リアクション
● ● ● 「昔の人は言いました――『つれづれなるままに、日暮らし、硯にむかひて、心にうつりゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ』――と」 「つまり、どういうことだよ、オイ」 「要するに――仕事が無くて手持ち無沙汰だったので、時間の許す限り、お墓に向かって、心に映っては消え、移っては消えるはっちゃけた呪唄を、唄いながら陰陽術を叩きつけると、妙に妙に気ちがいじみた開放感が生まれる――ということですよ」 そう言って、爽やかな笑みを浮かべたのは東 朱鷺(あずま・とき)だった。 「ありゃりゃ、そりゃスゲェや! オレ様、びっくらこいちゃったよ!」 それに対し、騒々しくもけたたましい笑い声をあげたのは第六式・シュネーシュツルム(まーくぜくす・しゅねーしゅつるむ)である。 見た目は明らかなアンデットのスケルトンだが、これでもポータラカ人だ。カチカチカチ、と骨をかち鳴らす笑い声をあげつつ、第六式は躍るように朱鷺の周りを駆け回った。 「そいつぁ、やらねばソンソンってやつだな、おう朱鷺♪ カカカカカッ!」 「ええ、その通り。ですから――この説を証明してみせましょう」 証明、とはいかなるものか? 言うと朱鷺は、くるくると躍り舞いながら、自らが作りあげた呪詛を言葉に乗せた。 あくりょーたいさん、あくりょ−たいさん♪ 死霊、悪霊、アンデット、グールにゾンビに、レブナント♪ 陰陽術でMINAGOROSHI♪ 陰陽師の進む道、前も屍、後ろも屍♪ 昼は、屋敷で怪しい儀式♪ 夜は、墓場で屍とダンス♪ 時々、昼間の占いで♪ 良くない結果が出るけれど♪ そのまま伝えたら罵詈雑言♪ そのストレスは夜中に発散♪ 「アヤアアアァァ! 朱鷺が壊れちゃったネ! ……つまり今は、祭りの最中ネ?」 そういうわけではないのは明白だが、第六式の理解は常人には及ばない。 「アァァッァァァッー♪ 一緒に躍るネ♪」 朱鷺と同じように、くるくると舞いながら骨の口をカチカチ鳴らした。 ストレスはっさん、ストレスはっさん♪ 幽霊、妖怪、モ〜ノノケ、髑髏に骸骨、スケルトン♪ 陰陽術でBUKKOROSHI♪【呪詛】 陰陽師の進む道、行くも屍、戻るも屍♪ 昼は、屋敷で怪しい儀式♪ 夜は、墓場で屍とダンス♪ 時々、昼間の占いで♪ 良くない結果が出るけれど、そのまま伝えたら有罪判決♪ そのストレスは悪霊に発散♪ 何気に、歌いながら都市のさまよいし魂たちを浄化しているように見えなくもない。 朱鷺たちの舞い踊る歌に誘われるまま、暗き空に魂はのぼった。 ● ● ● ヴェンデッタと呼ばれる滅多に見ることのない戦闘用義手で建物に触れたとき、がらがらと崩れ落ちた瓦礫を見て、精悍な顔立ちの若者は顔をしかめた。 「ちぇっ……なにか残ってるかもしれねぇと思ったが、これじゃあさほど期待できそうにねえな」 若者――柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は、口をへの字に曲げて唸った。 戦争で滅んだとはいえ、少しぐらいは使えるものが残っていると思ったのだが……。期待はずれだっただろうか? 周囲を見回す四匹の『影に潜むもの』と共に目を凝らすが、彼らも存在し得ない口を結んだように首を振る。 収穫がないことに悲観めいたことを思ったよう、恭也はがりがりと頭を掻いた。 と、そのとき―― 「お?」 恭也が見つけたのは、まるで何か馬鹿でかいミサイルか隕石でも衝突したような、陥没したクレーターだった。 思わず前のめりになったとき、足を踏み外しそうになる。これだけ大きな規模の破壊力を有する兵器は、そうそう見ないだろう。恭也は戸惑いを禁じ得なかったが、ふと、その視界に映ったものに眉をひそめた。 「ありゃあ……シェルターか?」 生命体の命を守るための、半球体型をした外殻保護膜が、クレーターの中心に見られる。 そのとき恭也の脳裏に蘇ったのは、ベルネッサとかいう地球人が話していた“女神の翼”と呼ばれる遺物のことだった。 (もしかしたら、あそこに……?) 半信半疑に思いながらも―― しかし恭也は、シェルターのもとへと足を運ぶのだった。 ● ● ● 「なぶら殿っ、なぶら殿っ! 早く行くのだ! 時間は吾輩たちを待ってはくれないのだ!」 廃都と化した街を行軍するのは、高揚した気持ちを抑えきれずにいる守護天使の木之本 瑠璃(きのもと・るり)だった。 未知なる都市。遺跡。ダンジョン。冒険を好む瑠璃としては、この地には心躍るワードがひしめき合っている。目的の“女神の翼”に一番乗りでつこうと、やる気に充ち満ちているのだった。 その彼女を追うのは―― 「わーった……わーったから、瑠璃。いまいくよ」 「まったく……瑠璃! 先に進むのは良いですけど遊びじゃないんですからねー!」 素直に背中をついていく相田 なぶら(あいだ・なぶら)と、保護者然としたフィアナ・コルト(ふぃあな・こると)だった。 フィアナに咎められながらも、しかし瑠璃は平然とした顔だ。むしろ余計に火に油を注いだ結果かもしれない。 「なぶら殿ー! 早くしないとおいていくのだー!」 と言って、彼女はダッシュで二人よりも先に向かってしまった。 「もうっ……瑠璃ったら……」 人一倍危機意識が強く、注意を促すフィアナは呆れてしまっている。 「まあまあ、いいじゃんか、フィアナ。こういうところなら、テンションがあがって当然だろ?」 そこになぶらは頭の後ろで手を組み、鼻歌を歌いながら言うので、じろりとフィアナの目が彼を睨みつけた。 「……なぶら、あなたもですからね?」 「ぎくぅっ……あぁ、わかってるって。ったく、いきなり説教はやめてくれよなぁ」 「なにが説教ですか! 大体ですね、あなたたち二人はですね……」 フィアナはくどくどと話を始めた。 こうなると、長くなってしまうのだ。なぶらは自身の経験上からすでに対策を講じていて、話に夢中になっているフィアナに気づかれぬよう、そそくさと逃げ出すことにした。 先に行った瑠璃に追いついたところで、ようやく一息つく。 「まったく、まいったよ……なにか見つかったか? 瑠璃」 「まだなにもなのだー……それより、なぶら殿。またフィアナ殿に説教を食らっていたのだ。災難だったのだ」 「それはお前も同じだろ?」 言うが、瑠璃は自分も怒られていたことはまったく理解していないようだ。不思議そうに小首を傾げるのみだった。 なぶらはそれに呆れるが―― 「…………ま、いっか」 とにかく今はこの退廃した都市の調査に専念するべく、瑠璃の理解を及ぼすのは諦めた。 ふいに、天空を穿つような波動音がしたのはその時だった。 「……っ!? なんだ……!?」 なぶらが顔をあげると、視界に映ったのは巨大なビーム状の線であった。 いや、違う。まさしくあれはエネルギーの光線だ。この都市のどこかから、溢れ出たエネルギーが一気に空へ向かって放射されたのだ。 「ちょっと! 二人とも、話を聞いていますか……!」 ちょうどそのとき、フィアナが二人へと追いついてきたところだった。 いまだに怒り心頭している彼女に、なぶらは言い聞かせた。 「フィアナ! それどころじゃない! もしかしたら、あの光は“女神の翼”かもしれないぞ!」 「……ほ、ほんとですか……!?」 「それじゃあ、さっそく行ってみるのだー!」 瑠璃が駆け出したのを見て、なぶらもその後を追った。 今度はフィアナもついてくる。目的の物を見つけた可能性があるとなれば、さすがにフィアナも瑠璃たちを咎めることはできなかった。 それにしても、なぜいきなりあれほどの波動が? なぶらは怪訝に思うが、いまはとにかくその現地へと行ってみるしか方法はなかった。 |
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