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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

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【真ノ王】それは葦原の島に秘められた(後編)

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   一三

 樹月 刀真(きづき・とうま)の持つ<超獣の欠片>が、鳴り始めた。最初は柔らかに、そしてユリンに近づくと、耳を劈くような音へと変わった。同時に、ユリンの腹部がほんのり光る。
「おそらく、あそこに何かがある。<超獣の欠片>や<漁火の欠片>と同じ物が」
【イヴィルアイ】で確認した玉藻 前(たまもの・まえ)は、断言した。ユリンの腹部は、ほとんど曝け出されている。
 しかし、ただでさえ強敵であるユリンは今や、狂戦士(バーサーカー)と呼ぶ方が相応しい状態だ。
「一人や二人では決して勝てない。連携が大事だ」
 桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)が言った。
「急の連携は難しい。一つのグループが攻撃し終わったら、深追いせずに次のグループにバトンタッチする。いいな? 功名は捨てろ」
「スピードが命じゃ。自信がない者は、今の内に退け」
 しかし、清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)の忠告に従う者は一人もいなかった。
「漢じゃのう」
 青白磁は嬉しそうに笑う。
「行くぞ!」
 煉のかけ声で、まず飛び出したのが刀真たちだ。
 ユリンは、見た目こそ今までと変わらないが、戦いを楽しんでいた無邪気さは、もはやない。だがその声は、
「よくもパパを! パパをパパをパパを!!」
 ――泣いているようですらあった。
「我が一尾より煉獄がいずる!」
【地獄の天使】で空に浮かぶ前が、【ファイアストーム】でユリンと自分たちの周囲をぐるりと囲む。これでユリンは――自分たちもだが――行動範囲が限られる。
 刀真は、【百戦錬磨】の経験で、ユリンの視線や構え、肩や爪先の動き、足運びからくる重心移動と気配から動きを読もうとした。だが、ユリンの動きは今や、予備動作などほとんどないも同然だった。
「くそ――!!」
 ユリンは真っ直ぐに刀真へ斬りかかってきた。【体術回避】と【軽身功】を使っても間に合わない。【金剛力】で耐えるが、受け止めるのが精いっぱいだ。少しでも気を抜けば、斬られる。しかも、それが片手一本での攻撃なのだ。
 前が上空から【ブリザード】を放つ。ユリンは凍りついた足元へ、視線を移した。刀真はその隙に距離を取る。
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は、【無量光】を発動した。光がユリンの頭上に降り注ぐ。
 しかしユリンはものともせず、「白竜鱗剣『無銘』」を上空にいる前へと投げつけた。まるでミサイルのようなスピードと衝撃が前を襲い、バランスを取れずに彼女は落ちた。
「選手交代!」
 煉がパートナーたちと飛び出す。エヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)が、【パイロキネシス】を放った。顔を炎に包まれ、ユリンはそれを払う。
 その隙にエヴァは【ポイントシフト】で間合いを詰め、「※サイコブレード零式」で【疾風突き】をかけた。しかしユリンは目を見開き、更に距離を縮めると、エヴァの喉をがっちりと掴んで持ち上げた。
「がっ、は……!」
「こっちよ! ユリン!」
 エリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)の声に、ユリンはじろりとそちらを睨みつけた。そして、掴んだままのエヴァをエリス目掛けて投げつける。
「エヴァ!!」
 エリスはエヴァの体を抱き留める。息の止まっていた彼女の喉から、ひゅっと空気が漏れた。
 煉はユリンの背後から、「カーディナルブレイド」で斬りかかった。ユリンは体を捻りながら躱すと、煉の鳩尾を蹴り飛ばした。
「!?」
 リーゼロッテ・リュストゥング(りーぜろって・りゅすとぅんぐ)を装備していなければ、気絶していたかもしれない。内臓まるごと吐き出しそうな衝撃を堪えながら、煉はリーゼロッテの力を借りて【絶零斬】を放った。
 二度も凍りついたことで、ユリンの右足はもはや使い物にならなくなった。それでも、ユリンはスピードを緩めない。
「嘘、あれ――」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は絶句した。ユリンの右足の内側から、別の足が生えていたからだ。
「再生のスピードも速くなっとる」
 詩穂の身を守る青白磁は、忌々しげに言った。
「とにかく――行くよ!」
 詩穂はまず【ミラージュ】で自分の幻を出した。ユリンの目が素早く両方を捉える。そのコンマ何秒かの隙を突き、【実践的錯覚】で距離を縮めていく。間合いに入った瞬間、青白磁の【神速】【ゴッドスピード】【先の先】【軽身功】、そしてアクセルギアを使って目の前に達した瞬間、ユリンは後ろへと大きく飛び退いた。
「しまった――!」
 これまで、好戦的なユリンは避けることはあっても、相手から距離を取るような真似はしなかった。想定外だったが、詩穂はユリンを追った。
 ユリンは、炎の円の中、焼け残る大木をへし折ると、それを武器代わりに振り回した。
 刀真や煉たちは伏せることが出来たが、移動中の詩穂はそうもいかない。まともにその丸太を食らい、吹き飛んだ。
「キャア!」
「ふう、ふう、ふう……!」
 ユリンの荒い息を聞いて、確実にダメージを与えられている、と刀真は確信した。
 問題は、自分たちとユリン、どちらの体力が先に尽きるかだ。
「結局のところ、同じことを繰り返すしかないわけだが」
 煉がよろよろと立ち上がった。
「同意見だな」
 刀真もゆっくりと立ち上がると、左手の「白の剣」を握り直し、地面を蹴った。