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リアクション
「チッ、気にいらねぇなぁッ!」
そう言って張り紙を強引に引き剥がすのはロッテンマイヤー・ヴィヴァレンス(ろってんまいやー・う゛ぃう゛ぁれんす)こと通称ルビィ。
シャギーをかけたピンク色の髪に人目を憚るところにピアス、髪を剃り上げて地肌が見える右側には髑髏ハートの刺青とその攻撃的な性格を窺わせる女である。
「ん〜っ、なにが気にいらないのぉ〜?」
フーセンガムをくちゃくちゃと噛みながらロッテンマイヤーが引き剥がした張り紙を覗き込むのはクララ・ラヴィエンス(くらら・らう゛ぃえんす)。
サイドテールの銀髪と褐色の肌のコントラストが目につくこの目つきの悪い女は、ロッテンマイヤーの取り巻きのひとりである。
「気にいらねぇ……このクソアマのすることはトコトン気にいらねぇ!!」
「だぁ〜かぁ〜らぁ〜っ、何が気にいらないのぉ〜っ?」
手にした張り紙をぐしゃぐしゃに丸め込むロッテンマイヤーにクララが再びそう訊ねるが相手は話を聞いていない。
「ふむっ、どうやらミルザムが自警団を組織しようとしているようだな。ルビィはそれが気に入らんのだろう」
そんなロッテンマイヤーに代わり、クララの質問に答えたのはチネッテ・ランブルス(ちねって・らんぶるす)。
虎の姿をした獣人族の女でティラと呼ばれている。だがロッテンマイヤーだけは彼女のその容姿からそのまま”とら”と呼んでいた。
「”とら”の言う通りだ。あたいはミルザムっていう名前を聞いただけで、イライラしてくるし気にいらねぇんだよぉっ」
「ん〜っ、そうなんだぁ。ミルザムぅ〜っ、ミルザムぅ〜っ、ミルザムぅ〜……」
「クララ、てめぇっ――! いますぐやめねぇとその足りない頭に鉛玉ブチ込むぞッ!?」
「キャハハっ! ホントだぁ〜っ、イライラしてやんのぉっ」
「チッ、このクソガキ……!」
奥歯を剥き出しにして怒りを表すロッテンマイヤー。クララはそんな彼女の顔をみてさらに声を上げて笑う。
「そこまでだ」
そんな二人の間にチネッテが割ってはいる。
「もういいだろう。行こう」
「――そうだな、行こうかぁっ。サンドタウンに!」
「えっ?」
ロッテンマイヤーの言葉にチネッテが思わず声を上げる。
「”えっ”、じゃねぇよッ! あたいが行くって言ってんだから行くんだよッ!!」
「えぇ〜っ、クララちゃんはメンドイからパぁース」
「ゴチャゴチャ言ってんじゃねぇ! さっさと行くぞッ!」
「……行くしかなさそうだな、クララ」
「ちぇ〜っ」
「ヒャッァハーッ! ミルザムの飼い犬どもがサンドタウンに来たらぶちのめしてやるぜぇッ!!」
ロッテンマイヤーは意気揚々としてそう言うと、丸めた張り紙を放り投げサンドタウンに向けて出発した。
「はぅ――!?」
と、ロッテンマイヤーが放り投げた張り紙が道行く女の子集団の中のひとり――百合園女学院の制服に身を包んだ橘 舞(たちばな・まい)の頭にぶつかった。
「もうっ、なに?」
「コレが当たったみたいね」
そう言って丸まった張り紙を拾い上げるのは舞のパートナー・ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)。
舞と同じく百合学の制服に身を包んだ彼女はウェーブのかかった金色の長い髪と白い肌、青い瞳が印象的でどこか育ちの良さを感じさせる。
「ねぇねぇ、ブリジットちゃん。ソレ何? 広げて見てみようよ!」
そんなブリジットの横からひょっこりと顔をだしてそう言うのは大きな蒼いリボンで長い髪をツインテールにまとめた女の子・秋月 葵(あきづき・あおい)。
好奇心旺盛な瞳を輝かせ、ブリジットが拾い上げた張り紙を見つめる。
「主、そんなものきっとただのゴミです。見るだけ時間の無駄だと思います」
と、葵の好奇心をバッサリと斬り捨てるのは彼女のパートナーであるフォン・ユンツト著 『無銘祭祀書』(ゆんつとちょ・むめいさいししょ)。
銀色の髪に白い肌と雪のような白き印象を人に与える美少女の姿をしているが、名前からもわかるように彼女は魔導書が人に化身した存在である。
「ま、見てみるのは別にいいんじゃないかな」
と、そう言ったのは伏見 明子(ふしみ・めいこ)。
黒髪を三本編みおさげにして背中に垂らしているその姿は百合園生の中では少々地味な方に位置付けられるであろう。
「そうだよね。ダメとか言うと逆に見たくなるものだし」
そんな明子の言葉に賛成の意を唱えるのは九條 静佳(くじょう・しずか)。
明子のパートナーである彼女は端整な顔立ちをしたどこか古風なイメージの美人である。
「私も静佳と同じ意見です」
と、古めかしい着流しに身を包み童女の姿をした魔導書・鬼一法眼著 六韜(きいちほうげんちょ・りくとう)は片手を軽く上げて賛意を表す。
彼女は明子のもうひとりのパートナーである。
「みなさん、そちらを見なくてもあちらにたくさん貼ってありますけど」
そう言って壁一面に張り出された張り紙を指差すのは冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)。
整った顔立ちと肩口あたりまで伸びた綺麗な白い髪が人目を引く少女である。
丸まった張り紙を広げ、ブリジットは小夜子が指差す先にある張り紙と見比べる。
「うんっ、その張り紙とコレは同じみたいね」
「ねぇ、なんて書いてあるの?」
舞がそう訊ねる。
「……自警団を募集って書いてある。募集してるのは――ミルザム・ツァンダ?」
それに答えたのは壁に貼ってある張り紙に目を通していた小夜子のパートナー、エノン・アイゼン(えのん・あいぜん)。
真剣な眼差しで文字を見つめるその姿は真面目そうに見える。どこか小夜子と似た雰囲気を持つ少女だ。
「ミルザム・ツァンダが?」
と、エノンの言葉を聞いた崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は声をあげた。
縦ロールにされた黒髪を揺らしながら、ズンズンと前へ出て行く。
そして張り紙を一枚むしり取ると内容に目を通した。
「ふーんっ、サンドタウンに向かう商隊の護衛……でもなんでこの程度の仕事にミルザム・ツァンダの名前があるんですの?」
亜璃珠は赤い瞳を細める。
「興味が出てきましたわ」
そしてそうつぶやくと他の少女たちの方へと振り向いて言った。
「これから”カサブランカの騎士団”の初仕事に取り掛かりますわよ」
亜璃珠の突然の言葉に少女たちは一様に目を丸くする。
カサブランカの騎士団――それは武闘派百合園生を中心に結成された本格的な戦闘集団。
つまりここにいる彼女たちのことである。そして亜璃珠はそのリーダー的存在でもあった。
「亜璃珠ちゃん。じゃあこの張り紙に書いてある自警団にあたしたち参加するの?」
葵が小首を傾げてそう訊ねる。
「そうですわね。まだなんとも言えませんけど……とりあえず話だけでも聞きに行って見ましょう。それからこの仕事を請けるかどうか考えても遅くはないはずですわ」
「ふふっ、なんだか楽しくなりそう。派手に暴れられるといいんですけど」
そう言って笑みを浮かべるのは小夜子。
だが彼女の目が笑っていないところが少し怖い。
「あははっ、なんか突然のことだけど盛り上がってきたわねえ」
明子はそんな小夜子の隣で苦笑いを浮かべながらそう言った。
そんな明子のパートナー静佳はふと思う。
(……ううん、明子に友人が増えたのは喜ばしいことだけど、やっぱりこの路線の友人だと益々危険が増えるんじゃないだろうか――心配だ)
とにもかくにも、カサブランカの騎士団一行は亜璃珠の鶴の一声でツァンダ公社へと向かう。
こうして様々な思惑を胸にもった人々が動き始めた。
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