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リアクション
唯斗と純、アルテミスとキロスが指輪を交換しようとした時、式場の扉が開け放たれた。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス!」
ハデスと戦闘員たち、そしてウェディングドレス姿の紫月 結花(しづき・ゆいか)が式場に乱入して来たのだ。
「ハデス様っ?! どうしてここがっ?!」
「やはり来たか……!」
低い声で唸り、キロスは戸惑い驚くアルテミスを背に隠す。
「結花さん! 何してるんですか!?」
「というか、何でこの式場花嫁が三人もいるんだ?!」
睡蓮と唯斗が口々に叫ぶ中、純はぽかんとして様子を見ている。
「私も、唯斗兄さんと結婚する準備はできています!」
結花は話を聞かず。
「キロスよ! 貴様にアルテミスは渡さぬぞ!」
ハデスは白衣を靡かせビシッと指を振り下ろす。
「さあ、結花、戦闘員たちよ! キロスを倒し、アルテミスを取り戻すのだっ!」
戦闘員たちが、キロス目掛けて飛びかかっていく。
「私もお嫁さんにしてくださいっ!!!」
結花と幾人かの戦闘員は、唯斗に向かって激走してくる。
「自称妹の人は大人しくしてて下さい! というかなんでドレス着てるんですか!?」
睡蓮が唯斗と結花の間に割って入る。
「ウェディングドレスを着ていない人に、舞台に上がる資格はありませんっ!!!」
「くっ……分かりました! 着ます!」
「そこ真に受けちゃうの!?」
唯斗の言葉も虚しく、睡蓮は控え室へと駆け込んでいった。
「しかたない……純、逃げるぞ!!」
「え、えっ!?」
唯斗は踵を返すと、純の手を取って式場内を逃げ始めた。
「アルテミスよ、お前はキロスに騙されているのだ。さあ、そんな浮気男の元におらず、我らのところに戻ってくるのだ!」
ハデスはその隙に、アルテミスを説得にかかる。
「嫌ですっ! 私はキロスさんと結婚します!」
「だが許さん!」
「私は唯斗兄さんと結婚するんです!」
ドサクサに紛れて結花が唯斗に飛びつこうとする。
「唯斗兄さんは私と結ばれる運命なんです!」
「ちょっと待てちょっと待て、落ち着け、な?」
結花を説得しようと唯斗は声を欠けるが、本人が全速力で逃げながらでは、それこそ説得力がない。
「唯斗兄さんっ! この結婚は、妹であり未来の妻である、この私が許しませんっ!」
「……ってことは、今までの結婚は許してるんだな?」
「はっ」
結花が固まった隙に、唯斗はダッシュで出口に向かう。
「純、多少危険が伴うかもしれないが、今はここから逃げることを優先しよう。手を離すなよ」
唯斗が純を見つめる。
「……最近は、複数人で式を挙げるのが普通なのでしょうか?」
「今そこに疑問を抱くの!?」
息を切らして、ウェディングドレス姿の睡蓮が現れた。
「さぁ、これで良いですね!?」
「四人目来ちゃったよ。しかもウェディングドレスだらけで式場が狭く感じる」
「邪魔しないで下さい、睡蓮さん!」
ごお……っと、結花の拳が色鮮やかな火花を纏う。
「って、あー! なに暴れてるんですか!」
睡蓮が、結花の前に立ちはだかる。
「私の愛の炎は消せませんよ!」
「燃え広がりそうな格好して、よく炎使おうと思ったな!!」
唯斗のツッコミなど気にせず、結花は式場中に火花をまき散らした。
「ハデス様! なんと言われようとも、私はキロスさんと一緒になります!」
「何っ……!?」
「キロスさん、逃げましょうっ!」
「ああ!」
アルテミスがキロスと手を繋ぎかけ出そうとする前に、結花がゆらりと立つ。
「逃がしません……唯斗兄さんと結婚するまでは……!」
結花の拳から発された魔力の火花が、式場中を包んでいく。煙に包まれる式場。
「駄目って……言ってるのに…………!!」
忠告を聞かない結花の姿に、プツン、と睡蓮が切れた。
「結花さん! お仕置きですっ!!」
火花が散る式場内に、目映い光が集まっていく。
睡蓮のバイタルフラッシュによる生命力の爆発は、周囲を木っ端微塵に破壊するには充分すぎる威力だった。
「ああもう! 知らんぞ、俺は」
唯斗はくるりと戦闘に背を向ける。
「ええい、せめて最後はちゃんと締めてみせる! 純、逃げるぞ! 睡蓮達は置いて行く!」
突然キロスがウェディングドレスを被り始める。
「撹乱するぞ!」
「は、はいっ!」
再度、爆発。崩れ落ちる式場から、爆発音や悲鳴が響き続けている。
「くそっ!」
唯斗は握り締めた手に力を込め、出口と思われる方向へ走った。
「しっかり捕まってろ!!」
ほぼ同時に、ヴェールを深く被ったキロスも力強く手を引いて出口へ向かう。
そのまま式場から駆け出したキロスは、少し離れた建物の物影に隠れた。
大事に握りしめていたアルテミスの結婚指輪を確認する。
「ここまでくれば大丈夫だ、邪魔が入らねえうちに指輪だけでも交換するぞ」
キロスは掴んでいた手の薬指に、指輪を押し込んだ。
が、入らない。サイズは測ってあるはずなのに、薬指に入らない。
「な、何で入らねえんだ?」
キロスは手元をよく見ようと、自分の頭のヴェールを上げた。
キロスが握っていたのは、硬直している唯斗の左手だった。
「……オイ、キロス」
ガチゴチに固まった声を、唯斗が捻り出す。
「……何故お前が俺の手を握っている?」
「それはこっちのセリフだ。お前が先にオレの手を握って来たんだろうが」
「ははは、気色悪いわ馬鹿野郎!」
「それもこっちのセリフだ!!」
キロスが唯斗の手を振りほどく。唯斗の手から、純の結婚指輪がコロンと落ちた。
「……あン? 喧嘩売ってますかよ?」
「ああ? どっちが先に喧嘩売ってきたんだてめえ?」
不穏な空気が唯斗とキロスの間に流れる。
キロスがパツパツのウェディングドレス姿なので、端から見ると異様な光景だが。
「よーし、この馬鹿ぶっとばーす! 星になれやコラァ!!」
「上等だコラァ!!」
言葉は要らない。ただ、戦うのみ。
四体の唯斗の分身が現れ、空を駆ける。キロスの剣は宙を裂くが、最大限に素早さを引き出した唯斗の早さが上回っている。
現れた、と認知できたのは、キロスの感覚が研ぎすまされていたからに他ならない。
通常の人であれば認知すら不能だっただろう。
「男の子相手に遠慮したら駄目だよなあああああぁぁぁぁっ!!」
五人の唯斗が、キロスに掴みかかった。森羅封印・万象回帰。
唯斗の触れた先から、キロスの特殊能力やスキルを封印していく。さすが忍者きたない。
「それが……何だってんだああああああぁぁぁぁぁぁっ!?」
が、やられてばかりではない。キロスの剣が縦横無尽に唯斗を狙う。
例え力を封印されたとしても……キロスの経験、そして戦いの勘までは封じ込められない。
「「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」
数分後。
「……あれ? 何でこんなことになってるんでしょう……?」
「兄さん……兄さん!?」
一方、廃墟と化した式場の瓦礫の上で睡蓮は自己嫌悪に陥っていた。
結花は、唯斗を探して辺りを駆け回っている。
「転んで逃げそびれてしまいました……あれ、唯斗さん……どこでしょう?」
純は、辺りをキョロキョロと見回した。
「キ、キロスさんっ、どこですかっ?!」
「あの、アルテミスさん? 落ち着いて下さい」
指輪を手にしたアルテミスが、必死に周囲を見回す。が、近くにはキロスの姿も、唯斗の姿もない。
(結婚式って……こういうものなのか……)
知識でしか結婚式を知らなかった純は、この周囲の惨状を『結婚式』とだと覚えてしまったらしかった。
ちなみに、唯斗と純は後日無事に結婚式をやり直し、晴れて夫婦となった。
アルテミスとキロスは……例によって例のごとく、結婚できずにいるらしい。
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