葦原明倫館へ

空京大学

校長室

天御柱学院へ

オークスバレー解放戦役

リアクション公開中!

オークスバレー解放戦役

リアクション


第2章 南西分校


「君達! さあいよいよ戦いの時が迫っている。心の準備はできているか? じゃあ今からオレが、戦の心構えを君達に教えてやるぜ、いいか……」
 教導団のヒラニプラ南西分校には、今、残党狩りの募兵に応じた他校生らが集っている。
「……で、ぶっ放す。いいか、目的の為には手段を選んじゃいけねぇ」
 そこへ、分校長が入ってくる。
「……何してる」
「こまけぇこたぁいいんだよ!!」


2‐01 南西分校に来た面々

 はっ。壇上で生徒等に弁舌を振るっていた、国頭 武尊(くにがみ・たける)
「ええ……これは、分校長どの。
 遭遇戦では世話になりましたぜ。今日も教導団南西分校の募集に応じて、パラ実から馳せ参じました」
「ここは蒼学生の待機室だが?」
「大佐!」国頭はさっと敬礼し、「では、後はヨロシク。こまけぇこたぁいいんだよ!!」
 壇上から下りると、さっそうと教室を後にするのであった。
「ああ、諸君。俺はここの分校長である。よく集まってくれた。
 さあ、いよいよ戦いの時が迫っている。心の準備はできているか? じゃあ今から戦の心構えを教えてやるとするか」
 ……
「……何だったんだ? さっきの男は?」
 パラミタへ来て、今回初陣となるのが、この中では唯一のナイト、ウェイル・アクレイン(うぇいる・あくれいん)だ。
「あれが噂に聞く、パラ実生みたいね。初めて見れたねっ、ウェイル?」
 パートナーは剣の花嫁、フェリシア・レイフェリネ(ふぇりしあ・れいふぇりね)も一緒だ。
 緊張しつつ、話を真剣に聞いていただけに、何か拍子抜けしてしまった二人。だが、戦いの時が迫りつつあるのは事実。心積もりはできている、その時は無論、真剣に戦うつもりだ。
 一方、いちばん前の席で、堂々と緊張感がないのは、東條 カガチ(とうじょう・かがち)。常に全力でテキトー、彼のモットーだ。
「そこで、ぶっ放す。いいか、目的の為にはだな、……おい、貴様は何でここへ来たね」
 突然、語りかけてくる大佐。
「……はっ。傭兵を募集していると聞いてぇ、ええ、小銭稼ぎに来ましたー。面白そうだしィな」
「貴様今寝てたな」
 早くこれ終わらないかなぁ。テキトーな彼だが、今回戦いには割とわくわくしている。面白ければ何でもいい、彼のモットーだ。
 いちばん後ろの席でひっそりといるのは……
「まあ、いい。とにかく、目的の為には手段を選んではいかん。敵と対峙する時は、……ん、いちばん後ろの貴様は大丈夫か?」
「あ、はい」
「名は? 貴様はどうして参加したね?」
影野 陽太(かげの・ようた)です。ええ、「本物の戦場を見てきなさい」と、パートナーに放り込まれまして、仕方なく……馳せ参じました」
「それが馳せ参じたという感じか? まあ、いい。その心意気や良し、前に来なさい前に!」
 影野はとことこと前へ来て、東條の横に腰かける。
「無事に生還できるといいです」
「……」
 窓際の席で本を読んでいるのは、葉月 ショウ(はづき・しょう)。マイペースな彼だが、剣士として、ヒラニプラ北方の戦争に体験入学の経験がある。
「貴様、授業中にマンガを読むとは何事だ。貸してみろ」
「はっ。『(マンガでよくわかる)兵法とは何か』です」
 葉月は、本をさっとカバンにしまった。
「すでに戦いのことで頭がいっぱいで」
「本当にだな?」
 そんな様子を心配そうに見守るのは、剣の修行に、と参戦を決めた風森 巽(かぜもり・たつみ)。その剣の花嫁、ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)は、隣で楽しそうに眺めているが。
 右隣に、漆黒の外套を纏った剣士。
「貴公は? 我は、風森と申します」
村雨 焔(むらさめ・ほむら)、だ」
「私は、アリシア・ノース(ありしあ・のーす)だよ!」
「貴公が、村雨さんでしたか。村雨さんは、前回の戦いにも参加されたとか? ここに赴く前にこれまでの戦いについて調べ、ベオウルフ隊の話は聞いたことがあります」
「そうだな。もうすぐこの長い話も終わりそうだ。道すがら、剣士として、戦いについて語っていくとしようか」
 壇上に戻った、大佐。
「……ええ、では。貴様等、各々の腕に依りをかけて充分に戦い、小銭を稼ぐがよい」
 ガラガラっ。そのとき教室のドアが開き、遅れて入って来た者あり。
ゴザルザ ゲッコー(ござるざ・げっこー)でござる!!」
 続いて、優雅に挨拶してみせるのは、ヴァルキリーのイリスキュスティス・ルーフェンムーン(いりすきゅすてぃす・るーふぇんむーん)
「さあて、にゃんこはどこでござる?」
「ゲッコー、どうやら出撃のようねっ。さあっ、行こうよ!」
「いざ行かん。イヤッホウ!」
「……」、分校長。
 ゲッコーに続き、きびきびと、だらだらと、それぞれの想いを胸に、教室を出る蒼学の戦士達。





 こちらは、"対魔道師対策本部"と書かれている、イルミンスール魔法学校からの生徒達の待機室。
 集まったのは……
「私は、十六夜 泡(いざよい・うたかた)。ルーン学科の三年生になるわ。よろしくね」
如月 玲奈(きさらぎ・れいな)だよ! こちらこそ、よろしくお願いします、ね?」
「ということで、集まったのは……」
「二人、ね?!」
「……」「……」
「はは、まあ、頑張りましょう? 如月さんはどうしてここへ?」
 十六夜。ポニーテールの、スレンダーな魔法使いで、学内では男女共に人気がある。
「イルミンで募集を見て、戦ってみたいと思ったの」
 如月は、無邪気な女の子ウィザードだ。
「えらいわね。私は実地訓練の一環で、あの校長先生、「死なない程度にがんばってきなさぁ〜い」だって」
「校長先生から直々にかぁ。いいなあ」
 そこへ、大佐がやってきた。
「さてさて。……む。二人、か。我が教導団の軍には今、魔法使がおらんからな。諸君等には、大いに期待がかかっておるぞ。じゃんじゃん魔法を放ってやってくれ。よろしく頼む」
「はいっ。がんばります!」
「SPの果てるまでは」





 その奥の部屋は、薔薇の学舎の待機室だ。ここにいるのは、
「北都様……」
「ああ、クナイ。もうすぐ、戦いが始まるねぇ」
 薔薇の花弁が、はらはらと、教室に舞っている。
 清泉 北都(いずみ・ほくと)と、その守護天使、クナイ・アヤシ(くない・あやし)
「本当は、観光目当てだったなんて言えないけどねぇ」
 窓の外を見遣る、北都。窓を伝う荊の向こうに、広がる森。森を抜ければ、美しい峡谷に出る。その前に、立ちはだかるのは、今回の募兵チラシにも書いてあった打倒すべきオークの残党。
 はぁ……ため息をつく、北都。
 そんな北都のことを、静かに見つめる、クナイ。
 北都様……私はただ流されるままに生きてきた者。しかし、ある出会いからそんな私の生き方は、少しずつ変わり始めてきたのです。それは、……
 そんな二人を包むように、滾々と降りつづく、薔薇、薔薇、薔薇の花弁……
「北都様……」
「あ、ああ。クナイ。もうすぐ、……」
 二人の姿が、降り積もる薔薇の花弁に、埋もれていく。
「は、入れん……」、大佐。





 最後の部屋は、お嬢様学校である百合園女学院の生徒が待つ。
 篠北 礼香(しのきた・れいか)もやはりとある富豪の養女であり、パラミタへ送り込まれてきた。
 そんなお嬢様に相応しからぬ作戦上重要な任務が、篠北に言い渡された。
「え、あ、あたしがそのような重大な……光栄に存じます。ですが、あたしで大丈夫なのでしょうか?」
「うむ。実はもう他校の者には出撃準備を言い渡してしまって、貴女が最後でな。なので忘れておったこの重大任務を貴女に任す他ないと」
「そ、そうでしたか。そんな理由であたしに重大任務を……任せていいとぉ思ってんのかぃ?!」
 富豪家で、上司のセクハラに耐えかねて殴り飛ばした。パラミタへ送り込まれたもとい左遷された所以だ。
「……大丈夫そうだな」
「ま、あたしもついてるんだ! 姉貴のことは心配しないでいいさ」
 ランスを抱えたシャンバラ人の騎士、ジェニス・コンジュマジャ(じぇにす・こんじゅまじゃ)





 こうして集った、南西分校の勇士の面々。
 外ではすでに、パラ実同様、待機室のない国頭が、皆を待っていた。
 国頭の剣の花嫁である、シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)の姿もある。
「皆さん、いよいよ戦いの時ね。武尊さんを、どうかよろしくお願いします」
「よう君達、揃ったようだな。行くか!」

 その様子を、近くの樹の影から見ている忍の姿があったが、彼らが森へ移動を始めると、それには合流せず、一人別の方角へと消えた。
 忍は、教導団の制服のようにも見えたが……?

 また、後方から、更なる強大な二つの勢力が近付きつつあることを、誰も予想できずにいるのだった。