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七つの海を越えて ~キャプテン・ロアは君だ~

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七つの海を越えて ~キャプテン・ロアは君だ~

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第7章「新たなる海」
 
 
 『アークライト号航海日誌 7日目』
 
 皆さんこんにちは。こちら如月探検隊です。
 今回はこの未開の島に宝玉があると聞いてやって来ました。
 あちらに見えるのは現地の方でしょうか。
 やはりこちらの方々も小人のようです。言葉が通じるか不安ですね。
 おや、私達と同じ姿の人がいました。お話を伺ってみましょう。
 ……ってあれ? この人見た事があるような……?
 
 ――アークライト号船員 如月 玲奈(きさらぎ・れいな)――
 
 
 
 
 『新たなる海』へと辿り着いたアークライト号達。その世界にある一つの島に、数人が小船で上陸しようとしていた。
 現在アークライト号は島の沖合いに。そして他の六隻はその更に沖に待機している。これには理由があった。
 
「透矢、小説だとこの章では発見した島に住む人との交流が描かれるんだよね?」
「そうだな。協力しあったり、些細な事ですれ違いが生まれたり……そんなやり取りがメインの章だ」
「なら島に行くのは少人数にした方がいいんじゃないかな。特に軍艦は少し離しておいた方が良いと思う」
「……確かに威圧感を与えるのは好ましくないな。小説だとアークライト号だけだったから失念していたよ。有難う、ロゼ」
 
 ――といった九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)篁 透矢のやり取りがあったからである。
 
 
「わ〜っ! ここ、前にレオンがいた場所にそっくりだ〜!」
 海岸へと着いた小船から九条 レオン(くじょう・れおん)が元気良く飛び出す。緑に溢れたこの地に、レオンは故郷と同じ物を感じたようだ。
「さて、宝玉はこの島にあるみたいだけど……問題はどの辺りか、だね。出来るなら現地の人を刺激しないようにしたい所だけど」
「それなら大丈夫! オイラのとっておきを持ってきてるからさ!」
 冬月 学人(ふゆつき・がくと)に元気良く答えたクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)が袋に包まれた何かを取り出す。
「それは?」
「こいつは雲海わたあめ! 甘くてすっごく美味しいんだ! こいつとエオの作ったお弁当を島の人にあげて、代わりにこの島の料理を食べさせて貰えば仲良くなるなんて簡単さ!」
「まぁクマラが言うほど簡単に行くかは分かりませんが、交流の切っ掛けにはなると思いますよ」
 手に持っている袋を軽く掲げながらエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)が言う。料理を得意とする他の者達と協力して作ったこの弁当は、個人的には中々の自信作だった。
「島の人達が宝玉の場所を知っていると助かるわよね。そうすれば情報を聞き出して探索を楽にする事が出来るんだけど」
「それよりも向こうが既に宝玉を持っているケース、かな……いや、それだと素直に渡してくれるかの問題が出るか……」
 その後ろでは水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が話しながら歩いている。現時点ではトレジャーセンスによる反応がこの島から感じられたというだけで、島のどこにどんな形で存在しているかはまだ判明していない。
 これまでの海での出来事を思い出しながら進む一行の前に、南洋の格好をした、いかにもな小人達が目に入った。突然現れた外の住人達に、何事かと慌てている様子が分かる。
「ふむ。やはり小人なのか。となると向こうの言いたい事は仕草で理解するしか無いかのぅ」
「そうね、他の船にいる小人もそうだけど、喋る事は出来ないのかしら。私達の言う事は分かるみたいなのが幸いではあるけど」
 天津 麻羅(あまつ・まら)と緋雨が相手を怖がらせないように立ち止まり、観察する。今の所、小人達の反応は友好的でもなければ敵対的でもない。どうしたものかと迷っているのだろう。
「とりあえず、僕達に敵意が無い事を知って貰うのが第一かな。説得……って訳じゃないけど、話しかけてみようか」
「俺達の事はこの辺りを調べている学者って事にしておこう。そうすれば宝玉についても聞き易くなると思う」
 代表として学人とエースが歩み出る。するとそれとほぼ同じくして小人達が木の向こうへと駆け出した。
「あっ。参ったな……これでも警戒されるのか」
「……いや、どうやらそうじゃないみたいだ。向こうから誰か来る」
 二人の従者を引き連れ、小人達と入れ替わりに現れた一人の男。その人物はエース達と同じ背格好をしていた。つまり現実から巻き込まれた人間という事だ。
 苦悶の表情をした面を着け、どこか神秘的な雰囲気を放っている気がするその男。だが、あくまで『気がする』だけだった。何故なら――
 
(そこまでお膳立てして、何故蒼学の制服……!?)
 
 という一行の心の叫びの方が遥かに大きかったからである。そんな叫びなど全く届かないとばかりに、その男が声を出した。
「立チ去ルガイイ」
「何で片言っぽいんだろう……と、とにかく。まずは僕の話を――」
「ココハ神ニ護ラレシ島。災イヲモタラス者ハ神ノ裁キヲ受ケルダロウ……命惜シクバ、早々ニ立チ去レ」
 学人の話を問答無用で遮る。まさに取り付く島が無いといった状態だが、それを後ろで見ていた玲奈が何かに気付き、男の前へと出てきた。
「……あれ? その髪型、誰かに似てる気がするのよね。それに今の声……」
「女ヨ、コノ島ニ災イヲモタラスノデアレバ――」
「やっぱり! キミ、ショウでしょ! 葉月 ショウ(はづき・しょう)!」
「彼を知っているのかい? お嬢さん」
 突然相手へと詰め寄った玲奈にエースが尋ねる。玲奈は間違いようがないとばかりにしっかりと頷き、ショウと呼ぶ男に問いかけた。
「知ってるも何も、ショウは私の幼馴染よ。一緒に巻き込まれてたどころかこんな所にいるなんて……ショウ! 私の事は分かる?」
「……女ノ事ハ知ラヌ……ハズ。ダガ、ドコカデ……」
「どうやら今までの人達同様、物語の人物としての記憶の影響が強いみたいだね。でも、お嬢さんの知り合いならそれを取っ掛かりに出来るかもしれない」
「そうね……ショウ、分からないならそれでもいい。でも、敵じゃ無い事だけは分かって」
 本来の記憶が影響し、不思議な説得力を持ってショウの心に響く。結局彼は自らがショウである事を肯定も否定もせず、ただ振り返って森の奥へと歩き出した。
「……イイダロウ。オマエ達ヲ連レテ行ク、着イテ来イ」
 
 
 一行は島の中央、ショウや小人達が住む集落へと辿り着いていた。幸いショウはこの集落の者達の中では立場が上だった為、彼と共に現れた玲奈達は危害を加えに来たのでは無いと理解されてこちらとの交流を持ってくれていた。今はクマラの思惑通り、互いの食べ物を交換する事で意思の疎通を図っている。
「美味い! 何だろこの果物。本の中っていうのが残念なくらいだなぁ」
「確かにこれは現実にも持って帰りたいくらいだね……ところでクマラ、その魚は美味しいのかい? 何だかグロテ――個性的な色合いをしているけど」
「うん、こっちも美味しいよ。 特にオイラのお勧めはこの部分かな……はいっ」
 見た目で思わず引いてしまうエースだが、クマラはお構いなしに箸を寄せてきた。
 その純真な笑みに、エースは心の中で脂汗を流しながら口を開いた。
「……ん、思ったより美味しい……」
「でしょ?」
 そんな二人の横で、エオリアと学人は持参した弁当を小人達へと振舞っていた。
 こちらも味は好評で、おかずを口に入れては喜ぶ姿があちらこちらに見られる。
「どうやら気に入って貰えたようですね。喋らないし、他の船の小人達は何かを食べている様子が無かったからもしかしたら無駄になるかもと思ってしまいましたが、杞憂だったみたいです」
「これで敵意が無い事は分かってくれたかな。後は宝玉を知っているか聞けたら良いんだけど……説明して分かるかな?」
 二人が身振り手振りも交えて小人達に宝玉について教える。
 そして光を放つ宝石がついている事を話した時、ようやく理解したとばかりに上を指差した。
「トーテムポールの上……? あ!」
「一番上の彫像の目が光って見えるけど、あれが宝玉なのかな? ……もしそうだとすると、厄介だな」
 島の中央、更にその集落の中央にそびえ立っているポールは恐らく何かしらの意味合いを持っているのだろう。
「アレハコノ島ノ宝。神ヘト捧ゲラレタ物」
「神?」
「ソウダ。コノ地ハ神宿リシ島。コノ地ニ災イ訪レル時、神ガ降リテ我ラヲオ護リ下サルト伝エラレテイル」
「その神に捧げられた宝玉か……これは簡単に譲ってくれと頼む訳には行かないだろうな」
 どうしたものかと学人が考える。そこに自信満々に麻羅が話しかけてきた。
「ふっふっふ。何も難しい事など無いではないか」
「え?」
「神・降・臨! わしこそは天目一箇神! その宝玉が神に捧げられていると言うのなら、それ即ち神であるわしの物なのじゃ!」
「麻羅……それはさすがにこじつけじゃないかしら」
「何、安心せい緋雨。神の奇跡を見せれば信じもするという物じゃ……ほれ、このようにな!」
 神の力を使い、近くにあった物を浮かび上がらせる。不思議な力を目の当たりにした小人は皆一様に驚きの表情を浮かべていた。
「はっはっは! どうじゃ、これが神の力じゃ!」
『いや、それってどう見てもサイコキネシ――』
 
「神・の・力・じ・ゃ・!」
 
 原理を知っている全員からの突っ込みを思い切りスルーし、なおもサイコ――もとい、神の力を使う麻羅。空中を自在に浮かぶ物体を前に、小人達は麻羅に畏敬の念を抱き始めていた。
「どうじゃ! これぞわしの力! さぁもっと神たるわしを精一杯崇めるのじゃ〜!」
「――って、調子に乗らないのっ!」
「アタッ! ……冗談なのに殴るでない、緋雨」
 少々ハメを外しすぎた感はあったが、それでも小人達やショウに神秘的な力を使う存在であると思わせる事に成功したようだ。このまま更に信仰心を上げて宝玉を穏便に手に入れようとするが、残念ながらここで日没となってしまった。
「あらら、この島を見つけるまでに時間がかかっちゃったからね。続きは明日になっちゃうかな……ショウ、私達、今夜はここに泊まってもいい?」
 玲奈が尋ねる。現実で幼馴染という間柄であるせいか、ショウはこの頼みを断る事が出来なかった。
「……好キニスルトイイ」
 
 そんなこんなで一行は集落で一夜を明かす許可を得る事が出来た。今はエース達が寝床を整え、緋雨と麻羅が一歩進んだ文明の伝承として効率的な火の起こし方を小人達に教えている。エオリアはその横で食事の支度だ。
 彼らを手伝いながら、レオンはどこか元気の無いパートナーを心配していた。ローズは周囲にはそれを感じさせないように普通に振舞っているが、時折悲しそうな表情を見せるのだった。幼いながらも純粋なレオンは、その僅かな翳りを敏感に感じ取っていた。
(ロゼ、どうしたんだろう? どこか痛いのかな? ……そうだ、近くにロゼが喜びそうな物が無いか探してこようかな)
 そう思い立ったレオンがこっそりと学人に頼み込む。日が落ちている事もあり、最初は難色を示す学人。だが、レオンの真意を知り、最終的には条件付きで許可を出した。
「いいかい? 余り遠くには行かない事。それから晩御飯の時間までにはちゃんと戻って来るんだよ」
「うん、分かった! それじゃ、行って来るね!」
 
 
「結局、島に向かった者達は向こうで一泊か」
「えぇ。先ほど緋雨さんから連絡がありました。ただ、宝玉自体は見つかっているみたいですけどね」
 陽の落ちた海上。アークライト号の甲板でエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)九条 風天(くじょう・ふうてん)が話をしていた。彼らと緋雨は義剣連盟という、風天を隊長とした組織に所属する仲間だった。
「どうやら今回は平和的な手段で事を済ませられそうですね。さすがに『嵐の海』では大変でしたから」
「そうだな。あの時はアークライト号への侵入を許してしまったからな……もっとも、誰かさんのお陰で俺の出番は無かったが」
「それはすみませんでした……『アークライト号の用心棒』でしたっけ? 貴方の役どころは」
「他の者と違って、ただ俺がそう動きたいと思っているだけだがな。まぁせっかくの体験だ。元の世界に戻る事も重要だが、役になりきってみるのもまた一興。この航海が終わるまではそのつもりで動く予定だ」
 
「殿、エヴァルト様、そろそろ夕食のお時間でございます」
「今日は初日以来のカレーだ。作った者達によると中々の自信作らしいぞ……私としては油揚げも別にあると最高なのだがな」
 坂崎 今宵(さかざき・こよい)白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)が甲板へと出て来る。既に他の者達も船室へと集まっているらしい。
「有難うございます、今宵、白姉。では行きましょうか、『用心棒』さん?」
「アイアイサー!」