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地球とパラミタの境界で(前編)

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地球とパラミタの境界で(前編)

リアクション


・1月13日(木) 16:20〜


「翔くんは立候補しなかったんだね。パイロット科代表だから?」
「まだ決まったわけじゃないけどな。だけど、生徒会役員と代表は兼任出来ないってことだから。それに、俺は生徒会なんて柄じゃないし」
 桐生 理知(きりゅう・りち)は、辻永 翔(つじなが・しょう)と選挙について話していた。
「そんなことないと思うよ。もし立候補してたら、絶対に投票したよっ!」
 ぐっ、と拳を握り、理知は力説した。翔は冷めたように振舞っているが、根は熱い男だ。翔に対する感情を抜きにしても、生徒会役員として十分適任だと思う。
「だけど、まさか聡くんが会長に立候補するなんて。生徒会って大変だよ?」
 訝しみつつ、聡へ視線を送った。
「なに、そんなの承知の上だぜ」
「遊ぶ時間も少ないし、ナンパも出来ないよ? 学業と両立しなきゃだし、皆を纏めて引っ張ってくリーダーシップもいるし。大丈夫? サクラちゃんは賛成してるんだよね?」
「ああ、も、もちろんだ」
 多少たじろいだものの、彼の目は本気だった。立候補を取り止める気はないようだ。
「そういえば、{SNL9998828#アリサ}ちゃんと{SNL9998856#サクラ}ちゃんは?」
「今、二人で情報収集に行ってる」
 サクラだけだと色々心配だからということで、アリサも同行しているらしい。
「皆で頑張ってるんだね。そういうことなら、私も応援するよ!」
「翔くん達がそうだけど、周りのみんながしっかりしてるから大丈夫だと思うしね。智緒も応援してるよ」
 北月 智緒(きげつ・ちお)も、エールを送った。
「なんか俺、信頼されてなくねーか?」
「そ、そんなことないよ! 聡くんだって、やる時はやる人なんだから」
 理知がフォローを入れた。
「とりあえず、まずは皆に顔を知ってもらうことから始めないとね」
 学院の中では有名な聡だが、実際に皆が顔を知っているかといえばそうではない。「山葉」という苗字が一人歩きしている側面も存在する。
「あ、ナンパ禁止ね! だって、何かをお願いする時に好きなものを絶つって言うし。聡くんの場合、ナンパよね」
 智緒が念を入れた。ナンパを止めることで、彼の本気具合と誠意を見せることに繋がるかもしれないと考えてのことだろう。
「そうなると、ポスター作りと演説だね。演説は聡くんらしさがあった方がいいから、親しみやすくて気兼ねなく話せる雰囲気は残しつつ、はっきりとした目標を真剣に真っ直ぐ伝えるのも重要だよ。学院をどうしたいのか、そのためにどう行動を起こそうと思っているのか。具体的にある?」
 聡が答える前に、一言だけ付け加える。
「生徒会長になったからって、ナンパの成功率が上がるとか、モテるとかってことはないよ? これからの行動を見て認められたらモテるんじゃないかな?」
「だってさ、聡。まあ、モテたいってのも本心だと思うけど、ここは真面目に答えておこうぜ?」
 翔にも促され、聡は告げた。
「地球とシャンバラのために、学院に関わる人の意識を一つにまとめようとしているなつめちゃんとは反対だね。ううん、順序が逆ってだけかも。あやめさんとなつめちゃんは地球とシャンバラのバランスを保つことを最優先にして、それに生徒の意識を向けようとしてるけど、聡くんの場合はあえて生徒の意思に任せる……というより、『考えさせる』ことで、生徒一人一人に自覚を持たせようとしているってことかな? 学院・海京としては中立の立場っていうのは共通だよね」
 具体的な策については、代表者会議だけではなく、役員が直接顔を合わせて意見交換をする機会を作るというものだ。
「だけど、会議みたいな形にするよりは、もっと柔らかい雰囲気のものがいいんじゃないかな。例えば、食事会……ヴェロニカちゃん達が働いてるロシアンカフェとかで」
 もちろん、経費は生徒会持ちである。
「当然、そこでのナンパもダメだからね! 演説の時に、『もしナンパするようなことがあれば会長辞めます』くらい言わないと」
 食事会が意見交換会ではなく、聡のナンパ目的だと思う者はきっと多いはずだ。
「お、おう……」
「まあなんだ……頑張れ、聡」
 翔がポン、と聡の肩を叩いた。聡のナンパに付き合わされなくなるのであれば、理知にとっては恩の字である。
「それじゃ、早速ポスター作りを始めよっ」
 
 作業を始めてしばらくすると、狭霧 和眞とルーチェ・オブライエンがやってきた。そこからは彼らもポスター作りを手伝い、聡の演説の練習に付き合った。
「あー、上手い言葉が見つかんねぇ」
「別に、無理に取り繕わなくていいんだよ? 要は、真剣さがちゃんと伝わることが大切なんだから」
 やはりまだ慣れない様子だ。
 その場は翔や和眞達に任せ、理知と智緒はポスターを貼りに行った。
「なつめちゃんって美人なの?」
「うん。まだ話したことはないけど、こう、スラッとしてて……」
 なつめは背が高く、モデル体型だ。姉のあやめは小柄であり、一見すればあやめの方が年下である。なつめには名花、あやめには大和撫子という言葉が似合っている。
「理知だって黙って微笑めば美人さんよね。そうね、黙って微笑んで聡くんの傍でサポートする?」
「智緒、そんなことないよ」
 智緒に美人と言われ、理知はわずかに照れた。
 しかし、
「……んっ? 黙っていればって聞こえたよー!」
 と、すぐにそれに気付いた。