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少年探偵の失敗

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少年探偵の失敗

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49. 三日目 エーテル館 大ホール 午後六時三十一分

V:早川呼雪だ。
 三日間の捜査も、もうすぐ終わる。俺は、麻美の影武者の一人して、この三日をすごしたんだが、途中で誘拐されたりして、まあ、スリルがあったな。
 軟禁されてる間に、お友達百人計画に一生懸命なオイフェウスとも友達になれた。俺は麻美役なので、ほとんどしゃべれなくて悪かったな。デュパンとも仲良くなった。
 それぞれに理由があって、船上パーティに参加しなかったメンバーは、全員、大ホールに集まっている。
 俺が館に残ったのは、大切な友達が、椅子に縛られて、ここにいるからだ。
 事件の状況はよく知らないが、俺は信じている。
 事件について聞かれても、あいつがあまり話さないのは、誰かをかばっているからだと思う。
 船が戻る頃には、事件もあらかた終わってるはずだ。
 今夜はもう、ここで麻美役の俺が親友と話をしていてもいいだろ。


「俺は絶対にやってない。スゲー男だって尊敬してるんだ。次郎兄貴を石化したのは、おまえらじゃないのか!」
「次郎ちゃんはね。最後に殺そうと思ってたから、私はやってないよ」
「透乃ちゃんは、嘘は言ってません。私たちは、撮影現場で次郎さんの殺人計画を手伝おうと思っていたんですけど、なかなかはじまらないし、次郎さん映画に夢中で、お話しもできなくって。パビェーダ・フィヴラーリさんが、迷っているなら自分たちで積極的に動いた方がいいって、アドバイスしてくれたんです」
 ホールの一角では、次郎石化の容疑者の真都里と、流水暴行傷害容疑者の透乃と陽子が、身柄を確保され、監視されていた。
 真都里は容疑を認めず、一方、透乃と陽子は、あっさりと容疑を認め、しかも他の事件を計画していたことまで語りだした。
「撮影セットにいた維新ちゃんとか、隠れてるって歩不ちゃんとか、邪魔しそうな人はみんな殺してやろうと思ってたんだ」
「オレや黒崎先輩やブールズさんやエルさんやホワイトちゃんも、みんなかい」
 透乃の話をきいていた尋人が、顔を曇らせている。
「うん。だって、財産欲しさに殺し合いをする一族なんて連中は、これで生き残っても、また、いつか似たようなことを考えると思うよ。だから、麻美ちゃんだけ残して、かわい家も、そいつらを助ける人も、みんな死んじゃえばいいんだ」
「・・・・・・あんまり、悲しいこというなよ。違うだろ、そんなの。次は、あんたらが、気に入らないやつとあうたびに、殺し続けるはめになるぞ」
 打ちのめされたようにうつむく尋人の肩を叩き、エルが透乃たちに話しかける。
「キミたちは強い戦士で、悪を憎む気持ちも、それはそれで正しいかもしれない。でも、ああして、流水ちゃんに大ケガをさせて、平気だったのかい?」
「えっと」
 透乃が言葉につまり、陽子が代わりにこたえた。
「正体は、歩不さんだと思うんですが、私と透乃ちゃんは、怪しい青いマントの人を追いかけて、あそこに行ったんです。そうしたら、流水さんがいたんでそれで」
「首の骨を折って殺そうと思ったんだけど、なんか、できなかったんだよね」
「キミたちが、もし、流水ちゃんを殺していたら、あそこで、ボクは、どうなっていたかわからないよ。彼女のケガは、幸い治療魔法のおかげもあって、完治しそうだ。キミたちは、ギリギリセーフだ。後で流水ちゃんに謝るんだ。いいね」
「俺の兄貴の石化もなおるよな」
「ああ。大丈夫だろう。まったく、こういう業の深い事件は、かかわる者の心を狂わす」
 エルが、彼らしくない大きなため息をつく。。
「君たち。僕は思うんだけどね。ノーマン・ゲインも、かわい家の人たちも、ああして、簡単に人を殺めることができるようになってしまった人は、自分の人生さえ捨てている、ある種の病人だよね。
 僕ら普通の人間は、彼らを恐れたり、避けたりするだけでなく、そんな彼らを社会に生きる同じ人間の一人として、正常に戻るように、助けてあげる義務、責任? が多かれ少なかれ、あるんじゃないかな。
 僕らは、みんなでこの世界を作ってる運命共同体なんだからね。
 安易に彼らに共感して手を貸すのは、自分のためにも、彼らのためにもならないんじゃない。
 君らは、どう思う?」
 問いかけた天音は、しばらく待っていたが、返事のない二人に紙の束を差しだした。
「継承式でやるつもりのお芝居の台本。今日は、これを書いていたから、船に乗り遅れちゃったよ。麻美さんと歩不氏の仲直りを見たかったんだけどね」
「死神の舞踏祭、か。黒崎さん。あんた、スゲーな、これどういうお話なんだ」
 題名をみた真都里が尋ねる。
「次郎氏の映画も、薫氏の舞台も、中断してしまったからね。継承式の出し物が、舞のみではさびしいだろう。
 あの二つの台本と、僕らがここで体験したことをまじえて、書いてみたんだ。
 本番は明日で、練習時間は、ほとんどないけど、ここにいるメンバーで、いまから練習できないかな」
「おまえは、またそんな無理を」
「ブルーズ。ここの責任者のレストレイドくんに聞いてきてよ。容疑の晴れた人から順に、稽古に参加してもらっていいか、ってね」
 天音に頼まれ、ブルーズは渋々と、レストレイドのところへむかう。
「私と透乃ちゃんは、どうすればいいんですか」
「もちろん、君らの役も当て書きしてきたんだけど、僕の努力は、ムダになるのかな」
「私、やっちゃうよ〜! 今度は、天音ちゃんの舞台に協力して、悪い人たちの心をなおしてあげればいいんだね」
「いろいろお話を聞いて、気持ちは複雑ですが、私も、参加させてください」
「あ、あ、天音先生。俺の役はあるよなっ」


「朔さん。なんで誘拐なんてしたんですか。私は、本当に心配したんですよ」
「すまない」
 麻美を誘拐軟禁した鬼崎朔は、パートナーたちと隠し部屋からでてきた後、抵抗もせず捕らえられ、いまは、友人の赤羽美央とむかいあっていた。
「麻美を他の者から隠すことで、守ろうと思った」
 捕まってから無言を通した朔だが、美央には口を開いた。
「他の人は信用できないからですか」
「この家の状況では」
「私も信用できないんですか? こんな、一緒に捜査するみんなまで、敵にまわす計画を立ててはいけません」
「敵にまわすのは、わかっていた。だから、美央には、話さなかった」
 朔は、赤い瞳の友人に、静かに、ていねいに言葉を紡いだ。
「だけど、でも、私には、話さないとダメです。私とあなたは、友達で仲間です。忘れないでください」
「煙幕の中、美央と館をさまよったミーも朔の仲間です」
 懸命に話す美央とジョセフに、朔はかわい家にきて、はじめて笑みを浮かべた。

「スカ吉。なんで朔ッチは、こんなにあっさり捕まったのかな。逃げるチャンスは、けっこうあったのにね」
 朔と背中合わせに座っているカリンは、隣にいるスカサハに話しかけた。
「朔様は、隠れている時も、朔様を探して休みなく館内を歩きまわっていた美央様とジョセフ様の様子をそっと眺めて、心配されていたであります。朔様は、お友達の気持ちに打たれて計画を中止、放棄したのだと思うであります」
「それって、朔ッチらしすぎる理由だよね。ところで、すっかり忘れてたけど、ボクらの最低、最悪のお友達のようなもの、の、アンドラスは、どこに行ったの?」
「申しわけありません。スカサハは、関知しないであります」


 レストレドは、ヴァーナーと麻美に扮した呼雪の会話を見守っている。
「俺は、おまえがなにかを隠していると思っている。ヴォネガット。事件をすべて終わらせるためにも、話したほうがいい。おまえが一人で苦しむ必要は、どこにもないんだ」
「実は、俺も本郷涼介君、葛葉翔君たちと、あの時の電車の状況をよく検討し、竹丸殺害の犯人は、君ではないという結論に達している。二人は、船上で真犯人を確保する予定だ」
 呼雪とレストレイドは、ヴァーナーが口を開くのを待った。
「ワウン。ワウ。ワウ」
 ロウが吠え、レストレイドは携帯を取りした。メールが届いたらしい。
 画面をみたレストレイドの表情が強張る。
「ヴァーナー君。今度は、船が爆破された。間もなく沈没する。いま、船内はパニックに陥っている。事件はまだ終わっていない。君の沈黙は、誰のためにもならないぞ」
「・・・・・・ボクは、ボクは、あの夜」
 誰も傷つけたくない、その想いで口を閉ざしていたヴァーナーは、事実を語りはじめた。