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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

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横山ミツエの演義乙(ゼット) 第1回/全4回

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 ここにも、ほてやみつえを探している一団があった。
 もっとも、その内一名は。
「あ〜あ……もぅ。玄徳様も仲謀兄もいないし」
 身内の捜索をしていた。
 楽しみにしてきたのだ。旦那と兄に会えると思って。
「それなのに……砂、石ころ、岩、埃、雑草、何かの残骸、賊、メガネっ娘……」
 周囲にあるものを一つ一つ虚しさを噛み締めて挙げていった孫 尚香(そん・しょうこう)は、最後に口にしたものに自分で驚いた。
「賊、メガネっ娘……伝国璽!?」
 声を裏返らせて叫んだ尚香は、少し離れた大きな岩の影で休憩を取っている三人の連れのうち、朝野 未羅(あさの・みら)の名を呼んだ。
「未羅ー! 未羅、未羅、未羅っ、ちょっと来ーい!」
 ブンブンと両手を大きく振って「早く!」と意思表示をすると、未羅はパタパタと駆けてきた。
「ねぇ、あそこで賊と戦ってる数人がいるじゃん? あの中の馬に乗ってる制服の子が持ってるやつ!」
「あの、電撃発してるやつね?」
「そうそう。あれって伝国璽じゃないかな!?」
 未羅は小さく唸ると、頼れる姉の朝野 未沙(あさの・みさ)へと判断を求めに戻った。尚香も追いかける。
 機晶姫である未羅に搭載されているメモリープロジェクターから投影されたパラ実女子の手にあるものをじっくりと見た未沙は、未羅と尚香に向けて「よくやった!」と親指を突き出した。
「きっと伝国璽よ。すぐに行かなくちゃ。未那、メンテは終わった?」
「終わりましたですぅ」
 額の汗も爽やかに朝野 未那(あさの・みな)が笑顔で答える。
「よし、早く乗って。行くよ!」
 言った時には未沙はもう戦闘用機晶バイクのエンジンを吹かしていた。
 未那は急いで工具を片付け、サイドカーに乗り込む。
 未羅は、未那が整備していた機晶バイクへ、尚香は軍用バイクへまたがり、伝国璽を見つけた尚香が先頭になって四人は荒野を走った。

 尚香が何かの残骸と思ったのは、崩れて風化しか建物の成れの果てだった。
 どんな建物だったのか、何のためにあったのかはもうわからない。
 戦闘は、その残骸を挟んで行われていた。
 魔法使いとパラ実女子で賊の接近を阻み、不用意に近づいた者はマッチョな初老の男が剣を弾き飛ばしたり、手刀で気絶させたりしていた。
「そこの賊共ー! その人から離れなさーい!」
 声を張り上げる未沙が氷の礫を賊に放つ。
 さらに違う一団の声も。
「あたし達も加勢するよっ」
 カッと辺りに閃光が走る。
 その場の全員が眩しさに目が眩んだ。敵も味方も関係ない眩しさだった。
「葵さん……」
 何とも言えない顔で光術と光精の指輪を同時に使った葵を見つめるエレンディラ。
 その隙に周瑜は賊を気絶させていったのだった。

 視力が回復すると一行はすぐに場所を移した。
 馬から下りたほてやみつえを守るように、邪堂とカナタが立つ。
「して、おぬしら何の用じゃ?」
「ミツエさんを守りに来たんだよ。無事にイリヤ分校まで送ろうと思ってね」
 睨みをきかせる邪堂に対抗するように、キッパリ答える未沙。
「おぬしの言うミツエは横山ミツエであろう? この方はイラストレーターのほてやみつえじゃ。人違いじゃ」
 言い切るカナタから、未沙はみつえの手の伝国璽に視線を移した。
「でも、その伝国璽……」
「これは痴漢撃退用の携帯ストラップよ。伝国璽じゃないわ」
 みつえがササッとポケットにしまう。
「だいたいおぬしら、この前は戦車隊を率いてミツエの邪魔をしておったではないか。今度は生徒会に突き出すつもりで探しておるのか?」
「違うよっ。あたし、賞金にだって興味ないし。あたしはただ、中原制覇した時の報酬が配下達にミツエさんのおっぱいを揉ませることだって聞いて、そんなの絶対ダメだと思ったんだもん。だって、それが実現したら、ミツエさんは無数の男におっぱい揉みくちゃにされちゃうんだよ。考えただけで鳥肌が立つよ。あなたも女ならわかるでしょ?」
 未沙は一気にまくし立てた。
 もっともな理屈にカナタは言葉に詰まる。
「女の子の体は、何かの報酬していいものじゃないんだよ。絶対に。同性同士で絡み合ったり……将来、好きになった人に捧げるためにあるんだもん」
 未沙はメガネの奥のみつえの目をじっと見つめた。
 表情の変わらない彼女からは何も読み取れなかったが、敵意や警戒心は感じられなかった。
 邪堂もそう思ったのか、肩の力を抜いて息を吐き出す。
「さて、どうしますかな?」
 みつえへ顔を向けた邪堂へ、彼女は頷いて答えた。
「あたし、好きになるのは男の人だけど、あなたの言うことはもっともだと思うわ。そもそも『おっぱい三国志』なんていかがわしいゲームが出回るから……」
 続編まで出てるし、とブツブツ言った時。
「ミツエ、成長したようじゃの!」
 ひょこっとナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)が顔を出した。
 そして当然のように、ごく自然にミツエの胸の大きさを確かめるように叩く。
「うんうん。教胸係に就いた時は、この胸を育てられるかと多少の不安はあったが、順調ではにゃいか。さすが、わらわのゴッドフィ」
 みつえに口をふさがれたナリュキはモガモガ言いながら暴れる。
 放っておいたら話がどんどんそれいく故の対処だった。
「おっぱいの話はやめにして、まずはお礼を言うわ。探しに来てくれてありがとう。ヘンなのが多くて難儀してたのよ」
 みつえはミツエの顔になった。
 ショックを受けたのはカナタだ。
「ごめん……早くに言えば良かったんだけど」
 愕然としているカナタに、ミツエはどう言葉をかけるか悩んだが、自分が原因なだけに謝罪の言葉しか浮かばなかった。
「みんながいれば心強いわ。イリヤ分校に向かうわよ」
「着くまでは、みつえさんでいたほうがいいと思うよ」
 葵の提案をミツエは受け入れた。
 その頃尚香と周瑜は、ミツエ達のやり取りなどそっちのけで再会を喜び合っていた。