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【戦国マホロバ】参の巻 先ヶ原の合戦

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【戦国マホロバ】参の巻 先ヶ原の合戦

リアクション


第六章 裏切り2

【西暦2022年 9月】
 マホロバ 現代――


 葦原 房姫(あしはらの・ふさひめ)は再びマホロバの地に降り立った。
 彼女が大奥を発ってから一年余り――ずいぶんと久しく感じる。
 あのときはもう二度とマホロバ城へ足を踏み入れることもないだろうと思っていた。
 そこでは、マホロバ将軍だった鬼城 貞継(きじょう・さだつぐ)は、病床に伏したまま房姫一行を迎え入れた。
 といっても、そこに貞継が横になっていると思われる布団の形からそのように思えるだけで、彼の姿はなかった。
 無色透明――透き通るようにその存在が消えかけていた。
 時折、声が聞こえるだけである。
「……月の輪の影響であろうか。このような姿になってしまった」
「姿は見えずとも、そこにいらっしゃるのはわかります。ご無事で……」
 房姫はそれ以上言葉にはならなかった。
 もともと病弱な体質の貞康であったが、姿が見えるだけでもありがたいものなのだと思った。
 貞康は自分の代わりに扶桑の樹を見てほしいと頼んだ。
「扶桑の噴花は多くの命を運んで行った。同じように生命を吸い取られていくのだろうか。これが天子様に、噴花に逆らった罰なら致し方ない」
「貞継様は大変な努力をされたと思いますよ」
「努力をしても民のためにならなければ……君主というものはそういうものだ。だから友人として頼みを聞いてくれないか。そなたもただ来たんじゃない。葦原藩の姫君として、責任を果たすためだろう?」
「はい」
「数千年の縁とは、そう切っても切れないものなのだろうな……」
 やがて穏やかな寝息が聞こえてきた。
 房姫は丁重に辞すると、葦原明倫館総奉行ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)と合流した。
「友人として扶桑を見に行けといったんでありんすか? 男というものは身勝手なものでありんすね」
「そうね。その身勝手さ目を瞑ってこそ、女は優しくなれるのでしょうね」
「そんなもんでやんすかね」
 今度は、他の校長は恋人もあるのに、色恋沙汰のおこらないハイナを今度は房姫が心配した。
「私のことより貴女はどうなの」
「わっちは……その、武士道があるので……!」
 訳の分からない返答をするハイナに微笑を向けながら、房姫はハイナの隣りで気落ちしているルカルカ・ルー(るかるか・るー)を慰めた。
「これからどうするか、決めることが大切なのですよ」
「でも……私は、助けられなかった。助けたかったのに」
 ルカルカはマホロバ歴1187年の葦原城攻めの折、葦原 総勝(あしはら・そうかつ)を現代に連れてこれなかったことを悔いていた。
「ほかにも織由 信那(あしはら・のぶなが)もそうだっていうの。目の前の人の命を救う事が、歴史の過度の干渉になってしまうの? 無名な兵士なら良かったの?」
「私にはわかりませんが、他人の人生を変え、その後数十年間背負うと言い切る人は案外少ないのではと思いますよ。まして歴史を変えるなら数百年、数千年と続くのです。貴女には恋人も部下も上司も大切に思う人もいるでしょう。彼らの人生を貴女の想いだけではなく、一緒により良いものにしていきましょう」
「そうだルカ……もう悲しむな。お前にはそんな顔は似合わない」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が柔らかくウェーブしたルカルカの金色に髪を撫でた。
「俺はルカと違って、この一連の首謀者と思われる鬼子母帝(きしもてい)に憐憫はわかない。それどころか滅ぼすべき元凶だと思っている」
 ダリルは取り除くべき障害として、認識している。
「問題はどうやって鬼子母帝を引きずりだすか……だが」
「あの、房姫様。また何か、起こったことはないですか? 前に御筆先(おふでさき)で別人のようになったときみたいに」
 扶桑の都に到着し、扶桑の樹を前にして七瀬 歩(ななせ・あゆむ)が尋ねた。
「今度の御筆先は白紙みたいだけど、まだ終わったとも思えないし」
「私もそう思います。だから、ここへ来ました。貞継様に頼まれるまでもなく、私もこの目で一度、扶桑の樹を見たかったのです」
 桜の世界樹――
 その樹はその桜木よりも大きく、美しい。
「桜の樹の化身……天子様」
 枯れ木寸前だった扶桑の樹は噴花を得て若返ったかのようだ。
 歩は話かける。
「知りたいことがたくさんあります。ご存知なら教えてほしいんです。将軍の鬼城 白継(しろつぐ)様がどこにいるのか。御筆先を復活させたのは、あの御筆先に現れた別人なのか。あの人は誰なのか?」
 天子は噴花後はしばしの眠りについたかのように沈黙している。
 簡単に返事が返ってくるとは思ってはいない。
 でも、手掛かりがつかめるのなら。
 歩は続けた。
「目的は歴史を変えることだけ? それとも何か別の……どうすれば満足するの?」
 木々が風にざわざわとなびく。
 やがて桜の花びらが一枚、また一枚と舞い降りてきた。
「え……噴花はおさまったはずなのに、また?」
 扶桑の桜の花びらは未来への【転生】をうながすものだ。
 花びらに連れていかれれば、それは現在の【死】を意味する。
 房姫と歩が身を寄せ合い、ダリルが彼女たちをかばうように立ちふさがった。
「ルカ、さがれ。危険だ」
「ううん、見てダリル! あれを!!」
 ルカルカは彼の肩越しに上空を指差した。
 丸く大きな月が浮かんでいる。
 いや月ではなく、月の輪が徐々に広がっているのだ。
「葦原の戦巫女といわれる葦原 祈姫(あしはらの・おりひめ)の描いた時空の月(じくうのつき)じゃない? でも、なんだかおかしいよ」
 時空の月は膨張を続け、そこから桜の花びらがあふれ出していた。
「まさか…あれは……」
 房姫の頭に考えたくもない憶測がひらめいた。
「噴花の花びらが……月を、時空を超えてここへ?」
「それって、2500年前の噴花の桜ってこと!? ……あ、あの人たちは!」
 時空の月に知った顔がある。
 武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)樹月 刀真(きづき・とうま)風祭 隼人(かざまつり・はやと)たちの姿である。
 マホロバ歴1190年の先が原時代にいるはずの人々である。
 彼らも月の輪の中で、驚いたような顔をしてこちらを見ていた。
 声は届かないが、何かをしきりに訴えかけているようだ。
「え? 何?」
 ふと、月の真ん中で黒く漂う闇がある。
 闇は月の光を塗りつぶそうとうごめき、その狭間から覗いた顔は長い黒髪の貴婦人だった。
 その姿が徐々に変化していく。

「繋がった……時とトキが!」

 鬼子母帝は鬼の姿を取り戻して叫んだ。

「マホロバの地は鬼一族のもの!!」

「ああ……!」
 房姫が右手を抑える。
 彼女に腕が勝手に動き出し、指先で文字を書く。
 御筆先だ。

 再生・転生……滅・生!

「人は【滅】び。鬼が【生】まれる!」
 
 2500年前の噴花と現代の噴花が交差する。

「わらわは時の狭間で一千年を食らって待った。残りの時も食らってやるわ!」


 【未来】が【過去】より勝るなど誰が言った。
 【過去】を手に入れることができれば【未来】を手にするのと同じ。

 それが、五千年生きた鬼の出した悲しい結末の答えだった。


担当マスターより

▼担当マスター

かの

▼マスターコメント

 こんにちは、ゲームマスターのかのです。
 公開が遅れて大変申し訳ありません。

 次回は【戦国マホロバ】シリーズ最終回です。
 以降のスケジュールは決まり次第、マスターページにて告知させていただきます。
 それではまたお会いいたしましょう。


 この【戦国マホロバ】シリーズは、一話完結の数話構成となっています。
 (※予定は変更される場合もあります)

【戦国マホロバ】第壱巻 マホロバ暦1185年頃のシナリオ
【戦国マホロバ】第弐巻 マホロバ暦1187年と1188年頃のシナリオ
【戦国マホロバ】第参巻 マホロバ暦1190年頃のシナリオ
【戦国マホロバ】第四巻 マホロバ暦1192年頃のシナリオ


【NPC一覧】

(マホロバ暦1190年)
鬼城貞康(きじょう・さだやす)……鬼城家当主。鬼の血脈を受け継ぐもの。正史ではマホロバ幕府の初代将軍となったが……?

葦原の戦神子(あしはらの・いくさみこ)……本名:葦原祈姫(あしはらの・おりひめ) 西暦2022年のマホロバに突如現れた少女

葦原総勝(あしはら・そうかつ)……葦原国国主。祈姫の祖父 ※ゲームから除外
葦原鉄生(あしはら・てっしょう)……からくりオタク。祈姫の父


瑞穂魁正(みずほ・かいせい)……別称:瑞穂の軍神。瑞穂国国主
日数谷現示(ひかずや・げんじ)……瑞穂藩士。瑞穂藩の侍大将


鬼子母帝(きしもてい)……鬼城家の母

朱天童子(しゅてんどうじ)……金品を奪うなどして都を荒らしていた鬼一族の棟梁。鬼鎧


織由上総丞信那(おだ・かずさのすけ・のぶなが)……於張国の豪傑 ※ゲームから除外
日輪秀古(ひのわ・ひでこ)……天下人


伊建正宗(だて・まさむね)……奥東地方に勢力をもつ若き大名
馳倉常永(はせくら・つねなが)……正宗の家臣


雪うさ……貞康が合戦場で助けた童女


(西暦2022年)
鬼城貞継(きじょう・さだつぐ)……マホロバ前将軍

鬼城白継(きじょう・しろつぐ)……マホロバ将軍。貞継と(SFM0033439) 樹龍院 白姫の子。行方不明

葦原房姫(あしはらの・ふさひめ)……葦原藩姫。『御筆先』が復活
ハイナ・ウィルソン……葦原明倫館総奉行(=校長)。房姫のパートナー


■戦国時代の主なマホロバ勢力

【鬼州国(きしゅうのくに)】(鬼城家)
マホロバの東地方を勢力にもつ

【葦原国(あしはらのくに)】
マホロバの北東地方を勢力にもつ

【瑞穂国(みずほのくに)】
マホロバの西地方を勢力に持つ

【於張国(おわりのくに)】
扶桑の都近郊に勢力にもつ



【付記】
マホロバ暦1190年 9月 15日『先ヶ原の合戦』
天下人となった日輪秀古の没後、マホロバ政権は争いの激化を招くことになった。五大老の筆頭である鬼城貞康と最大の実力者である瑞穂魁正の天下取りを巡っての対立は避けられないものとなり、9月15日ついに先ヶ原の地で激突する。両軍あわせて15万もの軍勢による『先ヶ原の戦い』である。兵数では魁正率いる西軍有利であったが、激戦を制したのは東軍の貞康であった。その勝利は、葦原国の鬼鎧一千機の力を制したためと伝えられた。
(出典『まほろば史記』「新紀」巻102 著者不明)