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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

リアクション

  一二

「血の殺戮者」の襲撃の際、避難した者たちの何名かが怪我をした。
 レキ・フォートアウフとミア・マハ(みあ・まは)が彼らの治療を終えて出てくると、ちょうど平太と行き会った。これから、ローザ・シェーントイフェル(ろーざ・しぇーんといふぇる)の実験に立ち会うと言う。
「ローザさんって、唯一、元に戻った人だよね?」
「です」
「やはり、ユリンから遠ざかったのが理由かの?」
「可能性は高いですけど、まだ何とも」
「そなたのパートナーは、<漁火の欠片>を手にしていたそうじゃの?」
「……はあ」
「それが媒体だったとは考えられんかの?」
「媒体みたいな物はあったかもしれませんけど、あの欠片って、<超獣の欠片>や<アルケリウスの欠片>とかと同じだと思うんですよね……持っている人は少ないし、あれで操られたとは考えづらいと思います」
「媒体は別と考えるべきか。場所や外見が分かれば、破壊しやすいかもしれんな」
 ローザは、明倫館の中でも特に強固な部屋にいた。なりたての忍者や陰陽師が術を実験するために使用するらしく、平太もそこに入るのは初めてだった。
 ローザのパートナー、新風 燕馬(にいかぜ・えんま)と、同じくパートナーを操られている水無月 徹(みなづき・とおる)シーリーン・ソロモン(しーりーん・そろもん)の三人もそこにいた。
 戸を開けたらローザが裸だった。
 バタンッ。
「平太!?」
 鼻血を出して仰向けに倒れた平太をミアが【命のうねり】で看病する間、ローザは急いで服を着た。
「燕馬ちゃん、酷い! 乙女を裸にひん剥くなんて! 『俺しか見てない』って、あの子に見られちゃったじゃない!」
 ちなみに徹は後ろを向いていた。
「気にするな。きっと忘れてる、あの様子じゃ」
「そちらはどうでした?」
 徹がレキに尋ねる。レキは、機晶兵器を【サイコメトリ】してもらうことを考えた。そこでフレンディス・ティラに頼んだのだが、黒装束に関しては、オーソンが彼らに武器を与えた、ということしか分からなかった。これについては、
「グランツ教が操って、オーソンが武器を貸したって考えるのがいいかも」
とレキは言った。そして捕えた機晶姫から得られた情報は、
「パートナーがいるみたい。楽しそうに、恋人みたいな相手が」
 ――幸せそうな、日常の映像だけ。
 徹もミアも、それを聞いてかぶりを振った。起き上がった平太が、寂しげに俯き、ローザの顔を見てまた真っ赤になった。
「そっちは?」と、レキは問い返した。
 徹は、似たような事例がないか、陰陽道的な見地も含めて調べてみた。今回のように、大量の剣の花嫁や機晶姫が操られる事例は見当たらなかったが、気になる話もあるにはあった。
 キーワードに引っ掛かったのだろう。シーリーンが教えてくれたそれは、SFだった。一人の指揮官に従い、大勢の兵士が一糸乱れずに働く話だ。そしてそれは、彼らのDNAに由来するという。
 もし、剣の花嫁や機晶姫を操る媒体がDNA、もしくは彼女らの身体そのものにあるとすれば、それを取り除くことは困難ではなかろうか――。
 そこまで調べて、平太たちの少し前に、この部屋にやってきたと徹は答えた。
 燕馬とローザは、再会した直後は喜び合ったものの、
「……落ち着いて考えると納得いかん。何故戻ってるんだ」
「え、えーと……愛の奇跡?」
「そんな馬鹿な」
「まぁまぁ細かいことはいいじゃない、きっとその時、不思議な事が起こったのよ!」
 ハグされて喜んでいるローザを尻目に、燕馬はぶつぶつ呟き、「よし、調査しよう」と言い出した。
 血液サンプルを採り、レントゲン、MRIも撮影した。念のため、今は肉眼で手術の痕がないかを確認していたところだった。
「ああ、そうそう、結果を持ってきました」
 平太は封筒に入った表を燕馬に渡した。燕馬は厚みのあるそれにざっと目を通し、かぶりを振った。
「顕微眼でも成果なし、か……」
「というか、何を探せばいいか分からないから、分からなかった、ということみたいですけど」
「ローザさんは行方不明になったとき、どんな風だったんです?」
と徹。
「どうって、お出かけしていて、意識が途切れて、気がついたら燕馬ちゃんが目の前に」
「声とか、聞こえなかった?」
と、これはレキだ。
「どうかしら。よく覚えてないんだけど……でもずっと、気分は楽だった」
「どういう意味だ?」
「何と言うか……気持ちいいとか辛いとかなくて、夢も見ないぐらいぐっすり寝ていた気分?」
「――俺は」
 燕馬は指を一本立てて言った。
「仮説を立ててみた。オーソンないしユリンが持つ何らかの装置――リプレスだな――から特殊な周波数の電波か念波が発信されており、脳神経に干渉、リアルタイムで本人の意識を奪い続けている。ローザが元に戻ったのはその電波の圏外に一定時間いたせいで命令の更新が行われなくなったから、と」
「お面に受信機はついてましたけど、多分それとは違います」
「それに、単に操るんじゃなくて、パートナーの記憶もなかったし、パソコンを初期化して、新たなプログラムを書き加えたって感じみたいだよ」
 平太とレキの言葉に燕馬は頷いた。
「水無月とソロモンの調べた中に、DNA云々の話があったろう?」
「ああ、あのSF」
 燕馬は指をもう一本立てた。
「これも仮定の話になる。証明しようがないからな。元々あいつらは、剣の花嫁も機晶姫も操れるだろう?」
「ですが、大量には無理かと思いますが」
と、シーリーンが疑問を挟む。
「そこが仮定なんだ。ポータラカには、剣の花嫁や機晶姫を操る技術がある。これは――非常に残念なことだがその種族である以上、仕方がないことだ。遮る方法を見つけるしかない。で、ここが肝心なんだが――リプレスが、さっき言ったように電波か、みたいな物で操るのは間違いないと思うんだ。ユリンはそれを持っている。だが、初期化するのはまた別の技術なんじゃないか?」
「つまりオーソンは何かしらの方法で花嫁や姫たちを疑似的に初期化し、リプレスで操っている、ということですか?」
「その通り。さて、そして俺の仮定が正しく、二つを切り離して考えれば、花嫁たちはリプレスから遠く離れれば解放される。――おそらく」
 徹とシーリーンは顔を見合わせ、礼を述べると、もう一人のパートナーが待つ部屋へ向かった。レキ、ミアと平太は手分けをしてその話を伝えに行った。
「……燕馬ちゃん、私、ちょっとは役に立った?」
「かつ丼」
「え?」
「かつ丼、食いに行くか? もちろん、俺の奢りで」
 しばらく燕馬の顔をまじまじ眺めていたローザだったが、やがて、とびきりの笑顔で「うん!」と答えたのだった。