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嘆きの邂逅(最終回/全6回)

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嘆きの邂逅(最終回/全6回)
嘆きの邂逅(最終回/全6回) 嘆きの邂逅(最終回/全6回)

リアクション

 詫助達とは反対側。
 地上からの援軍と合流後に、東の塔から救援に訪れたメンバーは、使用人居住区から地下道に入り込み、北を目指していた。
 東の塔で預かってきた通信機により、爆破に向ったメンバーと、美央とジョセフが瓦礫の下敷きになっており、契約者4人が生存しているということが判明していた。
「おい、大丈夫か? 顔色悪いぞ」
 猫井 又吉(ねこい・またきち)が、共に地上から訪れた西条 霧神(さいじょう・きりがみ)に声をかける。
「大丈夫……ではありません。いそがねば」
 霧神は瓦礫の下敷きになっている尋人のパートナーだ。
 話をすることも辛いこの状態。尋人もかなり危ない状態のようだ。
「無理はすんなよ、倒れられても困るだけだ」
 そう声をかけて、又吉は武尊の側に向う。
「通信機からの連絡によると、鬼院達の居場所は例の光条兵器使いが眠っていた部屋より北のようだ」
 シーリル・ハーマン(しーりる・はーまん)が記していた簡易マップを確かめながら、武尊は皆を引き連れて北へと急ぐ。
「……カメラのようなものはあるが……この辺りにはトラップはなさそうだ……」
 アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)はスキルを駆使して、警戒を払う。トラップは見当たらないが、南側と違い、左右に部屋が多い。部屋や南側から時折光条兵器使いが姿を現す。
「この上、光条兵器使いに襲われたら……。心配だよ。どうか、無事でいて」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)が祈るように言う。
「敵、排除。排除」
 部屋の中から光条兵器使いが飛び出し、そんな彼に斬りかかってくる。
「通してもらうよ!」
 即、北都はナラカの蜘蛛糸を操って、光条兵器使いを絡めとり首を切って倒した。
 その部屋にはまだ光条兵器使いが残っており、救助に訪れた者達に襲い掛かってくる。
「赤羽さん、どうか無事でいて」
 友人である美央の消息が途絶えたという知らせを受け、駆けつけた鬼崎 朔(きざき・さく)はあまりの事態に混乱しながら、槍を構える。
「邪魔だ!」
 そしてランスバレストで一気に串刺しにして倒し、続く敵にはドラゴンアーツを叩き込む。
「この先、崩れてるぞ。通信機で聞いた場所よりかなり手前だ。撤去を急ぐぞ」
 武尊が崩れた地点にたどり着く。即座に、シーリル、又吉と共に、瓦礫の撤去を始める。
 北都、朔達も、一通り辺りの敵を倒すと、崩れた地点に駆けつけて、瓦礫を持ち上げる。
「鬼院、無事か!? 声が聞こえたら返事しろ」
 武尊が声を上げるが、返事はない。
「赤羽さん、聞こえますか!?」
 がむしゃらに朔は瓦礫を後ろに投げ捨てていく。
 返答は通信機を通して届いた。
「大丈夫、です……。でも、尋人さん達、危ないかもしれません。回復手段がないみたいなんです」
 美央の小さな声が通信機から流れてきた。
「わかった。そっちを優先する。すまないがもう少し我慢しててくれ」
 言って、武尊は皆に指示を出し、尋人達が埋まっていると思われる方を優先して掘っていく。
「急ぎましょう」
 クナイ・アヤシ(くない・あやし)は、オートガードで皆の防御力を上げた後、除去に取り掛かる。
 ドサッ
 上から、土が落ちてくる。
 明かりも壊れていて、非常に暗かった。
 瓦礫をどけた途端に、上の方から石が崩れ落ちてくることもあり、救助は難航した。
「皆も気をつけて。怪我は治せても、命は治せないんだから」
 出かけにアシャンテと共に、一緒に行動してきた百合園生にも言ってきた言葉だ。御陰 繭螺(みかげ・まゆら)は光条兵器で周囲を照らし、サイコキネシスを使って上の方の瓦礫を除去していく。
「こっちの崩れそうな辺りは固めてしまおう」
 北都は氷術を放って、崩れそうな土と瓦礫を固め、足場にして奥の瓦礫をどかしていく。
「よし、この辺りには人はいないな、一気に崩すぞ」
 白銀 昶(しろがね・あきら)がチェインスマイトで瓦礫に拳を叩き込み、瓦礫を弾き飛ばす。
「赤羽さん……!」
 朔は美央を心底案じながら、怪力の篭手で強化したドラゴンアーツで瓦礫を破壊し、両手で抱えて後ろへと飛ばしていく。
 美央は自分に居場所を作ってくれた、大切な友人だった。
 彼女が危機に瀕しているのなら、助けに行くのは当たり前で。邪魔をするモノがあるのなら排除して、突破し、押し通すのみ。……いや既にそのようなことも今は考える余裕はなく、美央を救出したい一心で、ただ必死に、朔は瓦礫を崩し、飛ばしていく。

「腕が見えたぞ! 大丈夫か!?」
「うん……」
 地道な作業を長時間に渡り続けて、ようやく尋人の腕が瓦礫の中に見えた。
 小さいが発せられた声は確かに尋人のものだった。
「赤羽を発見した。手を貸してくれ!」
「すぐ行きます!」
 反対側から撤去を行っていた侘助が声をあげ、朔が即座に瓦礫の山を駆け上がり、地上に出て、侘助の方に下りる。
 アシャンテと繭螺も続き、侘助達に手を貸す。
「もう大丈夫だ。最後まで気をしっかり持てよ」
 言いながら、武尊は大きな石を後ろに飛ばす。
「ヒールをかけるよ」
 北都が、隙間から尋人の体を確認し、ヒールをかける。
「こっち側には仲間はいないな!」
 昶は、荒々しく瓦礫を後方に飛ばして、救助を急ぐ。
「こちらへ」
 クナイが腕を伸ばして、広がった穴から雷號を救い出す。
「うしっ」
 昶が大きな石を取り払う。
「良く頑張ったな」
「取っ払うぞ」
 その下で石に足を挟まれて倒れている尋人の体を武尊が支え、石を又吉が持ち上げると同時に、助け出した。
「リカバリをかけます」
 クナイが救出に当たっていた仲間達をも纏めて、リカバリで癒す。
「しっかり、大丈夫?」
 北都が虚ろな目をしている雷號に声とヒールをかける。
「……あ、ああ……平気さ」
 雷號の瞳に輝きが戻っていく。
 2人の傷がいえたことで、霧神の体も楽になる。
「あの方も地上でがんばってましたよ」
 介抱されている尋人に近づいて、霧神は天音から預かったメモを渡した。
 メモには、硬い綺麗な字で『1日リクエスト券』と書かれている。
 途端、尋人は真っ赤になり、怪我人とは思えない速度でメモを服の中に隠す。
「……絶対、生きて帰って……黒崎に、会わないと、な」
 外傷は癒えても消耗は激しく、戦える状態に戻りはしなかった。
「無事だったか……よかった。今ヒールをかけるからな」
 美央の姿もようやく見えてきた。侘助がヒールをかける。
 アシャンテは無言で瓦礫を取り払う。
「すぐに助けますからね」
 繭螺が美央に圧し掛かっている瓦礫をサイコキネシスで持ち上げた。
「赤羽さん、赤羽、さん……っ」
 朔が覆いかぶさるように美央の元に飛び込んで、彼女を抱き上げて瓦礫の中から避難する。
「ありがとうございます」
 美央は朔に淡い笑みを見せた。
「助かりまシタ……」
 続いてアシャンテに引っ張り出されたジョセフが弱弱しく息をつく。
「良かった、本当に良かった……」
 朔は博識、リカバリ、ナーシングと持てる力全てを注ぎ、美央とジョセフ、そして仲間達を癒す。
「どうだ、体の具合は? 動けそうか?」
 侘助の問いに首を縦に振って、美央は起き上がるがふらりと倒れそうになってしまう。すぐに、朔が支える。
「無理はしないで下さい」
「傷は痛みますか? まだ動かない方がいいかもしれません」
 火藍が、美央の状態を確認しながら、そう言う。
 圧迫されて、血液が通っていなかった場所や、複雑骨折をした箇所などがあるようだった。
「鬼院、赤羽も……無茶なことはしないでくれ……」
 弱く微笑んで、侘助は美央の頭をぽんと叩いた。
「ミー達はふらふらですが、大丈夫デース。デモ……」
 ジョセフも美央も、そして別方向から、尋人、雷號も、ホールの入り口の方。ヴァイシャリー軍人達がいた方向に目を向ける。
 彼らにはいくら声をかけても、全く返事はなかった。
 倒壊具合から、自分達が生きていただけでも奇跡だった。
 契約者ではなく、爆発の瞬間に入り口の側にいた軍人が生存している可能性はない。
 ここを塞がず、離宮の浮上もさせない状態で戦い続けたのなら、こちら側の全滅は必死だった。
 離宮を浮上させたのなら、地上側が大きな被害を受けただろう。
 たとえ、一般人を避難させていたとしても、彼らと同じ、ヴァイシャリーを護るために戦う軍人達も街も、計り知れない程の被害を受けたはずだ。
 ただ、可能性はないと解っていても、仲間の生存を信じたくて。
 一同は瓦礫の撤去を続けて、軍人全員の死亡を確認したのだった。