リアクション
◇ ◇ ◇ 光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)は、ハルカを誘ってルーナサズ観光……もとい調査に来ていた。 以前来た時は、殆どゆっくり滞在もできなかったし、エリュシオンで何か起きていると聞いて、興味半分の気持ちである。 ハルカは、以前渡していたお守りを今は大事にしまっているようで、代わりにと贈ったパワーストーンをペンダントにしてつけていた。 翔一朗は、それに『禁猟区』を施す。 「ありがとうなのです」 ハルカは、そう言って笑った。 「今日はハルカも、みっちゃんにプレゼントがあるのです」 「え?」 じゃーん、と、ハルカは小さな箱を取り出して渡す。 「お誕生日おめでとうなのです!」 「ああ……」 そういえば、自分の誕生日が近かったことを思い出した。 開けてみると、機晶石のペンダントだ。青みがかった光沢のある、白い石が付いている。 「はかせに頼んで、かっこいい形にしてもらったのです」 誕生石のムーンストーンは、ハルカが自ら選んだものだ。翔一朗は笑った。 「ありがとうな、ハルカ」 ふと、その時、地震が起きた。 「……またなのです」 「ああ。多いな……」 大きな地震ではなく、街に被害が出るほどではないが、また、という言葉が出る程度には頻発している。 街の人々も不安はあるようだが、選帝神のおわすこの街に、災害が起こるはずもないと思っているようだった。 「ん、あれ?」 見覚えのある人物が道を歩いている。翔一朗は呼び止めた。 「朱鷺!」 東 朱鷺(あずま・とき)は振り返る。 「奇遇ですね」 「全くじゃの。 朱鷺も観光……じゃなくて調査か?」 「ええ」 頷いて、朱鷺は表情を曇らせた。 「全く芳しくありません」 「何か良くないことでもあったんか」 翔一朗は目を見張る。 「……八卦術が……根付いていないのです」 「……は?」 朱鷺は、以前ルーナサズに来た時に、八卦術を広めようと宣伝して回った。 『龍王の卵』に、大きく朱鷺の名前になるように呪符を貼り付けることまでしている。 その時は、卵は断崖の中で、その呪符は誰の目にも留まらなかったが、今では卵は野ざらしとなり、呪符も外から丸見え状態となっている。 お陰で、朱鷺の名と、「八卦術」という名前だけはルーナサズに知られていた。 ルーナサズで「八卦術」というと、間違いなく 「ああ、あの、卵に貼られている紙のやつね。何て書いてあるかは読めないけど」 という返事が返る(稀に、あれは朱鷺っていう鳥の名前の形に貼られてるらしいよ、という返事が返る)。 しかし八卦術というものが何なのかは、全く知られていないのだった。 「ああ……まあ、学校でも置いて、八卦術を指導するヤツがなきゃ……なあ……」 話を聞いた翔一朗は、苦笑する。 「とりあえず、呪符がところどころ剥がれてきているようですので、修復に行こうかと。 ご一緒にどうですか」 一瞬翔一朗の脳裏に、旅行先で遺跡に落書きする観光客が連想されたが、選帝神に言質をとっているとのことなので、まあいいのだろう。 「行ってみるか?」 龍王の卵は、ルーナサズの目玉だ。 ハルカに訊ねると、 「行ってみたいのです!」 と言うので、二人も朱鷺と共に龍王の卵見物に出掛けることにしたのだった。 「住民の様子は、問題ないようだな……。 出来れば、選帝神に会っておきたいが……いるかな」 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、以前ルーナサズで起きた事件の解決に関わっている。 イルヴリーヒの兄が選帝神になったという話だが……と、面会を願うと、あっさり許可が出た。 「お初にお目にかかります、シャンバラのエヴァルト・マルトリッツという者です」 「イルダーナだ。歓迎する。弟が世話になったようだな」 隣にいたイルヴリーヒが、彼について話していたのだろう、イルヴリーヒは、その節はお世話になりました、と、感謝を述べてくる。 エヴァルトは軽く頷いたが、恩を着せるつもりもその為に来たのでもない。 「この度は、ルーナサズ周辺の異変の調査へ、同行させていただきたく参りました」 「この地震に関してか……。シボラでは問題が深まっているようだが」 ルーナサズ――エリュシオンでは現在のところ、それ程危機的状況にはない。 「我々は、震源地で何かが起きているのでは、という予測を立てています、が」 イルヴリーヒが言った。 組織だった調査は、エリュシオンでは行われていないという。 成る程、とエヴァルトは頷いた。 「また、これは噂程度の情報ではありますが、シャンバラ国軍の少数部隊が秘密裏に調査に入るという話もあります。 恐らく異変に関する調査で、根拠となる情報の信憑性が薄い為にそのような行動になるのではと思われるので、敵対行動ではないことを、お知らせしておきたいのですが」 「ああ」 イルダーナは頷いた。 「その話は聞いてる。連中が向かうのはシボラだろ」 「我々も、場合によってはシボラへの派遣を考えてはいましたが」 と、イルヴリーヒが継ぐ。 「人手が必要でしたら、いつでもお申し付けください」 エヴァルトの言葉に、有難く頼りにさせていただきます、とイルヴリーヒが言った。 |
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