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【2020修学旅行】欧州自由気ままツアー

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【2020修学旅行】欧州自由気ままツアー

リアクション


ギャンブラーたちの戦い
 この話は、イタリアのナポリから始まる。
 御剣 紫音(みつるぎ・しおん)は、ナポリの街中を颯爽と歩いていた。
 目的は、男性が女性に声をかけ、仲良くなる行為……ナンパである。
 イタリアでは「女性を見たら声をかけないのが失礼」という言葉があるほど、男性が女性に声をかけることに対して寛容だ。
 それに乗っかって、カワイ子ちゃんとひとときを過ごそうと考えたのだ。
「楽しかったよ。またな!」
 幾人目かの女性とのおしゃべりを終えた紫音は、次なる女の子を求めていた。
「そろそろ疲れたし、カフェで休みたいな。お相手を見つけるか」
 一人でお茶を飲むなど味気ない。
 紫音は、お茶の相手を探すため、街角を曲がった。
「きゃああああっ!」
 そんな紫音の耳に、女性の悲鳴が突き刺さった!
「……なんだ、あれは」
 一人の女性が、男性に腕を掴まれ、車に押し込まれようとしている!
 男性たちは街のゴロツキ、といった雰囲気ではない。
 イタリアンスーツを上品に着こなし、サングラスで表情を隠している。
「やめろ! 何してやがるんだ!」
 相手がどんな姿であれ、女性のピンチである。
 紫音は、その男性たちに立ち向かった!
「……ちっ」
 男たちは、慣れた動作で拳銃を取り出した。
「……ははぁ、マフィアか」
 紫音は察した。男たちはイタリアマフィアである。
「マフィアたちよ聞け、戦闘を停止し一般人たちを非難させよ! させないのならばお前たちを排除してでもこの場の安全を確保させてもらう、覚悟はいいな」
 紫音は戦闘のかまえをとった。相手が戦いに慣れているのであれば、こちらも遠慮はいらない。
 ところが、マフィアたちは、紫音が予想したのとは異なる行動をとった。
 車を発進させ、逃げ出したのだ!
「ま、待ちやがれ!」
 紫音が叫ぶが、男たちは遠ざかる。
 そのとき、一台の車が紫音の前に止まった。
「乗ってくれ。あれを追う!」
 車を運転している若い男性が紫音を促す。
 紫音は迷わず、その車に乗り込んだ!
 彼曰く、女性は彼の恋人で、彼がマフィアの機嫌を損ねてしまったがために、奪われたのだという。

 そんな逃走劇は、ナポリを飛び出して続いた。



 ナポリから北へしばらく移動したところにある、ベニス。
 現地語ではヴェネチア、と発音される。
 ここには大きなカジノがあり、観光客に人気の街だった。
 もちろん、このカジノを目的としてここに来た修学旅行生がいた。
「なにこれ! 賭け事するところじゃん!」
 連れに引っ張ってこられたかたちでカジノに立ち入った鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)は、「こんなとこ来るつもりなかったのに」と頬を膨らませていた。
「俺とフランが揃ってカジノ以外何処に行くと思ったんだ」
「そうそう、僕とユズキが居てまともな場所行くわけ無いじゃん」
 氷雨を連れ出したのは、ユズキ・ゼレフ(ゆずき・ぜれふ)フラン・ミッシング(ふらん・みっしんぐ)だ。
 騒ぐ氷雨を放っておいて、さっそくポーカーを始めていた。
 テーブルにつく二人の背中に文句を言い続ける氷雨だが、その言葉は全て彼らの背中にぶつかって跳ね返ってきてしまった。
 もはや二人は、ギャンブラーとなっていた。
 二人の世界に入り、小声で会話をしている。
「まぁまぁだな……。フラン、そっちはどうだ?」
「うーん、こちらもまぁまぁかな。損はしてないね。今の所」
「もうっ……」
 氷雨は、少しずつ増え始めた二人のコインを一枚そっと抜き取ると、一台のスロットマシンに近付いた。
「これくらいしか遊び方分からないし」
 氷雨はコインを投入し、レバーをおろした。
 ……がしゃん。
 いきなり役が揃い、数枚のコインがはき出される。
「……お♪」
 これはコインが増えるものだと理解した氷雨は、続けてレバーを叩く。
 そう滅多に揃うものではないのだが、コインはみるみるうちに増えていった。
 今宵、氷雨は強運をお供につけているようだ。
 がしゃん、がらがら。
 がしゃん、がらがら。
 誰もが驚くペースで、氷雨のコインは増えていった。

 その時、上品なカジノの雰囲気をぶちこわすような足音と罵声が入ってきた。
「待てって言ってんだろ! こんなところでどうするつもりだ!」
「市民に危害を加えるなと言ったのはそちらだろう。勝負はこれでつけるんだよ」
 入ってきたのは紫音とマフィアたちである。
 女性の恋人とともにマフィアを追いかけた紫音は、夜まで車を走らせ続け、このベニスまでやって来た。
 そして今、マフィアと紫音、そして女性の恋人男性は、カジノで対峙している。
「その男に落とし前をつけさせなきゃならんのでな」
 マフィアはにやりと笑った。
「チャンスをやろう。このカジノで1枚のコインを、どちらがより多く増やすか。おまえらが勝ったら見逃そう」
「わかった。受けて立つぜ」
 マフィアはディーラーをひと睨みし、2枚のコインを差し出させた。
 それを受け取る紫音。
(まいったな。一撃勝負か。さてどうする……)
 どうやって増やすか、カジノの中をぐるりと見渡していると、紫音は同じ修学旅行の生徒らしき姿を見つけた。
(あれは……)
 紫音の目に飛び込んできたのは、氷雨の姿である。
 場内の騒ぎなど聞こえていないようで、スロットを続けている氷雨。
 氷雨の目の前のコインは、みるみる増えている。
 信じられないことに、一回転ごとに増えているように見える。
(今夜は、あいつが「持っている」ようだな)
 紫音は氷雨に近付くと、声をかけた。
「よう、同胞」
「え? ボクにご用?」
 状況を知らない氷雨に、紫音は事情を説明しようとして……やめた。
「いや、なんだかツイてるみたいだから、俺のも一回転回してもらいたいと思ってな」
 紫音は、つとめてやわらかく微笑んだ。
「あ、それならいいよー」
 気軽なゲンかつぎだと思った氷雨は、快くうなずくと、紫音が差し出した一枚のコインを受け取った。
 そのコインに込められた重さを、知らずに。
「じゃ、このマシンでいいかな」
 氷雨は、隣のマシンにひょいっとコインを放り込んだ。
「回すねー」
 がしゃん。
 あまりにもあっさりと、運命のスロットは回り始めた。
 後ろでマフィアたちも見守っている。
 スロットは自動で止まる。

 7……7……。
 ……7!

「……? 7が三つ? って、うわぁ!」
 がらがらがらがら。
 派手な音を立てて、ものすごい勢いではき出されるコイン!
「なにこれ故障? ユズキーフランー!」
 慌てて、相方たちの名を呼ぶ氷雨。
「ほぉ。ひー、やるな」
 ユズキがにやりと笑って、ポーカーテーブルからは離れずに、その様子を見つめていた。
「さっすが氷雨君。一撃勝負をきちんと決めるんだから」
 フランも嬉しそうにこくこくとうなずいている。
 二人とも、コインに埋もれている氷雨を助けるつもりはないようだ。
 ただ、警戒は解かないまま、マフィアたちの会話を見届けている。

「……イタリアマフィアは紳士だ。嘘はつかない」
 女性をさらっておいて紳士かよ、という言葉がのど元まで出かかったが、せっかく引き下がろうとしているところに油を注ぐ必要はないと、紫音はぐっと飲み込んだ。
 マフィアは約束通り女性を解放し、引き上げていった。
 マフィアも、ある程度の自信はあったのだ。
 というよりも、勝つシナリオができていたのだ。
 ここのディーラーは顔見知りである。
 ポーカーかルーレットで、勝てるように都合してもらう。それで済むはずだった。
 ……だが、さすがにこのコインの山には一回では勝てない。
 幸運の女神を100人くらい引き連れた氷雨の存在は、全く持って計算外だったのだ。
「ありがとう、ありがとう!」
 女性と、恋人の男性に御礼を言われる氷雨と紫音。
(カワイ子ちゃんのヒーローになるつもりだったのに、カップル助けちまったか)
 紫音は、苦笑いした。

「ちょ、これなんなのー」
 コインはまだ止まらなかった。
 ようやくユズキとフランが氷雨を助け出したのは、完全にコインの吐き出しが終わった後。
 さすがに圧死されてはまずいと、埋もれた氷雨を引き上げたのだった。