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少年探偵の失敗

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少年探偵の失敗

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44. 二日目 稽古場 午前九時四十四分

V:PMRのシェイド・クレインです。リン太郎さんが、あんなことになってしまったのは、残念でした。彼が言っていた、あの人が誰なのか、気になります。
 同じPMRの英希さんにお願いされて、私は、お芝居の稽古場にきています。
 英希さんの提案で、これから、私は死神にならなければなりません。
 イレブンさんやPMRのみんなで推理した、「かわい家」を「いわい家」に改名させるために、微力ながら、私も協力させていただくとします。

「すっごい。シェイド。本物の死神みたいだよ。英希さんやイレブンさんも、PMRがみんなこの格好するんなら、ワタシもしようかな」
 シェイドのパートナーのミレイユ・グリシャムは、黒マントと帽子をつけたシェイドの姿が気に入ったらしく、はしゃいでいる。
「ミレイユは、本物の死神にあったことがあるのですか。初耳です。イレブンさんは、最近は和服ばかりですし、着ないと思いますよ。それと、あんまり騒ぐと他の人に気づかれます。しーっ」
「ねえ。ねえ。シェイド。もう舞台にでた方がいいんじゃないの」
「英希さんの口笛が合図です。まだ聞こえませんね」
「口笛はしないけど、舞台には、死神がいるよ」


V:勝手にカメラ、頂いちゃったよ。今日も元気に活動中! のマッシュ・ザ・ベトリファイアーだよ。死神の芝居の稽古をしてるらしいから、それらしい格好できてみたんだよね。
 俺に剣をむけてくるおもしろい人たちがいるから、遊んであげるよ。ヒャハハハ。

 稽古中の舞台に突如あらわれた黒い帽子、マントで顔を隠した死神? は、台本の内容に関係なく、側にいた劇団員に当身を食らわせ、小道具の日本刀を奪うと、それを手に演者たちに襲いかかった。
「誰だ。おまえは」
「本気かよ」
 隊士に扮している鬼桜刃とソーマ・アルジェントの頭上を飛び越え、町娘役の麻美の前へ。
「・・・・・・」
「本物とか、どうでもいいんだよね」
「ダメだ。麻美さんは、殺らせないっ」
 舞台に駆けあがった清泉北都が、死神の前に立ち、両腕をひろげた。
「だから、誰でも差別しないよ、って」 
 死神の刀が振られ、北都がうずくまる。
「芝居仕立てだから、ゆっくりやってあげるね」
「北都っ」
 パートナーの危機に、背後から切りかかってきたソーマの刀をかわし、死神はソーマの腹を横になぎ払う。
 ソーマは倒れ、死神はソーマの刀を奪い二本の刀を手に、刃とむきあう。
「あんた。剣術。得意そうだね。さあ、早くおいでよ」
 刃は、相手の力量がわかるだけに、容易に動くことができない。
「刃様。お手伝いいたします」
 刃の隣に、パートナーの犬塚銀が並んだ。


V:死神さんのご登場で、おもしろくなってきたわね。でも、正面からの二対一では、さすがに不利かしら、私、雷霆リナリエッタとしては、まだ彼に退場しては欲しくないわ。乱入しようかな。なんてね。

 舞台の下、中島薫の横で、混乱した状況を楽しそうに眺めていたリナリエッタは、パートナーのベファーナ・ディ・カルボーネに、こっそりと、
「あかりでも消して、死神さんを応援してあげて。地震や火事もいいかな」
「リナ。それをしたら、薫殿に危険がおよびませんか」
「はは。どうだろうねぇ? それならそれでも別にいいんじゃない」
「わかった」
 ベファーナは、リナリエッタと薫から離れていった。


V:あのぉ、二人めの死神がでてきたんだけど。今度のは、藍色の電柱みたいな帽子とマント。しかも、口笛を吹いてる。曲は、えっと、ニュルンベルクの、なんとかだと思う。
 俺は、PMRの城定英希。
 舞台稽古中に麻美くんや薫さんが危険なめに会うようなら、シェイドくんと死神の格好で登場して、助けようと思ってたんだ。
 あ。シェイドくん、舞台にでてきちゃった。
 月桃さんまで、舞台にあがって倒れた人を介助してる。
 イレヴンさんまで助太刀に。。
 俺も行くね。

 英希が飛び込み、計四人の死神が舞台に揃ったその時、場内のあかりが消えた。

 消えていたのは、ほんの数秒で、再び場内が明るくなると、死神は二人になっていた。
 残っているのは、英希とシェイドの死神だ。
「あの野郎、どこのどいつだ。いつかやり返すぞ」
「それより、麻美さんが無事でよかったよ」
 月桃のヒールで治療された、ソーマと北都が言葉を交す。
「な、なんだってえー!」
 イレブン・オーヴィルの叫びに、一同が舞台下に目をやると、そこには、椅子に腰かけ、呆然としている薫と、薫に覆いかぶさるようにし、体を預けた藍澤黎がいた。
 そして、白い羽織の黎の背中には、舞台で使われていた日本刀が、突き刺さっていた。
 刀を中心に白地に赤い染みがひろがっている。
「き、きみは、ぼくのために」
「貴殿が危険なことはわかっていました。殺し愛など見苦しい。愛とは、もっと誇り高いはず。違いますか」
 黎は、とまどう薫に語りかける。
「ふふふ。あなた、本当にいい男ねえ。私、惚れちゃいそうだわ。こんなにいい男をケガさせたのは、誰かしらねえ」
 リナリエッタは、黎の髪を優しくなでた。
 

V:俺、高崎悠司が、黎を刺した。
 舞台で、麻美をやってて、北都やソーマがやられて、あの死神のやつをなんとかしようと思って剣を持ったんだ。
 チャンスを狙って待ってたら暗くなって、ふいに、誰かに突き飛ばされた。
 俺は、持ってた剣を離しちまって、それが黎に。

 悠司は、麻美の姿のまま、横になって治療を受けている黎の側にいった。
「黎。俺がやった。俺のせいだ。許してくれ」
 黎は静かにこたえる。
「・・・もし、麻美殿の手を離れた剣が我の背に刺さったとして、それは事故であろう。それに、これで肩こりが治りでもしたら、我は貴殿に感謝しなければならぬ。高崎麻美殿」
「・・・・・・サンキュー」