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リアクション
「こちらの方向ね。急がないと」
リアトリスと別れた祥子は『妖精の領土』で森を駆け抜けていた。
「……遠吠え!?」
自分が向かう先からツァンダオオカミの鳴き声が聞こえてきた。もしかしたら子供が襲われているのではないか。
「どうか間に合って」
さらに急いで駆けつけた。
「……子供は」
駆けつけた先には、誰もいなかった。リアトリスからシャンバラ人の男の子がいると聞いたはずなのに。
「きっと『女王の加護』でどこかに逃げたはず。今は……」
子供の無事を信じて今はツァンダオオカミを何とかするのが先だ。空腹で殺気立っているツァンダオオカミを睨み付ける祥子。
「さて、どうしたものかしらね」
祥子は誰もいないので一撃で仕留めて子供達が襲われないようにするつもりだ。
彼女は。襲ってくるツァンダオオカミを『一刀両断』してからシャンバラ人の男の子を捜しに行った。
「いた。無事だったのね」
しばらくして男の子は何とか見つけることができた。祥子の予想通り無事危機回避をしていたようだ。
「お姉ちゃん、怖かったよぉ」
やって来た祥子に男の子は駆け寄った。
「もう怖くないよ。無事で良かった」
駆け寄って来た男の子を抱き締めて安心させた。
「オオカミは? さっき聞こえたよ」
「オオカミはお姉ちゃんが倒したから大丈夫よ。さぁ、さぁ、みんなの所に帰りましょ」
祥子から離れた男の子は少し体を震わせながらオオカミのことを聞いた。
彼女は心配無用とばかりに明るく答え、はぐれないようにと手を差し出して繋いだ。
歩き出そうとした時、自分が来た方向から足音と車輪の音がして振り向いた。
「……良かった。見つかったんだね」
現れたのは、心配して駆けつけたリアトリスだった。側には狼姿のスプリングロンドと忍犬四匹が引く人力車がいた。
「リアトリスも子供を見つけたのね」
祥子は人力車に乗っている女の子を確認してほっとした。
男の子は乗りたそうな顔で人力車を見ていた。それに気付いたリアトリスは側にやって来て声をかけた。
「まだ一人乗れるから乗ってみる?」
「うん。乗る!」
リアトリスの誘いに男の子は手伝って貰いながら嬉しそうに人力車に乗り込んだ。
このまま祥子も人力車と共に森を抜けていくことにした。
エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は園児捜索とモンスター退治を兼ねて森に入っていた。
「モンスターが出れば戦闘の訓練になるな」
『殺気看破』で周囲を警戒しながら歩いて行く。まだ、子供にもモンスターにも遭遇していない。
「ん」
害意を感じ、振り向きツァンダオオカミとの距離を縮め、オオカミの鼻先を掴んで激しく雪の地面に叩き付けた。オオカミは妙な鳴き声を上げて失神してしまった。
「……これで終わりか」
呼吸を乱すことなく、新たな害意を感じ始めた時、横から泣き声と共に地球人の男の子が現れた。
「どうした? ここは危険だぞ」
エヴァルトは近づき、失神しているオオカミに気付いていない子供に声をかけた。
「……雪だるまがナコ先生のブローチ持ってちゃって、探してて、でも見つからなくて」
泣きながら途切れ途切れに事情を話す。
「……雪だるま? 事情は分かったが、探すのは他の人に任せて大人しく帰ろう。大丈夫、彼らならちゃんと見つけるさ」
何とかオオカミに気付かれる前に子供をこの場から離れさせる必要があるので何とか宥めようとするも聞き入れてくれない。
「でもぉ、ブローチ」
男の子は主張を曲げない。それぐらいナコのことが大好きなのだ。
「ブローチか」
泣きながらがんとして動かない子供相手に少しばかり困ったエヴァルト。
そんな時、
「……泣き声が聞こえたけど」
助けた子供を連れた詩穂が現れた。
「騎沙良さん。どうやらブローチを探しに行きたいらしく」
現れた詩穂に簡単に事情を話した。
「そっかぁ。優しいんだねぇ」
事情を聞いた詩穂は男の子の頭を撫でてにっこりと笑いかけ、『幸せの歌』で迷子になった不安を和らげた。
「……本当にナコ先生のブローチ見つかる?」
気持ちが落ち着き、涙を拭いて詩穂に聞いた。
「あぁ、見つかる」
答えたのは様子を見ていたエヴァルト。
「さぁ、帰ろうねぇ」
詩穂は二人の子供達と手を繋いで歩き始めた。エヴァルトは最後尾で周囲を警戒する。
四人は無事に森を抜けた。
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