馬は図面を広げた。
 それは、「露天風呂」の設計図だ。
 だが信長に提出した物とは違う。
 赤バツがところどころに打たれてある。
「覗きポイント」
 ふふふ、と静麻は不敵に笑う。
「オーナーごときに、しっぽを掴まれるような、俺じゃないのさ」
 うーん、と首を捻って、今度は青ペンで線を書く。
 覗き用のルートのようだ。
 そういえば、彼はセキュリティの特技を持っているのだった。
「ふん、これで完璧だぜ!」
 ペンにキャップをする。
 懐に図面をしまい込むのであった。
 
 ■
 
 そして、宴会直後の露天風呂。

 久世 沙幸(くぜ・さゆき)は相変わらずのマイクロミニスカートで、風呂の清掃をしていた。
 周囲には誰もいない。
「どーせなら、綺麗な方がいいよね?」
 ということらしい。
「ドラゴンやら、受験やら……慌ただしかったし。
 早く片付けて、マレーナさん誘って入っちゃおうかな?」
 
 きゃっ、と、悲鳴。
 
 スッテェーンッ!
 
 沙幸は勢いよく転ぶ。
 勢いで、尻もちをつく。
 スカートは翻ったままだ。
「いやーん、丸見え!」

 ブッ!
 
 何か物音が聞こえた様な気がする……。
「や、やだ……だれ?」
 反応はない。
 気の所為のようだ。
「うん、でもスカートびちょびちょ」
 彼女の見事な太ももに、それはくっきりと張り付いている。
「うん、気持ち悪いな!
 着かえてこようかな……」
 
 沙幸は部屋にいったん引き下がろうとする。
 廊下に出た所で、腕を何者かに掴まれるのであった。
「はっ! あなた方は!!」

 ■
 
 その頃、露天風呂では異変が起きている。
 日本庭園の一角がわさわさとざわめいていた。

「ふ……う、助かりましたようですね?」
 声の主はエッツェル・アザトース。
 昼間、ドラゴンに向かっていった勇者が、なぜこんな場所にいるのか?
「決まっていますよ。
 愛の伝道ですよ、これから女性専用タイムですからね♪」
 何事も、実地経験が一番!
 そうして、エッツェルは再び庭園の一角に身を隠すのであった。
「しかし、何でこんなところに、落とし穴があるのでしょうね?
 まるで、覗いてくれ! と言わんばかりの作りですが……」
 
 そうして、エッツェルの嫌な予感は当たる。
 
 ■

 まもなく、マレーナを誘って、沙幸が現れる。
 タオルに包んでいるのと、湯けむりが邪魔になって、この位置からは見えにくい。
(くそ! もう少し……)
 エッツェルが身を乗り出した、その時だった。
 
 ウウウウウウウウウウウウウウウウッ!
 
 けたたましいサイレンの音。
「そこでありますかっ! 【用務員召喚】!」
 どこからか、スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)の声が響いた。
 用務員姿の唯斗が、隠遁の術を解いて現れる。
 日本庭園の正面だ。
「くっ、はかられたか!」
 逃げようとするも、逃走経路にはトラッパーによる巧妙な罠がある。
「【防衛計画】、こんなことで役に立つなんて!
 でありますよ! のぞき屋さん!」
 スカサハが立ちはだかった。
「クラン! 行くであります!」
 機晶犬のクランが、勇敢にエッツェルにくらいつく。
 テクノコンピューターを使い、反省室の鬼崎朔と連絡を取る。
「朔様! 唯斗様と挟み撃ちで捕えるであります!」
「了解です! 仕上げは私に任せなさい、スカサハ」
 エッツェルは2人と一匹に追い詰められる。
 間もなく、反省室から朔がやってくる。
「よりによって、マレーナの覗きとは!
 よい覚悟ですね? 伝道師」
 ふっふっふ、と笑って、ワイヤークロ―を取る。
 すったもんだの末に、逮捕術が決め手となって、エッツェルは捕縛された。
「反省室の私は、『鬼』ですよ。
 なんなら、この場で『死刑』にして差し上げてもよいのですが……」
 我は射す光の閃刃で牽制する。
 朔の技術は、卓越している。
「ひぇ、ご勘弁を!!」
 ぼごおっ。
 朔の鉄拳が飛ぶ。
 エッツェルはのされた。
 唯斗が肩から担ぐ。
 反省室行き、1人決定である。
「行動予測と歴戦の立ち回りと不寝番で、
 逃げられない様に見張っててやる。
 覚悟しておけ!」

「朔、待って!」
 アテフェフ・アル・カイユーム(あてふぇふ・あるかいゆーむ)が、朔の裾を掴む。
「常習なのよね?
 根本から解決しないと」
 ふふっと笑う。
「心のケア。必要だと思うわぁ〜」
「カウンセリングルームか?」
 朔はげんなりとする。
(ある意味、そちらの方が地獄なのでは?)
 だが、マレーナ絡みで血も涙もなくなっている朔は、アテフェフにエッツェルの処置を頼むのであった。
「はぁ、助かりましたよ、アテフェフさんのお陰ですね?」
「ふふ、まずはハーブティーでも飲んで、ゆっくりして行ってね♪」
 だがそのハーブティーが、【薬学】で調合した「気分アゲアゲ薬G」(前回、調合したものに頼もしの薬瓶に入っている薬酒)であることを、エッツェルは知らない……。
 
 ■
 
「うーん、でもなんかまだ気になりますね?」
 朔は風呂場を見回した。
 マレーナ達は既に退散している。
 彼女達は単なる協力者だったのだ。
「クランも盛んにかぎまわっているでありますよ!」
 クラン? とスカサハは尋ねる。
 だが、クランは首を傾げるだけだ。
 スカサハは露天風呂の図面を広げる。
 信長から借りたものだ。
「日本庭園でありますか」
「うん。デコイ、と考えるのは、気の所為でしょうか?
 風呂の順番も、レディーファーストをわざわざ唱えた奴がいたらしいですし……」
 だが、総ては憶測なのだ。
 もやもやとしたまま、朔達は引き上げていく。
 
 ■
 
 そして――。
 
 誰もいなくなった風呂場の脇で、「低い声」が流れた。
「ふう、見つからなかったぜ!」
 ふらふらと、立ち上がったようだ。
 月光が雲間から現れる。
 隠れ身が解けて、正体が徐々に明らかになる。
「やはり、最後に物を言うのは特技だったな」
 ふっふっふ、と不敵に笑う。
 静麻であった。
「さあ、帰ろうか……」
 だが、その顔は長らく女体を目で堪能したことと、蒸気にさらされたことから、のぼせ切ってしまったようだ。
 おまけに鼻血はとめどなく出ており、治療系の特技を持たぬ彼に止血は難しかったようだ。
「ふ、不覚だった……ぜ……」
 ばったりと倒れる。
 
 ウウウウウウウウウウウウウウウッ。
 
 サイレンが鳴る。
 用務員が音もなく召喚される……。
 
 ……程なくして男たちの野望は、静かに幕を閉じたのであった。

 ■
 
 こうした喧騒から離れ、マレーナはナガンを外に誘った。
「本当は、私、
 ここから出て行くつもりでしたのよ?」
 ふふっとマレーナが笑う。
 夜の中に浮かぶ、白い顔。
「下宿をお護り下さって、ありがとう、ナガンさん」
「でも、最後は診療所行きだったから」
 ドージェの姿が思い浮かんだ。
 彼だったら、きっと負けなかったのだろうな、と。
「ナガンがすんげー強かったら。
 マレーナに不埒な輩が近寄らず、
 ドージェの旦那も心労少なくと思ったんだが……」
「…………」
「ナガンも、その不埒な輩の一人だったんだなぁって」
 マレーナを抱き寄せる。
「強くなりたいもんだなぁ」
「私1人の為に、でしょうか?」
 マレーナは柔らかく首を振る。
「駄目ですね、私。
 強くない……」
「え?」
「こんなに思って下さるのに……ドージェ様が消せない……私も、思いたいのですわ……あなたのこと……なのに……」
 するり、とナガンの腕を抜ける。

 そのまま、彼女は1人部屋に戻るのであった。
 
 ■
 
 夜が明ける。