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静香サーキュレーション(第3回/全3回)

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静香サーキュレーション(第3回/全3回)

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【◎3―2・救出】

『続いてのおたよりは……ペンネーム・秘密の魔道書さんから! ふんふん、最近大切なパートナーとのすれ違いに悩んでいます、か。魔道書さん! そういう時はちゃんと腹を割って話さなきゃダメ! 傷つくのを恐れてちゃ、前に進めないよ!』
「ふむ。言うのは簡単であるが、大抵の人間はそれがなかなかできないものなのだよ」
 毒島大佐(ぶすじま・たいさ)は、ラジオを聴きながら亜美の監視を行なっていた。
 その亜美――の姿をした静香は格子戸を間に挟んで、人化している魔鎧のアルテミシア・ワームウッド(あるてみしあ・わーむうっど)とポーカーをやっていた。
「あの! 話聞いてる? 僕は亜美じゃなくて、静香なんだってば!」
「そんな話より、次あんたの番よ。とるならはやくカードとってよ」
「え? あ、これとこれをチェンジ……じゃない! ちゃんと話を聞いてってば!」
 牢の中で騒がしい彼女に、しぶしぶ大佐はイヤホンを外してとりあえず耳を傾ける。
「つまり何だって? 静香が亜美で、亜美が静香だって。そういうわけであろうか」
「だからそう言ってるじゃないか! 人格が入れ替わってるんだよ!」
 必死の訴えは大佐にもアルテミシアにも通じてはいる。
 ただ、ふたりはそれでも解放する気は無いようで。
「その話が本当だと仮定しても、百合園中に追手もいるし、証拠も無いから出ても信頼されないであろう」
「そ、それはなんとか隠れながら移動して」
「ろくなプランもナシに動いてもしょうがないわよ。カードゲームと同じ。何の戦略も立てずにただ運任せにしてたら……はい、じゃあショーダウンね」
 アルテミシアの手札はダイヤの9、10、J、Q、K。いわゆるストレートフラッシュ。
 静香の方は、スペードの5、7、8。そしてハートの6とダイヤの6。つまりワンペア。
「僕の負け……」
「あっさり敗北するのは、目に見えてるわ。話にならないわね」
 正直なアルテミシアの言葉にがっくりとなる静香。前回の結果がそれを証明しているので、反論もできなかった。
 やれやれと肩をすくめながら今度はひとりでソリティアをはじめるアルテミシア。大佐もイヤホンをはめなおそうとした。
 が、カツカツと誰かの足音が響いてきて手を半ばで止める。アルテミシアも殺気看破で気がついているが、それを気取られないよう手はソリティアをやり続けた。
 廊下の奥の闇から姿をみせたのは、ギーグだった。
「ここに、なにか用であろうか」
 大佐は言いながら、警戒の色を濃くする。
 ギーグの外見が男ということもあるが、いきなり漆黒の大鎌を構えてきたからである。
「ヒャッハー! 俺様のショータイムのはじまりだぜぇ〜!」
 そのまま間髪いれずぎゅるぎゅるとバトンでも回すかのように容易く鎌を振り回しながら、向かってくるギーグ。
「……そうか。後悔しても我は関知しないのだよ」「やれやれだわ。けっこういいカード運だったのに」
 対する大佐は、もはや完全に容赦なしのモードに入っていた。
 アルテミシアもいつの間にか魔鎧状態に移行して、大佐の身体を保護している。
 ギーグが振り下ろしてきた大鎌に対し、闇術を打って周囲を黒く染める大佐。そうして視界を奪いながら、忍びの短刀を投擲し。自分はサイドステップで攻撃をかわしていく。
 対するギーグも闇術の中飛来してきた短刀を、空気の流れを読んで察するや大鎌の柄の部分でとっさにはじいた。若干闇術の効果で頭痛を感じるものの、すぐに鎌を構えなおした。
 そのまま大佐&アルテミシアとギーグの死闘が繰り広げられる中。
 玲、ミナギ、ささらの三人は、段ボールに隠れながら格子戸に近づいていた。
「ほら、ミナギ急いで」「まだですか?」
「ちょっ……ふたりとも、焦らせないでよ。こっちを、こうね」
 ミナギのピッキングにより、やがて鍵は開かれて。
 中にいた人物とついに対面するなり、玲は言った。
「ご飯ください」
 静香は、ただでさえいきなり始まった戦闘に驚いていたところに、そんな言葉をかけられて丸くなっていた目をさらにぱちくりとした。
「ちょっと! 違うでしょ、玲! あたし達は彼女を助けに来たの!」
「彼女がこの事件の犯人ですか。意外と普通に見えますね……というより、なんだか弄りがいがありそうです」
 声が大きいミナギと、なぜかうっとりした目線で見つめてくるささらの言葉で、ようやく事態を理解する静香。
 彼女達はどうやら、自分を西川亜美だと思っているらしい。
 まあ身体は亜美なので無理もないとして、今は説明を控えて素直に感謝することにした。
「ありがとう。助けに来てくれて」
「いえいえ。ご飯のためなので」
「ふふん。やっぱりあたしは主人公、山本ミナギここにありよ!」
「ちょっとミナギさん。そんなに声を張り上げたら、警備の人に気づかれます。せっかくギグが囮になっ――」
 ささらの言葉は中途で切れた。
 なぜなら、化粧台の鏡に、大佐が冷ややかな目でこちらを睨んでいたのが映っていたからである。ギーグはぐったりして床に倒れている。やはり、実質二対一ではそう時間を稼げなかったらしい。
「さて。そのままおとなしく一緒に牢に入っているというなら、手荒なことはしないのだけれど。どうする?」
「どうもこうも、ないです」
 ざっ、と靴で床を踏みしめながら玲は一歩前に出る。
 パートナーをやられて怒っている風にも見えたが、ミナギとささらは次に彼女が何を言うかなんとなく想像できた。
「ご飯の邪魔を、しないでください!」
 そう叫びながら玲は鬼神力を使い、両手を通常の倍近く巨大化させ、握り込んだ七枝刀で薙ぎ払いにかかった。
 パワーによる勢いと発生した真空刃で、化粧台がひっくり返り、格子戸がけたたましい音をたてながら粉砕された。
「あぶないな、まったく」「私たちを相手に、特攻はおすすめしませんよ」
 しかし大佐たちはさほど慌てることなく、後の先によるカウンターでアサシンソードによる下段切りを繰り出した。
 踏み込んだつま先のあたりを切り飛ばされそうになった玲は、剣を振った勢いを利用しての側転で難を逃れ、どうにか距離をとることができた。
「ちょっと玲! あたしがやっつけるんだからね! 主人公、山本ミナギの出番をこれ以上とったら許さないから!」
「亜美さん。もうすこし待ってくださいね。すぐ出してあげますから」
 相手はかなりの腕だと見てミナギとささらも加勢に入っていった。

 双方による戦闘が激化していったその数分後。
 同じ校舎の同じ廊下を、エレン、プロクル、エレア、アトラたち四人は歩いていた。
「ええと〜聞いた話だと〜こっちですわね〜」
「今度こそだいじょうぶなんだろうね? さっきみたいに倉庫で埃だらけになるのはゴメンだよ」
 先頭をいくエレアが道案内をしているおかげで、なんだか時間をくっているようだったが。ほどなくして四人は目的の部屋へと到着する。
 そこでは亜美が、大佐、アルテミシア、玲、ミナギ、ささら、ギーグの計六人の手当てをしていた。どうやら相うちになったらしい。
 なんとも予想外の光景にしばし唖然とするが。すぐに気を取り直し、
「なにがあったのかは、惨状を見れば大体想像はつきますけど。静香さんはケガをしていないようですわね」
「うん。よし、これで全員……っと。て、あれ? 今、静香って呼んだ?」
 包帯などを巻いていた静香は、名前を呼ばれて我にかえる。
 エレンのほうはにこりと笑顔をみせて。
「さて亜美さんの姿の静香さん、休暇だと思ってのんびりあなたらしくすごされてはいかが? それに静香校長というものが皆にどう見られているのか、外から知る良い機会ですわ。大丈夫、すぐに問題は解決しますわ。だから、あなたは、ただあなたらしく、ね」
「え? あ、うん。でも僕だけじっとしてるわけにはいかないし」
 その提案に、黙っていられない様子の彼女に、エレアは確信を持った。
「やっぱり〜あなたが〜静香さんですのね〜……静香さ〜ん、しばらく〜エレンに〜話を〜合わせて〜くださいな〜」
「えーっと、静香様、しばらく自分が静香というのは主張なさらず、別に亜美のフリをする必要はありませんから、普通に学生生活をすごしていましょう。エレンねえが大丈夫だって言ってましたから、きっと何とかなりますよ」
 アトラからのなぜか自信ありげな表情に、迫力負けで言葉に詰まる静香。
 先程の大佐とアルテミシアからの言葉が、影響を与えている部分も大きかった。
「ご自分を〜静香だと〜騒がなければ〜大丈夫ですわ〜。そうそう〜、静香さ〜ん、こんな目にあっても〜別に〜亜美さんを〜恨んだり〜していませんよね〜」
「それは当たり前だよ。むしろ、彼女を追い詰めたのはたぶん僕なんだし」
 返ってきた答えに微笑みを深くするエレア。
 そして彼女が自分を追い込まないための、心づかいも忘れずに。
「のんびり〜、演じることなく〜、考えることもなく〜、しばらくみんなとすごせば〜、いいのですわ〜」
「おいみんな! なんにしても、このままここにいるのはあまり良くないであろう。話は、移動してからにするのだよ」
 最後はプロクルが締めくくり、一同はその場を後にした。
 ちなみに部屋の前で倒れている六人は、後ほどやってきた白百合団の面々によって改めて介抱されることとなった。