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リアクション
イリヤ分校の戦い1
五千人のシャンバラ人とゆる族の騎馬隊を率いてきたバズラ・キマク。
その騎馬隊には、途中からおこぼれをもらおうと賞金稼ぎが加わり、今では一万近い軍勢になっていた。
その中に、ドルチェ・ドローレ(どるちぇ・どろーれ)も潜り込んでいた。
彼女は本体の後ろのほうにつき、たまたま横にいたシャンバラ人へ話しかける。
「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど、生徒会副会長の鷹山剛次ってどういう人か知ってる?」
ゴーグルで顔の半分しかわからないシャンバラ人の男は、呆れたように答えた。
「そんなことも知らないのか? あの人は事実上の生徒会支配者だよ。噂では生徒会長にベタ惚れで言いなりだってのもあるけどね。でも、俺達なんか及びもつかないほどの切れ者さ」
「そうだったの。じゃあ、もう一ついいかしら……ごめんなさいね、入学したばかりなのよ。先輩みたいな人がいてよかったわ」
「……何だよ、言ってみろよ」
優しげな顔立ちの女に感謝をこめて微笑まれて悪い気のする男はいない。
「生徒会に興味があるんだけど、さっきの質問でわかると思うように副会長の名前くらいしか知らないの。会長のお名前とか他のメンバーのこととか教えてくれると嬉しいわ」
「しょうがねぇな。会長は西倉南。俺も名前しか知らねぇんだ。表に出てこないんでね。それから監査役の百緩夜行。数千体のゆる族の集団だ。リーダーが誰なのかはわからねぇな。何たって数千体だ。人の名前じゃなくて現象の名前なんだよ。俺が知ってるのはこれくらい。……あんまり役には立たなかったかな?」
「いいえ。ありがとう」
照れた彼が調子に乗ってドルチェをデートに誘おうとした時、バズラの命令が飛んできた。
どちらもバリケードを敷いてある生徒会側とイリヤ分校側のほぼ中間地点で、何度目かの小競り合いが起こっていた。
「我こそは不死身のジークフリート! この名を恐れぬ者はかかってくるがよい!」
「燕人張飛とは俺のことだ! 不死身だと? しゃらくせぇ!」
シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)と張 飛(ちょう・ひ)がお互いを挑発しあう。
小隊を率いて攻撃を仕掛けては引き、仕掛けては引き、と分校側を苛立たせる戦法をとるシグルズ。司馬懿 仲達(しばい・ちゅうたつ)の作戦に基づいての方法だった。
その司馬懿は、本隊にいる。気の短い張飛が出てきたことに、うっすらと笑みを浮かべた。
「そのまま引きずり出してくるのだ……!」
シグルズの挑発に乗り、張飛がこちらに攻め入ってきた時が彼の終わりの時だと確信する。
実際、張飛は彼の勢いに押されて退却するように見せかけたシグルズを、さらに追い詰めようと突っ込んできていた。
ところが。
「待て張飛! 戻れ!」
ガイウス・バーンハート(がいうす・ばーんはーと)が邪魔をした。
すると、バリケードの内側から張飛を援護していた月島 悠(つきしま・ゆう)も、機関銃と光条兵器のガトリング砲による掃射の手をいったん止めて大きく腕を振る。
「いいから戻れ! 突出するな!」
悠に言われては仕方がない。
それに、これは防衛戦だ。ここで義兄弟である劉備に会った時にそう言われたではないか、と張飛の頭は冷えて、それでも憎々しげにシグルズを睨みつけると悠のもとへ戻っていった。
「逃げるのか、英霊の名が泣くぞ!」
「このっ……!」
歯軋りする張飛の背を、なだめるように叩く手があった。
「いったん隊を立て直せ」
短く言い、立派な駿馬を飛ばす弐識 太郎(にしき・たろう)。
悠がすぐに二機の銃器で援護射撃の体勢に戻る。
荒っぽい援護を受けながら太郎はシグルズの隊の後方に襲い掛かった。
「弐識太郎、推参!」
腿でしっかり馬を制御し、鉄甲を装備した拳で手近のモヒカンを馬から叩き落す。
スッとずらした視線の先でシグルズと目が合った。
シグルズが合図の手を上げると、生徒会側のバリケードから火炎瓶が次々に投げられてきた。
太郎は横から薙いできた血煙爪をかわして馬首を返すと、別方向から繰り出された槍を奪って振り回し、シグルズへと放つ。
それは彼の高周波ブレードにより真っ二つにされてしまったが、太郎は薄く笑って引き返した。
バリケード内に引き上げてきたパラ実生の治療に当たっていた道明寺 玲(どうみょうじ・れい)は、張飛と太郎の姿をみとめると二人のもとへ近づき、怪我はないかざっと診た。
「かすり傷程度ですな。向こうはまだ本隊を動かしてくる気はないようです。一息いれましょう」
武人である張飛は当然ながら、女王の加護を得て戦う太郎も手当ての必要もないほどピンピンしていた。
玲は共に怪我人の手当てをしていたレオポルディナ・フラウィウス(れおぽるでぃな・ふらうぃうす)に一言残すと、バリケードから離れたところでどこからともなくティーセットを現し、二人に勧めた。
「レオポルディナが食事の用意もしておきましたよ。簡単におにぎりですがね」
ふと、玲の送った視線の先を見れば、手当てに忙しいレオポルディナの代わりに劉備がおにぎりとお茶を分校生達に配っていた。
その姿に張飛がひっくり返りそうになる。
「兄者! 兄者自らそんなことしなくても……!」
愕然とする張飛は放っておいて、太郎はおいしい紅茶に一息つくと玲に聞いた。
「治療とはいえ、あまり目立たないほうがいい。……隠れていたいんだろ?」
「それは弐識太郎とて同じでしょう? それとも、この分校のためにあのような挑発行為をしたのですかな?」
「まさか。俺はただ、ちょっと運動したかっただけだ」
「私もちょっとした戦闘訓練ですよ」
お互い、そういうことにしておいた。
張飛と太郎が休息をとっている間、入れ替わりでルカルカ・ルー(るかるか・るー)達が前線に立っていた。
現在険悪な関係にあるパラ実と教導団だが、ルカルカはせめて乙王朝と教導団の関係は良くしておきたいと思っていた。
何より、同じ教導団の友人もいるし、パラ実の友人の命が危険にさらされていると知っては黙っていられなかったのだ。
ミツエ捜索に向かった人達の成功を信じ、自分達は友人や英霊達を守らなければと思っていた。
けれど、このことをもし上に報告するとしたら。
「乙王朝にはある程度力を保っていてもらいたい。敵の敵は味方ではないが、乙王朝は団にとって有用……か。友達を助けるのに方便が必要だなんて、難儀ね。教導団て」
「物事には複数の側面がある。彼らを守りたい気持ちも本物なら、恥じる必要はない」
独り言のつもりがダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)に聞こえていたらしい。
ルカルカは頷いて微笑んだ。
二人から少し離れた位置で戦う夏侯 淵(かこう・えん)がヒロイックアサルトの力を発揮して、敵騎兵を一斉掃射した。先ほど火炎瓶を投げられた仕返しに、と諸葛弩で火矢を放つ。
玲とレオポルディナが治療に当たった者の半分が火傷だ。今度は生徒会側が火傷を負う番になった。
淵の横では曹操がシグルズと張飛のやり取りを真似て、大声で名乗りを上げて笑っている。
うっかりそこに突っ込めば、離れた後方にいるカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)のファイアーストームが飛んできただろう。
その被害が少なかったのは、シグルズがよく抑えていたからに違いない。
カルキノスは戦場における独特の高揚感とは違う気分の高まりを覚えていた。
それは、彼が興味を傾けている歴史に対するものだった。
強さが全てであるパラ実において、圧倒的強さで支配権を握っていた生徒会に、新たな勢力が立ち上ろうとしている。潰されるかもしれないし、逆に生徒会を潰すかもしれない。
仮に乙王朝が完膚なきまでに叩かれミツエが処断されたとしても、生徒会に対抗する勢力があったことは消すことはできないはずだ。生徒会がパラ実の歴史から消そうとしても、周りの者が覚えている。
「歴史の節目にいて、その現場に参加できる……こんなおもしれぇこと他にないだろ」
低い笑いと共に呟かれた言葉は、誰にも拾われることはなかった。
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