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リアクション
開店
「お待たせしました。蒼空バツ井デパートの開店です!」
アナウンスと共に、一階、正面入り口の自動ドアが開く。
同時に、お客たちがなだれ込んでくる。
「邪魔よ!」
列の後方から、声が上がった。
ヴェルチェ・クライウォルフ(う゛ぇるちぇ・くらいうぉるふ)がオバハン達を蹴散らし、突き進んでくる。
「走ると危険ですよ」
怒号のような声が入り乱れる店内。
そんな中、澄んだ声が響く。
入り口付近にいた道明寺 玲(どうみょうじ・れい)の声だった。
「そう言われて、誰が止まるのよ」
走り、玲に迫りながら、平然と言うヴェルチェ。
「まあ、それはそうですな」
玲は冷静にそういうと、トランシーバの通話ボタンを押す。
「李梅琳。一人、人を超越した動きで迫ってくる客がいますが」
「……生徒よね?」
トランシーバーから、梅琳の応答が入る。
「ええ。明らかに他の客とは、一線をかきます」
「なら、通していいわ」
「よろしいのか?」
「ええ。そういう輩は、単独行動させた方がいいわ。逆に徒党を組まれた方が厄介よ」
「了解です」
玲はトランシーバを持つ手を下ろすと、向って来るヴェルチェに道を開ける。
「へえ、やるじゃない♪ 判断が早いわね」
ヴェルチェはそう言うと、玲の横をすり抜け、階段を駆け上がっていく。
「あ、あの、わたくしはどうしたら……」
すでに姿が見えなくなったヴェルチェを追うように走るクリスティ・エンマリッジ(くりすてぃ・えんまりっじ)。
「きゃあ」
後続の婦人たちに押されて、倒れるクリスティ。
「どうしましょう……」
途方にくれるクリスティだった。
朝霧 垂(あさぎり・しづり)はデパートに入り、開口一番、大きな舌打ちをした。
「『化粧品を買ってきてくれ』って言うから来てみたら、バーゲンかよ……」
「ま、まあ、まあ垂さん、頑張りましょうよ」
なだめるように、夜霧 朔(よぎり・さく)が言う。
「えーと、何を買ってくんだっけな……」
垂は手に持っていた紙を見る。
有名ブランドの化粧品の名前が数点書いてあり、最後にこう記してあった。『買えるだけ買ってくること』。
「面倒くさいな……」
「じゃあ、俺が手伝ってやるぜ!」
朝霧 栞(あさぎり・しおり)が、そう言って『奈落の鉄鎖』を発動させる。
すると、急にお客の動きが鈍り始める。
「にゃははは〜。どうだ!」
「ありがとな。行ってくる」
お客(主に主婦達)の群れを抜きん出る垂。
「早く帰ってこいよー」
そう言って、栞は入り口の方に戻っていく。
「私も頑張ります!」
朔は、そう言うと垂とも、栞とも違う方に歩き出した。
「うっしゃあ!気合入れていくぜ!!」
入り口付近、『奈落の鉄鎖』のため動きが遅くなっている客を避けるため、天井を軽身功を使って走るラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)。
「ばばぁ共におくれを取る筋肉じゃねぇ!!」
そう言って、天井を走り続けるラルク。
主婦の一人が「天井を走るのに、筋肉は関係ないわ!」と突っ込むが、無視して走り続けるラルク。
「……というわけだ。李少尉」
「そう。生徒たちは術を使ってやりたい放題ってわけね」
カオルと梅琳がトランシーバーで話している。
「ああ。どうする?」
「そうね、わかったわ。生徒においては多少、こちらも警戒レベルを上げるわよ」
「術、解禁?」
「ええ」
「了解!」
カオルは一度、トランシーバーを切り、情報の中枢にいる翔子へ通信をつないだ。
店内はすでに、お客でごったがえしている。
そんな中、入口のところでスピーカーでお知らせをしている大岡 永谷(おおおか・とと)。
「このたびのバーゲンセールでは、最新式顔認証カメラを設置させていただき、お客様の安全を守らせていただきます」
永谷は、一呼吸置いて、一際大きな声で言う。
「つきましては、もし問題行為をなされるお客様がおられた場合、レジにて行為に応じて料金を追加させていただきます」
永谷の言葉に、一瞬、ピタリと動きを止めるお客達。
だが、それも束の間、すぐに動き始める。
永谷は、トランシーバーで翔子に連絡を入れる。
「カメラの方は?」
「大丈夫、今のところ良好だわ」
そんな二人のやり取りを聞いて、熊猫 福(くまねこ・はっぴー)が呆れたようにつぶやく。
「トトって、相変わらず妙な策ばっかり思いつくね」
「とと殿は、まだ子どもゆえに、発想力豊かでござるなあ」
逆に感心したように言う、滋岳川人著 世要動静経(しげおかのかわひとちょ・せかいどうせいきょう)。
そこに、右目に刀傷がある男が入り口から駆け込んでくる。
「月桃! 桜花ちゃん!」
鬼桜 刃(きざくら・じん)は、店内の様子を見て青ざめる。
刃の手には、『桜花ちゃんと一緒にデパートにお買い物に行ってきます』という紙が握られている。
「月桃がッ! この戦場のようなバーゲンセールに来てるだと! 怪我しないうちに連れ戻さなくては」
「刃様のお御心のままに」
刃の隣に控えている犬塚 銀(いぬづか・ぎん)が、かしこまったように頷く。
「こんな中、見つけられるのか……」
「以前、ここに来たことがありますが、自分では太刀打ちできませんでした。おそらく、目の見えない月桃様と幼い桜花では生き残るのは無理かと」
「くそぉ! なんてことだ」
「まったく、あの女、余計なことを。混乱に乗じて、壮絶な最後を遂げればいいのに……」
「ん? 銀、なんか言ったか?」
「いいえ。なにも……。それより急ぎましょう」
「ああ。そうだな」
刃と銀が階段に向かって走っていく。
「少し、出遅れましたか」
颯爽と入り口から入って来たのは、神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)だ。
「勝負はこれからだよ。ここからが、わたしの腕の見せ所だよね」
ニコッと笑う榊 花梨(さかき・かりん)。そして、隣にいる柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)の肩をポンと叩く。
「気合い入れないと駄目だね? これ……美鈴ちゃんがんばろうね」
「え〜と、初めてなんですけど……とりあえず、品物取れるように……頑張りますわ」
「それでは、ここからは別行動ということで」
「うん。わかった」
翡翠は下への階段、花梨と美鈴は上への階段へそれぞれ向っていった。
「な、なんですの! この人の多さは!」
小冊子 十二星華プロファイル(しょうさっし・じゅうにせいかぷろふぁいる)が、人の多さに唖然としている。
「まあ、バーゲンだからな。これくらいは集まるんじゃないか」
星華に対し、椎堂 紗月(しどう・さつき)は割りと平然としていた。
「こんなに人が多いのでは、はぐれそうで怖いですわ」
「んじゃ、はい」
紗月が星華の前でしゃがみこむ。
「……なんのマネですの?」
「おんぶ」
「おっ、おん……おんぶなんて恥ずかしいマネをわたくしにさせる気ですの……?」
「手繋いでるだけじゃ人ごみに飲まれたらそのままはぐれそうだし」
「た、たしかにわたくしは背が低いとは思いますが……だ、だからって……」
「ほら、せっかく買い物に来たんだからさ、楽しく買い物しようぜ。はぐれたら、それだけで時間たっちまう」
「し、しょうがないですわね……たしかに人の波に飲まれるのも嫌ですし、おんぶさせてあげても……い、いいですわよ?」
「うん。じゃあ、乗って」
顔を赤らめながら、紗月の背に乗る星華。
「……お礼に紗月の化粧品を何か選んでさしあげますわ」
「ありがとう。期待してるぜ」
星華を背負って歩き出す紗月。
デパートの入り口。
ソワソワとしている、メイベル。
「遅いですぅ」
「エメネアちゃん、どうしたんだろう?」
「まさか、急用ってわけじゃないですわよね?」
メイベルと同様に、少し慌てているセシリア・ライト(せしりあ・らいと)とフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)。
「そんなわけないさ。あんなに楽しみにしてたんだからさ」
エメネアを心底信じている目をしている滝沢 彼方(たきざわ・かなた)。
「ごめんなさいですの〜」
そこに、息を弾ませてやってくるエメネア。
そのエメネアの後ろには、トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)の姿があった。
「待ち合わせになかなか来ないから、見に行ったら、寝てたんだ」
苦笑するトライブ。
「うふふ〜♪ 楽しみで、昨日はなかなか寝れませんでしたの〜」
「でも、いいの? 大分、他の人より出遅れちゃったけど」
心配そうに彼方が言う。
「うふふ、大丈夫ですわ〜♪ 勝負はもう、着いているのですわ〜」
ルンルンとした足取りで、デパートに入っていくエメネア。
それに続く、メイベル、セシリア、フィリッパ、彼方、リベル・イウラタス(りべる・いうらたす)、トライブ。
そんな様子を遠くで見ていたエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)。
「エメネアさん…まだ洗脳されたままのようだけど……」
「大丈夫みたいですね」
エヴァルトのズボンをギュッと握っているミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)がニコリと笑う。
「デパートまで見張りついでについてきたけど、さすがにバーゲン中なら人畜無害か」
「そうですね」
「せっかく来たんだから、買い物でもしてくか。ミュリエル、欲しいものあるか?」
「お兄ちゃんと一緒に買い物できれば、それでいいです」
「そっか。じゃあ、CDでも見てくか?」
「はいです!」
そうして、二人は人混みを避けて、階段のほうへと向かっていく。
「……やはり来たか」
エヴァルトとミュリエルの、さらに後ろからエメネアを見ていた人物がいた。
アルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)である。
「さて、ミーミルが君のお礼をさせてもらおうとするか」
ゆっくりとした足取りで、エメネアを追うアルツール。
デーパートの入り口を入りって左に歩くと、大きな時計台がある。
その時計台の下で、栂羽 りを(つがはね・りお)がポツンと立っていた。
「しょーご先輩、どうしたんだろう……」
腕時計と、時計台の時刻を見比べて、ちゃんと時間は合っていることを確認するりを。
「……ごめん、待たせちゃったね」
スッと、りをの目の前に現れたのは、如月 正悟(きさらぎ・しょうご)だった。
「あ、しょーご先輩」
「外でさ、迷子の子供を見つけて、係員の人に預けてたんだ」
「しょーご先輩、やさしいね」
「せっかくのデートなのに、遅刻しちゃって……」
「ううん。いいの。待ってる時だって、デートの時間だもん」
「ありがとう、りをさん。それじゃ、お手を拝借っ」
正悟がスッと右手を、りをに差し伸べる。
「えへへ♪」
りをが、恥ずかしそうに、嬉しそうに、照れながら正悟の手を握る。
「りをさんは、何が欲しい?」
「うん。えっとね……」
二人、仲よく手を繋ぎながら歩き出す正悟とりを。
「青春じゃのう」
正悟とりをを見ながら、涙を流してうんうんと頷く、イーハブ。
「ワシも、若い頃を思い出すわい。……おっと、こうしてはおれん」
ハッとしたイーハブは、妖しげにこそこそと動き始めた。
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