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リアクション
藍澤 黎(あいざわ・れい)は声を潜めるようにしてルドルフに告げた。
「拘束したハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)の件なのだが」
「僕も気になっていたところなのだが…尋問は今、誰が行っている?」
黎が持ちかけてきた話題に、ルドルフは顔を曇らせる。
ハーリーから空賊に関する情報を引き出したいのは山々であったが、相手はバイク型機晶姫だ。人間の言葉が話せない。
ルドルフ自身、どうしたものかと考えあぐねていたところだった。
「エディラや明智殿たちだ。何とか意思疎通を図ろうと頑張っているようだが芳しくないようだな」
「…そうか」
「ハーリー殿が持っていた携帯電話については、本体番号をメモすると同時に情報をすべてコピーした。電話番号についてはすべて暗号化されているようだが。タシガン帰島後に調べれば多少なりとも空賊の人員構成やこれまでの足跡が分かるだろう」
黎の言葉にルドルフは強張っていた口元を少しだけ緩めた。
「それは助かるよ。今すぐに調べられないのは残念だな」
データのコピーは黎のパートナーであるフィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)がやってくれたそうだ。
インターネットを通じてすぐさま検索をかけたいところだが、この場所からでは回線はおろか携帯電話の電波も届かない。今はハーリーが持っていたデータを入手できただけでも御の字と考えるべきだろう。
もちろんそのデータ自体が、こちらを惑わせるためのダミーという可能性も否めないが。
報告を済ませた黎は、何やら考え込むように口元に手を当てる。
「それで…ルドルフ殿。相談なのだが…」
珍しく歯切れの悪い黎を促すようにルドルフは頷いてみせる。
「あぁ。聞こうか」
「…もし…できればハーリー殿を泳がせてみたいと思うのだが」
それは思いがけない提案だった。
黎は淡々とした口調で説明を続けた。
「空賊が拘束された者たちの奪還のため再襲撃をかけてくる可能性もある。そのときにわざとハーリー殿を逃がし、空賊のアジトを突き止めるわけにはいかないか?」
「だが、どうやって居場所を追いかける? 仮に発信機を付けたとしても電波の届かない場所に行かれたらお終いだよ」
「それに関しては我に考えがある」
すると黎の後ろから小さな子供がひょこりと顔を出した。
「こんにちわなのです」
舌足らずな口調で挨拶をしてきたのは、黎をモデルに3頭身デフォルメをしたかのような小さなゆる族だ。
名はあい じゃわ(あい・じゃわ)。身長も30cmほどしかない彼は、まるでぬいぐるみのようにも見えた。
「この子は?」
密かに眉をひそめたルドルフに向かって黎は、わずかに口角を上げた。
「実は…」
クナイ・アヤシ(くない・あやし)は、無言で俯きながら首筋に手を当てている清泉 北都(いずみ・ほくと)に視線を向けた。
浮遊島に救出に向かう飛空艇の中で、クナイたちはとある事件に巻き込まれた。
薔薇の学舎内に「鏖殺寺院の関係者がいる」と考えた神無月 勇(かんなづき・いさみ) とミヒャエル・ホルシュタイン(みひゃえる・ほるしゅたいん) が、その証拠を探そうと強引に身体検査を実行しようとしたのだ。
北都の首筋にはかつて鏖殺寺院幹部スティグマータによって付けられた紫痕が、うっすらと残っている。
しかし、これは北都が望んで付けられたものではない。
むしろ忘れ去りたい屈辱の記憶だ。
同行していた明智の機転で、紫痕が人目にさらされることはなかったが…。
恐らく、あの場にいたすべての者が、鏖殺寺院関係者だと疑われたような気分になっただろうし、少なくとも北都はそう思っているようだ。
その証拠に、チラリと盗み見た北都の顔に表情はない。
沸き上がる感情を抑え込もうとするあまり、表情が消えてしまっているのだ。
黙々と自分に科せられた任務を果たそうとしているが、あれからずっと必要最低限のこと以外、口を開こうとはしない。これは末期症状である。
どうしたものか…と考えているとクナイの視界に、サロンの奥でパソコンをいじる神無月 勇(かんなづき・いさみ) の姿が移った。
電波が届かないためインターネットを通した調べ物はできないが。
彼は何を調べているのか。
何をしようとしているのか。
胸騒ぎは治まらないが、できれば同じ学舎の生徒を疑いたくない。
例え相手がこちらを疑っているのだとしても。
ただ、最近普通に笑うようになった北都の心を再び閉ざすようなことだけはしないで欲しい…とクナイは切に思った。
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