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【●】葦原島に巣食うモノ 第一回

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【●】葦原島に巣食うモノ 第一回

リアクション

   十五
 遂に最下層に辿り着いた。
 この階には石灯籠はない。ということは、忍者もいないのだろう。周囲に提灯がかかっており、中央に一際大きな社がある。
 木賊練は、ここなら構わないだろうと提灯の一つに駆け寄った。そして、「ひっ」と小さな声を上げた。
「木賊殿!?」
 彩里秘色が練を背後に庇う。男の死体があった。よく見れば、そこかしこに転がっている。若い女も、老人もいる。不自然な形に歪んでいるのは、落ちてきたのだろうとダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は判断した。
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、社の前に落ちているガラスの欠片のようなものを拾った。
「“玉”の欠片でしょう……」
 ルカルカは【サイコメトリ】を使った。男が“玉”を叩きつけるシーンが脳裏に浮かんだ。それ以外は――ほんの一瞬だが、若い女性の姿が映った。
「女の人?」
 ルカルカの呟きに、「我らが祖だろう」とオウェンが応える。
「全ての始まり。忌まわしき元凶だ」
 そのオウェンの目がカタルに向けられているのに気付き、ルカルカは口をへの字にした。
 言いたいこと、訊きたいはたくさんある。「梟の一族」のこと、犯人のこと、だが何よりカタルの感情が希薄なのが気になっていた。
 しかし、ダリルからは事実と必要性を見誤らないように注意されている。ダリルの視線を感じて、分かってる、分かってるからと内心呟いたルカルカは、カタルの顔色がやけに悪いことに気づいた。この暗がりのせいかと思ったが、脂汗まで流している。
「大丈夫!?」
「平気です……」
「嫌だ、熱がある!」
 カタルの額に手を当て、ルカルカは顔をしかめた。「休まないと!」
「問題ない。いけるな、カタル」
「はい……」
 カタルはルカルカの手を払った。ルカルカはオウェンを睨みつける。
「あのねえ! 見て分からないの!? 少し休ませてあげたっていいじゃない!」
「そんな暇はない」
「こんな具合で、封印なんて出来るわけ!?」
「ちょっと待て」
 ダリルはカタルの腕を握った。びくりと逃げそうになる少年の手首を、無理矢理灯の下に持って行く。
「これは『サターンブレスレット』だ。具合も悪くなるはずだ。一体、どこでこれを?」
 練がブレスレットを外してやる。カタルはかぶりを振った。ここに来るまで、そんな物をはめた覚えはない。
「ならば犯人は、ここにいる誰かだろう。俺たち以外のな」
 言うなり、アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)が、強烈な光を発した。
 高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)ティアン・メイ(てぃあん・めい)が、その姿を現す。
「残念」
 玄秀は笑った。「弱ったところで連れていこうと思っていたのに」
「なぜだね?」
「うーん。封印の力に興味を持った、というところですか。僕には葦原の町を救う義理などないのでね。化け物など、あなた方の力で押さえ込めばいいでしょう」
「そうはさせん」
 シグルズ・ヴォルスング(しぐるず・う゛ぉるすんぐ)が、「レプリカ・ビックディッパー」を抜いた。
「二対二……見るからに強そうですね。ではこちらももう一人」
 玄秀に【召喚】されて、式神 広目天王(しきがみ・こうもくてんおう)が現れる。
「まったく……、主殿は人使いが荒い」
 玄秀の「断魂刀【阿修羅】」を受け取り、広目天王は「戒魂刀【迦楼羅】」との二刀でシグルズに斬りかかった。
 シグルズはそれを【なぎ払い】で躱す。三振りの剣が中央でぶつかり合う。火花が散った。
「このシグルズの護りを抜けると思うなよ!」
 続けて大きな剣を頭上でぐるりと回し、【乱撃ソニックブレード】で広目天王、玄秀、ティアンに攻撃をかける。
 手応えはあった。
 だが「レプリカ・ビックディッパー」が貫いたのは、何者かの死体だった。その重さに、シグルズといえど剣を持ち上げることが困難になる。
 ティアンがシュトラールを抜いた。光線がシグルズを貫く。眩しさに彼が目を細め、肩の傷に膝を突いた隙に、玄秀はカタルへ近づこうとした。
「させん!」
 アルツールがウェンディゴを召喚した。雪男はその大きな掌で、玄秀を叩き潰そうとする。玄秀は咄嗟に飛び下がると、頬を親指で拭った。ウェンディゴの攻撃が掠ったらしい。凍傷になりかけている。
「そこのお前! 一体、何のためにその力を使うんだ!?」
 カタルは己と同じ年頃の少年の顔を見た。
「親の罪を雪ぐ為に、自分の命を封印に捧げる? ハッ! 馬鹿馬鹿しい! 命は自分のために使うものだ。見ず知らずの連中のために消費にして何になる。もう一度良く考えるんだね、自分が何のために生きるのかを!」
「何のため……」
「耳を貸すな、カタル」
 オウェンは、毒のせいで立ち上がることも出来ないカタルを引っ張り上げた。
「こんなことぐらいで動揺するな。あのような戯言、聞く価値すらない」
「は、はい……」
「死にたくなければ、心を落ち着かせ、封印を終えるのだ」
 カタルは頷き、社へ足を向けた。がくりと膝の力が抜け、転びそうになるのをルカルカとダリルが両脇から支える。
 カタルが社へ消えていくのを、玄秀は忌々しげに見ていた。
「主殿、どうする?」
 広目天王が尋ねた。
「仕方がない。いったん退こう」
 ある程度のダメージは与えたが、成功かどうかは分からない。どの道、攫えなければ今回の作戦は失敗だ。
「そうはさせません!!」
 ウェンディゴの背後から、秘色が飛び出した。ブーゴを大上段に構え、【ソニックブレード】を放つ。
 同時に煙幕ファンデーションが地面に叩きつけられ、辺りの視界はゼロになった。