リアクション
卍卍卍 「……チッ、通っていいぞ」 街道に設けられた検問でパラ実生が忌々しそうに舌打ちして、立派な馬に跨ったどこかの豪族の男と、彼に縄で繋がれたボロボロの身形の奴隷を通した。 確認のしつこかった検問を通過した豪族の男は、それが気に入らなかったことを八つ当たりするように奴隷の縄をやや強く引っ張った。奴隷は小さく呻き声を上げ、つんのめるようにして歩みを速める。 しばらくそうして街道の轍に沿って進み、やがて検問が見えなくなると男は馬の足を止めた。 「ミツエはよく通過できましたね……」 使い古したマントのフードを後ろへ下ろし、煤けた顔を露わにしたのは桐生 ひな(きりゅう・ひな)だった。 駿馬とわかる立派な馬に乗る豪族の男は李厳 正方(りげん・せいほう)だ。 ミツエ捜索にあたり、ひなが賞金首であるためこうして変装してきたのだ。 「どこで引っかかるか不安ですな。急いで見つけませんと」 「はい。行きましょう」 とは言うものの、どこで賞金稼ぎの目が光っているかわからないため、二人は気を抜かず演技を続けたまま荒野を歩き始めた。 ひなと李厳が通過してから少し後、その検問はざわついていた。 賞金首が一人連れてこられたのだ。 「本当に本物だな、よくやった。カネは金剛にある本部で支払う。案内するからついて来い」 モヒカンパラ実生の後について捕まえた賞金首の風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)を引っ張って歩くドラうぇぽん 壱号(どらうぇぽん・いちごう)。 その様子は風間 光太郎(かざま・こうたろう)によって携帯写真に撮られていた。 わずかに雑草が生えている岩場で。 「よし、送信完了でござる。あとはノヴァがうまくやってくれるでござろう」 「そうかそうか、それは何よりアル。終わったなら市場に行くアルよ。こんな殺風景なとこに長時間いたら頭がおかしくなるアル。女の子をナンパしに行くアルよ〜」 光太郎のやることに興味が失せた様子の幻 奘(げん・じょう)はあくびしながら言った。 その時、音もなく伸びた手に玄奘の口がふさがれた。 彼に背を向けている光太郎はまだ気づかない。 「また師匠はそんなこと言って……。この辺の女の子はしたたかでござるから、たかられて捨てられるのがオチでござるよ。──あれ? 師匠?」 いつもなら間髪入れずに反論が来るはずなのに、何の反応もないことを不審に思った光太郎が振り返る。 誰もいなかった。 まさか本当に市場に行ったのかと携帯をポケットにしまって立ち上がった時、後頭部を強く殴られて光太郎は気を失った。 遠くなっていく意識の向こうで、 「逃げやすくしておくからな……」 そんな呟きを聞いた気がした。 卍卍卍 襲撃者の最後の一人を打ち倒した諸葛涼 天華(しょかつりょう・てんか)は、うっすらとにじんだ額の汗をぬぐい、肩にかかった長い三つ編を背に払う。 「何なんだ、こいつらは。物取りにしてはいやに熱心な……」 ミツエを探して荒野に踏み込んでからというもの、天華はろくに休む間もなくパラ実生の手荒い歓迎を受けていた。 「おい、モヒカン。私はずいぶん執拗な攻撃にあってるが、いくら何でも攻撃的すぎやしないか? 貴様らに恨まれる覚えはないのだがな」 呻き声を上げているパラ実生の一人の胸倉を掴みあげ、凄味をきかせて尋ねた天華に彼は苦痛に顔をしかめながら途切れ途切れに答えた。 「何だ……知らねぇのか。あんた、賞金首なんだ……よ。捕まえたら、1万Gだ……へへ」 「……そういうことか」 天華は突き放すように男から離れると、どこにいるのかわからないミツエを思った。 途中で手に入れたほてやみつえの外見を思うとため息が出る。 「ミツエ、それでは一部のパラ実生しか欺けないだろうに……」 ひなが気をもんだのも、このことであった。 |
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