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リアクション
「さっさと修理を済ませて、バイクさんの所に行くよ〜」
脚立に上った朝野 未沙(あさの・みさ)は、手にしたスパナを振り回した。
先ほど顔見知りの薔薇学生から、捕虜の一人にバイク型機晶姫がいることを聞いた未沙は落ち着かない。
バイク型機晶姫と言えば、頭に浮かぶのはただ一人。
友達でもあるハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)だけだ。
彼が何故、潜んでいたかも気になるが、この機会にぜひ彼と意思疎通を図ってみたいと思うのは、マッドサイエンティストの性であろうか。
ただその前に未沙には、不時着した飛空艇の「修理をする」という重大な任務があった。外務大臣には雪之丞たちの飛空艇に移動してもらうことになっているようだが、不時着したすべての生徒たちを乗せるには小さすぎる。
空賊の再襲撃もないとは限らない。
壊れた飛空艇を急いで修理をする必要があった。
「お〜い、換えの部品を持ってきたぞ」
声を掛けてきたのは、シャンバラ教導団輸送科所属の佐野 亮司(さの・りょうじ)だ。彼が引っ張っているカートにはプロペラが入っている。
小さな部品が入った箱を抱えたシオ・オーフェリン(しお・おーふぇりん)も一緒だ。
「ありがと〜」
朝野 未羅(あさの・みら)と朝野 未那(あさの・みな)が部品を預かろうと、素早く二人に駆け寄る。
「俺が下ろすから待ってろ」
カートからプロペラを下ろそうとする未羅を亮司が気遣うが、彼女はニッコリと笑って首を左右に振った。
「大丈夫ですの!」
未沙の妹ということになっているが、未羅は機晶姫である。
見た目の割に力があった。
「お姉ちゃん、そっち持っていくの」
自分の身体よりも大きなプロペラをヒョイッと持ち上げると、小走りで未沙の元へと運んでいく。
「すごいな、おい…」
呆れる亮司に、未那が遠慮がちな声で話しかけた。
「あの…佐野さん、捕まったバイク型機晶姫って…?」
どうやら彼女もまた気になっていたようだ。
「あぁ、やっぱりハーリーだったみたいだぜ。でも薔薇学連中の警備が厳重で、関係ない奴が近づける様子じゃねぇや」
藍澤 黎(あいざわ・れい)によって拘束されたバイク型機晶姫ハーリー・デビットソン(はーりー・でびっとそん)は、あまりにも有名だった。
すぐに身元が判明したのは幸いだが、潜入していた目的や背後関係を考えると頭が痛い。薔薇学生たちが躍起になるのも当然だろう。
「ん〜残念ですぅ…」
「ま、俺達は俺達の仕事をやるしかねぇな」
しょぼくれる未那の肩をポンッと叩き「じゃ、俺は次の部品を運んでくるから」と亮司が踵を返そうとしたそのとき。
「あーグラサン闇商人、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
飛空艇の影からのっそりと姿を現したのは、亮司と同じ教導団に所属する林田 樹(はやしだ・いつき)だった。
まるでこちらを値踏みしてるかのような視線を向けられ、亮司は少しムッとする。
ただ断る理由もなかったので、了承の意を示す。
「まぁいいけど」
しかし林田はこの場で詳しい話をするつもりはないようだった。
「着いてこい」と横柄な態度で顎をしゃくると、スタスタと歩きはじめる。
甲板から降ろされた縄ばしごを昇り、船内へと続く扉を開け、階段を降りていく。
林田が向かった先は、飛空艇の貴賓室だった。
目的地に気がついた亮司は、ギョッとした顔で林田の袖を引っ張る。
「お、おい。いいのかよ?!」
林田は廊下で警備をしていたローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)
とジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)に一礼すると、貴賓室の扉を無造作に開けた。
貴賓室の中に入るなりまず目に入ったのは、ハイサム外務大臣だ。
まさか自分のような下っ端がこのような場所に連れて来られるとは思ってもみなかった亮司は動揺を隠せない。
「…ど〜も」
とりあえず被っていた帽子を脱いで大臣に頭を下げると、さり気なく室内を観察した。
警備担当者であるクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)やローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)、ジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)、接待要員の七瀬 歩(ななせ・あゆむ)たちが同席しているのは当然だろう。
しかし何故、自分と同じ教導団員のルカルカ・ルー(るかるか・るー)までこの場にいるのだろうか。
…嫌な予感がする…。
そう思った亮司が無意識に身構えたとき、林田が徐に口を開いた。
「大臣を襲ったのは、どうやらライオンの花嫁らしいんだ」
『ライオン』とは、林田がレオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)に付けた渾名だ。
林田の思わぬ言葉に亮司は頭をガシガシとかいた。
「何やってんだよ、アイツら…」
「お前は何か聞いているか?」
その場にいた全員の視線が亮司に集まる。
今後の商売のことも考えれば、ここは情報を提供する方が得策だろう。
亮司は即座に頭の中でそろばんをはじいた。
「できればオフレコにしておいて欲しいんだけどさ。まぁ…無理か…」
この場にはクライスやミゲルといった薔薇学勢もいる。
教導団ほど規律は厳しくないかもしれないが、彼らとて上官への報告義務があるだろう。
小さなため息をひとつつくと、亮司は自分が持っている情報を披露した。
「レオンは囮捜査だって言ってたぜ。奴からのメールに気付いたときには、飛空艇墜落の連絡が入ってきてたけどな」
「囮捜査というならなぜ、シルヴァやルインが大臣を襲うんですか!」
亮司の言葉に同じく教導団員のルカルカが顔色を変える。
「そこまでは知らん。もしかしたら囮捜査だって言うのは嘘で、本当に協力しているっつう可能性もないとは言えないしな。こればっかりはアイツに直接聞かなくちゃ分からねぇよ」
あっさりと言い捨てる亮司に、ルカルカの動揺は治まらない。
震えを抑えるように両手で自らの身体を抱きしめると、大きく頭を振った。
「…私は…私は…」
ルカルカは高鳴る鼓動を抑えようと、胸に手を当てる。
本当に囮捜査をしているのならば自分も協力したい。
だけど、もしも違うと言うのなら…。
レオンハルトの真意を知りたい。
ルカルカはその想いを抑えることができなかった。
突然、すくりと立ち上がると、猛然と部屋の外に走り去る。
「お、おい?! ルカルカ!」
林田たちが自分を呼んでいるのは聞こえたが、ルカルカは振り返らないままその場を駆け抜けた。
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