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リアクション
【◎3―3・対面】
神代明日香は、反省室に辿り着くまでかなり時間をくっていた。
さっきのループから覚めた後、校長室を中心に地道に各教室を探して巡っていったのだが。いくら無限に等しい時間があるといっても、当然疲れはする。
なので今はしばし、廊下の壁にもたれて小休止をしていた。
すると。そこへエレン達につれられた亜美が現れたので思わず、足が崩れそうになった。
「西川亜美さん……じゃなくて、静香校長!」
駆け寄ってみて、明日香は確信を得る。
いつものようにおどおどして、それでもなにかをしようという姿勢。
「あなたが、本物の静香校長、なんですよねぇ?」
「うん。そうだよ、説明すると長くなるけど。どうしてか亜美と入れ替わっちゃって」
そのことを改めて考えてみる明日香。
正しくは、ついさっきのループのときからここへ来るまでに考えていたことがあった。
「ねぇ、静香校長」
「なに?」
「きっと亜美さんは、静香校長に成り代わって学園を掌握したいわけでは無いと思うんですぅ。静香校長が辛い思いをするのを見て、いっそ変わってあげたいと思っていたのですかぁ?」
「…………」
「それはどうかしら。水をさすようですけれど、あまり楽観視しすぎるのは逆に危険ですわよ」
同行中のエレンの発言に、わずかに眉を動かす明日香だが。
亜美が本当に悪人である可能性から目をそらせるのは、あまりいいことと言えないのは事実。
「静香校長はどう思いますかぁ?」
「今はまだ、亜美の気持ちがわからないからなんとも言えない。だからもう一度、ちゃんと話をしたい」
それぞれの意見から自らの決意を固めた静香に、明日香はぱぁっと顔を明るくさせる。
エレン達としては、今の彼女にはのんびりしてもらいたいという気持ちが強くあったが。ここまで確固たる決意を前にしてはさすがに無下にするわけにもいかないようだった。
「あわわわわ、やっぱりあぶないですわ!」「サーチ・アンド・デストロイじゃん!」
そのとき、後ろからなにかが物凄い勢いで迫ってきた。
振り返るとそれは自転車だった。ちなみに二人乗りだった。
「!?」
後ろに乗っていたほうが、衝突寸前で飛び掛ってきた。
が、さすがに勢いがつきすぎていたせいか、静香たちの頭上を飛び越えてそのまま後ろの壁へと激突していった。それに続いて自転車乗りのほうも地面をバウンドして、腰のあたりをおもいきりぶつけながら床に転がった。
「………………」
その自転車ミサイルで意表をつかれた静香たちは、微動だにできなかった。
というか、突拍子がなさすぎて反応できなかったというのが正解だが。
「やはり予想通り、登場のインパクト効果は絶大でしたわね」
「ふたりとも、だいじょうぶー?」
そして歩み寄ってきたのはジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)と岸辺 湖畔(きしべ・こはん)。
自転車に乗っていたふたりもジュリエットのパートナーで、ハンドルを握っていたのがジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)、飛び掛ってきたほうがアンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)である。
「あなたが、ループの元凶である西川亜美ですわね? どうやって牢を抜け出したのかは存じませんが、おとなしく縄についてくださいませ」
ジュリエットの宣告。さっきの衝撃のあとでなければ、なんとなくシリアスになりそうな場面だが。
今は戸惑いのせいでみんな思うように言葉が出なかった。ジュスティーヌなどは、後ろでほぼ涙目になっているし。
「えーと。僕はその、本当は静香なんだよ。で、僕の身体に亜美が入ってるんだ」
「なんだよ、そのワケワカンナイ話は! あたしにわかるように説明するじゃん!」
「自転車にのって特攻してきた人にワケワカンナイとか言われたくないんだけど……」
「まあなんでも構いませんわ。すべてはラズィーヤ様の前ではっきりさせればいいことですしね」
距離をつめてくるジュリエットとジュスティーヌ。
さっきのはたしかにトンデモ戦法ではあったものの、結果的に前と後ろで挟まれる格好になってしまった静香たちは、気を引き締めなおして戦闘態勢をとろうとして。
「んー。ふと思ったんだけど、よく考えると、ボクたちってそもそも争う必要があるのかな?」
湖畔の指摘で、出鼻をくじかれた。
どういうこと? という視線がどっちの面子からも注がれて、つづきを話していく。
「だってさ。ジュリエットは亜美さんをラズィーヤ様の元へ連れ出してコトの真相を明らかにしたい、護衛側のひとたちは、校長先生だと主張する亜美さんを守って真相を明らかにしたい」
ここで一度湖畔はセリフを切った。
どうやら明日香やエレンたちに反論があるなら聞く構えのようだったが。誰も口を開かなかったのでさらに後を連ねる。
「だとすると亜美さんを信じるか信じないかで立場は分かれるけど、身柄を守って真相を明らかにする、っていう点では利害が一致するんじゃないかな?」
言い終えると、うんうんとジュリエットたちは首を縦にふっていた。
「なるほど。たしかに一理ありますわね」
「私も、手荒なことは苦手ですし」
「おお。流石は年の功じゃん!」
「歳の事は言うなー!」
静香の側の面々も、
「あの人たちも、牢に戻そうっていうんじゃないみたいだしぃ。ここはわざと捕まって、連れて行ってもらったほうが得策じゃないかなぁ?」
明日香は異論はなく同意し。
「どのみち、もう一度本物の亜美さんには会っておくつもりでしたしね」
「なにかあっても、プロクル達が護衛していれば安心であろう」
「う〜ん、だいじょうぶ〜でしょうか〜?」
「まあいいんじゃないかな? たぶん」
エレン達も、さほど否定するつもりもない構えだった。
そうして建て前上はジュリエットに連行される形で、とうとう校長室へと辿り着き。
静香になった亜美と、亜美になった静香が対面することとなった。
亜美のそばにはラズィーヤとザウザリアスがいて、そして新たにミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)をはじめとした白百合団の面々も護衛として立ちはだかっている。
「僕は、捕まえろと言ったはずだけど。どうしてここへ連れてきたの?」
亜美は特に動じたそぶりはみせずに端的にそれだけを質問する。
「捕まえろとは言われましたけど、ここへ連れて来るなとは言われていませんので」
答えを告げたのは湖畔。
へりくつじみた回答に、亜美はわずかに苦笑して。
「そう。だったら今すぐ元いたに戻して。これは校長命令だよ」
「待ってくださいっ! ちゃんと話をしてくださいよぉっ!」
なんとか和解をさせようとする明日香だが、亜美は校長椅子をくるりと回して後ろを向いて、聞く耳持たずの姿勢になってしまった。
さらにミネッティがずいと一歩前に出てきて、
「話は終わりだよ。ほらほら、はやく連れてって連れてって」
「みなさんも、そこにいる桜井静香は偽者なんだよぉ。それがわからないのっ?」
「は? バカな事言わないでよ、そんな事あるわけないじゃん!」
「あるんだってばぁ! 傍にいて、ヘンだとか思わないのぉ? いつもと話し方が違うとか……」
「ん? まあ、なんか若干いつもよりキツイ感じもするけど。誰でもたまにはそういうことあるでしょ」
「そ、そんな適当なぁ!」
「そんなに言うなら証拠を見せてみなよ!」
「えっ? そう言われるとぉ……」
明日香は言葉を詰まらせてしまう。
静香もどうすればわかって貰えるか考えあぐねているようだった。亜美になっている自分がこの場で説明をしても、誰も聞く耳を持たないだろう。
ジュリエット一行は、元々こっちの意見をさほど信じているわけではなく。胡乱な目つきでこちらを眺めてくるばかり。
その結果として黙っていられなくなったのは、エレン達だった。
「馬鹿馬鹿しい話である! 自分は自分でしかないのである!」
口火を切ったのはプロクル。
最初に校長室を訪れたときから、まるで反省の色が見られないことに、我慢が限界値を超えてきているらしい。
「ホントにくだらないこと。姿形を奪ったところで、あなたの本質はなにも変わりませんのに。そして人は決して姿形だけでその人を好きになったり愛したりはしませんわ」
エレンも後につづくが、言葉をぶつけられている当人は依然としてこっちを向きもしていない。
「もういいよ。みんな、この人たちをはやく追い出して」
「別にあなたが静香という名前で〜静香さんの容姿だから〜ってだけで〜敬愛されてるわけでは〜ありませんわ〜」
「おまえの演じているのは所詮おまえにとっての静香でしかないのである! そんな薄っぺらなものが人を本当に惹きつけられるわけがないのである!」
護衛メンバーに邪魔されて手が出せないので、代わりにエレアとアトラも言葉による加勢をしていく。
「所詮、姿形などパッと判断するときに参考にする一要素。時間がたてばメッキははがれますのよ。あなたが静香さんとして生きようと、静香さんが本来評価されたようには評価されませんわ。がっかりされて見限られるだけでしょうに」
「ちょっと! なんだかよく話がみえないけど。それ以上の侮辱は、さすがに処罰の対象になるわよ!」
こんな場面だが、エレンの発言にミネッティはどこかいきいきとした顔で注意してくる。
元より彼女は遊び半分な感覚なので、細かいところは無視する勢いらしい。
そんなミネッティに構わずに、プロクルは別のところにも矛先をむける。
「ラズィーヤ! 答えるのである! この間からの静香とこっちのいぢりがいのありそうに変わった亜美、今のおまえにとってどっちがおもしろそうな子だと思うのであるか?」
「え、わたくし?」
いきなり話をふられて戸惑うラズィーヤ。
しばし暴れる猿の手いりの箱を叩いていた手を止め。そして、
「そうですわね。今日の静香さんも、昨日の静香さんも、どっちもいぢめがいはありますわ。最近毎日ちょっと違う静香さんで、わたくしとしては愉しいですけど♪」
なんともこの人らしい意見を述べていた。
「あの。それより結局、ループがなぜ起こったのかは校長にも西川亜美にもわからないんですの?」
そこへ、いい加減ずっと気がかりだったことを質問してくるジュリエット。
それに亜美はずっと後ろを向いたままで。静香もぷるぷると首を振りつつも、意を決したように校長机へと駆け寄って。
「亜美! 僕は、ループのことも含めて、ちゃんと話を聞きたいだけなんだよ! どうしてこんなことをしたのか、なにか理由が――」
「うるさいな! いいからもう出てって!! 出てってよ!!! はやく!!!!」
必死の訴えを、ヒステリックな叫びで遮る亜美。
そのあとは、追い出そうとする護衛メンバーと、諦めず話を聞こうとする静香たちの攻防が起こった。
必死に護衛をつとめようとするミネッティが、エレンたちによって押しのけられたのを皮切りに、白百合団の面々が取り押さえにかかり、説得を諦めなかった明日香もザウザリアスによって止められ。ジュリエットたちは、静香と亜美が衝突しないよう互いの間に入っていった。
収拾がついたのはそれから三十分もあとで。
結局このループでは最後まで、静香と亜美がもう一度言葉をかわすことはなかった。
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