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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 最終回 ―Paradise Lost―
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リアクション

 ――2021年9月。
 世界の命運をかけた二つの戦いから、二ヶ月が過ぎた。
(これでいいんだよな、博士)
 月夜見 望(つきよみ・のぞむ)はホワイトスノー博士が遺したファイルを開き、それに従った。
 情報の開示。
 天御柱学院で研究されていたレイヴン以前の旧世代イコンに関する全てのデータを、全世界で共有できるよう、公開するというものだった。
 情報が流れれば、それを特別だと考える人は少なくなる。
 軍事利用や民間利用などについて条約で厳密に定めた上で、サロゲート・エイコーンというのがどういう存在なのか、というのを世界に知らせて欲しい。
 博士の遺したメッセージにはそう記されていた。
 イコンの情報公開に関しては、国際条約に批准した国に対して行われ、それ以外の国がイコンの開発・保持を行った場合は制裁処置を加える、ということになった。
 これらはあくまで地球におけるものだが、シャンバラ王国は「地球上における取り決め」として批准している。パラミタでは地球の法律は基本的に適用外だが、地球上でもイコンの運用を行っているため、批准しなければならなかったのだ。
 なお、海京は日本領であるため、日本が批准していれば問題ない。この情報公開により、イコンを所持している者は自身で条約に違反しない範囲で機体を改良することが出来るようになった。
 なお、運用は地球上では大きく制限されることになるが、パラミタでは普通に動かして問題ない、ということになる。無論、戦闘行動、戦争行為に関してはパラミタの法律に則るため、そちらでもある程度の制約がなされることになる。
 あえて公開することによって、均衡を保とうというのが、ホワイトスノー博士の意図らしい。
 それがどう転ぶか分かるのは、もっと先になるだろうが――。

* * *


「いや、ほんとあのときはびっくりしましたよ」
 橘 早苗(たちばな・さなえ)葛葉 杏(くずのは・あん)に向かって切り出した。
「何言ってるのよ、私がそう簡単に死ぬわけないじゃない」
 レイヴンのシンクロ率を100%まで出した後、杏は意識を失い、しばらく昏睡していたが、一日で目を覚ました。
 脳にも後遺症が残ってない、というより健康体そのものだということで、医者は大層驚いていた。
「理論なんて、根性があれば乗り越えられるものよ」
「杏さんはさすがですぅ〜」
 ふと、学院の敷地内を見ると、天学の制服の白黒部分を反転させたものを着ている人の姿が目に映った。
「風紀委員の制服も、もう見慣れたわね」
 元々は強化人間エキスパート部隊の管区長が同じような感じで着用していたが、今は正式なものとなっている。
 天学の新体制はまだ完全に固まったわけではないが、学生主導の形で動き出している。一番上に生徒総会があり、その下に各種委員会がある。また、生徒総会と三科長会は同列とされ、優越権は生徒総会に与えられた。
 委員会は生徒会も含めて全て同列の扱いであり、各委員長によって生徒総会が構成される。
 学院全体の問題のうち、海京や外部にまで波及する可能性があるものは、生徒総会で扱われ、学院の内部で収まる問題は生徒会で処理されるという形態がとられるようになった。
 また、治安維持は体制を変えた新生風紀委員会が行う。
 さらに、生徒会、風紀委員、あるいは教職員組合や各科が外部や特定組織と癒着したり、秘密裏に何かを行ったりしないように、監査委員会が新たに設立された。
 学院の大きな枠組みでは、強化人間管理課が解体され、強化人間は基本的に三科のいずれかの所属で統一され、メンタルケアのための強化人間用のカウンセリングセンターが旧強化人間管理棟に設けられた。
 また、天御柱学院の後期授業より、普通科が復活。強化人間志願者だけでなく、パラミタ情勢を直に学びたいという一般人も受け入れるようになった。また、本人の希望次第で強化人間のパートナー契約の仲介も行う。

 こうして、新たな天御柱学院へと移り変わっていった。

* * *


「学院は、段々いい方向に向かってる。だから、安心して」
 天貴 彩羽(あまむち・あやは)は、海京クーデターの犠牲者が眠る沿岸の墓所を訪れていた。
 管区長とは交友があったため、こうして定期的に訪れているのである。
「天貴さん、来てたんだね」
 榊 朝斗(さかき・あさと)がやってきた。彼もまた、管区長達――それも全員を知っている。
「風間や黒川の企みは阻止できた。でも、僕達はこれから、今度はこの新しい学院を守っていかなきゃならない」
 維持し続けるのは、決して簡単なことではない。
「珍しいな、二人もいるとは」
 声の方を向くと、風紀委員の制服――それもセーラー服風にアレンジしたものを着ている生徒がいた。
 ルージュだ。
 吹き飛んだ右腕は傍目からは分からないが、特殊な義手が付けられてる。また、顔の右半分の火傷を隠すため、顔まで覆えるタイプの眼帯をしている。
「……俺の記憶が始まってから、ずっと一緒だった奴らだからな。まあ、俺だけまだ風紀委員として収まってるのは、こいつらからすれば、『ズルい』って思われるかもしれないが」
 ふう、と息を吐いて告げた。
「こうして生き残った身だ。こいつらの分も、きっちり頑張らないとな」

* * *


「しかし驚いたな。凛が交換留学生が来るって言ってたから学院まで顔を出しに来たが」
 姉妹校協定が結ばれた聖カテリーナアカデミーから最初にやってきた留学生の顔を、星渡 智宏(ほしわたり・ともひろ)は凝視した。
「エルザ校長に嵌められたのよ……」
 F.R.A.G.第一部隊で隊長を務めているはずの、ダリアだ。
「『ダリアちゃん、確か学生やりたいって言ってたわよねー?』って言うものだから、『はい、私は学校に通ったことがありませんので』って言い返したのよ。『じゃ、手続きしとくから』ってことでアカデミーに編入されるかと思って喜んでたら」
 この様だ、ということらしい。
「聖歌隊の『ダリア教官がいない間に強くなって見返してやろうぜ作戦』なんてのに、あの人が興味を示すから……」
「まあいいじゃないか。とはいえ、教官と同レベルのパイロットがパイロット科に入るとなると……」
「……整備科よ。どうやらあの少女趣味年増、本当に聖歌隊を勝たせて、私が悔しがる姿が見たいらしい……!」
 かなり不本意なことであるようで、わなわな身体を震わせている。
「あ、智宏さん。ちょうどレイラちゃんを案内してたところです」
 時禰 凜(ときね・りん)が、ダリアのパートナーと一緒に現れた。
「まあ、俺から何か言うのは難しいが……この学院でも、頑張ってくれ」
 しばらくは、こっちで顔を合わせる機会も多そうだ。