校長室
嘆きの邂逅(最終回/全6回)
リアクション公開中!
「怪我人や非戦闘員がいる塔を護らなければなりません〜。前に出ますよぉ」 神代 明日香(かみしろ・あすか)は命のうねり、そしてメイドインヘブンで戦場の皆を癒していく。 余裕のなかった兵士達の顔に、少しだけ安堵の色が浮かんでくる。 「明日香さん、これを持っていて下さいね」 心配そうな顔で、カルロ・デルオール(かるろ・でるおーる)は禁猟区で作り出したアミュレットを明日香に渡した。 明日香が無茶をする娘だから心配に思ったことと……再び訪れたこの地の空気がカルロに不安感を与えた。かつて、封じて逃げることしか出来なかった場所だから。 「大丈夫ですぅ」 明日香は自分より10以上年上の彼に微笑みかけて、頷くと前へ前へと進み、前線へ向う。 「助けに参りましたわ!」 共に地上から訪れたイルマ・レスト(いるま・れすと)はライトを持って、朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)に駆け寄る。 「イルマ!?」 驚きながらも千歳は気を抜かず、敵の攻撃を雅刀で受ける。 イルマは暗所恐怖症だ。太陽の光が一切届かないこのような場所には絶対来たくはなかったはずだ。 「暗がり駄目なのに、無理するな……」 千歳がそう言うと、イルマは首を左右に振る。 「思ったより暗くありませんし……」 それに、自分が危険な目に合った時に、千歳は助けに来てくれたから。 いつまでも自分だけ安全な場所で椅子を温めてばかりいられないと、勇気を奮い起こして増援に志願したのだった。尤も本部や地上も安全とはいえなかったけれど。 「さあ、倒してしまいましょう!」 イルマはディフェンスシフトで皆を護り、ライトブレードでアルティマ・トゥーレを放った。 「砕けて消えろ!」 即座に、千歳が爆炎波を放ち、イルマの攻撃で動きの鈍った敵を炎の一撃で打ち砕き倒した。 「大丈夫だ、この人数なら十分戦える。非契約者と塔の中の仲間に被害が及ばないよう戦おう」 「ええ、ヴァイシャリー魂で乗り越えましょう」 強い眼で頷きあい、千歳とイルマは敵に斬り込んでいく。 戦闘音を聞きつけた光条兵器使いも次第に交ざり、威力のある遠距離攻撃も時々放たれるようになっていた。 「物資も届いてますので〜、武具が壊れた方も一旦退いて装備を整えてくださいね〜」 明日香は皆にそう声を駆けながら、積極的に前に出て、敵の注意を引いていく。 近場の敵の攻撃を躱しながらも、中距離、遠距離攻撃を受けたりしないよう盾で体を護っておく。 「無茶は……しないでといっても、無理でしょうね」 カルロは後方から、主に明日香を護るべく魔導弓を引く。 矢は明日香を遠方から狙っていた光条兵器使いの胸を射抜く。 明日香は振り向いて、カルロにウィンクする。ありがとうの意だ。 カルロは軽く苦笑した。緊迫した状況だけれど、明日香に向けられている彼の目は優しかった。明日香はすぐに視線を前に戻す。 「そこですぅ!」 そして近づいてくる敵にエイミングで狙いを定め、胸部を撃ち抜く。 「止めだ!」 千歳が踏み込んで、刀を叩きつけその石像を砕いた。 「千歳さんも気をつけて下さい〜。軽装備ですし〜」 「大丈夫。イルマもいるしな」 千歳の言葉に、イルマがくすりと微笑んだ後、迫る人型兵器の腕を落とす。 痛みを感じないその兵器達は、体の一部を破壊されてもなお、こちらに向ってくる。 明日香が足を打ち抜き、倒れた兵器の体に、千歳が刀を振り下ろし破壊した。 「強そうな像です〜」 続いて、明日香は遠くに見えるドラゴンの形をした像を狙う。 スナイプの技能で、敵の頭部を狙う。 頭部を破壊されても敵は変わらず動く。明日香は横に走って、斜め前方から体を狙う。 盾を持っているとはいえ、銃を撃っている時は防御にそう集中が出来ない。 「突出しないようにして下さい」 カルロが声をかけつつ、明日香をサポートし、明日香に迫る敵を射抜いていく。 長期戦に備え、力をセーブしつつも、忌まわしき過去の遺物を正確に確実に1撃で仕留めていた。 「ハンス、魔法的に治癒できる者を、緊急度の高い者から治癒していってくれ」 「判りました、クレア様」 クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)は、東の塔で、到着した物資に関する指示や軍人への伝達を行った後、合流したパートナー達に指示を出していく。 「パティ、百合園の生徒達は疲労の極に達している。フォローしてやってくれ」 ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)は、瀕死の軍人へと近づき、パティ・パナシェ(ぱてぃ・ぱなしぇ)は気の抜けたような表情の百合園生の元に走った。 「皆さん、頑張りましたね〜。もうひと頑張りしましょうねぇ」 パティがそう声をかけると、百合園生達は「はい」と返事をするものの、疲労と緊張で既に限界を超えていると思われる者が多かった。 「もう少ししたら、落ち着きますよ〜。地上から荷物も人も届きましたけど、皆がちゃんと頑張らないと落ち着くのが遅くなってしまいますよ〜」 そう声をかけながら、パティはまず疲労の色が濃い百合園生をヒールとSPリチャージで癒していく。 「直ぐ行きますよ、しっかりしてくださいねぇ」 そして、呻いている怪我人の元にも急ぎ、応急手当、ナーシングで治療を行っていく。 百合園生達も、気力を振り絞りパティと共に手当てを続けていく。 「もう大丈夫ですよ」 入り口付近に寝かされている重体者の下に駆け寄ったハンスは、一番重傷な兵士に一角獣の角を使う。命を取り留めた兵士とその周辺に寝かされている人物達にリカバリをかけていく。 「怪我の状態が思わしくありません。直ぐに別邸で診てもらってください」 なお処置が必要な重傷者は別邸に運ぶよう指示を出す。 そして、次の重傷者の元に駆けつけて、ハンスは命を繋ぐための治療を心がける。 「エイミー、『怪我の原因』を潰して来い」 「アイサー。元から断たなきゃダメ、ってな」 クレアは最後の1人のパートナーにはそう指示を出した。 「持ってきた火器類はここにおいておくよ」 予備の火器類を銃火器が並べてあるところにどさりとおいて、エイミー・サンダース(えいみー・さんだーす)は塔から飛び出していった。 (ここに転送が行われたということは、敵もここに転送を行うことが可能になったということ) クレアは声には出さず、思考をめぐらしていく。 また、ソフィアが敵側にいるということは……北塔に集まっている敵主戦力も、テレポートで送られてくる可能性があることに気付く。 塔内に直接、などということはないと思いたいが。 増援により、救援に向った者達の穴は十分埋められた。戦況報告もかなり優勢という報告が届くようになった。 しかし一気に悪化する可能性もある。 引き続き禁猟区や殺気看破で注意を払いながら、いかなる事態にも冷静でいようと、クレア自身も更に気を引き締めた。