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フロンティア ヴュー 1/3

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フロンティア ヴュー 1/3

リアクション

 
 
 入口の、外から入る光の他に光源がなく薄暗い。奥の方は真っ暗だ。
 樹月 刀真(きづき・とうま)のパートナー、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は、ダークビジョンで視界を確保する。
「刀真、私が案内するね」
「ああ、頼む」
 慎重に中を歩きながら、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)のパートナー、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)が、壁際にスイッチを見つけた。
(…………?)
 いつもなら、アキラの頭の上に乗っているアリスだが、今は神獣の子の背に乗っている。
 そのアリスの視線よりも、やや高い位置。
「スイッチがあったら押すべし、ってアキラも言ってたネ」
と、アリスはスイッチをパチリと押す。
 途端、遺跡の内部が明るくなった。
「うわ!?」
 突然だったので、アキラ達は驚く。
「何だ……? 何処だ、光源は?」
 見渡して、都築は首を傾げた。
 灯りらしいものが無い。それなのに、遺跡の中は、均一に照らされている。
「ここにスイッチがあったネ」
 アリスの言葉に、それを見たアキラはぽかんとした。
「…………何だこの、昭和日本を彷彿とさせるスイッチ……?」
 クリーム色の長方形のスイッチ台に、黒い三角スイッチ。
「しかも此処、巨人族の遺跡だろ。
 何でこんな低い位置にスイッチがあんだよ。俺らでも少し低いぞこれ」
「スイッチはチープでも、照明はえらく高度だよな。魔法の灯り……? でもスイッチで発動する魔法?」
 天井を見上げていた匿名 某(とくな・なにがし)も、半ば呆れた様子でそのスイッチを見る。
 めらり、とアキラは奮い立った。
「ふっふっふ、面白いじゃねーか。
 行くぞ、ミケ、タマ、トラ、ポチ! ミャンルー部隊出動だ!
 皆様、ミャンルー部隊、ミャンルー部隊を何卒よろしくお願い致します!」
 どこの選挙か。という突っ込みをしてはいけないのだろう。某が都築を見る。
「ま、好きにやってくれ」
 危険そうなら、深入りするなよ、と付け加えた。
 内部は随分広いようだし、手分けする必要があるだろう。
 言質は取ったとばかりに、小さな猫獣人達を引き連れて、アキラ達は散開して行った。

 一方、某は、鳥形態にしたフェニックスアヴァターラ・ブレイドに、録画モードにしたデジタルビデオカメラを取り付けて飛ばした。
「人が行くよりも、先に安全な手段を使うに越したことはないからな」
 ところが、ある程度時間が経ったところで呼び戻そうとしたところ、帰って来ない。
「……何かあったのか?」
 某のパートナー、大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が、某と遺跡の奥を見比べながら言う。
「とにかく、先に進むか」
 都築が言った。


「ま、とはいえ、こういうのは一番奥に何かがあるって相場が決まってんだよな」
 調査しつつも、アキラ達は遺跡の奥を目指す。
「みゃ」
「みゃー」
「みゃ」
「みゃー」
 ミャンルー達が、四重奏でアキラを呼んだ。
 アキラは呼ばれた方を見て、目を丸くする。
 通路の奥の方で、ゴソゴソと、何かが動いている。
「誰だっ!?」
 声を上げると、その人物は振り向いた。


 何手かに手分けしつつ、ミルディアと水原ゆかりが、送られてきた情報を取りまとめながら、都築達本隊はそれなりにまとまって進む。
 ややあって、彼等は足を止めた。
「真空管……」
 えらく大きな、そして年代物の電極が、壁際に置いてある。スイッチがあった。
「……ここは、押してみるべきなんだろうなあ」
 某は苦笑し、スイッチを入れる。
 パチパチと真空管の内部が放電し、ヴン、と真空管の上部に、映像が浮かび上がった。
「空気投影……」
「何つーか、未来の技術とレトロな技術が入り混じりすぎじゃねーか?」
 康之が呆れる。
 映像は、見取り図だった。
「この遺跡の内部だな」
 特に迷路のようにはなっていないが、規模が大きい。1キロメートル四方くらいはあるようだ。
「この部分から先は居住区だな……で、更にその先、奥まった所が、空間になってる」
「何か大事なものを奉っている、ということか」
 必要そうなら他の場所も調べつつ、最奥を目指すことにする。


「何じゃ、おまえさん」
 アキラの声に振り向いたその人物は、ドワーフだった。
 その手元には、分解途中のブラウン管テレビがある。アキラはぱちくりと瞬いた。
「は? え?」
「ん? 灯りが点いておるな。ああ、冒険者じゃな。よく此処を見つけたのう。一人か?」
「いや、ミャンルー部隊が一緒で」
「違うでショ」
 びし、とアリスが突っ込む。
「色々訊きたいことがあるんだけど、いいカシラ? 手間を省く為に、ちょっと一緒に来てくれる?」
 此処で話を聞いて、改めて都築達に説明をするのは面倒くさいのである。
 ドワーフはけらけら笑った。
「いいじゃろ」


 そのドワーフは、アンドヴァリと名乗った。
「ここ最近の地震やら何やらで、この遺跡があちこち壊れたのでな。皆で直しに来たんじゃよ」
「皆で?」
 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が訊ねた。
「ふむ。近くにいるかの?
 おーい!」
 アンドヴァリが声を張り上げる。
 ややあって、ゴソゴソと音がして、壁の遥か上の方から
「何じゃ?」
と声がした。
 通風孔のような場所から、ドワーフが顔を出している。
 かと思えば、突然足元の床が開いて、
「何じゃ?」
とドワーフが顔を突き出した。
「何じゃ?」
 更に、通路の向こうから、ぞろぞろとドワーフが現れ出て来る。
「うわっ……」
 まさか、こんなにぞろぞろ大勢ドワーフが潜んでいたとは。一行は苦笑する。
「じゃあ、あのスイッチとか真空管とか……」
 アンドヴァリは、得意げに笑った。
「元の通りに直してもつまらんじゃろうが。勿論わしらの趣味が入っとる。
 ふっふっふ、十年ほど前、秋葉原の電気部品街に皆で買い物旅行に行った時に買い漁ったお宝じゃぞ。すごいじゃろ」
「まあ、ある意味……」
「いやはや、あのガード下は天国じゃな!
 しかし駅前にあった商店街がなくなってしまったそうじゃないか。全く、地球の人間は分かっておらんな!」
 現在、秋葉原駅前にあるのは、スタイリッシュな複合施設である。
 その報は、彼等をどれほど悲しませたかしれなかった。

「……ところで、訊きたいんだが、『巨人族の秘宝』は、此処にあるのか?」
 都築が訊ねた。
「あるがの。
 また何で、あれを?」
「まあ、仕事で」
 都築の答えに、アンドヴァリはがっかりした顔をした。
「何じゃ、つまらん答えじゃな。
 責任だの仕事だの、もっと血沸き肉踊るような、面白い理由が言えんのか」
 そんなこと言われても、と、都築は苦笑する。
「ま、よかろ。
 その左腕に免じて、とっておきの情報を教えてやろうかの」
 アンドヴァリはそう言うと、こっちじゃよ、と歩き出す。
 まあ、丁度いいところに来てくれたわい。と言うのに首を傾げながら、ドワーフ達と共に、最奥へと向かった。
「それにしても、何でこんな、隠れたところに遺跡を作ったんだ?」
 某が訊ねた。無論、作った時は『遺跡』ではなかったのだろうが。
「ただでさえでかいのに、目立つところにババーンと建っとる殿など下品じゃ!
 慎まし〜くそれでいて荘厳に! 存在するのが神秘的なんじゃ!」
 アンドヴァリは言い切る。
 どうやら遺跡は、巨人の気持ちではなく、ドワーフの気持ちになって捜す必要があったようだった。

「『パラミタの世界樹』や、『聖剣』について、何か知っていることはありますか」
 刀真が訊ねた。
「ん〜、んんん」
 アンドヴァリは、宙を見上げて顎を撫でる。
 答えを渋っているのを見て、刀真は更に訊ねた。
「……聖剣は、何の為に存在するんです。
 その剣が持っている力とは、何なんですか」
 聖剣、と呼ばれるのなら、それは剣であり武器だろう。
 ならば何かと戦う為に存在すると考えるのが当然だ、と刀真は思う。
 だとすれば、何か強大な敵が居る、ということなのだろうか?
「ん〜、んんん。
 それは、わしらが教えることじゃないんじゃよ」
「……は?」
「人に聞いて知ることじゃないんじゃ。全く、そんなつまらんことをするもんじゃないぞ。
 えーと、何じゃったかな。百害あって一利なし?」
「……百聞は一見にしかず」
「それじゃ。
 おまえさんら、折角捜しとるんじゃろ。自分で見つけるんじゃな」
「今は、そんな場合では……」

「フハハハハ!」
 その時、前方から笑い声が轟いた。一部の者には、聞き覚えのある声だった。
「我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者、ドクター・ハデス!」
「あいつか……!」
 恭也が頭を抱える。
 直前までこっそりと後をつけていたドクター・ハデス(どくたー・はです)は、土壇場で追い越したのだ。
 実は遺跡の入口の所で先回りして立ちはだかろうと狙っていたのだが、狭い一本道だった為、そこは間に合わなかったのである。
 場所が分かった時点で空から回り込めれば……とハデスが地団駄を踏みまくったことを、今相対する都築達は知る由もない。

「フハハハ!
 此処まではるばるご苦労だったが、諸君にはここでお帰り願おう!
 パラミタの世界樹と聖剣は、我等オリュンポスが手に入れてやる!」
 ハデスは、ドワーフを人質に、ナイフを向けている。
「くっ! 汚い真似を!」
「あーれー」
「助けてー」
 ドワーフは棒読みで助けを求め、
「何やっとんじゃ、あやつは」
とアンドヴァリが呟く。
 恭也は、緊張感のなさげなアンドヴァリをちらりと見やった。
 アンドヴァリは、その目配せに答える。構わんよ。
「行け、戦闘員達よ、奴等を蹴散らせ!
 アルテミス、神菜よ、お前達も出撃するのだ!」
「ふん、そうは行かねえ、蹴散らされるのはお前等だぜ!」

「……まあ、此処ではトラップも仕掛け辛いですし」
 ドクター・ハデスのスポンサーであるミネルヴァ・プロセルピナ(みねるう゛ぁ・ぷろせるぴな)は、隠れたところから、その様子を見物していた。
 表立った行動を取るつもりはない。道中はトラップを仕掛けたりもしたのだが、調査隊を阻むには至らなかったのが残念だ。
「あとはハデスさんに頑張っていただきましよう。
 早く借金を返していただきませんとね。お手並み拝見ですわ」