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フロンティア ヴュー 1/3

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第6章 Remains
 
 
 叶 白竜(よう・ぱいろん)組と手分けして、本隊より斥候するローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)組は、遭遇した魔獣を叩き伏せた。
「アンデスにはビッグフットやイエティが居ると言われているけど、これでは今いち、ロマンが無いわね」
 なるべく戦闘の類は避けたかったが、急な襲撃だったので仕方がない。
 モンスターが相手ならば、不可抗力も問題ないだろう。
 とりあえずは都築に連絡を入れておこうと、ローザマリアは、サングラス型通信機の電源をオンにする。
「フェニックス達も、今のところ収穫はないようだの」
 デジタルビデオカメラとピーピング・ビーを取り付けて付近を飛行させているギフトも、手がかりを見つけてはいないようだ。
 パートナーの英霊、グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)の言葉に頷く。
「少佐は今、登山には向かない状態だろうし……無駄に歩き回らせたくないんだけど」
 ふう、と一息ついて、ローザマリアは周囲を見渡し、山脈を望む。
 龍の背山脈の、シボラ側の麓。
 山脈には至っていないが、此処も充分に山岳地帯だ。
 崖のような急峻な地形もあり、道が失われている場所もある。
「私達にとっては崖でも、巨人にとっては段差でしょうしね……。古い遺跡なら、当時とは地形も違うかも」
 シボラは、大半が太古の地形がそのまま残っているとはいうものの。
「地震の為、あちこちで地面に亀裂なども入っているしの。注意せねばなるまい」
「巨人族の遺跡は無事なのかしらね」
 別働している叶大尉の方は何か見つけたかしら、と思いながら、二人は再び歩き出した。



 巨人族の遺跡の場所を訊ねる。
 昔、巨大な人がいた所を知っているか、と問えば、知っている、という答えが次々と返る。
 ではそれは何処にあるのかと問うと、近く、という答えと、遠く、という答えが次々と返り、結局よく解らない。
「植物達にとって、どれくらいが『近い』で、どれくらいが『遠い』なんだろう」
 俺もまだまだ、植物達の気持ちが解ってないのかな、と、エース・ラグランツはショボンとする。
 そもそも植物達は、人と同じだけの知能を持ってはいないのだから、会話と言っても、感情を読み取る、という感じに近い。
 要領を得た答えが返ってくる方が稀なのだ。
「もっと、神木とか長老の木みたいのがあればいいんだけどな」
 エースはぐるりと周囲を見渡す。
 樹繋がりで、世界樹のことも訊けるかもしれないのに。
「気になるなあ、パラミタの世界樹……。どんな樹なのかな」


「お腹空いたね。皆、おにぎり食べる?」
 お弁当を取り出した布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)を、パートナーのエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)が呆れて見る。
「佳奈子ったら、遠足気分? 緊張感が欠けているのね」
「だってそんな、ずーっと緊張感のままじゃ、疲れちゃうもん。
 都築少佐も、適当にだらっとしてる感じじゃない?」
「そういうことを大声で言わないの」
 言いながら、エレノアは苦笑する。
 今回、調査隊に参加することには、エレノアの方が乗り気だった。
 世界樹っていったら、エレノアとかヴァルキリーにとっては故郷みたいなものなのかな? と佳奈子は思う。
「世界樹の活性化かあ……。
 活性化ってどうすればいいんだろうね」
「今はまだ、分からないけれど……。
 世界樹の力が、動乱のパラミタに安定をもたらしてくれるのなら、今ここで動かないわけにはいかないわ。
 パラミタの未来の為にも」
「どうして世界樹の活性化が必要なのかよく分からないんだけど、活性化することで、世界の混乱を鎮めることができるのかな?」
 佳奈子は首を傾げる。
 世界樹の活性化、という言葉が、今いちピンと来ない。
 エレノアは微笑んだ。
「手前にあることから、ひとつずつ片付けて行きましょう。
 きっと実地で分かっていくわ」
「そうだね」
 いつも以上に正義感がビシビシ伝わってくるなあ、と、佳奈子は思った。
 エレノアは燃えている。本気モードだ。
 よしっ、と佳奈子も頷いた。
 私も頑張ろう! 


「無闇やたらと探し回っても検討つかんじゃろ。
 巨人族の遺跡を捜すには、巨人族の気持ちになる! これじゃあ!」
 くわっと叫ぶその風体は、まるで出入り前のような清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)の言葉に、
「巨人族の気持ちって?」
とパートナーの騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が訊ねる。
「……うむ、そうじゃ、『潜在解放』を使ってみるのはどうじゃ?
 あれは元々巨人族の技じゃけん、ぐわっと使ったら、遺跡が反応してぶわっと……」
「うんうん、なるほどね」
 とりあえず頷いてみせる詩穂はしかし、投げやりな感じである。
「待てコラ、この技を編み出した巨人族は、自分達の秘宝を見つけて貰う今日という日の為に開発したんじゃないかとわしは思うんじゃけん!」
「はいはい、期待してるね」
 刮目せよ! と青白磁は潜在解放を放つ。
 しかし対象を指定しないその技は、虚しく薄れていくばかりだった。


「巨人の遺跡があるのなら、山の形に何か顕れるはずよ」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はヴァルキリーの羽で、空高くまで上昇し、周囲一帯の全体図を撮影する。
 画像は逐一ダリルに送信し、彼が立体地図を作っているはずだ。

 リネン・エルフト(りねん・えるふと)とパートナーのフェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)は、それぞれネーベルグランツとナハトグランツに跨って、空から遺跡を捜索した。
「上空からなら、地震の影響も受けないしね」
 ヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)は、リネン達と本隊との繋ぎとして地上に残る。
 此処に来るまでに、既に数回の地震に遭遇している。
 遠くから来る、けれど大きい、根の深い感じの揺れだった。

「酷いものね……」
 上空から『シボラの大穴』を視認して、リネンは眉をひそめた。
「付近の住民は大丈夫かしら」
 現場の民はカナンに避難したと言うが、その周囲に今も住む住民は、不安を抱えて暮らしているに違いない。

「遊撃隊、散開して調査にあたる。何か見つけたらすぐ声を上げろ!」
 フェイミィは、部下のオルトリンデ少女遊撃隊に指示を出す。
「それと……つまんねぇけど戦闘は避けろ。
 とにかく生還と情報が第一、だそうだ」
 空から捜索するフェイミィ達が敵襲に遭うことはなかったが、巨人族の遺跡も見当たらなかった。
「くそ。
 巨人族の遺跡なら、馬鹿でかいはずだろう。見つけやすいもんなんじゃねーのか」
 捜索範囲を広げ、かつ高度を落としながら、フェイミィは息を吐く。
 山岳地帯で死角も多い。
 怪しい場所は、着陸して調べた方がいいな、と考えた。

「現地民の情報はどうなのかしら」
 地上では、ヘリワードが都築少佐に提案していた。
「そっちは叶が当たってる」
 都築が答えるのに頷く。
「それと、気になるのはやっぱり地震よね。
 震源地の調査をした方がよくない?」
「それは後回しだ。遺跡探しに関係があるって確実なら、そうするが」
 その時、遠くで爆音が響いた。
 都築のサングラス型通信機に、ローザマリアからの通信が届く。
『若干数のトラップを確認しました。
 使用されていた武器弾薬等により、シャンバラの者と思われます』
「シャンバラから邪魔が入ってんのか」
『解除ではなく、爆破させました。前進に問題はありません。
 他にも罠があるかもしれませんので、探して処分します』
 地図を確認しながら、都築は了解の返答を返す。続いて、白竜からの通信が届いた。



 無精髭を綺麗に剃り落とし、髪も短く刈り上げて、普段以上に言葉少なく、黙々と仕事をしている白竜を見て、落ち込んでるなあ、とパートナーの世 羅儀(せい・らぎ)は思う。
 はたから見れば、いつもと変わらない無口無表情だが、羅儀にはそれが解った。
「シボラの探検で、少し元気になればいいけどな……」
 シボラは白竜には未踏の地であり、パラミタ初期の状態の土地が多いという話から、地質学的興味でいつか訪れたいと思っていたことを知っている。
 そして羅儀も、気持ちは白竜と同じだ。
「できるだけ、もうこれ以上、誰かが命を落としたりすることがないように」
 ルーナサズにいる黒崎天音らとテレパシーで情報交換しながら、二人は本隊に若干先行して斥候し、地面崩落の現場に遭遇すれば、その地割れの方向や規模を分析するなど、地道な調査行動に終始した。

 山間に、小さな集落を見つけた。
 建築物はなく、円錐型のテントのような住居で生活している土着の民で、周辺のガイドを頼めないかと声を掛けてみる。
 余所者が珍しいのか、わらわらと集まって来た中の一人が、羅儀のLEDランタンに興味を示し、それをくれるならと引き受けた。
「あとさ、誰か、巨人族の遺跡について何か知らないか?」
 羅儀の問いに、人々は顔を見合わせた。そして胡散臭そうな目で羅儀達を見る。
「…………あのでかいやつか? あんたがた、何か企んでるのか?」
 白竜と羅儀は顔を見合わせた。


 住民を口説き落とし、遺跡に案内して貰う。
 左右に岩壁がそそり立つ峡谷の谷間は、イコンでも……つまり巨人でもぎりぎりの余裕しかないだろうという道幅しか無い。
 道はやがて、もう一本の道と合流した。
 いや、道ではない。
 横に長い空間の、その前面の岩壁には、神殿の正面のような荘厳な彫刻が刻まれていた。
「うわあ……すごーい……」
 見上げて、ミルディア・ディスティンが感嘆の声を上げる。
 高さ50メートルはあるだろうか。
 巨人すら小さく感じられる程の大きさで、神殿正面の彫刻はあった。
「何か、似たようなのをテレビで視たことあるような……」
「ペトラ遺跡の、エル・カズネですか」
 地球の考古学についても一通り知識のある、メシエ・ヒューヴェリアルが言った。
「上から見つからないわけよね」
 ヘリワードが肩を竦める。
 空から見れば、此処は単なる大地の裂け目だ。
 峡谷自体は100メートル近い深さがあり、彫刻のてっぺんの、ずっと上まで岩壁がそそり立っているから、上空からはまずこの遺跡は見えないだろう。
 一行は、遺跡の入口から、中へと入って行く。