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リアクション
【◎4―1・警戒心】
4度目の12月23日の昼過ぎ。
亜美の姿をした静香がいる部屋の前では秋月 葵(あきづき・あおい)が、警備をしている白百合団の面々と話をしていた。ミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)もそこにいる。
「取調べを行いたいので皆さんは一旦部屋の外で待機してください」
白百合団班長という立場を利用しての葵に、ミルミほか団員たちは不思議そうになにか言いたげになったが。結局言わなかった。
「失礼します」
中に入ると、静香はすることが無いのか鏡を見ながら表情を変えたりして遊んでいた。
葵が入ってきたのを知ると、慌てて取り繕うように姿勢を正す。
「なにやってるの? 自分の顔なんて、めずらしくもないでしょ」
「あ、いや。僕にとってはそうでもないんだよ」
「? まあ、そんなことより。どうしてあのような事をしたの? この所のループは貴方の仕業ですか?」
いつも元気印な葵だが、今はさすがに諭すような口調で問いかける。
それに静香は弁明を始めていく。今の自分は身体が入れ代わっているという、普通なら信じがたい話に、さすがに戸惑いを隠せない葵。
この世界ではもはや、起こりえないことのほうが少ないとはわかっているものの、やはり納得できなかったようで。
「じゃあ、これから言う質問にちゃんと答えられたら本物って認めるよ」
「わかった。望むところだよ」
「静香校長の友人である瀬蓮ちゃんの誕生日はいつでしょう?」
「3月14日。ホワイトデーの日だし、よく覚えてるよ」
第一問に一秒のロスすら無いまま、答えが返ってきた。
「えっと、それなら……12月21日の四時ごろ。ラズィーヤさんは最終ループのとき、どこで何をしていたでしょう?」
その答えも、やすやすと静香は返答し《正解は静香サーキュレーション第一回を参照》。
さすがに本物っぽいと認めざるをえなくなったのだった。
「一体どうしてこんなことになってるのかは知らないけど、ここは一刻もはやく偽者のほうと会わないとね」
「うん。でもまずは、なんとかしてここを出ないと……」
「それもあたしに任せて! いくよ!」
そう宣言するなり、葵はスキルの変身! で、
「華麗に登場! 突撃魔法少女リリカルあおい〜(キラッ)」
魔法少女へと華麗に変身を遂げた。さらに外の人達がなにごとかとこちらを向いたタイミングにあわせ、子守歌を使って眠らせにかかっていった。
白百合団員は、意外にあっけなく眠りについていく。どうやら入って日の浅い人間ばかりだったらしく、統率もとれぬまま倒れていった。
そもそもこの場にいる団のキャリア持ちはなぜかミルミひとりで。その彼女がいちはやくすやすや寝ている時点で、あきらかな人選ミスに思えた。
(もしかしたら、みんな心の奥では異変に気づきはじめてるのかも?)
わずかにそんな期待を抱きながら、静香の手をとって走り出す葵、
そうして格子戸の扉が続く廊下を抜けようかというところで、誰かがこちらを指差してなにか言っているのが視界に入ってきた。
「新手!? それなら先手必勝、ヒプノシスで眠らせて……」
「ま、待って待って!」「私たちは敵ではないのだよ」
現れたのは真口 悠希(まぐち・ゆき)とカレイジャス アフェクシャナト(かれいじゃす・あふぇくしゃなと)。怪しくない証明とばかりに諸手を挙げている。
警戒は解かずに説明を聞くと、ふたりはループに気付き、まずは手がかりを握っているであろう亜美の元へやってきたのだという。
嘘をついている様子もないので、静香は自分の身に起きていることを説明してあげた。
「人格の入れ替わりですか。またとんでもない事態になっているんですね」
「うん。亜美のしわざだと思うけど、どうしてこんなことをしたのか」
「では……貴方がもし亜美さまと会えたらどうしたいですか?」
「それはもちろん、ちゃんと話し合うよ。万が一、のっぴきならない事情があるなら助けてあげたいし。今度は失敗しないつもりだよ」
真剣な目つきと気構えを持っての返答。
それだけで悠希にはわかった。ここにいる彼女が、間違いなく自分が好きな桜井静香であると。
「それでこそです……参りましょう『静香さま』」
「私も自分の名前にかけて、静香の勇敢さと優しさに手を貸すのだよ」
笑顔で名前を呼び、こうして悠希とカレイジャスも彼女と共に行く決意を固めたのだった。
「世界がループしていたと聞いて、この話は校長先生のお耳に入れておいたほうがよいと思い、こうして足を運び――」
「前置きはいいから、先をどうぞ」
そのころの校長室で亜美とラズィーヤと、護衛についているミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)から、ある話を聞かされようとしていたが。
実のところアルツールはループを認識していないので、亜美がこれを聞くのはもう四度目だったりする。それゆえややぞんざいな言い回しにすらなっていた。
「まずは警告を。以前のループで因果律に干渉する何かが行われていたなら、結果として生じた歪みのせいでどこかに必ず大きな反動が起きるであろうことは明らかです」
亜美は、猿の手の力のことを考える。
みっつの願いを叶えたものは、死――。考えたくないが、無視するわけにもいかない。
「そうした反動は『ループの原因』に対して来る、あるいは来ているはず。歪みがどんなものか分かりませんけれど、百合園を起点としている以上、あらゆる事態を想定して欲しいのですよ」
「そうだね。なにがおきたとしても、対応できるよう心がけるよ」
「ああ、そういえば以前、私は願いを叶える魔術についての講義を生徒達に行った事があります」
この話は亜美にとって初耳だった。
やはりループを認識していない人間の言動は、ささいなことで変化していくらしい。
「その際にも、『どんな願いでも叶えてしまうような因果律に干渉するレベルの魔術』はハイリスクである、と生徒達に教えました」
「そうだね。なんのリスクもなく利益を得られるなんて、ムシがよすぎるし」
「これは『何でも願いを叶える』=因果律に干渉するという場合、凄まじいエネルギーを要するのは想像に難くないですが、本来在るべきことを歪めた反動もまた大きいからです」
「…………どんな形であれ、願いを叶えるからにはソレ相応の覚悟がいるってことだよね。わかってるよ」
そこで、アルツールは返答がわずかに投げやりに聞こえた。
だが。いい加減なつもりで答えたわけではなく、なにか別の感情が混じっているように捉えられたのだ。それが何かはわからなかったけれど。
「校長先生。ほんとうにわかってらっしゃいますか?」
「うん、わかってるって」
「それならよいのですけれど。なにが起きるかわからないのが、この世界です。十二分に気をつけてください」
アルツールは必死に念押しをして、
「いつどこにどんな歪みや反動が発生するかもわかりません。細心の注意をお願い致しますよ」
扉から出て行く際にも、ダメ押しの警告をして去っていった。
「なんだか、難しいお話でしたわね。わたくし横で聞いていて頭が痛くなりましたわ」
ずっと黙っていたラズィーヤは、箱を掌で弄びながらのんきそうにつぶやく。
亜美はその頭を叩いてしっかりさせてあげようかと本気で考えた。
その隣のミルディアも、あまり話が理解できなかったので今は話には参加しなかった。
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