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リアクション
女王の盤面
二十二時十五分。空京、街外れ。
そこでは竜造と、ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が死闘を繰り広げていた。
「ああ、そうだ。その意気だ。真っ向からの殺意と武力で殺しにかかって来い!」
「言われなくても、すぐにブチ殺してやるよ!」
殺気剥き出しのベルクは暗黒龍の杖を杖では無く刀として手に取り、闇氷翼で高速飛行を開始。
そして、<行動予測>で梟雄剣ヴァルザドーンの砲撃を回避し、<イヴィルアイ>でタイミングを計り竜造に接近。
「くはは! 近接戦かぁ。こっちの得意領域にわざわざ突っ込んできたがって!!」
竜造は歓喜の叫びを洩らすと、梟雄剣を<ウェポンマスタリー>の技量と<金剛力>の剛力で振るう。風を巻き起こすほどのその一閃は、必殺の威力を有して接近したベルクに飛来。
が、それをアリッサ・ブランド(ありっさ・ぶらんど)を魔鎧として纏ったフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が、<神降ろし>によって手にした絶大な力をもって忍刀・霞月で受け止める。
フレンディスは鍔迫り合いを行いながら竜造を睨み、言い放った。
「竜造さん。彼女に代わり、私が全力であなたに挑みます」
「いいぜぇ、かかって来いよ」
両者は互いにそう言うと、武器を弾かせ、至近距離で切り結ぶ。
忍刀と梟雄剣が何度も交錯し、風圧が生まれ、火花が咲いた。
(大丈夫とは言っているが、ロストによる身体の負担は酷い筈だ。
どんな手を使っても、ここは勝負を一気に決めてやるねぇと……!)
ベルクはそう思い、決死の覚悟で二人の間に突っ込んだ。
しかし、竜造はそれを横目で確認して、にやりと笑みを浮かべると<武術>と<金剛力>を応用した震脚で地面を踏み抜いた。
舗装されたコンクリートが割れ、破片が浮かぶ。フレンディスはそれを<歴戦の防御術>でどうにか回避し後方に跳躍。しかし、ベルクは避けきれず、破片が身体に刺さり体勢を崩した。
「っくは。これでてめえもお終いだ」
竜造は勝利を確信して笑みを零しながら、梟雄剣を引き最大級の斬撃の構えをとる。
「……ハッ。お終いなのはおまえだよ。竜造」
が、その斬撃が放たれるのよりも先に、ベルクは幻影龍のバングルを使用。
詠唱ワードを唱え、左掌に赤い円形の魔方陣を展開し、その魔法陣を竜造に突きつけた。
「――ッ」
それを直視してしまった竜造は、幻覚を見る。その幻覚は『自分が一番大切に思っているもの』だ。
そのため竜造は攻撃を戸惑ってしまい、数秒の隙が生じることになった。
「てめえ……!」
幻覚が消えると竜造は怒りのままに、梟雄剣を振るう。しかし、その刃がベルクの首を切り落とすよりも早く。
――フレンディスの<急所狙い>による忍刀の一突きが、竜造の喉元を刺し貫いた。
「が、がは……っ」
竜造の手から梟雄剣が力無く落ち、口から大量の血を吹き出す。
そして前のめりに倒れる竜造を見下ろし、フレンディスは忍刀を振り上げ口にした。
「私はあなたを楽に死なす訳には参りませぬ。その身体滅ぼしてもこの刀の力にてし私の傀儡になって頂きます。
……ロストで苦しむ彼のパートナーを滅ぼすまでの傀儡に。それが、私が勝てた際のあなたへの手向けです」
「チッ。好きに、しろ。負け、ちまった、もんは、仕方ねぇ」
だんだんと血を失い、死に迫る竜造を見て、フレンディスは最後に呟く。
「謝りませんよ。私は」
そして忍刀を、竜造にむけて振り下ろした。
――――――――――
空京、街外れの公園。
竜造を失ったことにより、ヴィータと共に戦っていたパートナー達が苦しみ始めた。
「……ありゃりゃ、これは本当に不味いわね」
ヴィータはそう呟くと、かなりの傷を負った身体を引きずり、彼らを助けようと動き出した。
が、上空から飛んできた炎に気づき、行動を中断する。
ヴィータは顔を振り上げ、炎が飛んできた方向を見る。そこには空飛ぶ箒ミランに乗った雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が見下すような視線で彼女を見ていた。
「無様ねぇ、あなた。周りの味方は動けない。フラワシは召喚できない。自分も瀕死に近いほど血を垂れ流して」
「……きゃは。そう? でも、まだあなたを殺すことぐらいは簡単に出来ると思うわよ」
「へぇ、まだそれだけの口を叩けるんだぁ。私はね――」
リナリエッタはそう口にすると、ミランの方向を転換して、ヴィータに向かって突撃を開始した。
「女に売られた喧嘩は百倍にして買ってあげたくなるの!」
リナリエッタは<レジェンドストライク>を発動。
周囲から集めた聖なる力を武器に宿した強烈な一撃が、傷を負って鈍くなったヴィータの身体を貫いた。
「……きゃ、はっ」
ヴィータは傷口から吹き出る大量の出血により視野が狭窄し始め、ぼやけた視界でリナリエッタを見つめる。
そして口元を僅かに吊り上げると、震える唇で言葉を紡いでいった。
「……これで、勝った、と思った?」
ヴィータはそう言い終えるやいな、ウォルターの身体から憑依を解除し、リナリエッタを支配しようとする。
そして彼女の精神を侵し、身体の支配権を粗方奪ったところで、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
――瞬間。
(『はは、いい事教えてあげる』)
脳裏に、リナリエッタの言葉が響く。
それと共に彼女のパートナーのベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)が発動した<氷術>によって、周囲に氷の壁が生成され閉じ込められた。
(『いい女っていうのはね、美しい魂が宿ってないと無価値なのよ?』)
ヴィータの脳裏でリナリエッタの声が響くと同時。
身体の支配権を僅かに奪い返し、<物質化・非物質化>を発動。片手に黄金銃を発現させ、自分の胸に照準を合わせ、素早く引き金を引く。
「やって、くれた、わね……!」
放たれた銃弾により身体に風穴が開き、鮮血が飛び散る。
このままではいけない。そう感じたヴィータはぼやける思考のもと、素早く憑依を解除すると、もう一度ウォルターの身体に戻った。
「っが、ぐ、げぇ……!」
何度も瀕死を経験することにより、磨り減ったヴィータの魂が、限界を迎えようとしていた。
リナリエッタは<降霊>させたフラワシの慈悲の力で傷を塞ぎ、そんな彼女を見下ろしながら呟く。
「ふふ、あなた。いい女の最上級ってなんだか分かる?」
そしてリナリエッタは黄金銃の狙いを、地面に這いつくばるヴィータに合わせた。
「幸運の女神よ」
「――きゃは。なら、わたしの、ほうが、いい女ね」
ヴィータはそう呟くと、弱々しくパチンと指を鳴らした。
それは一時的に封印されていた能力が、やっと解除されたため。
素早く<降霊>したモルスが、鋼鉄のような剛腕でリナリエッタを横殴りにし、吹き飛ばせて氷の壁ごと破壊した。
「間に合った、けど。もう、そろそろ、限界、かな」
ヴィータはゆっくりと立ち上がると、傷だらけの自分の身体を見てそう呟いた。
が、そんな瀕死の彼女の前に、斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)が近づき、手を差し伸べた。
「クスクス……限界みたいだね。お姉ちゃん」
「そうね。でも、それが、どうしたの?哀れみでも、来たの?」
「クスクス……違うの。お姉ちゃんになら、ハツネの身体をあげてもいいかなって思って」
「ほん、と?」
「クスクス……ほんとなの。お姉ちゃんとなら……似た者同士の愉快な関係になれるの。
だから……その体が限界なら欲しがってたハツネの体、貸すよ?」
「……きゃは」
ヴィータは静かに嗤うと、ハツネを見て、震える唇を上下に開いた。
「嘘、ね。
わたしの、お気に入りの、ハツネちゃんはそんな、殊勝な考えは、しないわ。似ていると、いうなら、わたしを殺そうと、するはず」
「……クスクス……やっぱりそう簡単にはいかないものなの」
ヴィータの言葉を聞いたハツネはすぐさま、ギルティ・オブ・ポイズンドールを<降霊>。
邪魔なモルスを嵐と粘体の触手で貫き、自らのほうへと寄せ、噛み付いた。
「ぁぁぁああああ!!」
モルスの痛みが連動して、ヴィータはのた打ち回り、苦痛のあまり悲鳴を洩らす。
ハツネはそんな彼女を見て、恍惚とした笑みを浮かべながら、嬉しそうな声で呟いた。
「ねェ……どう? 壊される快楽、味わってるお姉ちゃん♪
尊敬してるし、大好きだよ? だから壊してあげる……」
「――そうはさせねぇよ。ガキ」
不意に、ハツネの背後からそんな声が響いた。それと共に信号弾と<光術>が撃ち込まれ、二人の視界を殺す。
その間に近づいた柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は、ハツネの身体にパルスアームで触れ、高圧電流を流した。
電流により意識が刈り取られ、ハツネが倒れる。共にギルティ・オブ・ポイズンドールはその場から消えた。
「ヴィータに死なれると困るんでな、こいつは貰って行くぜ」
気絶したハツネを見下ろしながら、恭也はそう呟くと、地面に這いつくばるヴィータに近寄る。
「なに、なに? もしかして、お姫様を、迎えに、来た、王子様って感じ?」
「……寒気がするようなことを言うんじゃねぇ。ただ、俺はおまえに聞きてぇことがあるだけだ」
「きゃ、は。やっ、ぱりー」
恭也はヴィータを抱えあげると、<光学迷彩>を使用して人知れず消えていった。
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