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第1章 決行日前
イルミンスール魔法学校内ではバタバタと落ち着かなかった。
突然、ザンスカール家のヴァルキリーであるエルミティが、血だらけで駆け込んできたからだ。
その胸には白銀の瞳と、髪を持つ聖少女を抱きかかえて……。
捕まっているエルミティのパートナーのディルを救うため、いくつかのチームが組まれていた。
チーム内での相談がされている中、聖少女=ちびの成長のきっかけを探す者達もいた。
ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)とパートナーのマナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)もその中の者達であった。
「よしできたっ!」
「なぁにそれ……?」
ベアの持っているものは竹とんぼでした。
「わかんないか……こー使うだっ」
「すごーい」
ちびはベアの竹トンボが宙を舞うのを不思議そうに見ています。
その隣ではマナがリンゴをちびの前に置いた。
「いい匂いでしょう?これねリ・ン・ゴ」
「リ・ン・ゴ?」
ちびは不思議そうな顔をしている。リンゴに鼻をくっつけてくんくんと匂いをかいでいた。
「いい匂い」
「ちょっと待ってね」
マナは器用な手先でリンゴでウサギをつくって先にパクリっと食べて見せた。
「美味しい〜。ちびも食べてみて」
「うん!美味しい……初めて食べた味…みんなと一緒に食べた味」
ちびは軽く目をつむった。心なしか成長しているように見えた。
その時、どこからか草笛が聞こえてきた。
如月 陽平(きさらぎ・ようへい)の草笛が食堂に響き渡る。懐かしいその音色は初めて聞く音色だが、ちびの心には温かく感じた。突然ちびはポロポロと涙がでていた。
陽平のパートナーのシェスター・ニグラス(しぇすたー・にぐらす)があわてて、
「どうしましたか?なにか辛いことでも思いだしたのですか?」
ふるふるとちびは首をふり、
「あのね……音色がね、とても胸に響いたの……温かい何かが」
「それは感動ってやつだよ」
陽平はちびに向ってにこっと笑いかけた。
「ちびは成長が早いらしいからなぁー、世の中には色々あるけどさ、短い幼少期を大切にな」
「そうですね、ボクもそう思います」
ちびの頭をなでなでしながらシェスターも頷いた。ひょいっと右手からちびに向って小さな花を差し出す。
「パラミタで咲いている花ですよ」
「きれいな花……ありがとう」
ちびはシェスターに向ってむぎゅっと抱きついた。
その様子を姫神 司(ひめがみ・つかさ)とグレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)が見つめていた。
「グレッグ。そなたあの聖少女……今はちびか、どう思う?」
「そうですね、最初見かけた時には少し感情表現が希薄に感じましたが、ここ、イルミンスールにきてからは、感情というものがあらわれつつあるように感じます」
「恐ろしい目にあった筈であろうに、泣きもしなければ怯えているふうでもなく、研究所に行くと言っても決意のような感情も感じないな……これはどういうことか」
「本人に直接聞いてみてはいかがですか?」
二人の視線に気がついてちびがとてとてと歩いてきた所だった。
「なぁに……?」
ちびの言葉に司が口を開いた。
「そなた……ちびと申したか、普通の同年代の少女よりも感情が希薄にかんじられるのだが……今まで見ていて、ずい分と明るくなったようだがな」
更に司は言葉を続ける。
「なぜちびは研究所に行こうとするのだ?」
ちびは、一瞬深刻そうな顔をするも、ぽそりとつぶやいた。
「わたしだけじゃだめなの……もう二人の私を探しに行くの……」
「二人……?」
司が怪訝な声をちびに向けた時、校長室から大きな声が聞こえてきた。
「知らん!」
きっぱりはっきり答えたのはアーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)だった。
「そんなことおっしゃらずに……」
狭山 珠樹(さやま・たまき)は困ったようにかたわらにいる新田 実(にった・みのる)の方を見る。実もうなずき、アーデルハイトに問いかけた。
「ちびの為でもあるんだぜ!伝承のことをもっと詳しく教えてくれ!」
実の言葉にアーデルハイトはやれやれといった風に両手を肩の高さにまであげた。
「そう言われてもワシにも詳しくは知らないんじゃが、ザンスカール家のヴァルキリーに聞いた方がよかったようじゃ。じゃがあの者らも伝説の聖少女なるもの、ワシ以上に知っているとは思えんが……」
「いいから話せって!」
「小うるさいガキじゃのう」
「まぁ、そうおっしゃらないでくださいな、アーデル様が便りなんですの」
珠樹が間に入って、その場を収めると改めて伝説の聖少女について聞き出した。
聖少女とは恵みと再生を司る者、だが、その成長を誤ると腐敗をもたらす危険な存在にもなりうると、そうアーデルハイトは言った。
「それ以上はしらんな、後は己の目で見て確認することじゃ」
「そうですか……」
珠樹は思ったより情報が得られなかったことに肩を落とすも、実がアーデルハイトに聞いた遺跡に関する言葉には何かをつかんだ様子であった。
「ちびが見つかったとされる遺跡か?ワシはどこにあるかはしらん。じゃが、研究所に行けば見つかるんじゃないのか?……ちびを守ってやってくれ」
アーデルハイトはどこか遠くを見る表情をして言った。
その時、ノック音のあとバタンッと扉が開く音がした。
アーデルハイトと珠樹と実の会話をうつらうつらと聞いていたエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)のおでこががくんと机にぶつかった。
「痛いですぅ〜、なんなんですかぁ」
「校長先生にお母さんになってもらいたいと思います!」
ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)は、勢い込んでお母さん発言をした。
「えぇ〜、わたしがあなたのですかぁ?」
赤くなったおでこをさすりながらエリザベートは問い返した。
「ちょっと違うぜ、ご主人」
雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)はソアの袖を軽く引きながら、目で合図をした。ソアはあわてて、言い返した。
「ご、ごめんなさいっ、えっと、そのー……できたらちびさんのお母さんになってほしいいんです」
「えぇ?」
ソアが両手をもじもじさせながらの言葉にエリザベートは、ものすっごい微妙な顔をした。
「ちびさんには一人の人として守ってあげられる家族や友人のような関係を作ってあげたいんです。私はえっと、そのー……できたらお姉さんになってあげたいんです……えへへ」
エリザベートは更に微妙な顔をした。
「わたしがですがぁ」
「だって!名付け親になったんですもの!」
「ご主人……忘れているようだが、聖少女って急激に成長するんだろ?7歳の校長が母親、11歳のご主人が姉になった場合、聖少女が成長したら……年齢的に微妙になるぞ」
「あ!」
ベアの言葉にソアは絶句し、エリザベートはうんうんと頷くのだった。
「話の最中失礼する、君達の会話に俺も加わらせてくれないか」
ベリーショートの髪を軽くかきあげ、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)は開いていた扉から、ススッと入ってきた。
「全て聞いていたが、君……そう君だ。君の言う通り校長には母として率先して面倒を見てもらおう」
「あなたもですかぁ〜。わたしまだ7歳ですよぉ〜」
エリザベートは困ったようにアルツール、ソア、ベア、そしてニヤリと笑っているアーデルハイト達を見まわした。
こほんと咳払いをアルツールはすると、
「校長も魔術師ならば『名前』の重要性はご存知のはず。校長が名前をつけたことにより聖少女は成長したのだ。無垢な存在であった聖少女が、まだ正体はわからないが、『ちび』という名前を与えられて縛られたといっていいのだよ」
長々と話すアルツールにエリザベートは、
バンッと机をたたいた。
「わかりましたぁ、義理のですけどぉ、ソアがお姉さんでぇ、ベアがお兄さんでぇ、アルツールがお父さんということでぇ……」
「なんで俺がお父さんなんだ?……お兄さんではないのか?」
「だってぇお父さんも必要ですぅ。はい決まりですぅ!」
こうしてちびのいない間に家族が出来上がり、そのことをちびは後で知ることとなった。
「すてき!わたしに家族?家族ができたの??」
「そうだ、家族だ」
アルツールは複雑な心境だったが、ちびの嬉しそうな様子に心がなごんでいた。
その時だった。
ちびが成長したようにアルツールは見えたのだ……。
その頃、イルミンスール魔法学校にある大図書室では緋桜 ケイ(ひおう・けい)と悠久ノ カナタ(とわの・かなた)がうんうんうなっていた。
「なんだこれは!広すぎだぜ!!」
ケイの言う事ももっともでイルミンスール魔法学校の大図書室は迷宮と化していたのだ。
そこから目的の本を探すのは困難であった。
「ケイ、落ち着くのだ……だが、たまたま司書が休みの日に来るとは、運がなかったな」
カナタもややがっくりした様子であった。
カナタは聖少女について、ケイはキメラには弱点がないか調べる所だったのである。
「だけどよ、聖少女については少しわかったな」
ケイの言葉にカナタも頷く。
「聖少女とは恵みと再生を司る者という……だが、これだけでは情報が少なすぎるであろう。わらわの目的はキメラの弱点がないかの調べ物だったのだが」
カナタはぐるりと迷宮の中を見回した。視界がかすんで見えるほど、本が積み重ねられまたは、本棚から本があふれている。ここから目的の本を探すのは困難におもえるカナタだった。
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