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第4章 前哨戦

「出て来ないなら放っておけば良いでしょう。ですが、地下という危険も」
 騎凛セイカと向かい合い、柔らかな笑みをたたえて述べる男。だがそこにあるのは決して、優しさだけではなく……
 そして、そんな彼の後ろに並ぶのは、覚えのある背の高い三人の男達。





 さて、マリーが砦で騎凛に迫り、100の兵を率い北岸一乃砦に向かう他方、鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)は、パートナーと二人徒歩でそこへ向かっていた
 騎兵科士官候補生である彼だが、あくまで騎馬に乗する騎士であろうとし、騎狼の貸し受けは頼まなかった。
 鷹村には、シャンバラの獅子、レオンハルトのことがいつも頭にあった。
 いつかは、あのシャンバラの獅子と並び立ちたい。そう彼は思っている。
 そのために、自身は、騎兵科か、でなければ今回、今からその戦いにまみえることになる、特殊部隊、か…… 彼の目に、砦の姿がはっきりと見えてきた。
 と、後方から砂煙を立て、ブラッディマリー将軍が兵100を引き連れ、駆けて来る。
「おお、鷹村殿でありますか! わては兵100を率い、これより一乃砦を攻め落しにまいるでありますぞ」
「あなたは、マリー殿。では、砦を落としている特殊部隊は?」
「まあ見ているであります。砦を落とすのはこのマリー」「と、カナリーちゃんだよ!」「であります! ハアア!!」
 ドドドド 騎狼の手綱をとり、駆け去っていくマリー。
「真一郎? 私達も、行きましょう」
 彼の横を歩く、松本 可奈(まつもと・かな)。砦の方へ向けて、彼の手を引く。
「そうですね、この戦いの中で、俺の行く道が見えてくるかも知れません」


4‐01 黒炎の砦攻め

 各主力部隊を集めての軍議が開かれる前のこと、まだ他に誰も来ていない一室に、騎凛セイカによって招かれていたのは……
「目障りだと仰るのでしたら、仰せの儘に」
 くすりと微笑し、一礼。黒炎を率いる黒軍師、黒崎 匡(くろさき・きょう)だ。
「匡さん。ではあなた方にこの件、一任致しますよ」
 今回、獅子小隊、ノイエ・シュテルン、騎狼部隊、といった隊を成すグループが本巣攻めにあたる。そこで、黒炎に託された使命は……
「指揮官である騎凛殿がそう望むのであれば」ふっ、と笑みを見せる、クロード・ライリッシュ(くろーど・らいりっしゅ)
「クロードさん。黒崎さんとしっかり、お願い致しますね」
 二人の後ろで静かに佇むのは、各々パートナー、匡の剣の花嫁、レイユウ・ガラント(れいゆう・がらんと)。そしてクロードの守護天使、戒羅樹 永久(かいらぎ・とわ)

 遭遇戦から巧みな連携プレーでオークを葬ってきた、【黒炎】には、特殊部隊として一乃砦の攻略が正式に言い渡された。





 まだ忌まわしきオークが立て篭もる敵一之砦。それを目指し進軍する黒炎。
 今日そこには、新しい仲間の姿があった。
「わたくしも手伝って差し上げてよ?」
 パートナーの左腕に自らの腕を絡ませてのご登場は、緋桜 翠葉(ひおう・すいは)
 その名の示すように、翡翠色した緩いウェーブの髪と瞳。ビスクドールを思わせる美少女。イルミンスールの魔法使だ。
 彼等は旧知の仲。とくに、クロードとは腐れ縁の関係であり、その彼から連絡があった(「……全くあの男、わたくしを誘うならもっと色気のある場所にして欲しいものね」)。
 翠葉は、妖艶な様子で匡の方へ向き直ると、
「ふふ……騎凛セイカからのご指名……貴方になら容易な事なのかしら?」
 更に彼へと挑発的な眼差しを注ぎ、彼女は続けた。「わたしく、そこの芋共は兎も角、匡の内外共に美しさを感じるの……とても楽しみだわ」笑みを深めてそう言う。
「……あら黒羽、嫉妬しないで頂戴ね?」
 くすくすと笑う彼女を左腕に絡ませたまま、
「……嫉妬? してないさ……」
 あらぬ方向を見遣りぽつりと言う、海凪 黒羽(うみなぎ・くろは)。ゆる族(中身は美形というが詳細は不明だ)。
 そして砦が見えてくる。
 永久は、禁猟区を事前に展開する。
「本巣で逃走者を受け入れている以上、兵増強はないと見て良いか。
 一人百も満たない位か?
 今回は射手もいる。余裕だろ」
 豪快に言ってのける、剣の花嫁レイユウ。
「さて……クロ、頼みましたよ」
「私はいつでもお前の剣だ、匡」静かな笑みを湛え、クロード。「一時の別れ。しかしお互い心配など不要。いつも信頼と共に在る」
 砦を前に、ここで今回黒炎は行動を別にすることになる。
 クロード、永久、翠葉の三人を見送り、頃合を見て匡は、虎口へ堂々まっしぐらに歩む。
 彼には、レイユウ、そして黒羽が付き従う。
「オィミロャ。誰カ一人来タデォォク」
「ドウスル? 射テマウカォォク?」
 虎口へ達した匡、一礼をすると、
「オークの皆さん。僕は、シャンバラ教導団所属。黒軍師の匡と申します。以上」
 匡はオーク砦に、丁重に挨拶してみせる。
 ゴゴゴゴゴ……風が鳴る砦。
「さてあなた方は、剣交え大敗し力差悟った筈。
 篭城は疲弊。兵糧尽き身を蝕むのみ。
 他の砦既に陥落し、本巣火の手上がり最早援軍叶わず。
 悪戯に時を浪すより、信念貫く有意義な時間を」
 流れるがごとく、匡の言葉。辺りには緊張が満ちている。彼の隣でレイユウは敵に細心の注意を払う。黒羽はすでに銃を構えている。
「御大将殿。矜持が許さぬなら、全てを懸け僕と御勝負を。
 臣下殿。己が死と敵への恐れあるなら、御大将の首を此方へ」
 ゴゴゴゴゴ……ヒュンッ 風吹きすさぶ砦の頂きから、降って来る矢。
「おぉぉっ」
 はしっと矢を薙ぎ払うレイユウ。
 すかさず、射手を狙撃に移る黒羽。





 禁猟区により、迂回し敵をかいくぐって虎口逆位置へと達したクロード、永久。
 翠葉も今は、光学迷彩によりどこかに身を潜めて待機している。
 と。虎口の方面で、銃声。
「……どうやら決まりだなぁ。永久殿」
 がっ。そして壁をよじ登り始めるクロード。すでに侵入容易箇所や、敵影の位置は確認済みだ。
 続く永久。





 ヒュン、ヒュンッ 次々、降ってくる矢。
 それを必死で薙ぎ払う、レイユウ・ガラント。
「おいっ。って俺、要るのか?」
 見ると、動じる様子なく、矢を軽く避けながら、匡、
「一介の軍師相手に慄き出て来れぬとは痴れた力量。
 先の失敗で畏れ生したか。
 最早戦人とは与わず。
 其の儘乾涸び朽ち果てよ」 
 ゴゴゴゴゴ……風が泣く砦、虎口の門が開いた。
 騎狼に跨るオークその先頭に駆けて来るのは、守備隊長パウパウ。
 匡の手には、細緻な装飾が施された白銀の長刀。
「敬意をもって、お相手つかまつる」





 そしてここへ今、自分達の戦いを求め砦へ向かう鷹村真一郎と松本可奈、それにマリーの軍勢が近付きつつあった。



4‐02 新兵と古兵

「あぁ。騎狼の駆けて行く音だよね? 本巣攻めが始まったのかな……ん、北岸の砦の方にも、軍の進攻する音が。きっと砦攻めが……おっ、南岸でも火の手が上がってるじゃないか!……」
 辺りをきょろきょろと見回す、今回から戦に赴いた新兵。
 戦いたくて、うずうずしていたアクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)。なのだが……彼が今いるのは、戦場である本巣にはいささか遠い、北岸一乃砦とのあわい。
 本校の任務に関わった際に、ノイエ・シュテルンのメンバーと知り合ったことから、彼らの戦う二乃砦に、遅れて到着した。意気揚々、そのまま本巣の総攻撃に参加するつもりが……
「ぬぅおゎはははは!! 青 野武(せい・やぶ)、である」
 青の指揮する予備隊に、連絡要員として参加せよとの要請を受けた。本隊に、パートナーのクリスティーナ・カンパニーレ(くりすてぃーな・かんぱにーれ)を残したまま、である。
 しかし、軍紀は重視する彼だ。
 無論、抗命はしなかった。が……
「むっ。青殿。来た、オークが一匹、やって来たよ!」
「捨ておけぃ」
「なっ……」
 辺りを見回しながら、青が伏兵をしのばせる丘陵の間を、駆け去って行くオーク。
「あぁ、行ってしまう。逃してしまった……」
 不満げに青を見る、アクィラ。
 青は、見向きもしないで、兵法書だか、危険物取り扱いの手引(趣味)だかに、目を通している。
 その呑気さに、思わず彼は問うて、
「俺はまだ、右も左もわからない新兵。古兵殿の指示には従うよっ! ……とは、言っても!
 戦うわけでもなく、こんなところでのんびりと、報告のために待機してるだけ、なんて……
 青殿。何ゆえ、機甲科に属すソルジャーの俺が、こんな任務に……?」
 なぜ俺が使命されたのか……ここにあって、その疑問がずっと彼の頭を過ぎり、とらえていた。とうとう彼は、それを口に出して、青に尋ねる。
「よいか。待つことの大切さ、である!
 黒 金烏(こく・きんう)よ、若者に教えてやるがよいて」
「アクィラ殿よいですかな。血気に逸って目前に攻撃することはたやすく、むしろ士気を維持したまま好機を待って臨機に動く方が難しいのでありますよ」
 懇々と諭す、黒。
「……」
 うーん……待つことの大切さ、か。……そう言われても。
「今はそれでよいでありましょうぞ。いずれ、いや間もなく、新兵としてこのことを身をもって知ることのできる機会も訪れることでしょう」



4‐03 南岸の戦い

「騎凛様。ご覧ください。南岸で火の手が上がっております」
「火事、でしょうか……しかし南岸には、優秀な教導団員がすでに警備にあたっています。原因が何であれ、彼らがその火、ただちに消し止めてくれるでしょう」





 南岸で、ニャオリ族の一個小隊を率いて警戒にあたっていた橘 カオル(たちばな・かおる)は、中央の砦に火の手が上がっているのを見ると、すぐに駆けつけた。

 彼とともに南岸にあるのは、一両日遅れで、ここオークスバレーへ送られてきた、鄭 紅龍(てい・こうりゅう)
 教導団の者なら、その光景をよく覚えている者もいるかも知れない。
 関帝誕で、あの金 鋭峰に剣先を向けた者のことを。鄭にとっては、入団して早々に起こした無茶過ぎる、とも言える事件だったが……それは、決して反抗心からなどではなく、ただ純粋に剣を交えたかったから。生真面目すぎる鄭らしい考えと行動だとも言えた。
 団長がそんな鄭に言った言葉はこうだ。「己自身の力でここまで上ってこい。そうすれば、いつでも打ち合ってやるぞ」。
 鄭は、その後に起こった南西部での戦いに、同僚達が赴いたことを知り、一日遅れで峡谷に入った。
 鄭にとっては、ここヒラニプラでの初戦となる。だが、臆するところは微塵もない。それは何より、あの団長の言葉に答えるため。
「団長に再度挑まねばならんのでな」
「鄭、なにか言ったアル? あまり無茶しないでほしいアルね」
 後ろを着いてくるのは、ゆるゆるかわゆいパンダのゆる、……守護天使(?!)、楊 熊猫(やん・しぇんまお)
「しゅ、守護天使なのか? その、ゆる族じゃなくて?」
 先頭を行く橘も、振り返ってはまじまじと楊を見つめる。
「あんまり見ないでアル。はずかしいアル〜」
 と言いながらも可愛い楊はちゃんと、守護天使である証しに禁猟区を展開し、敵を十分に察知できる状態にある。
「きんりょーくンアルか?」「きんりょーくンアルか?」「はずかしアルか?」にゃんこが楊の回りにまつわりついてくる。
「そのとおりアル。禁猟区を使って結界を作り、何者かが潜んでいないか注意するアルよ。危険な相手が近付けば、兆候が分かるアルからな。魔法を使う相手が来た場合は禁猟区で魔法防御も高められるわけだしアル」
「楊。静かにしろ」
「……怒られたアル」
「砦が近い。禁猟区は?」
「鄭。びんびんに反応中アル!!」
「橘?」
「ああ、鄭、どうやら一戦なりそーだな。
 よし進めぃ! 火の手が上がる砦はもうすぐだ。戦闘態勢を整え!」
「逆ヴィの字でアル〜ニャ」「逆ヴィの字でアル〜ニャ」「逆ヴィの字でアル〜ニャ〜」





 一方、南岸二乃砦の守備に就いていたのは、騎士六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)だ。
 名家の血筋であることをパルボン部隊長に買われ、蒼学出身者ながらも、二乃砦の守備を任された。
「確かに砦の防備を志願したのですけれど、守備を任されたとはもしや……」
 砦のその最上階の一室にいるのは、六本木一人で、あとは……
「火の手があがっとりますニャ!」「火の手があがっとりますニャ!」
 バターン、バターン、部屋の扉を開けて、にゃんこ兵が六本木のもとへ殺到してきた。
「あ、あの……私はこういった戦いに加わるのは初めてのことですので、大規模な戦を学ぶためにも、……はっ」
 六本木は、ビン底レンズの眼鏡をかけ直し、上階の窓から、よくよく下を見る。
 オークの一部隊が門前に集結し、火矢を射かけていた。
「うっ。どうすればっ!」
 オークの一隊の背後で、すぐに喚声が上がる。
 駆けつけたのは、南岸を警戒にあたっていた橘の小隊だ。
「おーい六本木殿ーー!!」
「ああっ隊長! 指示をお願いしますー!」
「隊長? 指示? キミがここの守将じゃないのか?
 えっーと、とにかく! オレ達が来たからには大丈夫だ! 砦のにゃんこを指揮して、そっちも門から攻め出てくれ! この程度なら、あっという間だぜ」
「……指揮して……」
 六本木は戸惑いながらも、にゃんこに指示を出し、門の外へ繰り出した。
 砦の外では、鄭が、すさまじい勢いで、オークを刈っている。
「はあ、はあ! こんなものか、いやまだ、まだだ!」
 俊敏な身のこなしで、オークの刃を交わし、斬撃を加えていく。団長と打ち合うことを夢見ながら。
「おっと。オレも負けてられないな」
 そして今日も取り出す木刀。橘も、オークの群れに突っこんでいく。
 砦門では、少しだけおそるおそる、だが六本木がランスをかまえ、オークを寄せ付けんと踏ん張る。オークは挟撃される形で、すぐに劣勢だ。
 鄭は、門に達すると、そのまま砦へ。
「すぐに消火を!」
「はい!」
 鄭は六本木とバトンタッチし、橘と連携しそのまま残りのオークを討ち取りにかかった。
 六本木は楊とともににゃんこを指揮し、すみやかに消火活動を執り行う。
「さてあらかた片がついた、か。三本も木刀を代えたけど……今日の戦果は鄭に負けたかもな」
「しかし、数はそれほど多くなかった。気を引かせるためだったのか、手柄を望んだオークの抜け駆けだったのか……ともかく、隙ができて砦を奪われたなどと言われたら、教導団の名折れだ」
 無事消化を終えた六本木も、窓から再び地上を見渡す。あるのはもうオークの死骸だけで、とくにあやしい様子もない。
 今になって少し震えが来たけど、
「わ、私だって、やれば出来るんですからっ!」
 緒戦は、南西師団の勝利だ。



4‐04 チェックI

 オークの森を、お嬢様姿の女性がひとり、不安げな様子で歩いている。
 そこへ一匹のオーク、
「ヘヘヘ。オ嬢サン。コンナ森ヲ一人デ何処行クネ? 危ナイヨ、迷ッタノカイ?
 コッチオイデォォォォク! 捕マエ、ダッ!!」
「動くな」
 後ろから、オークの尻にランスを突き立てる、騎士ジェニス。
「姉貴。こんなところで迷っている暇はないよ!」
「そ、そうね。ごめんなさい。急ぎましょう……教導団の砦が落ちる前に、行かなくてはいけないというのに」
 篠北、オークの方をちらっと見やる。
「ドウイウコトダォォク」
「ええ、こんなところでぐずぐずしていましては、本巣のオークさん達に、教導団の守る砦を潰されてしまい」
「姉貴! オークに懇切丁寧に説明してどうする、こんな雑魚放っといて、早く砦に駆けつけないと!」
「きゃっ」「ヘヘヘ! 甘カッタナォォク!」
 ジェニスが篠北に目を向けた隙に、オークは森奥の方へと逃げ去った。
「姉貴、どうだったかなぁ、あたしの演技」
「少し棒読みでしたけど……さて、うまくいくといいですね」





 一方こちらは、峡谷側から、後背にあたるオークの森付近に展開した教導団。
 囮部隊としてにゃんこを率いる黒乃、その傍らには、フランソワ・ド・グラス(ふらんそわ・どぐらす)の姿もある。
 トラップを確認に念を入れるのは、クレア。
 昨夜……
 ――「クレアさん。どうでした?」
 会議室を出たクレアに、優しく微笑みかけるのは、何処かの令嬢と見紛うお出かけ乗馬服に身を包んだ藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)。しかし実は彼女……。
「うむ。策は聞き入れられた。囮部隊として兵員も借り受けられるとのことだ」
「そうでしたか。よかった……早くオークさん達と殺し合えるといいですわね。うふ。楽しみですわ」
 藤原優梨子。その正体は……パラ実生だ。
 そして、こちらは教導団制服を来た、真面目そうな大岡 永谷(おおおか・とと)
 今回からオーク戦に参戦する。
「じゃあ、俺達もこのままそちらの任務に就けばいいのだな」
 十三歳と、他の教導団員に比べまだ幼いながらも、騎兵科に所属し戦っている。
 クレアと共に、南西分校からオークの森を突破してきた者達だ。
 そこへやって来たのは、騎凛の副官、黒羊アンテロウム。
「貴官は……クレアか。元気でおったかの」
「アンテロウム副官。これを。いつぞやはごたごたに紛れて、家伝のカンテラをお返ししそびれましたからね」
 ――
 ……
 あの最初の戦いがあったのも、この森なのだな。
 付近で、騎兵科所属生として、騎狼を渡され警戒にあたっていた、永谷。
「む。森の方から、何か来る……」
「おっ、ぞろぞろと、オーク殿のお出ましという訳でございますね」
 その剣の花嫁、ファイディアス・パレオロゴス(ふぁいでぃあす・ぱれおろごす)
 薄暗い森の中に一つ、二つと、赤い目が光り、三、四、五匹と、姿を現すオーク。
 座りこんでにゃんこをなでなでしていた藤原も、すくっと立ち上がる。
「まあ! ようこそ」
 目視できるだけでも、かなりの数だ。
 じりじりとにじり寄って来て、醜い笑みをたたえ武器を構えるオークども。
「ギャアァァァァ!!」
 森から出てきたオークの一匹が、突然悲鳴を上げ、そのまま倒れる。
 その後ろに影のようにふらりと立っているのは……
「あら。亡霊 亡霊(ぼうれい・ぼうれい)さん。ずるいですよ、抜けがけは。……いかがです、オークさんの血のお味は?」
「……」
 しゅっ、と、口元に付いた血をふき取る亡霊さん。にやり、と笑った。
「オォォォォォク!」
「ガァァァァ」
「グルァァァァァ!!」
 ひるむが、打ちかかってくるオークの群れ。
「よし、来な!」
 ランスを振り上げ、迎え撃つ永谷。
「ぶんた〜い!!」
 にゃんにゃん、にゃんにゃん。にゃんこ兵を展開させる、黒乃とフランソワ。
 オークを挑発するように微笑みかける、藤原の手にはデリンジャー。
 森から出てなだれ込むオーク。
 クレアの仕掛けていたトラップが火を吹いた。