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地球とパラミタの境界で(前編)

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地球とパラミタの境界で(前編)

リアクション


・1月17日(月) 16:00〜


「これが印刷したやつにゃ?」」
 ミディア・ミル(みでぃあ・みる)は、月美 あゆみとひっつきむし おなもみによる取材記事(漫画)を手に取った。
「じゃ、ミディー空から配ってくるね。あゆみは校内の、置かしてもらったり、貼ってもいいとことかに持ってってよ」
 学院は広い。宣伝も兼ねて、手分けした方がいいだろう。
「掲示係だった輝かしい実績が役に立つ日がついにきた……痛っ、冗談だよ。行ってきまーす☆」
 あゆみに軽くはたかれるものの、印刷室を飛び出していった。

「にゃにゃにゃ、週刊少年シャンバラで連載中の漫画家ひっつきむし おなもみが書記に立候補するのにゃ。万人にわかりやすく大切なことを絵や漫画で伝える新しい試みなのにゃ」
 海京でワイルドペガサスに乗って空を飛べば、非常に目立つ。それに乗っているのがネコ(の姿の獣人)だというのも、どこか珍妙である。もっとも、同じように都市化が進んでいる空京ではそうでもなく、それが海京が地球で、空京がパラミタであるというのを体現しているともいえよう。
「ふふふ、わかりにくい? そう言うとおもったにゃ。ほらほらこれ見て」
 ポスターかと思いきや、降ってきたのは漫画だった。
「今回の立候補者のことを漫画でレポートしてるのにゃ。考え方や展望なんかがまとめてあるにゃ。おもしろわかりやすいにゃ。
 漫画家おなもみに清き一票を〜☆」
 それを手に取り、眺めていた十七歳くらいの少年が声を漏らす。
「なるほど、こういうやり方もあるとはなー。生徒会役員じゃなきゃ、うちの新聞部に欲しいくらいだ」
 天御柱学院新聞部部長、笹塚である。
「で、選挙活動だったかな、お二人は?」
 レオナルド・ダヴィンチ(れおなるど・だう゛ぃんち)は、茅野 茉莉の選挙活動に協力し、学院の関係者や部活動といった各団体を一つ一つ回っていた。投票の根回しではなく、あくまで彼女の顔と主張を売るためのものだ。旧体制の時ならいざ知らず、今は裏工作をしようものならすぐにバレるだろう。立候補者とパートナーのことは、選挙管理委員会と監査委員会が見張っている。不審な動きがあったら、すぐに対処出来るように。
「この通り、副会長候補茅野 茉莉を宜しく頼むよ」
 レオナルド、茉莉が頭を下げる。ここでいくつめだっただろうか。生徒総会代表会議を構成する公認の部活は大体回ったはずだ。あとは、学院から予算が下りない非公認の同好会系組織といったところか。
「『分かった、新聞部としてもバックアップしよう』とは残念ながら言えないな。うちと放研は、選管との協力の下、どの立候補者にも支持表明はしないことになってる。支持表明したら、新聞や放送でいくらでも宣伝出来ちゃうんだ。それじゃ、フェアとはいえないでしょ」
 むしろ、と笹塚が続ける。
「こういうお祭りごとは、全体を眺めてた方がずっと面白い。今の君達のような選挙活動の様子も、いいネタになるしな」
 背後から、カメラのシャッター音が聞こえた。
「週末の『天通(天御柱学院通信)』特別号は生徒会選挙特集の予定だから、もう少し話を聞かせてもらうぞ」

* * *


 一方その頃、ダミアン・バスカヴィル(だみあん・ばすかう゛ぃる)はカウンセリングセンターのドクトルの元を訪れていた。
「おそらく、今のところは大丈夫だろう。しかし、彼女が立候補したのに、そういう理由があったとはね」
「意外か?」
「多少はね。あれだけ自分の力に固執していた彼女が、人の意見を聞き、人のために何かをしたいと考えるようになったんだから」
 カウンセリングセンターにおける茉莉への期待度は高い。旧体制の頃は強化人間が戦力としてみなされていない部分があったため、ちゃんと話を聞いてくれるというのはかなり好印象である。
「まあ、彼女が本心から頑張っているようなら、応援するよ。何か手伝いが出来るというわけじゃないがね」
 あと二週間。誠意を持って活動を行えば、支持されていく可能性は十分にあるだろう。