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【初心者向け】遙か大空の彼方・後編

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【初心者向け】遙か大空の彼方・後編

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Part.12 空賊駆逐
 
 「空賊達は、どこから白鯨の中に侵入したんだろ?」
 平等院鳳凰堂 レオ(びょうどういんほうおうどう・れお)がフリッカに訊ねた。
「恐らく、口からだと思います。彼等には、空を飛行する術があるようですし……」
「飛空艇?」
 久遠乃 リーナ(くおんの・りーな)が訊ねると、それには首を横に振る。
「解りませんが……私は今日まで一度も、飛空艇が近づいているのを見たことはありません」
「他に何か、手段を持ってるのか……。
 こんな遠海で空賊やってるくらいだもんな〜」
 恐らく、パラミタ本土からはるばるやって来た連中ではないだろう。
 元々、この近辺のどこかの島に住んでいる者達なのだ。
「僕達、何処から鯨の体内に入ってけばいいの?」
 口からは不可能だ。
 ヨハンセンが倒れている今、飛空艇は使えないし、スクーター程度の馬力しか持たない小型飛空艇に乗って鯨の外に出ようものなら、一気に下の海まで落下してしまうだろう。
「街を、白鯨の頭に向かって出ると、噴気孔があります。
 そこから、中に入って行けます」
「あ、なるほど」
 一般的に、潮を吹き出す、背中の穴だ。
「うーん、でもそうすると……空賊が中から脱出するなら、口からか、噴気孔からってことだよな……。
 僕は、どこかで待ち伏せて、中から逃げ出す空賊達を潰そうかと思うんだけど」
 どう? と、パートナーのリーナに言う。
「うんっ。いいと思う!
 逃げ出した空賊がもし、オリハルコンとか持ってたら、大変だもんね!」


 噴気孔から鯨の体内に入り、皆が奥を目指すところを、レオとリーナは先を目指す。
 口に最も近いところで、隠れ身のスキルを使い、網を張った。
 空賊達は、侵入時、障壁の為に上空からのルートを使うことができず、口からのルートを使ったのだ。
 だから、外との通信が取れない限りは、脱出の際も口へと向かうはずだった。
 ただ逃げるならそれもいいだろうが、重要な情報や物を持っているなら、見逃す訳にはいかない。
「……来たっ!」
 何かが一直線に飛んでくる。
 普通のシャチよりも随分大きめのシャチが2、3匹。その上に人が乗っていた。
「ここは、通さないよっ!」
 光条兵器を手に、リーナが叫ぶ。
 空賊はリーナを見下ろしたが、そのまま通り過ぎようとする。
 鯨の口は閉じているが、問答無用で突破しようとした。
 そこを、背後から、レオが狙う。
 銃弾に、空賊がシャチから落ちた。
「……通さないと言ったはずだ」
 レオは言い放つ。
「ここは通行止めだよ」


 潮を吹き出す為の噴気孔といっても、それが50キロを越える規模の鯨となると、孔も巨大だった。
 箒や小型飛空艇を持つ者が、乗り合わせて降りて行く。
(戻る時は大丈夫でしょうか……?)
 とりあえず落下の速度を抑えている、という、飛び降りるよりはマシ、というような状況に、白滝 奏音(しらたき・かのん)が、パートナーの天司 御空(あまつかさ・みそら)に精神感応で話しかける。
「ギリギリ大丈夫だと思うけど……」
 御空はそう答えつつ、かなり無理をすることにはなりそうだけど、と思う。
 それはしっかり奏音に伝わっていて、
(こんなところで一生を過ごすのはご免ですよ)
「いや、それは無いから……」

 中に降りてみて驚く。
 暗闇を想像していたが、そこは昼間の日陰のように明るかった。
 そして、生き物の体内とは思えない、まるで洞窟の中のような内部だったのだ。
 至るところに、広場のような広い空間があり、足元から天井まで届く石柱が乱立している。
 そして至るところに道があり、細い道に枝分かれしていた。
「……白鯨って……本当に生き物なの?」
 雨宮 渚(あまみや・なぎさ)が息を飲む。
「ま、ワタシらとは別次元の存在、ってコトなんじゃん?
 守り神とか言われてるくらいだし」
 イルマ・マクレラン(いるま・まくれらん)が苦笑する。
「それにしても、この気配……」
 ちっ、と舌打ちをした。
 鳥肌が立つ。
「アタシとしたことが……」
 認めない! そう頭の中で叫んで、何かを振り払うように頭を振った。
 中にある、何か強大なるものに、身体が怖れを感じているなんて。


 そして、内部へ入った途端、何か、重圧のようなものが感じられた。
 空気が重い。
 とても強いプレッシャーに息苦しさを感じた。
 渚は座り込んでしまう。
「大丈夫か!?」
「平気、と言いたいところだけど、かなり辛いわね……」
 パートナーの氷室 カイ(ひむろ・かい)が傍らに寄り、そこで自分も目眩を感じる。
「何だ、これは……」
「ヤ〜なカンジ、ではないんだけどね。
 プレッシャー強過ぎだよ」
 イルマもぐったりとしていた。
「オリハルコンの存在感、というやつか……?」
 カイはぎゅっと口元を引き締める。
 鯨の体内に入っただけでこれとは。
「だが、空賊の連中も、状況は同じはずだ。――行こう」
 あまり、奥の方へ行くとプレッシャーが強くなる。
 そこでカイ達はあまり内部には入り込まずに空賊を探したが、やはり、空賊の方でも同様のことになっていたのか、深入りせずにうろうろしている者達が多くいた。
「何だ、貴様等!?」
 いきり立つ空賊の連中に
「そりゃこっちのセリフだ」
と吐き捨てる。
「雑魚だろうが、全部蹴散らしてやらなきゃな!」
「ワタシの方が沢山しとめてやるよ!」
 イルマは、カイに対してライバル心を剥き出しにした。
「ふん、結構なことだが、無理はすんなよ。
フラフラのくせして」
 言い合いながら、2人は空賊相手に奮戦する。
 もっとフラフラなのは渚だったが、それでも精一杯、銃を用いてカイのサポートに徹した。


 赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)とその妻、クコ・赤嶺(くこ・あかみね)は、白鯨の体内に空賊が侵入したという話を聞いた時点で、他の者達に先んじて、鯨の体内に潜入していた。
 まずは空賊達の人数や規模、大体の位置などを確認しておこうと思ったのだ。
「……何か、ビリビリ来るわね」
 プレッシャーを感じて、クコが言う。
「ええ。圧倒される感じです」
 霜月も頷いた。
 所々に、空賊らしき者達や、不自然な死に方をした魚達が見つかる。
「空賊がやられてる?」
「一応、この白鯨の内部にも、自衛の機能があるようですね」
「……でも、連中を完全に駆逐するほどではない……」
 どんな戦闘だったのか、辺りは滅茶苦茶に荒らされている。
「これを身体の傷として見ると、痛々しいわね」
 岩肌にしか見えないので、傷という言葉とはイメージが結び付かないが、こういった傷が、白鯨を暴れさせ、目先を狂わせて大陸に体当たりさせていたのだろうか。
「霜月。これを見て」
 空賊の死体を改めていたクコが、緊張した声で霜月を呼んだ。
「これは……!」
 霜月も、それを見て驚く。
 その空賊の額に、フェイの手の平にあったものと全く同じ形のあざがあったのだ。
「どういうこと?」
 疑問に、霜月は首を横に振る。
「……行きましょう。彼等は近くにいそうです」
 そうして、2人が調べたところによると、空賊達は、幾つもの集団に分かれて、鯨の体内中に広がっているらしい。
 この広さだ。大勢で手分けするのが道理だろう。
 だが、体内はあまりに広く、その全てを把握することはできなかった。
「全部を撃退するのは、苦労しそうですね……」
 なまじ相手がしっかりした組織でないことが難となっている。
「どうした?」
 きょろきょろと辺りを見渡すクコに、霜月が訊ねた。
「ん? 何かお土産になるものは無いかな、って」
「……おいおい」
「真面目にやってるわよ。でもいつそんなのが見つかるか解らないでしょ。常に気をつけてなきゃ」
呆れたような霜月に、くすくす笑いながらクコは言った。


「おっと、やばっ」
 空賊を見つけたはいいが、数が多い。
(先刻の道に誘い込みましょう)
 すかさず、奏音の言葉が届いた。
「そだね」
 2人は、一旦空賊の前に飛び出した。
「何だ!? 貴様等……? ”上”の連中じゃないな!?」
 空賊達が驚く。
「皆さんこそ。どうしてこんな所にいるのです。
 オリハルコンを奪おうとしているのですか?」
 奏音が挑発する。そしてそれに彼等は反応した。
「何だと!?」
「それを窃盗と言います。……看過できません」

 言葉と同時に、御空が発砲した。
 そうして誘った後で走りだし、別の道に誘い込む。
 多勢に無勢では分が悪いからだ。
「貴様等! ふざけやがって、追え!」
 案の定、激昂した空賊達が、我先にと御空達を追う。
 「1対5はキツいけど」
 細い道に誘い込み、御空は空賊に向けて発砲した。
 「何ッ!」
 突然、周りに煙幕が広がって、空賊が動揺の声を上げる。
「……殺しはしませんが。とても痛い目にはあっていただきます」
 奏音によるサイコキネシスの一撃が決まった。
「……1対1×5、なら、わからないよね」
(次、すぐに来ますよ)
「解ってるよ!」
 シキに、手早い拘束の仕方をレクチャーされていた。
 素早く縛り上げると、御空は、次の空賊に注意を向けた。