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リアクション
ACT1 集いし者たち
シャンバラ沿空部に位置し、その領内には蒼空学園を有する都市・ツァンダ。
その市中のある一角に目立つように何十枚も張り出された張り紙。それを目にして立ち止まる人々がチラホラと見える。
それはその張り紙にこのツァンダを治めるツァンダ家当主の娘――シャンバラ女王候補に名乗りを上げているミルザム・ツァンダの名前が記されているからであろう。
いつもなら張り紙の内容などに興味など抱かない人々も興味深げにその内容に視線を落としている。
だが、その張り紙に重要なことが書かれているわけではないとわかるとほとんどの人は足早にその場を離れていった。
張り紙にはこう書かれている。
『自警団を募集する。内容はサンドタウンへ向かう商隊の警護。詳しくはツァンダ公社にて――ミルザム・ツァンダ』
「むむっ、これは……!」
一枚の張り紙を覗き込み、そう唸っているのは風間 光太郎(かざま・こうたろう)。
烏羽色の髪が生える端整な顔立ちの少年だ。
「主君が助けを求めておられる。これはクィーンヴァンガードである拙者の出番でござるな」
光太郎はそうつぶやくと、忍び走りで張り紙に書かれていたツァンダ公社へと向かった。
「敬愛する主君の願いを叶えるのは臣下の務めでござる――いち早く馳せ参じなければ」
光太郎の素早い動きに張り紙を見ていた他の人たちは少し驚き、彼が去っていった後をぽかんと眺めていた。
「ふぅん、マジメだねぇあの子。うちの阿童ちゃんとはえらい違いだなぁ」
他の人と同様に光太郎の去っていった後を眺めながらそうつぶやくのは闇咲 阿童(やみさき・あどう)のパートナー、アーク・トライガン(あーく・とらいがん)。
真紅の瞳が印象的なちょっとワルそうな青年である。
アークはツァンダ飯店で開催されているラーメン大食い大会に出場している阿童に付いてきたのだが、暇になって会場を抜け出してきたところだった。
「ふぅむっ、ミルザムちゃんが困ってるのか……助けてあげたら感謝されるかな?」
アークは腕組みしてそうなった場合を想像する。
「……よし、俺様は決めたゼ! この仕事やったろうじゃない!」
想像を終えたアークは意気込んで踵を返す。
「兄者、今度、ドコ行ク?」
「うおっ、デカっ! ――って、ディオじゃねぇか!?」
いつの間にかアークの後ろにいたのは大型戦車タイプの機晶姫。アークと同じく阿童のパートナーであるディオライオス・クレーター(でぃおらいおす・くれーたー)である。
阿童の命令で店の外で待機していたが、アークがどこかに行くのを察知して後ろからついて来てしまったようだ。
「兄者、追跡シタ」
「追跡って、てめぇ……まあいいや。阿童ちゃんの所に戻るゼ。まずは阿童ちゃんを説得して大食い大会から引っ張りださないとな」
「了解、兄者」
ひとりとデカイ戦車はそう言うと去っていく。
「…………」
と、そんなふたりと入れ違うひとりの人物。
銀色の長い髪を後ろで束ね、その素顔を仮面で隠したトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)である。
彼は張り紙の前で足を止め、仮面の奥の瞳を細めた。
(ミルザムの名前を使って人集めか……背後になにか絡んでいるのか?)
トライブは少し考えるが、すぐに思考を切り替えた。
(行けばわかるだろう)
ブラックコートをはためかせ、トライブは歩き出す。
「……みてヘイリー、これだわ」
トライブとすれ違い様に現れたのはリネン・エルフト(りねん・えるふと)。
小柄なその見た目から想像しにくいが、悪人のみを狙う義賊『シャーウッドの森』空賊団の副団長を務める女の子である。
そのリネンは連れ立ってここまでやってきたヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)に張り紙を見せる。
「ホントね。リネンの言う通りツァンダ家の娘がなんかやってるわね」
ヘイリーは元々鋭い目つきをさらに鋭くしてそうつぶやく。
エルフの特徴である長い耳と金色の髪が目を引くヘイリーもリネンと同じく『シャーウッドの森』空賊団であり、団長を務めている。
今はミルザムが人を集めているという情報を聞いたリネンと共にそれが本当か確かめに来たのだった。
「いったい何をする気なのかしら?」
「……サンドタウン――そういえば最近良くない噂を聞いたような気が……」
「リネン、それホント?」
「えぇ、街の噂程度だけど」
「そっか、ミルザムの動きを少し調べてみてもいいかもね」
「……そうね」
ヘイリーとリネンはそう言うとこの場を離れ、情報を集めるために動き出した。
「――臭うな」
サルヴァトーレ・リッジョ(さるう゛ぁとーれ・りっじょ)が咥えていた葉巻を口から離し、吐き出した煙を張り紙に吹きつける。
イタリアンブランドの黒いスーツで身を固めた”いかにも”な男である。
だが冷徹な表情を見せる瞳が、その姿形が偽りではなく本物であることを告げていた。
そんなサルヴァトーレは危ない仕事を終えた帰りにたまたまこの張り紙を目にしたのだった。
「……サンドタウンですか――確か近頃パラ実生を名乗る”ミスターカメレオン”なる者がその近辺で暴れているという噂を小耳に挟んだことがございます」
サルヴァトーレの後ろに影のように控えていた獅子の姿をしたヴィト・ブシェッタ(う゛ぃと・ぶしぇった)が主人にそう告げる。
サルヴァトーレはヴィトの言葉を聞くと口元を歪めた。
「なるほど、ミルザム嬢は正義の味方を演じたいようだな」
そしてそうつぶやくと、吸っていた葉巻を地面に落として靴で踏みつける。
「ヴィト、行くぞ。新しい仕事だ」
「……かしこまりました」
ふたりはそう言うと近くに止めていた自分たちのバイクに跨り、いち早くサンドタウンに向けて走りだした。
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