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四季の彩り・新年~1年の計は初詣にあり~

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四季の彩り・新年~1年の計は初詣にあり~

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 第10章

「やっぱ、1月1日は初詣だよな!」
 今年もいい1年にする為に、初詣は欠かせない。空京神社を訪れた黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)は、黒崎 ユリナ(くろさき・ゆりな)リゼルヴィア・アーネスト(りぜるゔぃあ・あーねすと)フィリス・レギオン(ふぃりす・れぎおん)のそれぞれの顔を見ながら楽しそうに言う。竜斗にとって、パラミタに来てから1回目の初詣だ。
「初詣ですか……良い1年になるよう祈願するんですよね」
 様子を見るに、一緒に来た3人も初めてらしい。是非参加しないと! と意気込みと共に来たユリナも話として知っているだけのようだったし、リゼルヴィアも参道を歩きながら好奇心たっぷりに瞳を輝かせ、しっぽをふぁさふぁさと動かしている。
「日本には1年の最初からお祭があるんだね〜。パラミタでも体験できるなんてすごいなぁ♪」
「みんなで初詣かぁ。たまには特訓を忘れてこういうのもいいかな!」
 毎日、竜斗に戦い方を教わったりユリナ達に家事を教わったりと頑張っているフィリスも、今日は1日、神社を満喫するつもりらしい。
 のびのびとした中に彼女達らしさが存分に見え、竜斗は3人の笑顔を前に来て良かったと素直に思う。その時、隣を歩いていたユリナが手を握ってきた。それに気付いて目を合わせると、彼女は僅かに頬を染める。
「人も多いですし、はぐれないように……」
「うん、はぐれたら大変だ」
 その言葉を受け、竜斗はぎゅっとユリナの手を握り締める。にっ、と笑いかけると、妻である彼女は少しはにかんだ。
「まだ、人前ではちょっと恥ずかしいですけど……こ、今年こそ克服するために……」
「え? あ、そうだな」
 若干小声でそう言われ、思い出したように竜斗も何だか恥ずかしくなってくる。だが、2人が初々しさと微笑ましさのある空気を伴って歩いていたのはほんの数歩分だけで、空いていたもう片方の竜斗の手を、気軽な調子でリゼルヴィアも握る。
「迷子にならないように手ぇ繋いで行こっ。フィリス君もー♪」
「ぼ、僕も?」
 何を答える前に手を握られ、フィリスはびっくりして目を丸くした。そのままの表情でぱちぱちと瞬きして、それから照れと嬉しさが混じった、幸せそうな表情を浮かべた。
(ルヴィちゃんは相変わらず積極的だなぁ……突然手を繋ごうなんて)
 僕も見習わないと! と、目にやる気を宿しつつ、フィリスは揚々と参道を歩く。結果として4人全員が手を繋ぎ合い、神社の地理がよく分からずにきょろきょろしたり違う方へ行こうとするリゼルヴィア達を見て竜斗は思う。
 ――しっかり先導してやらないとな。

 初めに竜斗が向かったのはおみくじ売り場だった。
「まずは、ここだ」
「このおみくじを引くんだね?」
「えっと、この筒を振って……」
「……良いのが出ますように!」
 順番を待つ間、前の人のやり方を見ていた彼女達は見よう見まねで六角形の筒を振った。出てきた細い棒に書かれた数字を巫女に伝えて、紙を受け取る。
「ボクの今年の運勢は〜……」
 おみくじを持って売り場から離れると、最初に引いたリゼルヴィアがくじを開く。
「小吉! なんだかあんまり良くなさそうだなぁ」
 そして、『小吉』という大文字の下には『小吉を引いた貴方、今年の運勢もこじんまりします! 身長もこじんまりしちゃうかも(笑)』と書いてある。
「むー!」
 リゼルヴィアは思わず頬を膨らませた。
「まだまだ伸び盛りだもん! ってか(笑)って何さー!」
 ぷんぷんとおみくじに抗議する彼女の隣で、フィリスも自分のおみくじを開く。結果は中吉で、早速文面を読んでいく。『中吉を引いた貴方、大吉まであと一歩! 頑張れば恋が叶う……』――
「やった! ついに僕の願いが叶う……」
 ――『と、いいですね』。
「って、何!? なんかテキトーじゃないですか!? 上げて落とさないで下さいよ!」
 愕然とした表情でおみくじにツッコミを連打する。2人の反応に苦笑しつつ、竜斗も、何か面白いおみくじだなあ、と思いながら紙を開いた。
「……中吉か。凶が出るよりマシかな?」
 その時点ではまだ第三者的な気持ちで、彼はその下の文に目を通す。そこには『中吉を引いた貴方、引き運が微妙! もう少し頑張りましょう!』と書いてあった。
「……これ本当におみくじか?」
 手元の紙をまじまじと見て、おみくじ売り場を振り返る。確かに間違いない。コレはあそこから引いたわけで。
 やっぱりおみくじである。歴とした空京神社のおみくじである。
「え、それって、僕の引き運も微妙ってことになるよね! 後から聞いてへこむなんてー」
 まさかの三段論法に、フィリスはなんだかくやしそうだ。3人の散々な結果を目にして驚き顔であったユリナも、最後に紙を開いてみる。それは、なんと大吉だった。
「大吉? なんだか良さそうですね」
 続く文も『大吉を引いた貴方! 運勢はうなぎ登り! どんな願いも叶っちゃうかも!?』とノリノリだ。いや、ノリノリといえば全部ノリノリだったのだが。
「……ほ、本当でしょうか?」
 額をつき合わせ、信じられないという顔でおみくじを覗き込む竜斗達の前で、ユリナは半信半疑に戸惑うのだった。

「お賽銭っていうのは、神様にお願い事するんだね」
 気を取り直して賽銭箱の前に行き、横に並ぶ。それそのものが楽しいというようにお賽銭を投げるリゼルヴィアに続き、皆も手を合わせて目を閉じる。
(う〜ん、願い事かぁ……。家族みんなの幸せとみんなを守れるよう更に強くなりますようにっと!)
 竜斗は少し考えてからそう願い、目を開ける。
「よし! じゃあこれから出店でも回ってみるか!」
 4人でわいわいとあれこれ選んで食べるのは、1年の最初の思い出にもちょうどいい。
「そうですね、お昼ごはんもまだでしたし」
「うん、気になったお店とかもいっぱいあったしね」
 拝殿を後にしながら、ユリナとフィリスが同意する。その中で、リゼルヴィアが一際はしゃいだ声を出した。
「やったー! さっそくボクのお願いが叶うね!」
「あ、そうそう、そういえば、何を願ったんだ?」
「ボク? ボクは、今年もみんなお腹いっぱい食べれますよーに! って! お腹いっぱいご飯が食べられるのは幸せなことだってお父さんが言ってたし! フィリスは?」
「え!」
 竜斗に答えたリゼルヴィアに聞かれ、フィリスは少しどきりとした。2個目のお願いが、『ルヴィちゃんと、こ、恋人同士になれますように』というものだったからだ。それをここで言ったら、お願いどころか告白である。
「僕はね、今まで通りみんな仲良く過ごせますようにってお願いしたよ」
「私はみんな健康に1年を過ごせますようにとお願いしました。……竜斗さんは何をお願いしたんです?」
「俺か? 俺はな」
 ユリナは、竜斗から聞いた願い事につい「ふふ」と笑みを浮かべた。
「4人とも、みんなのことをお願いしてたんですね」
 あれ、という顔で竜斗とリゼルヴィア、フィリスは顔を見合わせる。そうして、「本当だ」と笑い合った。彼らの笑顔を見ながら、ユリナは2つ目の願い事を思い出す。
『竜斗さんと、ずっと一緒にいられますように』
 少しのろけながらのその願いは。
(……秘密にしよっと。恥ずかしいですし)
 願っていた時の気持ちのままに、彼女はこっそりと微笑んだ。