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マレーナさんと僕(3回目/全3回)

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マレーナさんと僕(3回目/全3回)

リアクション

 6.ドラゴン襲来〜管理人さんを守ろう!〜
 
 レッサードラゴンの集団は、下宿の建物を襲い始める。
 
 その頃。
 マレーナは未だ夜露死苦荘の中を駆けまわっていた。
「皆さん、皆さん。
 だれか! 残っている方はいらっしゃらなくて?」
 上品な声はよくとおり、下宿生達の耳に留まる。
 
 ■
 
 そのうちの一人。
 夜露死苦荘・管理人補佐の斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)はマレーナを探していた。
「うん、飯の下準備は終わったぞ」
 邦彦は、夕飯までの総ての準備を終えていた。
 切に台所を預けたのは、その後のことだ。
「他に用意するものがないか、尋ねてくる」
「いってらっしゃい」
 切に送り出されて、マレーナを探しに来たのは1時間前の事。
 いまは必死に、彼女の姿を探している。
「なぜ、こんな時にドラゴンが!」
 邦彦は窓の外を見る。
 キヨシの姿が浮かんだ。
 受験生を送り出した後でよかった――心底ほっとする。
 そのあたりが、彼が「管理人補佐」たる由縁なのだろう。
「とにかく、こうなっては!
 管理人の安全が先決だ」
 彼女は、今はか弱き乙女なのだ。
 自分が守らねばならない。
 
 廊下の端に、マレーナが見えた。
 パタパタと慌ただしい。
「あ、マレ……」
 言いかけて、窓の外の光景が目に入った。
(あ、あれは!?)
 モヒカン桜の下に、なんと!
 受験に行ったはずのキヨシの姿がある。
 レッサードラゴンを見上げてかたまっている。
(……あーっ、くそっ!)
 邦彦は方向転換すると、マレーナに向かっては。
「すぐに避難を、早く!」
 指示してから、玄関から飛び出した。
「邦彦さんっ!?」
「荘の誰かに助けを求めてください。
 ……終わったら宴会でもしましょう。お気をつけて」
 ふっと見せた横顔は、これ以上ないくらいに険しい。
「約束だからな。
 仕方がない、か……」
 落ち込んだキヨシに夜食を持って行った夜の事を、今は懐かしく思う。
 
「……意外と余裕ありそうだな」
 キヨシを見据えて、邦彦はふんと笑った。
「ここは任せて先に行けっ!」
「でも、アレックスが!」
 邦彦はハッとして振り向いた。
 キヨシの近くで、アレックスが仲間達と共にドラゴンを食い止めている。
「僕を庇って……」
「それより、なぜ戻ってきた?」
 キヨシはうーんと、とバツ悪そうに。
「受験票を、その……下宿に忘れちゃったみたいで……」
「下宿? いや、俺は預かってないが……」
 ひょっとしたら、マレーナが持っているかもしれないな、と考える。
「では、受験票を探しに行け。
 ドラゴンは俺がなんとかしよう」
「大丈夫なの? 邦彦さん?」
「なに、俺の腕は、『夜食』を作るためだけにあるのではないからな」
「……す、すみません」
 キヨシは唇を噛んで、下宿に上がる。
 契約者でもない自分では足手纏いになる、そう感じたらしい。
「では、ここはかっこよく決めなければな!」
 キヨシを見送って、邦彦は息の上がったアレックスと代わる。
「邦彦さん……」
「よく頑張った、もういいぞ」
 ドラゴンの前に立ちはだかった。
 ドラゴンの目が、ギロリと邦彦を見据える。
「夜露死苦荘管理人補佐、斉藤邦彦だ」
 言い終わったとたんに、ヒプノシスを発動させる。
 不意打ちに、なすすべもなく眠りについたドラゴンを眺めて、
「それにしても、どうして突然襲ってきたんだ??」
 邦彦は首を捻った。
 彼らなりの理由は有るのだろうが。
 こうキレまくっている状態で、まともな回答は得られそうにない。
「無力化を狙って、直接戦闘を避けるべきだな」
 念のために、しびれ粉も用意する。
「さて、問題は管理人と受験票の行方か」
 呟いて、ドラゴンと対峙する邦彦なのであった。

 ■
 
「まだ、残っている方は、いらっしゃいませんこと?」
 マレーナは階段を駆け上がり、2階に辿り着く。
 そこには、部屋の窓から迎撃する下宿生達の姿がある。
 
 ■
 
 その3名。
 
  グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)
  ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)
  リ ナタ
  
 は、迎撃に打って出る、まさに直前だった。
「まぁ、ソニアさん!」
 マレーナは真っ先にソニアを抱きしめる。
「駄目ですよ、こんなことをされては。
 危ないですわ!」
「でも、ここは……私達の家ですから……」
 ソニアは覚悟を決めているのだろう。
 強い目でマレーナに訴える。
「それに、いま重要なのは、夜露死苦荘を護る事ですよね?」
「ソニアさん……」
「戻ってきたら『花嫁修行』、またお願いします!
 マレーナさんみたいになるって、私決めているんですから!」
「グレンさん」
 マレーナはグレンに向き直る。
「私も、契約をすれば。
 あなた方を護る程の力が戻るかもしれませんわね?」
「パートナーとしての力、か」
 だがグレンは首を振る。
「ドージェを護れなかった俺に、そんな資格は無い」
 マレーナは驚いて顔を上げた。
「離れていてくれ……大丈夫……今度は必ず護ってみせる……!
 これ以上、マレーナから何も失わせはしない!」
「大事なのは、ドージェ様ではございませんわ……」
 3人にサッと目を向ける。
 ふうっと笑って。
「夜露死苦荘と、下宿生の方々。
 今の私には、それがすべて。
 どうかお気をつけて」
 
 下宿が揺れる。
 気づくと、窓の外に向かって突進してくるドラゴンの姿があった。
「マレーナさん、下がってください!」
 ソニアは鬼払いの弓で素早く弾幕を張る。
 ドラゴンがひるんだすきに、グレンは用意した小型飛空艇に乗った。
 機晶姫用フライトユニットをつけたソニアが後を追う。
「俺も手伝うぜ。
 ここは気に入ってるんでなぁ!」
 ナタは龍鱗化で防御力を上昇させる。
 顔をしかめているドラゴンに適者生存を使った。
 ドラゴンは怯む。
 グレンがワイヤークローで絡め取る。
「出力最大だ!」
 そのまま、軌道を変えて荒野に向かおうとするが、ジタバタされてうまくゆかない。
 最終的には、ナタがしびれ粉を使い。
 上空からソニアが天のいかづちで援護することで、ようやく大人しくなった。
 
「いいか? どんな理由があるにせよだ……。
 テメェらは誇り高いドラゴンなんだから。
 以後、その自覚を持って、それに相応しい行動するように……いいな!」
 ナタが呆れ顔で説教する。
 だがその口調にカチンッときたレッサードラゴンは、たどたどしい口調で言い返すのであった。
『オマエラ……パラミタ人デモ契約者デモナイ奴……シャンバラニイレサセナイ……我ラノ怒リ……受ケテミヨ……ッ!!』
「ん? パラミタ人でも契約者でもない奴?」
 意外な理由に、ナタは目を点にするのであった。
「それって、さあ……ひょっとして……?」

 ■

 マレーナは休む間もなく、下宿の中を右往左往している。
 
 ■
 
「先生! 祥子さん!」
 ガチャ、とドアを開けると、部屋に宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)の姿はない。
 窓が開け放たれている。
(? 祥子さん?)
 空を見る。
「マレーナァーッ!」
 ワイルドペガサスに乗った祥子が、ぶんぶんと手を振っている。
「危ないですわよぉー! 祥子さん!!」
「だって、帰ってきたら家がないんじゃ、
 キヨシたちが可哀想でしょう?」
 空高く舞い上がって、レプリカ・ビックディッパーを掲げる。
「そういうわけでマレーナ。
 原因が解決されるか、群れを撃退しきれるまでになるけど、
 頑張りましょう!
 合格発表を見るまでが受験ですよ!」
 言ったとたんに急降下。
 重力で重みをつけた剣が、ドラゴンの首を強襲する。
 その力の凄まじい事!
 慌てたレッサードラゴンは、首を狩られる前に一時退くのであった。
「うーん、優梨子への土産になると思ったのにな」
 207号室に目を向けるのであった。
 
 ■
 
「祥子さんは大丈夫そうですね?」
 安堵したマレーナは、そう言えばと胸に手を当てる。
「お手伝いの方達!
 まだいらっしゃって?」
 庭を見下ろした。
 そこには用務員の紫月 唯斗(しづき・ゆいと)の姿があるはずだった。
 
 受験生達を送り出す直前――マレーナは彼といつものように茶を飲んでいた。
 その時、唯斗ははじかれたように、外に飛び出して行ったのだった。
『何だこの殺気…強過ぎる
 向こう…空が、黒い?』
 そんなことを呟いていた……。
 
「ま、まさか!!」
 マレーナはハッとして、荒野に目を向けた。
 砂埃の中に、用務員の姿が見える。
 
 ■
 
 マレーナの胸騒ぎ通り。
 紫月 唯斗は、パートナー達と共に戦場の中にあった。
「唯斗兄さん、イナンナの加護が……」
 ハッとして、「夜露死苦荘のマスコット」こと、紫月 睡蓮(しづき・すいれん)は空を見る。
「あれは!!」
「レッサードラゴン……大群だな」
「わわ、大変!!」
 睡蓮は慌てて、妖精の弓を用意する。
 
 バイクが止まる。
 買い物袋を抱えたプラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が、降りてきた。
 無造作に袋を下宿に投げてから、尋ねる。
「ドラゴンですか?」
「ああ、プラチナ……悪いが付き合ってくれ」
「イエス、マスター!」
 プラチナムは冷静に頷くと、魔鎧化して彼に装着した。
 
「護るぞ、絶対に」
「うん!」
 元気よく頷いて、睡蓮は妖精の弓で応戦する。
 
 その頃、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)は1人マレーナをひきとめて、台所にいた。
「はぁ、テストねぇ……」
 ふわあと切が欠伸をする。
 彼は一通り夕食を作った後、エクスに台所を譲ったのであった。
 
 夕食ではなく、マレーナの修業の成果を試すのじゃ!
 
 ということだったので。
 マレーナが料理を差し出す。
「いかがでしょう?」
「………まぁ合格点をやろう」
 エクスは箸を置く。
 マレーナは安堵の表情を浮かべる。
「これでスタート地点に立った訳だな」
「エクスさん」
「後は自分で道を見つけて行け。
 大いに試行錯誤して行くが良い」
「て、ただの卵かけご飯だけど?」
 という切の突っ込みは2人には届かない。
 
「……と、このような事をしている場合ではないのですよ? エクスさん」
 マレーナは慌てて本題に入る。
「唯斗さん達が! ドラゴンと!!
 あぶないのですわ!」
「何? 唯斗が?」
 エクスは血相を変えて、玄関を飛び出す。
「こ、これは! 飛竜の大群!?
 思ったより来るべき時は早かったか……」
 マレーナを振り返る。
「マレーナ、以前話した事を覚えているか
 汝に抗う意志はあるか、と」
 マレーナは黙っている。
「今こそ、答えよ
 わらわ達に力を貸してくれ
 護られるだけでなく、護る為に!」
 マレーナの両肩に手を載せて。
「力は汝の中に眠っているだけ
 わらわがソレを解放する!
 魂の枷を絶ち切れテスタメント・ギア!」
 光条兵器を出して、振り下ろした。
 だがマレーナに変化は起こらず、決心も変わらない。
「私は、このまま、ここで……」
 瞳を不安定に彷徨わせる。
 唯斗の、自分を呼ぶ声が聞こえる。
 エクスはたまらず、外に飛び出した
 
 流星のアンクレットをつけた唯斗が、千里走りの術で単身ドラゴン達に斬り込んでいくのが見える。
 
「ここで、隠れておくか?」
 陰形の術。
 こっそりと近づいて、ブラインドブラインドナイブスを使う。
「ティアマトの鱗だ!
 これでも食らえ!」
 先頭の一頭に突き刺した。
 ずぶりと鈍い感触。
 レッサードラゴンには効くようだ。
 きりもみ状態で、急降下する。
「だが、通常のドラゴンだったらこうはいかないか?」
「そうですね? マスター。
 次もこの調子で行きましょう」
 ああ、と唯斗は魔鎧に頷いた。
 実際きりがない。
「噂を……本当にしてやるか?」
 高速度のまま、空蝉の術でドラゴンからの攻撃をかわしつつ、強襲。
 分身……とまではいかなくとも、唯斗1人で2人分以上の活躍だ。
 
「や、やっぱり!」
「分身する用務員の噂は、本当だったんだ!」

 そうして夜露死苦荘に、新たな都市伝説が誕生するのである……。
 
 唯斗の目に、マレーナが映った。
「マレーナ危ない!」
 窓に急速接近。
 マレーナを抱えて、廊下を横っとびに飛ぶ。
 間一髪、火炎放射の炎が影をかすめる。
「ありがとうございます」
 マレーナは綺麗に一礼する。
 その所作を美しいと思いつつ、唯斗はマレーナの手を取った。
「なぁ、マレーナ
 俺達と一緒に来ないか
 多分、楽しくなると思うよ
 他に決めた奴がいるならそれで良いけどな」
「どうしてそう思うのです? 唯斗さん?」
「マレーナの心からの笑顔を、まだ見てないからな」
 マレーナはサッと顔を赤らめた。
 
 その瞳に、ドラゴンに立ち向かわんとするナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)の姿が映る。
(な……! 彼は……。
 空大へ受験に行かれたのでは……っ!!)
 
 ■

「やぁ、姐さん! 今からあのドラゴン達を追い払ってくるぜ」
 ナガンはマレーナに片手をあげた。
 マレーナが慌てて駆け寄る。
「駄目です! それに、ナガンさんは受験でしょう?
 空大は? どうされたのですか?」
「う……ん、寝坊しちゃってさ……」
 あははは、と陽気に笑う。
「嘘ですわ……」
 マレーナは悲しげにつぶやく。
「ナガンさんは、そういう方ですもの」
「ええーと、その、マレーナ?」
 寝坊は本当だが。
 あながち的外れな指摘でもないので、ナガンの調子は狂う。
「後ろに乗って一緒に戦いませんかマレーナ?」
 言葉は流れるように紡がれた。
 マレーナは揺れる瞳でナガンを見あげる。
 
 が――。
 
「今の私では。
 皆さんの足手纏いですわ……」
 悲しげに首を振る。
「怪我にお気をつけて」
「大丈夫だぜ、マレーナ」
 ナガンは空飛ぶ箒スパロウに乗って、飛び立った。
 
 ナガンは精一杯戦った。
「姐さんの応援があるからね! ヒャッハーッ!」
 上空から滑空して、一撃離脱!
 擦れ違い様に、ドラゴンの頭を狙って、マシンピストルで銃弾を撃ち込む。
 ついでに僥倖のフラワシで殴ることも忘れない。
「これで、ドラゴン戦もきっとツイてるさ!」

 だが、敵は「未曾有」にいる。
 やがて力尽きたナガンは、ドラゴンの翼に振り払われる。
 地面激突寸前にレビテートで和らげた後、気絶。
 ラルク達の診療所に運ばれることになるのであった。
 
 ■
 
「彼が、気になるのかい? マレーナ」
 マレーナは振り返った。
 唯斗の姿がある。
「あんな風に、普段はおどけているのですわ」
 診療所の方を心配そうに眺める。
「でも、違うのですわ、きっと」
「そうか……」
 唯斗は寂しげに頭を振って、マレーナをドラゴンの目から護るのであった。
 
 キヨシの声が響いたのは、直後のことである。