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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

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吉兆の行方


 一方こちらは虹キリン捜索組。
「ボクを置いていくから、キリンさんとはぐれちゃったんだからねー」
 後ろから聞こえる恨めしげな声に高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)がため息をついたのは何度目か。
 キリンとはミツエ暗殺のために『中国のエライ人』とやらが放った虹キリンのゆる族である。
 それも今は虹キリンと仲良くしたいという人達の努力により、すっかり毒が抜けてアイドルになっている。
 先日の戦いで行方不明になってしまったのを、レティシア・トワイニング(れてぃしあ・とわいにんぐ)の強い要望で探しに出たのだ。
 悠司にブツブツと文句を言うレティシアの隣には、同じ目的で途中で合流した緋桜 ケイ(ひおう・けい)がいる。
「パートナー置いてっちゃダメだろー」
「そうだよ、ダメだよ。そんなことするから賞金首になるんだよ。……あ、悠司を餌にすれば何か有力な情報もらえるかも」
「そりゃいい考えだ。この辺に検問所はあったっけ?」
「おまえら……」
 胡乱な目を向けてくる悠司に、レティシアとケイは声をそろえて冗談だと言った。
「けどまぁ、たかが1万Gに血眼になる馬鹿も多いわけで……いちいち逃げ隠れしながら探すってのも面倒だな。……よし」
 何かを思いついたらしい悠司は、手帳に乱暴に何やら書きつけると、それで石を包んで丸めてニヤリとした。
「さっき、教導団のボロい出張所を通り過ぎただろ? 戻るぞ」
「え? 何で? まさかお縄になりに行くの?」
「れち子が身代わりにね」
「えぇーっ!?」
 騒ぐレティシアを置き去りに、さっさと行ってしまう悠司。
 ともかく追うしかない、とレティシアとケイは追いかけた。

 一本だけぽつんと立った木の横に、その出張所はあった。
 ガラス戸は閉められていて、外から見た感じ団員は奥の部屋に引っ込んでいるようだ。
 悠司は石を包んだ紙をガラス戸めがけて投げた。
 派手な音を立ててガラスが割れ、奥の部屋から団員が飛び出してくる。
 悠司達は出張所の後ろに回りこんで様子を窺った。
「……何なんだいったい。ん? 投げ文か? 何々……我々パラ実生徒会は、地球人による文化侵略を決して認めない。近々、汚染されたイリヤ分校の浄化を行う。侵略者とその協力者は自らの行いを悔いることになるだろう……何だこりゃ? 悪戯か? パラ実同士の戦争なんて関係ねーや。そんなことより、と……」
 団員は犯行声明分をポイッと捨てると、また奥に引っ込んでいってしまった。
「おいおい、パラミタの治安を守るのが教導団の仕事じゃないのかね?」
「こんなとこにいると、規律も緩んで団員もパラ実に馴染むんじゃねぇの?」
 悠司とケイは共に呆れ顔である。
 治安維持のために教導団を引っ張り出して、ついでに賞金稼ぎ達もしょっぴいてもらおうという悠司の狙いはこの団員のせいで失敗してしまった。
 自分の身は自分で守るしかないと悟った悠司は、諦めてまた荒野を歩く。
 そもそも何で自分が危険を犯してまで、という不満は残るが虹キリンのことを少し考えてみると、違う懸念も出てくる。
「あいつ、また精神不安になって腐らせてなきゃいいけど……」
 ふと漏らした時、ケイのアッという声が響いた。
「あそこ、何か揉めてるぜ。賞金首の誰かが襲われてんのか?」
 言うなり駆け出すケイ。
 だが、すぐに揉め事の中心にいるのが探している虹キリンであることがわかった。
 悠司がレティシアに目くらましをかけるように言うと、彼女はバニシュを放った。
 一緒になって目が眩んでいる虹キリンを、ケイがパラ実生の中から引っ張り出して逃げた。
 追っ手がいないことを確認して彼らはようやく足を止める。
「アブナイトコダッタ。オレノ ヒッサツワザガ サクレツシソウダッタゼ」
「いやいやいや、あんたを戦わせるなんてこと、もうしないよ」
 かわいらしい外見からは想像もつかないが、虹キリンは気功の達人であった。
 それでもケイは虹キリンを戦わせたくなかったのだ。
 新しい生き方をさせてやると約束したからだ。
「もう安心だね。後はイリヤ分校を守るのみ!」
「ソコニ ミンナ イルンダナ。ヨシ イクゼ!」
 元気良く拳を掲げたレティシアに続いた虹キリンを、待て待てと悠司がおさえる。
「今の分校に行くのは自殺行為だ」
「けど、吉兆であるキリンが行けば運が向くかもしれないぜ」
「……マジで言ってる?」
「……キリン違いだとは思うけど。でも、ちょっとくらい信じたっていいだろ?」
 話し合う悠司とケイだったが。
「おーい! 置いてくよー!」
 いつの間にかレティシアと虹キリンは先に進んでいた。
 行くしかないようだ。