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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

リアクション

   二二

 二日前――。

 朱鷺は神獣たちに命じて、漁火の居所を探した。存外、あっさりと見つかった。漁火は、ドライアと一緒にいた。ドライアは仲間から留守番を命じられ、不満そうだった。
「お久しぶりですね、漁火さん。今回も厄介ごとでしょう? この朱鷺が、未知と引き換えに手伝いますよ。新しい知識を、朱鷺に見せてもらえますね」
「さあ、どうでしょう」
 漁火はコロコロと笑った。「気に入ってもらえればいいんですけどね」
 砦にいない契約者を探してほしいと頼んだのは漁火だ。ザカコ・グーメルたちを見つけ、赴いた。戦闘にはならなかった。不満はないが、漁火の意図が見えない。
「困るんですよ、あの娘が、あんな物を持っていると」
 しゅるりと音を立て、帯を解く。ばさり、と白い着物が落ちた。ドライアも朱鷺も、彼女の裸体に眉一つ動かさない。
「何で?」
「リプレスは、オーソンが作った物です。手間暇かければ同じ物を作ることは可能だそうですが」
「ってことは、あいつらが奪ったところで、オーソンの奴がその気になりゃあ、元の木阿弥ってことか? 相変わらず、酷いな、おまえ」
「あたしは嘘はついていませんよ。ただあれにも、色々欠点がありましてね。同じ物を装備していれば、操られないんですよ」
「――ああ、なるほど」
 ドライアにはまだ分からないらしかったが、朱鷺は頷いた。漁火は、畳んでおいたセーラー服に手を伸ばす。髪も三つ編みに結び直す。
「さあ、契約者がどう動くか、楽しみに待とうじゃありませんか」
 紫の瞳を輝かせ、漁火は微笑んだ。
                   

*   *   *

 ――現在。

「いないって、何言って……」
 状況が理解できず、平太はベルナデット――否、漁火の顔を凝視したまま、彼女の言葉を繰り返す。
「御免なさいね。この体、あたしが貰っちまいました。お姫様には、本当に悪いと思ってるんですけどね、あたしにも体が必要なもんですから」
 他の契約者たちは、平太より早く、理解した。だからといって、なぜそうなったかも、どうしたらいいかまでは分からない。
「何で……どうして……?」
 平太はふらふらと進み出た。レキが止めようとしたが、朱鷺の視線に気づいた。右手は平太に向けられている。レキが動けば、躊躇なく平太を攻撃するだろう。
「オーソンが機晶姫と剣の花嫁に詳しかったもんでね。だけど、逆らえばあいつはこの体を操るに決まってる。あの男の言いなりになりながら、色々動くのはちょいと面倒でしたが――まあ、甲斐はありましたね」
 漁火は、契約者たちが自分を睨んでいることに気が付いた。
「ああ――でも、安心なさいな。あたしはあいつと違って、これを使うつもりはありませんよ。兵隊なんて、つまらないでしょう?」
 漁火にも人を操る能力があったはずだが、オーソンとは違うと言いたいらしかった。
「そうじゃなくて!!」
 平太が怒鳴った。彼が声を荒げるなど、入学以来、一度としてないことだ。その場の全員が驚いた。
「何でベルなの!? 何で他の人じゃなかったの!?」
「それはね、坊や、うまいこと、お姫様があたしの欠片を持ってたでしょう? 偶然と言えば偶然ですかね」
「偶然って……そんなことで……?」
「偶然が嫌なら、――運命とでも呼びましょうか。ああ、あたしはこっちがいいですね。運命」
 その言葉が気に入ったらしく、漁火は何度も口にした。
「それで、これから一体どうする気?」
 月夜は唇を噛んだ。これがせめて、一日休んだ後だったなら、三人を相手に戦うことも厭わない。だが今は、勝てるとは思えない。先程の音を聞きつけて、誰か駆けつけてくるのを待つしかない。
「生命エネルギーの流れが変わっても、翼ある大蛇は生きています。いずれ、また機会もあるでしょうよ。あたしは急ぎません――あの子に自由をあげるまで」
 微かに音が聞こえた。徹は息を飲み、「動かないでください!」と鋭く呼びかけた。
「外れ。動かなくても襲う」
 ドライアが合図したとたん、【毒虫の群れ】が四方八方から契約者たちを襲った。大きな技は使えなかった。同士討ちになってしまう。細かい、小さな虫を一匹ずつ弾いていく。
 平太だけは、虫に襲われなかった。
 ぽっかり空いた空間の中、漁火は少年の頬に手を触れた。
「坊やには悪いと思ってるんですよ、本当に」
 そして、――そっと唇を合わせた。
「!?」
「慰謝料です」
「行きますよ、漁火さん」
「はいな」
 朱鷺は漁火を抱え、壊れた窓から飛び出した。ドライアも続く。毒虫を退治した契約者たちが駆け寄ったときには、三人の姿はどこにも見えず、追うことも出来なかった。
 徹が振り返ると、平太はただ立ち尽くしていた。口をぽかんと開け、目は壊れた窓――ベルナデットの消えた空間を見続けている。どう声を掛けたらよいか、徹には分からなかった。

 葦原島は、漂うモノから逃れたが、ミシャグジはまだ生きている。
 オーソンは敗れたが、漁火は欲しい物を勝ち取った。
 カタルは己の道を見出したが、一族は住み慣れた土地を失った。
 剣の花嫁や機晶姫の洗脳は解けたが、黒装束については、まだ分からない。
 そして。
 ベルナデットは再び消えた。

担当マスターより

▼担当マスター

泉 楽

▼マスターコメント

ご参加ありがとうございます。泉です。「それは葦原の島に秘められた(後編)」をお届けします。
ネタバレも含みますので、リアクション本編に目を通されてから、お読みになることをお勧めします。


ガイドにも書きましたが、今回のメインは二つ。1.カタルを明倫館に届けること、2.房姫を洞窟の底まで連れていくことでした。
時系列的には、カタルの話がずーっと続いて、洞窟とサブストーリーである剣の花嫁、機晶姫関連が交互に語られるべきなのですが、三つの話を順番に進め、途中から房姫とカタルの話を交互に、という形を取っています。

洞窟及びカタル一行の話では、戦闘方法よりも、会話やそれ以外の行動を優先し、順番を決めました。ただし、対ユリン戦のみ、戦闘方法を考慮しております。

黒装束、剣の花嫁、機晶姫については情報を小出しにして話を進めています。特に推理の正解者が謎解き担当となっています。
リプレスに関して、リアクション内での新風燕馬さんの推理は、ほぼ正解と思ってくださって結構です。
ただし黒装束の背後にグランツ教がいて、オーソン、真の王と繋がっていることについてはまだ物的証拠はありません。ご注意ください。

なお、本文を読んでいただければ分かりますが、漁火には、<漁火の欠片>の嘘の判別は使えません。これは以降のシナリオでも同様ですので、ご注意ください。

シャムシエルはPCさんに連れ去られましたが、その後は別のNPCの手に委ねられています。いずれまた、再登場の機会もあるでしょう。



オーソンも漁火も生き残っている以上、パラミタの、そして葦原島の苦難はまだ続くようです。いずれ再登場することもあるでしょう。
その日まで、しばしの休息を……。
それではまた、次のシナリオでお会いしましょう。


NPC情報追記
▼カタル及びオウェン:梟の一族。里が移動してしまい、落ち着くまで帰る場所もないため、明倫館に滞在中です。別の話に出るかどうかは、未定です。

▼オーソン:元ポータラカ人。ミシャグジの洞窟から姿を消しました。

▼シャムシエル:皆さんの想像通り、ユリンの正体でした。復活は遂げたものの、本編の時点ではまだ覚醒していません。現在はオーソンとは別のNPCの元にいます。

▼漁火:ベルナデット・オッドの体を乗っ取り、姿を消しました。

▼オルカムイ:本編には名前のみ登場。五千年前、ミシャグジを封じた人物です。あのお方、死神等呼び名は様々ですが、ソウルアベレイターであったと思われます。名前は葦原島の古い言葉で「梟」を意味します。