リアクション
〇 〇 〇 ガシャン 窓ガラスが割れて、機晶姫のような人造兵器の腕が、別邸内に入ってきた。 ドカン ベリッ 大きな音が響き渡り、壁が崩れて巨体の魔道兵器がの拳が入り込んでくる。 窓に近い場所にいた怪我人、そして治療に当たっていた者達、百合園生が負傷して命からがら逃げ出す。崩れた壁の下敷きになり、必死に逃げ出そうとしている怪我人もいる。 別邸の南側。光条兵器使いが時折見られるだけだった場所に、突如大軍が現れたのだ。 百合園生達はパニックを起こす。多少冷静なものは、北塔からテレポートで送られた兵器だと理解するが、戦って追い払える数ではないことも同時に理解する。 「防衛線のメンバーをこちらに!」 休憩に戻っていたナナ・ノルデン(なな・のるでん)が壁に穴を開けた敵に、ドラゴンアーツを放ち、外へ吹き飛ばす。 「指揮官に伝えてくる。ナナ、とりあえず全部吹っ飛ばして!」 パートナーのズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)は、パワーブレスをナナに使った後、状況報告に向う。 別邸前を警備していた契約者達もそれぞれ外から、敵の引き剥がしと防衛についていく。 「い、いやーっ。いやーーーーっ」 ただ、大声を上げる百合園生。 真っ青な顔で全く動けない者も出ており、とにかく現場は治療が出来る状態ではなくなっていた。 「しっかりしてください」 治療したばかりの人達がまた深く傷つく様子に、グロリア・クレイン(ぐろりあ・くれいん)もめまいを感じるも、宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)から班長を任され、この場を任された者として気力を奮い立たせる。 「怪我をした方、無事な部屋に運びます。部屋が駄目なら廊下に運びます。決して諦めてはなりません」 グロリアがそう言うと、レイラ・リンジー(れいら・りんじー)が直ぐに動いた。心身共に疲れ果て、この非常事態に心が折れそうになっていたけれど。自分以上に、グロリアが必死に、まるで皆の苦しみを一手に引き受けようとしているかのように、見えて。 「大丈、夫……支え、ます」 助けた怪我人にというより、レイラはグロリアにそう言った。 「さあ、こっちよ。しっかり、すぐに治療するから」 アンジェリカ・スターク(あんじぇりか・すたーく)も、グロリアを気遣いながらも、今は救助と回復に専念する。 (レイラ、グロリアのことお願いね) ちらりとレイラを見た後、アンジェリカは動かない百合園生達の下に走り、抱き上げるように体を支えて、廊下へと連れ出していく。 彼女達の悲鳴や心の崩壊がグロリアの心も蝕むことが分かっていた。 「落ち着いて。外の人達が頑張ってくれてるわ」 少女達を落ち着かせることが、グロリアを落ち着かせることにも繋がるだろう。 「ありがとうございます……」 パートナー達の懸命な動きに、グロリアは礼を言った後、呼吸を整える。 「皆さん、地上からの援軍も到着しています。だから大丈夫です。私達は私達のできることをしましょう。必ず生還するために」 怪我が完全に癒えてはいないのに、ばたばたと駆け出ていく白百合団員の姿が目に入り、心を痛めながらも毅然とグロリアは言った。 「皆で、帰りま、しょう……」 レイラがグロリアの側でそう言った後、百合園生達をナーシングで癒していく。 百合園生達はふらふらと壁に寄りかかったり、涙をこぼしたりしながら身を寄せ合っていた。 「すぐ治療する。意識をしっかり保て!」 「兄さま……」 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が、テレポートによる強襲で傷ついた怪我人にそう声をかけながら、懸命に治療を行っていく。 側で彼を手伝いながら、エイボン著 『エイボンの書』(えいぼんちょ・えいぼんのしょ)はもうどうしたらいいのか、分からなくなりそうだった。 治療をしている涼介も疲労の極地にあり、もうとっくに限界を超えているはずなのに。 それなのに、先ほどの攻撃は、涼介をも傷つけていた。 飛んで来たガラスの破片に大きく顔を切り裂かれても尚、涼介は自分のことは後回しに、皆の治療を急ぐ。 この部屋にいるのは、重傷者ばかりだ。治療が遅れれば、重体、そして後遺症が残ってしまう者も多いだろう。 「目に映った者……誰一人、誰一人として死なせはしない」 百合園生の叫び声もこの部屋に届いてきた。 彼女達を鼓舞することは自分には出来ないけれど、行動で示し続けることは出来るはずだ。 「エイボン達が物資を持って来てくれたお陰で、薬も治療具にも余裕がある。皆助かる。大丈夫だ」 自分にも言い聞かせるように、涼介はそう言い、1人1人に集中し傷の具合と応急処置をした後、集めてリカバリを使い癒していく。 その間にも、外からは激しい戦闘の音が響いてくる。 怪我人は皆、青ざめていた。 「窓際には近づくな。万が一の際に、破片で怪我をしないよう、動けない人にはテーブルを盾になるようにしてくれ」 「はい、兄さま」 エイボンは片付けられていたテーブルを運んで、重傷者と窓の間に置く。 それからガラスの破片を手早く掃いて纏めて、新しいシーツを敷いていく。 「あと少し。きっと少しです。頑張ります……」 「予想外の状況だな。退くにも退く場所がなさそうだ」 「レイルと菫だけでも、先に帰らせたくなるわね」 相馬 小次郎(そうま・こじろう)と、菅原 道真(すがわらの・みちざね)は敵と対峙しながら、眉間に皺を寄せる。 別邸に突如現れた数百の人造兵器から別邸を護る手段が見付からない。 「これ以上近づけさせず、どこかに目を向けられれば……!」 小次郎はバスタードソードで敵の只中に飛び込んでく。 「最悪の環境になってしまったわね。菫、頑張って」 道真はアーミーショットガンで、前方の敵を崩すことに集中する。 「土嚢の代わりになりなさい!」 土偶のような敵の支えになっている部分を撃ち抜いて倒す。 「っ、やらせない!」 小次郎が別邸に鉄球を投げつけようとした機晶姫タイプの人造人間に、轟雷閃を放つ。 更に、飛び込んで腕を斬り落として止める。 だがその間にも別邸に次々に攻撃は加えられ、2人も敵の攻撃により傷ついていく。 最悪の状況であった。 「早く援軍を!」 道真が別邸に向って叫ぶ。 |
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