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リアクション
■
そもそもを言えば、『臆病者』が全部悪いに決まっている。
まともに名乗ることもせずに、胡散臭い話を持ちかけて、その話のために命を張れと言う。振り返るだにめちゃくちゃな話で、それでもその話に乗らなくてはならないのは、その話が本当だったなら見過ごすわけにはいかないからだ。
それを分かっているからこそ、『臆病者』は話を持ちかけてきた。それはいい。
が、その話を信用させるために自らの身を差し出して、さらに、それを自分で提案してきているというのに、今現在の状況に、ものすごくうっとおしそうな顔を見せるというのは、一体どういう了見だろう、とルカルカ・ルー(るかるか・るー)は思うのだ。
「嫌な思いをしないとは言ってない」
『臆病者』は、子供のようにふくれて、まさしく子供の理屈を口にする。あまりと言えばあまりの様子に、ルカルカはダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)と顔を見合わせた。
取引現場だという洋館がある山のふもと、突入前の打ち合わせの最中のことだった。
当然、『つい一週間前までは密輸グループの一員だった』と自称する彼に聞くことはいくらでもある。密輸グループの特徴、マフィアの規模はどれくらいか、どういった備えが予測できるか。
『臆病者』はそのすべてに答えた。即答だった。
「特には」
「知らね」
「わっかんねェ」
果たして、なしのつぶてとどちらがマシだったか。協力を拒んでいるのではなく、本気でなにも知らないらしいというのが、また問題だった。
ならばなになら分かるのだ、とルカルカとダリルで半ば尋問のように『臆病者』に質問を重ねた。その結果が、子供のような仕草と、子供そのものの口ぶりだった。
「あなたね、それでよく情報提供者なんて威張れるわね」
ルカルカが呆れて言った。
「ちゃんと情報提供したんだから、情報提供者じゃねェか。ただ、ちょっと情報が足りないだけで」
「ちょっと、ならこちらもうるさいことを言うことはないのだがな」
ダリルの声も苦々しい。情報を重んじるダリルとしては、まるっきり手ぶらで登山をするような気分である。
責められてむすっと押し黙る『臆病者』に苦笑して、源 鉄心(みなもと・てっしん)が口を挟んだ。
「まあ、そう言ってやるなよ。重大な情報は提供してるんだ、確かに、彼の言う通り情報提供者なのは間違いない」
『臆病者』をフォローするように言ってから、でも、と続けて、
「キミがなにを目的にしてるのか、っていう点は俺も知りたいところだな。危ない橋を渡っているんだ、キミにとってはそれだけの価値があることなんだろう? ならば、場合によっては手助けができるかもしれない」
鉄心は、どうだろう、と手を差し伸ばす。『臆病者』は差し出された手をじっと見つめ、それから視線を上げて周囲に睨みを効かせた。
童顔でそんなことやったって、誰も萎縮するわけもないのに。
「お前らはあれか、『優しい刑事と怖い刑事』でもやろうとしてんのか」
一つ、ルカルカが手を打った。
「刑事ドラマとかでよくあるあれね。それじゃこの場合、ルカが『怖い刑事』ね!」
笑顔で言い放つ『怖い刑事』に、ダリルはちらと一瞬だけ目をやって、鉄心は「ああ、そういう手もあるな」と、聞かなかったふりをした。賢明である。少なくとも、話は先に進む。
「……お友達のため、ですか?」
ティー・ティー(てぃー・てぃー)が控えめに言った。
ティーに視線が集まる。鉄心が頷いて見せて、続きを促した。
「グループの一員だったんですよね。そこを抜けて敵に回るようなことをしてるのは、グループのお友達を、危ないことから止めさせたいのかなって。違ってたら、ごめんなさい」
『臆病者』は「お友達ねぇ」と呟いて、鼻を鳴らした。
「いいや、違う」
少し話をして分かったことがある。『臆病者』は嘘が下手だ。ごまかしはともかく、嘘をつく段になると、目は泳ぐ頬は強張る口は篭る始末。見る人間が見れば、さぞ生きにくかろうとお人好しな心配までしてしまいそうだ。
眉一つ動かすこともしない返答だった。
「それだけは絶対にないね」
平坦な顔で、『臆病者』は話を打ち切った。
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