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四季の彩り・新年~1年の計は初詣にあり~

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四季の彩り・新年~1年の計は初詣にあり~

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 第6章

 大晦日は、ツァンダの御神楽 陽太(みかぐら・ようた)御神楽 環菜(みかぐら・かんな)の家に、家族の皆――エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)御神楽 舞花(みかぐら・まいか)も集合して楽しく過ごした。雑談したり、麻雀したり、皆で賑やかに年明けを迎え――
「大丈夫ですか? 環菜」
「ええ。昨日は良く眠れたし、体調に問題は無いわ」
「具合が悪くなったらすぐに言ってくださいね」
 そして、ファーシーからの誘いを受けた彼等は今、空京神社の鳥居の前に立っていた。環菜は2月、早ければ1月後半には出産予定で、大きなお腹を抱えている。
 そんな夫婦の様子を見ながら、サトリ・リージュンは懐かしそうに目を細めた。ちなみに、サトリの場合は待ち合わせとは少し違う。待ち伏せだ。
「ここまで来ればよっぽどの事がない限り大丈夫だろうが、気をつけるにこした事はないからな。元気なお子さんが生まれるといいですね」
「私達の子だもの。元気に決まってるわ。……でも、ありがとう」
 何となく先輩風を吹かせて言うサトリに、環菜はふっくらとした腹部をゆっくりと撫でながら言う。
「来たようですわね」
 そこで、人混みの中の一方向を見つめていたエリシアが口を開いた。多くの友人達と一緒に、晴れ着姿のファーシー達が歩いてくる。それに気付いたノーンが、元気に彼女達に手を振った。
「みんな! あけましておめでとー!!」
「ノーンちゃん! 陽太さんと環菜さん、とエリシアさんと……あれ?」
 ファーシーはサトリと舞花の姿の見ると、まず苦い顔をして立ち止まったラスに目を遣った。それから、また舞花に視線を戻す。
「環菜さんの妹さん? よく似てるわねー」
「妹、じゃないんだけど……」
 どう説明したものか、と環菜は舞花を見てから結局、こう言った。
「親戚、みたいなものね」
「皆様、はじめまして、御神楽舞花と申します」
「はじめまして! ファーシー・ラドレクトよ。環菜さんには色々とお世話になってるの。この子は、わたしの娘のイディアっていうの」
「イディアちゃん……」
 舞花はイディアを見下ろし、彼女と同じ着物に身を包んだフィアレフトに目を移す。
「こちらの方は……」
「フィアレフト・キャッツ・デルライドっていいます。よろしくお願いします、舞花さん」
 自己紹介をしたフィアレフトの後に皆も続き、互いの名を覚えたところで陽太は新年の挨拶をした。用意してきたお年玉袋3つ出す。今年は、少し奮発している。
「ファーシーさん、明けましておめでとうございます。これはイディアちゃんに。それと、これはピノちゃんとフィアレフトさんに、お年玉です」
「やった! ありがとう、陽太さん!」
「え、え……あ、ありがとうございます」
 近所に住む中だし受け取ってもらえると嬉しい。そう思って差し出すと、ピノは喜び全開で、フィアレフトは戸惑いを見せつつ袋を受け取る。見た目に反して実はそう子供でもないので束の間迷ったが、せっかくである。
「ありがとう。この子の口座に入れておくわね」
 袋を仕舞い、ファーシーは視線を一度落としてから環菜に言う。
「環菜さん、もう少しで生まれるのね! もうベビーグッズとかは買ってるの?」
「ええ。ベッドとか洋服とかを、休みの日に行って揃えたわ」
 どうやら女の子らしいということで、可愛らしいデザインのものを中心に選んでいるのだという。
「私よりも陽太の方が張り切っちゃってて……。店に行くと目が輝いてるんだもの」
「やっぱり嬉しいですから。今は、気が付くと子供の事ばかり考えてしまうんです」
 照れながらも、陽太の顔には自然と笑みが浮かんでくる。彼と環菜にとって、ファーシーは先輩ママでもある。今後、相談したり助け合ったりすることもあるだろう。彼女にはこれから、所謂“ママ友”にもなってほしかった。
「分からないことも色々とあると思うので、その時はよろしくお願いします」
「うん! わたしが分かることなら。イディアは機晶姫だから、わたしの経験が当てはまるかは分からないけど……まあ、なんとかなると思うし」
 気負わない答えに、陽太は自然と笑顔になる。彼は、前向きではないことを言ったファーシーを見たことがない。いつでも、どこまでもポジティブだ。最近のポジティブな家計は少し心配だが、彼女は大切な友人かつ、陽太がリスペクトする存在だ。
「あ、でも、本当にまずいなと思ったら、ちゃんとお医者さんとか専門の人に診てもらってね? 熱暴走しても冷却シートじゃ直らない時あるし、直してる途中で悪くなって、怒られることもあるんだから!」
「…………」
 その話を傍で聞いていたフィアレフトは、そら恐ろしい気持ちになっていた
よくぞ無事に成長したものだと思う。
(不幸な事故の原因って……ううん、まさかね……?)
 つい、そんなことも思ってしまう。舞花に話しかけられたのは、その時だった。
「フィアレフトさん」
「……舞花さん」
 同じ着物だから、とか髪の色が似ているから、という以前に。フィアレフトの持つ雰囲気から、舞花は彼女の正体に一目で気付いた。殊更の思惑はなく単に同じ未来人として興味を惹かれ、気さくに付き合いが出来たらと思う。
「フィアレフトさんには、親近感を覚えます。何かありましたら、どうか気軽にご相談ください」
「…………」
 御先祖様譲りの知的な雰囲気で話す彼女を、フィアレフトは瞬きをするのも忘れて見つめていた。遅まきながら、彼女も舞花が未来人だと分かったのだ。
「はい。舞花さんも。困ったことがあったら、話してくれると嬉しいです」
 彼女達が親交を暖めている中、環菜はルミーナに軽く挨拶した。
「久しぶりね、ルミーナ。元気にしてた?」
「はい、お久しぶりです。環菜さんもお元気そうで何よりですわ。しかも、もう少しでお子さんが生まれるなんて……何だか、感無量というか……。今年も良い年になりそうです」
「そんな、大げさよ。まだ不思議な気持ちだけど……何となく、これが自然なんだという気もするの」
 2人の関係も、環菜が校長をしていた頃とは随分変わった。ルミーナには、環菜を支えるのは自分であり、彼女の大成が一番の優先順位であった頃があった。だが環菜は今、こうして新しい家族を、支えてくれる夫を持ち、ルミーナ自身も結婚して日々幸せを感じている。それでも、変わらないものもあって――
「本当に、おめでとうございます」
 この変化が、そして今の関係が心地良くて、ルミーナは心かあらそう伝えた。「ありがとうございます」と嬉しそうに陽太が言い、彼は改めて彼女達に新年の挨拶をする。
「ルミーナさん、隼人さんも明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」
「ああ、よろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いしますわ」
 にこやかに笑顔を交わし、陽太は優斗達とスカサハと満月、ケイラと大地達とも丁寧に新年の挨拶を交わした。初対面である満月には改めて自己紹介し、旧知の間柄である皆やファーシーと簡単な雑談をする。話題はお互いの近況であったり仕事のことであったり。
 そんな和気藹々とする雰囲気の中、ラスは相変わらずサトリに苦い顔を向けていた。
「……何で居るんだよ」
「お前が正月に来ないというなら俺が来るしかないだろう」
 さも当然というようにサトリは言う。少し離れた場所で楽しそうにしているピノを見ながら、声のボリュームを落として続ける。
「それに、一度会えば二度も三度も同じだろう。俺がパラミタに来なかった理由も、お前が俺を遠ざけようとしていた理由も、もう過去の事で今は当てはまるものじゃない。一歩前進ってやつだ」
「……あの日だって、呼んでもないのに勝手に来たんだろ」
 それで一歩前進と言われてもラスとしては微妙に釈然としない。
「ばーちゃんが寂しがるぞ。帰れ」
「ばーちゃんとは毎日顔合わせてるからいいんだよ。昨日は一緒に紅白を観たしな。ああ、確かに孫に何年も会ってないって嘆いてはいたが」
「……………………」
 そう言われては全力で目を逸らすしかない。楽しそうにくつくつと笑っていたサトリは、ふと真面目な声に戻って彼に言った。
「それに、言っただろ? 俺は、もっとあの子と交流したい。これからはちょくちょく来るようにするからよろしくな。ああ、これはお年玉と土産の砂糖だ。幾つになっても、お前が俺の子であることには変わりないからな」
「……………………」
 顔は似ているが、ラスはどうにもサトリのこの直球さが苦手だった。なぜそんな台詞を恥ずかしげもなく言えるのか理解出来ない。そして砂糖は要らない。この親バカぶりがきっちりと遺伝し、ピノには割と似たような事を言っているのに彼は気付いていなかった。
「そういや、子供達にもお年玉を持ってきたんだよな。ノーンちゃんとエリシアちゃんにはさっき渡したんだが……」
 元々、空京神社で待ち伏せ出来たのも、ここで初詣をするとノーンに聞いたからだ。彼女とは、8月のあの日に会って以来、良好な関係を築いている。
「な、ノーンちゃん」
「うん! それに、お家にはサトウキビをいっぱい送ってもらったんだよ! 齧ると美味しいよ!」
「収穫した時に送ったんだ。食べてみたいって言ってくれたしな。そうか、美味しいか……それは良かった」
 サトリは嬉しそうな顔をノーンに向けると、ピノとファーシーに近付いた。
「ピノちゃん、明けましておめでとう。これはお年玉だよ。ファーシーちゃんにも、イディアちゃんにお年玉だ」
「えっ、えと……うん、ありがとう、サトリさん!」
「ありがとう! 大事にするわね」
 彼相手にはまだちょっと緊張するらしいピノがそれを受け取り、ファーシーもありがたく紙袋を手にしてイディアに軽く声を掛ける。
「ふふ、今日でいきなりお金持ちになったわね」
 初めての経験にファーシーは新鮮な気持ちだったが、正月とはそういうものである。むしろ、子供にとっては正月とはお年玉を貰える日でありそれ以上でも以下でもないといった趣もある。
「あ、イディアちゃん! タンバリンたたいてる? 今度、楽しい演奏教えてあげるね!」
「ぷ。ぷ」
 伸ばされた小さな手を握りながら、ノーンはニコニコと親しく話をしていた。彼女はイディアを可愛く思っていたし、イディアもノーンに懐いている。ほのぼのとしたその光景を、フィアレフトは懐かしそうに見守っていて――その折に、彼女もサトリにお年玉を貰った。
「フィーちゃんにもお年玉だ。アクアちゃんにも」
「あ、ありがとうございます……!」
「私は子供ではありませんが……」
「ここまで渡して君にだけ渡さないというのも何だしな。まあ、迷惑料とでも思って受け取ってくれ」
「何の迷惑料ですか!!」
 袋を握り締めて、アクアはつい声を大にする。そこでふと、彼女は寒空に目を遣った。
(そういえば、モフタンは無事彼を見つけたでしょうか……)