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リアクション
第二章 古書専門店の冒険
第五話 お似合いですよ
ステージに上がったマイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)は、悲鳴をあげた。
「ちょっと待て。本当に、服を脱ぐのか」
床下モニターには、「百合園女学院の敷地内にはいる男性は、男の娘にならなければならない。ボクは服を脱がされ、女装させられた」とでている。
「これは、どういう展開なんだ」
「警部さん。捜査協力は、見た目も大切ですよ」
「フフフ。レストレイドくん。おとなしくしたまえ」
「痛くないから、安心して欲しいですっ」
たじろぐレストレイドを百合園女学院推理研究会のメンバーが囲み、ステージ上は、男の娘製造工場と化した。
提出者 弓月くると
「ボクが、あまねちゃんと一緒に百合園女学院推理研究会に遊びに行きたいって言ったら、推理研のみんながいきなり、ニンマリ笑って、じゃ、男の娘にならなきゃだめよって、服を着替えさせられて、お化粧させられたんだ。びっくりした。「覇王別姫」とか、思い出した」
五 未知への怪談も慣れれば平気よ。
第六話 美食
ドレスを着せられ、カツラをつけ、ステージにへたり込んだレストレイドの前に、肉の蒸し焼きがのった皿が置かれた。
「私の家のシェフが作った料理よ。食べてみて。それを食べて、身も心も百合園の一員として頑張るのよ」
暗がりからの威勢のいい声に、背中を押されて、レストレイドはフォークで、タレのかかった肉を口に運んだ。
「パラミタの名物料理か。普通の鳥肉のような感じだが、この肉は、なんだ」
問いにこたえるように、教室が鳴き声で満ちた。
げーろげろ。げーろげろ。げーろげろ。
提出者 古森あまね
「これは、あたしが、推理研代表のブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)さんにやられたんです。あ、でも、ブリジットさんには、まったく悪意はなくて、パラミタの家庭料理を食べたいっていったら、これを。ブリジットさんは、生粋のヴァイシャリーっ子なら、これくらいは普通よ、って言ってたけど、なんのお肉か聞いて、あたし、泣きました」
六 平面怪談のピョン吉。
第七話 なにかがいる
古風だが高級そうな調度品をしつらえた洋室で、ブリジット・パウエルは腕組みをしていた。
「推理研のみんなと、幽霊のでるって噂の古書専門店を調査にきたのよ。しかし、この設定、誰のレポートか知らないけど、まるで私たちのためみたいなお話ね。私はこの部屋で一夜を明かすんだけど。ベットに寝ろって、つまり、この立体映像、ほんとに使えるわけ?
すごすぎるわね。いいわ。じゃあ、このまま、横になるわよ」
靴だけ脱いで、ブリジットは、天蓋つきのベットに横たわった。
「やっぱり、寝心地はよくない。え。なに。重い」
突然、胸を押さえつけられるような圧迫感をおぼえて、ブリジットはそれから逃れようとしたが、体の自由がきかない。
見えないなにかが、体にのっている。
「ちょっと、やりすぎよ。この幽霊、太りすぎじゃないの。こんなの。うーん。むぎゅう」
提出者 シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)
「私の実体験です。意識が戻った後、色々と調査しましたが、私としたことが、未だに原因が解明できていないのですよ。ブリジットさん。犯人はわかりますか」
七 怪談の分だけ足腰への負担が増します。
第八話 夢の中にいる
古書専門店の調査に同行した弓月くるとは、無事、眠りについて、夢を見ていた。
ステージ上のくるとは、靄に包まれている。
靄の中に誰かがいた。
自分の家族かもしれない。
「「ミスト」って、後味のすごく悪いホラー映画があったけど。ねえ。そこにいるのは、誰?」
呼びかけても、返事はなかった。
とにかくそれは、自分にとって大事な人なのだが、誰なのかはわからない。
やがて、それは、靄にとけるように消えていった。
提出者 緋柱陽子
「夢の中で、大切な誰かと出会い、別れて、夢からさめた後、私は、ひどい寂しさを感じました。けれども、だからこそ、その直後に、私は透乃ちゃんとの契約をすんなりと受け入れることができたので、あの夢には感謝しています」
八 大切な怪談は、みんなどこかへ行ってしまうんだ。
第九話 革靴
ブリジットのパートナーの橘 舞(たちばな・まい)は、古書専門店のある街を探索した。
金髪のかわいらしい男の子が、彼女に話しかけてくる。
「お姉さんは、本屋の幽霊を調べにきた探偵さんだね」
「ええ。探偵さんではないけど、一応、そうかしら。こんにちは。私、橘舞です。あなたは、あの本屋さんの幽霊の噂やお話をなにか知っているの?」
優しく語りかける舞に、少年は自慢げに話しだした。
「この街は、そんな話で一杯さ。僕もね、大好きな親戚のじいちゃんの葬式の時に」
「まあ、それはかわいそう」
「舞姉ちゃん。まだ、話してないよ」
「あら。ごめんなさい。悲しみに負けないでがんばってね」
「う、うん。でさ。葬式にちゃんとスーツにネクタイで参列したんだけど、靴だけ、忘れてて白いスニーカーを履いてっちゃったんだ。
じいちゃんに立派に育ったとこみせたかったのに、恥ずかしかった」
「そんなことないわ。おじいさんを想う気持ちは、きっと伝わったはずよ」
舞は、話に感情移入して、瞳を潤ませ、少年の手を握りしめる。
「そうなんだよ。気持ちが伝わったのか、後で、僕あてにじいちゃんの形見が送られてきて、それは、黒の革靴だったんだ。じいちゃんの意思を感じたよ」
提出者 春夏秋冬真都里
「俺は、いまもその靴を大切にしてる。本当に大好きなじいちゃんだったから、ずっと持ってるつもりだぜ」
九 怪談は、きみをいつも見守っている。
第十話 親切な人
舞のもう一人のパートナーである金仙姫(きむ・そに)も街を探索していたが、どこからか聞こえてくる音楽と、ざわめきに引き寄せられて、気がつけば広場にきていた。
広場では、祭りが行われている。
「おお。舞台もあるではないか。わらわは一曲、歌っていこうかのう」
元々、陽気な性格の金は、人々の間をぬって、舞台へと歩み寄った。
と、道端に倒れている少女がいる。
「あの子は、どうしたのじゃ。長い黒髪の、きれいな子じゃ。そなた、具合でも悪いのか」
介抱しようと、少女の顔を覗きこんだ金は、息をのんだ。その少女は、どう見ても、幼き頃の自分にしか見えなかった。
提出者 ヴェッセル・ハーミットフィールド(う゛ぇっせる・はーみっとふぃーるど)
「祭りの夜、ガキだった俺は、調子が悪いのも忘れて家を飛びだした。じっとしてられなかったんだ。だけど、人ごみで迷子になって、気がついたら、苦しくなって倒れてた。そしたら、誰か親切な人が俺を家まで送ってくれたんだ。それでさ。ついこの間、祭りに行ったら、倒れてる子供を見つけて。白い髪したそいつが、いつかの誰かさんにしか見えなくって。どうしたかって? 俺がこうして、ピンピンしてるんだ。そういうわけだよ」
十 あんた、怪談のクセに行き倒れかい。
第十一話 強制
夜半の森を宇佐木 みらび(うさぎ・みらび)とケイラ・ジェシータ(けいら・じぇしーた)は、歩いていた。
街中での聞き込み捜査の結果、今夜、ここで、ある儀式が行われると聞いて、様子をみにきたのだ。
「こうして、二人っきりでお会いするのは、はじめてですよねっ。百合園女学院推理研究会の宇佐木みらびです。
ジェシータさん、よろしくお願いします。年上の方だから、先輩ってお呼びしていいですか?」
「実は暗いところは苦手なんだけど、推理研の人と一緒なら、心強いかな。こちらこそ、よろしくね。じゃ、自分は、宇佐木さんって呼べばいいの」
「みらびは、年下なんで、さんはつけなくて、いいですよう」
「それじゃ、うさぎちゃんにするね。ところでさ、ここの儀式って、なにがあるんだろう」
「うーん。うさぎにも、わかんないですっ。ジェシータ先輩は、うさぎたちみたいな探偵活動にも興味があるんですか?」
「興味なくもないけど、今日はたまたま、このグループに入ってるんだよね」
暗い森を進む二人の前を少年たちの行列が横切っていく。
かなり長い列で、彼らは全員、手にパンやハムなどの食べ物を持っている。
「ぴよっ!」
「ねえ、ねえ、きみたち、どこへ行くの。なにをしてるの」
ケイラが聞いても、誰も立ち止まらない。
「聞こえてないんでしょうかっ?」
みらびが近づいて、少年の顔をじっと眺める。
「ヨソものには、教えちゃいけないんだ。放っといて、早く森をでろ」
少年は足を止めずに小声で言うと、みらびの体をそっと押しのけた。
数分もすると少年たちの姿は消えてしまい、みらびとケイラだけがそこに残された。
得体の知れない獣たちの咆哮が、森のどこかからきこえてくる。
提出者 童子 華花(どうじ・はな)
「オラがきいたことがあるのは、大昔に、近寄っただけで死んでしまうような、怖ろしいなにかがいたんだけど、たくさんの人が力を合わせて封印した話。
そのせいか、知らないけど、街にはおかしな風習がいまもいろいろ残ってて、意味もよくわかんないまま、住人たちはずっとやり続けてるんだ。
封印はとっくに解かれてるかもしれないのにさ。
おーい。うさぎちゃん、ケイラちゃん、オラは今日は、お友達をつくりにここにきたんだ。
オラの話を体験したんだから、これでオラとは友達だね。これからも、よろしく!」
十一 この町の怪談は、ソフトボールに強制参加です。
第十二話 林の主
森をでたみらびとケイラは、街へ戻る途中の林で、昼間、話をした老人を見かけた。
「モニターによると、みらびたちは、このおじいさんから、以前、ここの林の奥の古井戸で、女の人が飛び込み自殺をした話を聞いた、ってなってるみたいですっ」
「こんな夜更けに、なにしてるのかな。あれ、声が、林の中から声がするよ」
「なんにも聞こえませんよ。ジェシータ先輩、驚かさないでくださいっ」
二人のところへ、老人が歩いてくる。
「昼間の探偵さんだね。こんな遅くまで、ごくろうさんだ」
「こんばんは。おじいさんは、夜更けに、一体、なにをしてるんです?」
「ああ。彼女が歩きやすいように、林の中を掃除してやらんとな。余計な枝を切ったりな」
「ぴよっ! 彼女、ですか」
「おじいさん、ひょっとしてこの声は」
老人は、うれしそうに笑みを浮かべた。
「あんた。聞こえるかね。うちの娘が、あんたを呼んどるんじゃ。会いに行ってやってくれるか。娘は、林の奥の古井戸の中に…
提出者 神野 永太(じんの・えいた)
「噂なんですけどね。永太は、直接、見たことはないんですが、このじいさんに会った、林を歩き回る女を見たっていう知り合いが、けっこういて。
よく話をきくと、じいさんの方も幽霊らしいです。ただ、女は、実は事故で死んだ幼い女の子らしいんで、今度、酔った時にでも会いにいってあげようかと思ってるんですが。
なんなら、連れて帰ってきてもいいかな、なんて。いや、だって、一人でさびしいなら、かわいそうじゃないですか!」
十二 怪談同伴でないとこの映画は、ご覧になれません。
第十三話 あいさつ
推理研の正式メンバーではない七尾 蒼也(ななお・そうや)も、古書専門店の幽霊事件捜査に同行していた。パートナーのペルディータ・マイナ(ぺるでぃーた・まいな)が推理研メンバーなのである。
蒼也は、書店の屋根裏部屋を一人で探索している。
「使われていない屋根裏部屋といっても、少し前までは、普通に誰かが生活して感じだな。家具も普通に揃ってるし。
立派な本棚だ。どんな本があるんだろう」
書棚の前に立った蒼也に、ふいに本と本の間からのびてきた手が、襲いかかった。
「ぐうっ」
書棚からのびた太い腕、大きな手の平は、蒼也の顔を覆って、離さない。
抵抗しようと、蒼也は手足をばたつかせる。
しかし、蒼也の左手、機晶姫の義手は相手の腕を通り抜けてしまって、ダメージを与えられない。
だんだん呼吸が苦しくなって、蒼也は意識を失った。
目覚めると、蒼也は墓地にいた。
本を握りしめ、倒れていたのだ。
「なんなんだよ。あれは」
目の前の墓を眺め、手にした本の表紙を見つめる。
蒼也は、大きく息をつく。
「はあーっ。なんて、手荒な自己紹介だ」
蒼也が持っていたのは、ある人物の日記だった。
そして、日記の表紙と、目の前の墓標には、同じ名前が記されていた。
提出者 火村 加夜(ひむら・かや)
「信じてもらえないかもしれませんが、幽霊の仕業としか思えない殺人事件が起きたことがありました。
原因を究明してゆくと、目撃証言その他から、犯人はやはり死者であり、被害者が発見された場所は犯人の墓の前でした。
被害者の手には、生前、犯人が大切にしていたものが握られていたそうです。蒼也さん、荒っぽい怪談ですいませんでした。
お詫びにお菓子でもいかがですか。ほら、血まみれの目玉(ホワイトチョコボールの苺ジャムシロップがけ)です。
私、今日は、ホラー風のお菓子を沢山作ってきたんです。炭化した前腕骨(人骨風かりんとう)とか。
他のみなさんも、いかがですか。おいしいと思いますよ」
十三 初対面の怪談には、あいさつをしっかりしよう。
第十四話 御指名
ペルディータ・マイナは、なにかに呼ばれた気がして、街の中央にある石碑を目指した。
「あたしは、あそこへ行かなくてはいけません」
石碑の近くまでくると、ペルディータの他にも何人もの女が石碑に近づき、巨大な岩に中に吸い込まれてゆく。
「早く行かなくては」
みんなの後を追って、石碑にふれようとしたペルディータの肩を後から誰かがつかんだ。
「ペルディータ。行ってはだめだ」
「離してください」
ペルディータは、その手を振りほどこうと、激しく体を揺らした。
「危ない。帰るんだ」
「行かないと、いけないんです。他の人もみんな、行ってるじゃありませんか」
「他の人? ここには、俺とおまえしかいない。この街はおかしい。引き返そう」
ペルディータは、強引に、半ば抱きかかえられる格好で、宿にしている古書専門店に連れ戻された。
古書専門店につくと、ペルディータは眠ってしまった。
後でパートナーの七尾蒼也から、話を聞かされても、ペルディータはなにも覚えていなかった。
「いまさっき、あの石碑のところで、女性の死体が発見されたって、知らせがあった。原因は不明らしい。
あそこで、一緒に戻ってこなかったら、ペルディータも危なかったかもな」
提出者 斎藤 邦彦(さいとう・くにひこ)
「パートナーのネルと一緒に体験した話だ。石碑の正体は、くわしくはわからんが、どうやら、過去になにかあったらしいな。
話は違うが、くるとくん、あまねさん、私が誰かわかるかな。私のことはおぼえているかい?」
斉藤の問いかけに、くるととあまねが声をあげる。
「その声は、もしかして、透明人間さんですか。おひさしぶりです」
「猿蔵さん。こんにちは」
「・・・・・・少年探偵。違うだろ」
十四 今度の怪談会議で指名するのは、彼しかいない。
第十五話 不適切な死者
意識を取り戻したブリジット・パウエルは、パートナーの橘舞、金仙姫と古書専門店の調査を開始した。
「シャーロットに挑戦されて、黙ってるわけないじゃない。冴えた推理でカキーンと解決! 行くわよ」
「しかし、のう、ブリ。あっさりと隠し通路を見つけてしまったが、この奥には、なにが」
「あらあら。大変。みなさん、どうされたんですか。治療した方がいいですよ」
隠し通路の先には大広間があり、手、足、首、他にも正視できないような損壊をした紳士、淑女たちが舞踏会をおこなっていた。
彼らの痛々しい姿に同情して、駆けよろうとする舞を金が止める。
「待て、舞。治療は無駄じゃ。見てわからぬか、この者たちは、もはや、生きてはおらぬ。わらわの美貌や才能でも、この者たちを元には戻せぬじゃろうて」
「ええっ。そんな。こんなに痛そうなのに」
「ふーん。そういうことなのね。わかったわ。犯人はあなたよ!」
びしっ。
ブリジットは、壁にかけられた肖像画を指さした。
「ここいる幽霊たちがこうなったのは、この女の責任よ」
「さすがね、ブリジット。でも、なんで、わかったの」
「美人には違いないけど、問題は、あの目よ。あれは、犯罪者。殺人者の目だわ。私はごまかされないわよ」
「ブリのこれは、もはや推理ではのうて、超能力じゃな」
提出者 月美芽美
「まだ、私が英霊でなかった頃。私の城には、体の壊れた幽霊たちが大勢、住んでいたわ。私の美しさが羨ましくて集まってきたんでしょうね。幽霊たちが私につきまとう本当の理由は、内緒よ」
十五 怪談になったら、酒も飲めるし、入れる店もあるんだ。早く怪談になりたいなあ。
第十六話 べったり
推理研の男性メンバーであるセイ・グランドル(せい・ぐらんどる)は、街中で、金網で出入り口が塞がれたトンネルを見つけた。
「どうせ、行くしかないんだろ」
金網をよじ登り、上部の隙間から中にはいる。レンガ造りのトンネル内は、湿っていた。
雨漏りするのか、足元には水たまりがある。
「宇佐木や煌星は、なんでこんな講義に、でたいんだろうな。ったく、しようがねえなあ」
長いトンネルを歩いていると、やがて、自分以外の足音に気づいた。セイが足を止めても、足音は止まらない。
そのうちに、それは早足、駆け足になり、反対側から、セイの方へすごい早さで接近してくる。
「ううううう」
姿は見えないのに、数人分の足音と苦しげなうめき声までした。
「こっち、くんなよっ」
さすがのセイも、うめきと足音に背をむけて、入り口へと走りだす。
セイが金網によじのぼり、外にでた瞬間、背後からはっきりと言葉が聞こえた。
「引き返せ・・・」
トンネルの前で、呼吸を整えながら、セイは衣服の汚れに気づく。
セイのズボン、上着の背部には、びっしりと、ぬらぬらした赤い手形が残っていた。
提出者 ホワイト・カラー(ほわいと・からー)
「はうっ。再現すると、すごく不気味です。(ホワイトの感情を表現する、はちみつみるくクセ毛が、不安げにウニョウニョしている)私が聞いた話だと、おもしろ半分に車で行った人は、車のボディいっぱいに手形がついて、いくら洗っても落ちなかったそうです」
十六 怪談をつけすぎると字がにじむ。
第十七話 三匹
ジャッカロープ(鹿の角の生えたうさぎ)獣人、ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)と、少女の姿をした宇佐木煌著 煌星の書(うさぎきらびちょ・きらぼしのしょ)は、部屋の隅で身を寄せ合っていた。
煌星は冷静だが、ディオネアは煌星にしがみついて、震えている。
「ボクは、お化けは苦手なんだよう。なのに、これは、ちょっと、ひどすぎるよ」
「まあまあ、幽霊でも、これくらいはっきりしてると、なんにも考えなくてよくて、気楽じゃん」
「はっきりしすぎだよ!」
二人の前には、三匹のお化けがいた。
一般のイメージ通りの白い影のようなものが三つ、なにも言わずに、部屋をうろうろしている。
「エサでもやれば、なつくかねえ」
「知らないよ。うわあ。わわわわ。こっち、こないで」
提出者 赤羽 美央(あかばね・みお)
(美央の姿が見えないので、パートナーのジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)が、机の下に隠れているのを見つけだし、嫌がる美央にマイクをむけた)「お化けやだ・・・お化けやだ・・・しゃべりたくないですすす」(再び、机の下にもぐろうとする)
「美央。なにか話すデース。美央の部屋にいたのは、ミーのペットのゴースト三兄弟(オオ、ババ、ケケ)です。そんなに怖がるなんて、困りマース」
(机の下でこっそり)「お化けさえなかったら、ジョセフなんて退治してやる。お化けやだ」
「なにか、いま、怖ろしい言葉が聞こえた気がしマース。以上、解説デシタ」
十七 怪談を何匹も飼えるほどの広い庭が欲しいなあ。
第十八話 地下サロン
半泣きのディオネアをステージからおろしてやり、煌星は、今度は一人で、地下室にいた。
物置きと化した地下室には、ぼさぼさの銀髪の少年がいる。
「キミは、一人ぼっちでここにいるのかい?」
「ふふふふ。あっははは」
話しかけても少年は、煌星をむかず、なにもないはずの方を見、一人で笑ったり、しゃべったりしている。
「どうしたのかな」
首をひねりながら、煌星は少年をしばらく観察していた。
「ねえ、キミ、キミ。忙しそうだから、ボクの方をむかなくてもいいけどさ。ひょっとして、キミは誰かとお話してるのかい?」
「もちろんだよ!」
少年は振り向くと、一気かせいにしゃべりだした。
「誰も僕の言うことを信じてくれなくて、ずっとここに閉じ込められて、でも、全然、怖くも、さびしくもなかったよ。だって、僕にはみんながいるからさ。僕に会いにみんなどんどん集まってきてくれるんだ。ほら、この地下室はもう一杯だろ。ここに入りきれないやつは、家の中や街でぶらぶらしてるんだ。仲間が仲間を呼んで、このへんは僕の友達だらけさ。きみがどこの誰だか知らないけど、よく僕が友達と話をしてる、ってわかったね。きみなら、他の人たちみたいに、僕の友達が見えない、彼らの声が聞こえないなんて、ひどいことは言わないよね」
提出者 ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)
「八年間。閉じ込められてたんだ。地球で。僕は嘘なんかついてなかったんだけどね。生者も死者も、一人ぼっちよりも賑やかなのが好きだって知ってた? 僕の地下室に集まった仲間みたいに、百物語の魔物もこの教室に呼んでもらうのを待ってるんだよ。僕は、この会を成功させて彼を呼びだすよ。必ずね」
十八 キミとボクとは怪談だ。大切な怪談だ。
第十九話 博物学者の結論
ステージをおりた煌星は、席に戻らず、教壇の前に立ち、教授に話しかけた。
「キミ。手も、足も震えてるし、すごい汗だよ。普通じゃないねえ。ボクは、外見はこう見えても、実はけっこうおばあさんでね。昔、いまのきみみたいな人にあったことがある。その人は、隠し事をしていたんだけど、体は正直だったんだよね。彼が隠していたのは、
「キシャシャシャシャ」
なにかがはぜたような爆音と、耳障りな笑い声が、教室中に響いた。
教授がスイッチを入れ、教室が蛍光灯で照らされる。
ざわつく室内で、ステージに上がったのは、空京大生、氷雪の魔術師、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)だった。
「みなさん。お静かに。フライシャー教授。次は、遙遠の番ですね。たしかに、ここには、なにかがきているようですね。今日の教授は・・・まあ、いいでしょう。他人のことには、興味はありません。遙遠は、遙遠のやりたいようにさせて頂きます」
平然と立ち、レポートの再現開始を待つ遙遠に、マイクを持ったままのニコが話しかける。
「緋桜もわかってるんだ。そうだよね。もう、きてるよ。心霊の話をすると、すぐに科学を持ちだして反論する人がいるけど、先人達の業績を再検討し、オカルト研究に誰よりも真剣に取り組んだ二十世紀の博物学者コリン・ウィルソンは、こう結論づけている。「人類の歴史を振り返ると、霊、オカルト現象については、あるとしかいえない」ってね。僕はそんなのとっくに知ってる。緋桜もだろ」
「騒ぐほどのものでは、ありません」
遙遠が片手をあげたのが、合図になったかのごとく、室内灯りが落ちた。
十九 怪談で解けないものを解明できるのは、より進歩した怪談しかないんだ。
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