空京

校長室

【選択の絆】夏休みの絆!

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【選択の絆】夏休みの絆!

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第2章 酔い回るころ賑やかなり 2

 吸血鬼には、本物の血を飲みたいときがあるはずだ。
 リリ・マクレラン(りり・まくれらん)はそう思っていた。代用ドリンクがトマトジュースやブラッディメアリーだけというのは味気ない。第一、あれは本当に代用品。血の味がするってだけだし、なんだかお粗末だ。
 リリはだから、本物の血を使ったビールができないか、と思った。つまり、吸血鬼が本当の意味で好むものという意味で。
 そうすれば、パートナーのルーク・ナイトメア(るーく・ないとめあ)や他の吸血鬼たちだって喜ぶんじゃないだろうか。
 だからリリはかも専ポータカラ人たちの協力で血を醗酵させて、ビールを造った。
「どうかな? ルーク」
 ビールを手にしているルークに、リリはたずねた。
「うーむ……匂いはそれほど悪くありませんね。むしろ、それがしたちには好ましいかもしれません」
 ルークは血を原料としたビールから漂う濃厚な香りをかいで、鼻をひくつかせた。
 血の匂いだ。鉄分を感じさせる匂いだった。ルークの喉が思わずごくっと鳴った。それだけ、血はルークの中にある本能をくすぐるものだった。
 ぐいっと一口飲んで、ルークは目を大きく開いた。
「これは……っ、美味いですよ、リリ!」
「本当にっ!?」
 リリは嬉しそうに跳びはねた。
「ええ。本当に。これなら、他の吸血鬼たちも喜んで飲んでくれるかもしれません」
「そっかぁ、良かったぁ……」
 リリは胸をなで下ろした。
 ルークの感想は本物だった。ちょっぴり癖はあるが、それで飲めないような代物ではない。血のビールは、香りも味も、ルークの本能好みのものに仕上がっていた。リリが試行錯誤して、努力した結果だった。
「なに? リリの顔、なにか付いてる?」
 ルークがじっと見つめていたから、リリはたずねた。
「いえ、なにも……」
 ルークは微笑みながら、そう言った。



 セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)はある謳い文句を見つけた。
「『独り身の貴方に夏の潤い』を、だぁ……?」
 誰のことを指しているのか一目で分かる文面だった。
 それはマネキ・ング(まねき・んぐ)の店に貼られているもので、すぐ後ろにたくさん並んだお客さんに応対するマネキの姿が見えた。
「これぞ、ここでしか飲めないオリジナル発酵酒! 『アワビール』である!」
 マネキはビールをかかげて威勢よく声を出す。
 お客たちはそれにどよめき、次々と『アワビール』なる怪しげなビールを買っていった。
「おい、マネキ」
 セリスが声をかけると、マネキは振り返った。
「おお、これはセリスではないか! どうだ、我の自信作の『アワビール』は」
「語呂合わせのダジャレ大会してる場合じゃない。それに、なんだこの謳い文句は」
 セリスは破り取ってきた宣伝の書かれた紙を、ずいと突きだした。
「もちろん、そのままではないか。やはり夏には独り身の者にも、潤いがなくては」
「ほっとけ。余計なお世話だ。それに、なんだこのビール……売れてるのか?」
「フフフ……我の店はどこかの二番煎じ三番煎じの店とは違うのだよ。自信を持って送りだす一品なのだ」
「それはどこも同じだと思うがな……」
 セリスはあきれ顔でため息をついた。
「それよりも、セリス!」
 マネキはその噂のアワビール瓶をセリスに突きだした。
「ん?」
「せっかく来たのだから、飲んでいくのが筋であろう! さあ、いざ飲むがいい!」
「わっ、バカ、やめろっ!」
 躍りかかったマネキは、セリスの口に無理やりアワビール瓶を押し込んだ。
 ぐっぐっと音を立てて、ビールはセリスの口に流れ込んだ。喉を通り、胃に落ちる。磯の香りとアワビの匂いが、セリスの鼻や頭の中に広がって、刺激された。
「ひっく……」
 つまりは、酔っ払った。
「う〜い〜!」
 足もとのおぼつかないセリスは、フラフラとお客のほうに近づいていった。
 テーブルにどがしゃーんとぶつかり、因縁をつけられては笑い、あげくには乱闘になった。
 もっとも、セリスは酔っ払ってはいるが身体能力が高いため、チンピラを次々とかわしていくような戦いぶりだが。
「うーむ…………度数が強すぎたか?」
 セリスの見事な酔拳を見ながら、マネキはつぶやいた。



 イーダフェルトの神殿群の壁には、バカンスの合間に改修作業を進めるポムクルたちがいた。
「お〜い、ポムクルさんたち〜」
 壁に張りつくポムクルたちに、下から呼びかける者がいる。
 エンデ・マノリア(えんで・まのりあ)オーフェ・マノリア(おーふぇ・まのりあ)の二人だった。エンデは右の肩に果実ジュースで作ったビールを入れたクーラーボックスをさげていて、オーフェはサンドイッチを入れたバスケットを持っていた。
「差し入れ持ってきたのー」
 オーフェが言うと、ポムクルたちは笑顔になっていっせいに降りてきた。
「はいはい、慌てない、慌てない」
 エンデはポムクルたちを落ち着かせて、一匹ずつ果実ジュースのビールを渡していった。
 もちろん、オーフェのサンドイッチも一緒にだ。さっそくごくごくと飲むポムクルは、頬を赤くしてぷはーっと息をはき出す。サンドイッチももぐもぐと食べて、幸せそうだった。
「それにしても、ポムクルさんたちはビール飲んでも大丈夫だったのかな?」
 エンデはビール瓶を見ながら、いまさらながらに言った。
「大丈夫なのー。ちゃーんと甘くしてあげたからー」
 オーフェはサンドイッチを食べながら言った。
「甘く?」
「そうなのー。ハチミツとかー、シロップとかー」
「ああ……なるほど」
 エンデは絶対にそんな甘ったるいビールはゴメンだが、ポムクルたちにはちょうどいいかもしれない。
 ライチのビールを飲んで、エンデはぷはーっと息をついた。
「夏だー」



「本当になんでもいいのかの?」
 新風 颯馬(にいかぜ・そうま)が神妙な顔でたずねた。
 というのは、自分たちが持ち寄った原材料でビールが造れるという話だった。
 新風 燕馬(にいかぜ・えんま)はうなずいた。少なくとも彼女はそう聞いていたし、ゲルバッキーが嘘を言っているとも思えなかった。彼が正直者で、という意味ではない。ゲルバッキーにとっても実りのあることだからだ。
「とにかくゲルバッキーたちが良いって言ってるんだから、良いんじゃないかな。俺は高級チョコレート持ってきた」
「お、被ってしまったの。わしはチロルチョコじゃ」
 燕馬と颯馬の二人は、お互いの手の上にあるチョコを見合った。
「チョコってどうなんだろうな? ビールにすると美味いのか?」
「まさか。そのような話は聞いたことないのぉ」
「じゃ、なんてチョコ持ってきたよ」
 燕馬はじろりと颯馬をにらんだ。
「ほれ、闇鍋と同じノリじゃよ。どれか一つぐらいは外れがあってもよかろう?」
「……死人が出ても知らんぞ」
 言ってるが、燕馬もチョコを持ってきた時点で同じ穴の狢だった。
 二人はかも専ポータラカ人たちによってチョコビールを造ってもらうと、それをビールを売っている出店に提供した。ゲルバッキーたちの商品も置かれている店だ。缶のラベルには、『私が作りました』という一言と写真を貼って。
「アレでどれだけ釣れるかな?」
「燕馬殿も底意地が悪いのぉ」
 ラベルには、『フェイクバスト』で胸の谷間を強調した燕馬の写真が貼ってあった。