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少年探偵の失敗

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少年探偵の失敗

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45. 二日目 エーテル館 午後二時四十七分

V:百合園女学院推理研究会のマジカル・ホームズ、霧島春美のワトソン、ディオネラ・マスキプラだよ。もうじき、三時のおやつの時間だけど、ボクらは、エーテル館の探検をしてるんだ。朝も早かったし、お昼は携帯食だったし、おやつ休憩はしっかり取りたいよね。舞さんがいれば、絶対、お茶とお菓子を用意してくれるのになあ

 春美、ディオ、ピクシコと影野陽太の四人は、昨日に引き続き、エーテル館の建物自体の探索をしていた。
 超感覚のうさ耳をだし、メジャ、天眼鏡を手にした春美は、館の寸法を正確に測り、それをノートに書いている。
 小型のジャッカロープ(アメリカのワイオミング州などに生息するとされる、鹿の角の生えたうさぎ、のような生き物)獣人のディオは、狭い場所に入り込んで探索し、手品を得意とするピクシコは、隠し通路や、回転する壁などの奇術的仕掛けがないかを調べ、春美に報告する。
 墨死館事件の時と同じく、春美に同行した陽太は、スキルの博識と先端テクノロジー、特技の捜索を使って、三人の調査をフォローしていた。
「みんなの協力もあって、エーテル館の全容は、だいたい把握したわ」
「春美。そうだったら、おやつが食べられるね!」
「そうね。でも、おやつは、もう一仕事してからにしましょう」
「えー。まだ、なんかやるの。何度も上ったり下りたりしてボク、疲れちゃったよ」
 春美は携帯をだし、電話をかけはじめた。
 がっかりし、座り込むディオを、陽太がなぐさめる。
「疲れましたよね。でも、ディオちゃん。僕とピクシコさんは、すごい発見をしちゃったんですよ。これを発表したら、カンナ様に誉めてもらえるかもしれません。一緒に感動してください」
「なんか、おいしいものでも見つけたの? それに陽太さん、さっきから大きな袋をいくつも持って歩いてるけど、なにが入ってるのかな」
「ディオ。ワタシと影野陽太は、本当は、ここにあるはずのないものを見つけたの。明日、あなたに、ファンタスティックな世界を見せてあげられると、思うわ」
 普段は、冷静で厳しい感じのピクシコが、めずらしく雄弁に、ディオネラにエーテル館の秘密を語りだした。

V:ピクシコはね、おやつがもらえなさそうなんで、ちょっとすねてたボクに、こう言ったんだ。
 ディオ。エーテルって、知ってる?
 ヨーデルなら知ってるよ。よーれいほー。
 ボクの返事を無視して、ピクシコは難しい物理学の話をはじめたんだ。ひどいよね。

 デカルト、ニュートンからはじめて、特殊相対性理論まで、ピクシコは、エーテルについて語ったが、ディオネラは危うく、居眠りしかけた。
 くーくー。
「ディオ。ちゃんと、聞いてる? 結局、まとめるとね、エーテルは、二十世紀の初頭までは、真剣に研究されていた物理学理論で、二十一世紀の、パラミタが出現した現在では、完全に廃れてしまった失われた科学なの。
 かっては、宇宙は、エーテルという目に見えない物質で満たされていると、考えられていたわけ。わかった。」
「うにゃうにゃ。ご、ごめん。だけど、いまは、それは、否定されちゃったんだよね」
「でもね、このエーテル館では、エーテル理論は生きてるの。この建物は、おそらく、宇宙からのエーテル波の動きをキャッチして、信号を発信するためのアンテナ」
「ピクシコさんが喜んでるのは、現在の主流な科学の技術では、ありえない理論や物質がここでは、使われているからなんです。魔術や錬金術の世界でのみ細々と生きのびてきた、エーテル理論をこんな形で昇華させるなんて、みのるさんと潔さんは、どういう研究をしたんでしょう」

V:ピクシコと陽太さんは、興奮してるけど、ボクのお腹は、エーテルじゃ、ふくらまないよ。それより、春美が、陽太さんが持ってた袋の中身を床に並べてる方が気になるな。

「春美。それ、どう見てもゴミだよね。ダンボールとか、新聞紙とか、どうするの。散らかしたら、自分で片付けるんだよ」
「エーテル館は、一番上と土台の間の、真ん中の部分がもっとも変化が大きいの。動きそのものは、一気に全体を崩さないように、少しずつだけどね。潔さんを信じれば、明日、エーテル館は、建設以来、アンテナとしての機能をもっとも発揮する角度、形になるわ。
 建物自体どうなるかわかならいから、その前にここから、できれば退去しておいた方がいいわよね。
 エーテル波のアンテナとしての機能は別として、上下階との面積の違い、配管から考えて、この館に人が何人も隠れられる場所があるとしたら、ここらへんしかないわ」
 廊下に一直線に並べ終えると、春美は、ゴミの山に、順番に火をつけだした。
「えー。なに考えてるの。火事になるよ」
「美央ちゃんたち、迎えの人は、携帯で呼んでおいたわ。ディオ、ピクシコ、陽太さん、思いっきり叫んで騒いでね。セリフは、火事だあー、よ」
「だから、本当に火事になっちゃうよ」
「煙幕じゃなくて、本物だから、臨場感たっぷりね。ディオ、これがすんだら、おやつだから、頑張って」
「おやつ、約束だからね。じゃ、いくよ。火事だあー! 死んじゃうよう! 熱いよう!  火事だあー!」
 廊下に立ち込める焦げくさいにおいと黒煙の中から、鬼崎朔、ブラッドクロス・カリン、黒猫デュパンを抱えたスカサハ・オイフェウスら鬼崎一家と麻美が、姿をあらわしたのは、間もなくだった。