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マレーナさんと僕(3回目/全3回)

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マレーナさんと僕(3回目/全3回)

リアクション

 4.ドラゴン襲来〜迎撃隊結成〜
 
 エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は、ドラゴン達の襲撃に際し、荒野にいた。
「まさかの、まさかですね。
 受験生達を見送って、その足でドラゴン軍団に出くわすとは!」
 はっはっは、と笑いつつ、エッツェルは迫りくるドラゴン達に相手に迎撃態勢に入る。
 
 大魔弾「コキュートス」――。
 
「ここの生活は、楽しいですからね」
 一発ぶっ放す。
 レッサードラゴンは翼をやられて地に落ちる。
 装填している間に、キヨシの顔が浮かんだ。
 エッツェル先生、と見上げる、ドンくさい顔。
「『小学2年生』レベルですからねぇ、キヨシさんは」
 精神力が尽きるまで、コキュートスをあたりかまわず撃ちまくる。
 息切れする頃、奇剣「オールドワン」を左手の平の開口部から引き摺りだした。
「空大なんぞ……受かるわけがないんですよ。まったく」
 背中から、肉を突き破って腐肉の絡まった骨の翼が生えてきた。
 屍骸翼「シャンタク」。
「帰ってきて、また勉強する場所が必要なのですよ!
 此処は、何者であっても通せませんな……」
 翼を羽ばたかせると、レッサードラゴン達の中に突っ込んだ。
「さぁ、これで食い止めてみせましょう!」
 
 彼はツメや牙で体を傷つけられても立ち上がる。
 繰り返し、繰り返し……夜露死苦荘の為に!

 だが、いかんせん相手の数が多すぎる。
 エッツェルの剣をすり抜け、レッサードラゴン達は、やはり下宿を目指すのであった。
 
 ■
 
「よし、皆の者!
 総力戦じゃ!!」
 天守閣から、夜露死苦荘オーナー・織田信長の檄が飛んだ。
「わしは、そなたたちの力を信じておる。
 可能で有れば捕縛、治療しろ。無理にとは言わん。
 わしはフラワシを使う」
 友情のフラワシを現わす。
 ドラゴンに向かっては
「悪い事は言わん。
 夜露死苦荘に入って、空大エリートを目指さんか?
 ともに、シャンバラの未来を担っていくのだ!」
 だが相手は圧倒的な数だ。
 信長の魅力は、その総てには伝わらなかったようだ。
「仕方がない。
 おぬしら、打ち首、及びドラゴンステーキの刑ぞ」
 
 ドラゴン達は下宿と荒野の領域を超えて、攻撃態勢に入る。
 
 ■

 下宿・門の前。
「受験生達は、とにかく空大へ!」
 という信長の通達に従い、アレックス・キャッツアイ(あれっくす・きゃっつあい)は大急ぎで玄関から飛び出そうとしていた。
 
 そこにキヨシが来た。
 
「わ! 後田さん。
 どうしたんっスか?」
「ええーと、ここらへんに受験票とか、落ちてなかった?」
 アレックスは首を振る。
「受験票、おとされたんで?」
「う、ん、まあ、そういうことかなあ」
 ははは、とキヨシは乾いた笑い。
 そこに、ドラゴンの咆哮が響く。
(これは……空大どころじゃないっスね)
 キヨシを見捨てて行く訳にもいかないし、と腹を決める。
 アレックスはオートガードを発動しつつ。
「とにかく、中へ! 一緒に探すっス!」
「ああ、悪いな、アレックス」
 2人は方向転換して、門をくぐるのだった。
 
 ■
 
 外の様子を知らないリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)サンドラ・キャッツアイ(さんどら・きゃっつあい)と、部屋で楽しげに語っていた。
「アレックスが、これを見たら。
 なんて思うことかしら?」
 蒼空歌劇団の次回の演目を見せる。

「演目 夜露死苦荘での一夜」、とある。
 
「それより、こっちよね? リカ」
 サンドラはふふっとわらって、サッと掲げた。
「じゃーん。
『空京大学合格通知』!!」
「受験の必要なかっス! て泣かれそうね?」
 リカもつられて笑う。
 でもね、と、これは真面目な顔つきで。
「元々実力はあるのに、やる気や元気が過ぎて逆に上手くいかない。
 そんなところを見直して貰おうと思っての参加だったの。
 分かってくれるとよいのだけれど……」
 
 ドドンッ。下宿が揺れた。
 激しく戸をたたく音。
 見れば、マレーナの姿がある。

「あ、マレーナ君」
 リカインはいつもの調子で片手を上げた。
「ポータラ……」
 言いかけて、また建物が揺れた。
「何だか外が騒がしいみたいだけど、どうしたのかしら?」
「レッサードラゴンですわ。
 それが下宿を……どうしたわけか襲ってきたのです!」
 マレーナの顔が強張る。
「……て、理由もなく?」
 下宿が揺れる。考えている余裕はなさそうだ。
「ここは危ないです! 早くお逃げなさい!」
 マレーナはまだ残っている下宿生達の姿を求めて、慌ただしく立ち去る。
「逃げる? そんなことはしないわよ、マレーナ君」
 リカインはスッと立ちあがって、サンドラに告げた。
「逃げ遅れた人とかいるわよね?
 私も手伝うわ」
「じゃ、私も!」
 サンドラが手を上げる。
 身の回りのものに、迷彩塗装を施した。
「では、手前も。
 全力をもって、お相手致しましょう」
 部屋の隅に控えていた空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)が、立つ。
「本来余所者として、あまり力に頼るような真似は避けるべきなのですが、
 ここを譲るわけにはまいりませんしね」
 
 3人は外に出た。
 サンドラは物陰に潜んで不意打ちを狙う。
 他のふたりは正面から打って出た。
「ここは、手前が行きましょう!
 リカは後ろからサポートして下さい」
 狐樹廊はサイコキネシスで、レッサードラゴンの口を閉じようとする。
 だが、凄まじい力だ。
「これは、難し過ぎます!」
 焔のフラワシに切り替えた。
 フラワシの攻撃に気を取られている間に、さざれ石の短刀を突きつけようとする。
「援護するわ!」
 リカインが、咆哮で牽制する。
「こんなのは、どう?」
 挟み撃ちで、サンドラが天のいかづちを放った。
 続いて、優しの弓から矢の雨。
 迷彩塗装を施したそれらに、レッサードラゴン達は苦戦する。
「今です! とどめ!」
 狐樹廊がさざれ石の短刀を深々と差す。
 ドラゴンは石化して、戦闘不能に陥った。
「けれど、まだまだいるわね」
 ふうっと、額の汗を拭ったリカイン達は、苦戦する仲間達に目を向ける。 
 ■
 
 リカイン達の近くでは、日比谷 皐月(ひびや・さつき)が、パートナーと共にドラゴン達の姿をとらえていた。
 迎撃役に身を投じるらしい。
 
「よし、卯月、魔鎧化だ!」
「ええ、わかったわ!
 頑張ってね? 皐月」
 
 翌桧 卯月(あすなろ・うづき)は決死の覚悟で、変身する。
 魔鎧『エル・アライラー』となって、皐月の身に纏った。
「短時間で決めてよ?」
「チャージブレイクがあるからだろ?
 分かっているさ!」 
 皐月はスラッシュギターを担いで、レッサードラゴンに真っ向勝負を仕掛ける。
「でも、オレ受験生じゃなかったっけか?
 まいっか」
 彼の後ろには、受験生達の夢がある。
 夜露死苦荘があるのだ!
 逃げるわけにはいかない。
「帰って来た時に……家がねーのは、嫌だし、寂しいだろ?
 だからま、ここはオレ達が頑張って……さ」
 ドラゴンの火炎放射が来る。
 皐月は回避すると、『つばさ』を発動させつつ、奴らを睨む。 
「言ってやろうじゃねーか。帰ってきた、皆に。
 お疲れさま、と――おかえり、ってさ」

『つばさ』――それは、スキルを合わせた空戦技能。
 空中に発生させたオスクリダの力場をオードバリアと干渉させ、
 足場代わりに踏んで、軽身功と神速で駆け抜ける。
 夢のような技だ。
 
 ……そして、実際に「夢」だった。
 だが、このエル・アライラーの力をもってすれば、軽身功と神速で駆け抜けても十分役割は果たせる。
 足場には、夜露死苦荘の垣根や、バラック群の屋根を利用すればよいのだ。
「全くの失敗、と言う訳でもないのか……」
 やはり頼りになるのは、有能なパートナーだな。
 卯月に心の中で合掌しつつ、皐月は空を駆ける。
 ドラゴンを挑発しつつ。
 彼等の素早い動きは「Omegaの瞳」で捕捉する。
 皐月の周囲で、ドラゴン達の動きが鈍った。
 皐月の口元が、かすかに緩んだ。
 
 そこには――大魔弾「クロウカシス」の双砲を構えた、雨宮 七日(あめみや・なのか)が待ち構えている。
 
「本当、皐月は口だけですね」
 冷静沈着、冷徹非道の毒舌天使は、クッと笑った。
「逃げたくてかなわないだなんて本当、口だけです!」
 皐月が七日の射線上にレッサードラゴン達を追いこむ。
「では、私が纏めて、全て薙ぎ払いましょう!」
 ドドオオオオ――ンッ!
 双砲が火を噴いた。
 あっという間に、2、3体のドラゴン達が弾かれる。

 だが、小型とはいえドラゴン達を蹴散らす程の大魔弾だ。
 七日とて、そのままとはいかない。
 
 あまりの威力に、クロウカシスの砲身が飛びそうになる。
 七日は慌てることなく、奈落の鉄鎖で引き寄せた。
 双砲はスッと手元に戻る。
 額の汗をぬぐいつつ、ホケッとしている皐月に指示を下した。
「何を呆けているのです? 皐月さん。
 飛びトカゲの百や二百、私達の敵ではありません。
 さっさと集めてくるのです!」
「…………」
 
 皐月達の戦いは続く。

 ■

 魄喰 迫(はくはみの・はく)は、部屋の窓から飛び降りてきた。
 彼の後ろを、これはあまり気の進まない様子でマッシュ・ザ・ペトリファイアー(まっしゅ・ざぺとりふぁいあー)が続く。
「ハァ……。
 力を失ったマレーナに仕返ししてもつまらないし。
 もう、夜露死苦荘なんてどうでもいいんだけどさあ……」
「何を言ってるのさ、マッシュ!」
 迫はチョー乗り気でドラゴン軍団を見上げる。
「義を見てせざるは、勇なりき、だぜ!
 それにマレーナとか眼鏡とか……何人かの学生は、契約者じゃないんだったな」
 二ィッと笑った。
「じゃあ、そいつらも守らなきゃ」
「嘘だ、『ドラゴン相手に大喧嘩、派手にやろうぜ』
 くらいにしか考えてないよね?」
 夜露死苦荘へは、遊びに来ただけの迫なのだ。
 マッシュは迫を尻目に、仕方なく、痛みを知らぬ我が躯、リジェネレーション、虹のタリスマンで準備を整えた後、黒影を使うのだった。
 影にスッと消える。
「あ! 逃げるのか? マッシュ!」
「行動予測」
 面倒臭そうに答える。
「ドラゴンの石化はあまり好きじゃないけど……ま、頑張るよ」

 マッシュの予想通り。
 派手に立ち回るのは、迫。
 プロミネンストリックに乗った彼女は、神速で攻撃をかわしながらドラゴン軍団の中に飛び込む。
「あたしの拳は、きょーれつだぜ!」
 『鳳凰の拳』で牽制して、隙が出来た所で『閻魔の掌』!
 一体一体を確実に仕留めてゆく。
 
 ふと、ポニーテールの少女が目にとまった。
 宮殿用飛行翼を操り、ワイヤークローでドラゴンを一か所に追いこもうとしている。
「うーん、小型でもドラゴン。
 さすがのあちきでも力負けしそうですねぇ」
 少女――レティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)はのんびりと困った顔を作った。
「あ、危ない!」
 迫は、レティシアの手を引いた。
 もがいたドラゴンは、そのままワイヤークローから逃れて行く。
 そのまま標的をレティシアに定めたようだ。
「1人じゃ無理だ! あたしも手伝うよ」
 迫はレティシアを庇いつつ、プロミネンストリックの囮役を買って出る。「で、攻撃役の野郎は?」
「はい、あちきのパートナーがねぇ」
 指を指す。端正な顔立ちの少女が、下宿前で待機している。
「あそこで待っているんですねぇ」
「って、1人じぇねぇか! マッシュ!」
 自分の影に向かって叫んだ。
 何だよ! という形に影が動く。
「あの子と一緒に、下宿を頼んだぞ!!」
 
 迫達は、連携してドラゴンを一か所に追い込む。

「今だよ! ミスティ」
 行動予測に基づき、マッシュが声を駆ける。
 ミスティ・シューティス(みすてぃ・しゅーてぃす)は足下の影に頷いた。
 彼女の「禁猟区」も、危険を告げる。
「ありがとう、皆さん!
 では私が、トドメをさしに行くわ!」
 ブリザード、次いで、サンダーブラスト!
 ドラゴン達に、ダメージを与える。
 だが、そこは小型でもドラゴン。
 地に落ちても、動くことくらいはできそうだ。
「駄目だね、帰さないよ!」
 影が伸びあがる。
 マッシュの形を取る。
 そして、手にしたさざれ石の短刀で、次々とレッサードラゴン達の体につき立てるのであった。
「さ、受験生達の皆さんの祝勝会を開くためにも、
 ここを護りましょうねぇ」
「お、いいね! そいつは面白そうだ!」
 迫が嬉々として、再びレティシアと共に、囮役として外に出る。
 
「あーあ、俺はもういいよ」
「ぼやかない、ぼやかない。
 今をしのげば、美味しいものでも食べさせてもらえるわよ。
 ほら、頑張りましょう!」
 ミスティによしよしと慰められて、影に潜むマッシュなのであった。
 
 ■

 元カツアゲ隊のバラックの前でも、下宿の勇者達が迎撃に精を出していた。
 伏見 明子(ふしみ・めいこ)
 九條 静佳(くじょう・しずか)
 鬼一法眼著 六韜(きいちほうげんちょ・りくとう)
 レヴィ・アガリアレプト(れう゛ぃ・あがりあれぷと)
 の4名である。
 
「ウチの悪ガキ共もちゃんと送り出したし……
 あいつらの大事なものも、ちゃんと避難させたし、と」
 明子はパンパン、と手をはたく。
 ちなみに大事なものとは、前回元隊員達からカツアゲ……ではなく、預かった物品の事だ。
 
「このでけェ蜥蜴相手に、喧嘩とはねェ」
 やれやれとドラゴン達を見上げて、レヴィは諦め顔である。
「しゃァねェな。付き合ってやンよ」
 魔鎧となって明子に装着する。
 その形状は、なんと! 「セーラー服」。

「どーいう事情で、ここに目をつけたんだかは知らないけど。
 私の生徒の帰る場所を壊そうってんなら……容赦はしないわよ」

 スカートが風に翻る。
「レビィ、護りを固めるわよ!」
「好きに使え!」
 レビィの返事に、明子は苦笑する。
 リジェネと肉体の完成、フォーティテュード、オートガード、オートバリア。
 それに、レビィのファイアプロテクト、ディフェンスシフト、龍鱗化を使う。
「待って下さい! 皆さん」
 六韜は空飛ぶ魔法↑↑を使った。
 明子達のみならず、周囲の迎撃役の者達の体が浮かぶ。
「明子に祝福を!」
 パワーブレスをかけた後、タブレットを飲んでへたり込む。
「頑張って!」
「突っ込んで暴れる!」
 ワイルドペガサスに乗り、前衛として切り込む。
 
 歴戦の魔術!
 一対一になったところで、真空波を飛ばして潰して行く。
「危ないです! 明子」
 六韜が水晶ドクロを掲げた。強烈な光が、ドラゴン達を怯ませる。
「今ですよ!」
「うん」
 明子は頷くと、力の限り、真空波を放ち続けるのであった。
「ケケ、さすがはマスター!」
 レビィが感心する。
「ドラゴンキラーだぜ!」

 だが、実際にトドメをさしているのは静佳だった。
 落ちたドラゴンの間を、フワフワと漂う海神の刀がある。
「源九郎義経、推して参る!」
 ベルフラマントをかぶりなおして、気配を殺す。
 そうして近づいては、抜刀術から疾風付きでばっさりと斬るのであった。
「これで、源氏で初のドラゴンキラーさ!」
 るんるんと鼻歌まじりに、八艘飛びよろしく、ドラゴンの間を駆けめぐって行く。
 
「さ、もうひと頑張りよ」
 仕上げに、六韜が命のうねりで学生達を元気づけるのであった。
 
 ■
 
 だが、レッサードラゴンの数は「未曾有」だ。
 いかに最強の契約者達とはいえ、これほどの数では防ぎきれない。
 
 玄関を突破され、夜露死苦荘に損害が出始めた。
 迎撃役の者達は、下宿のマレーナ達を気にかけ始める。