空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

イルミンスールの割りと普通な1日

リアクション公開中!

イルミンスールの割りと普通な1日

リアクション



●今日もイルミンスールの1日が始まります。

 本日も晴天なり。
 今日もイルミンスール魔法学校では、魔法の授業をしている。
「ではまず、今日の授業の注意点について説明をするぞ」
 生徒たちの前に立つのはアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)だ。
「本日はゴーレムを使った魔法の訓練だ。しかし本質は探索と戦闘の両面を兼ねた冒険の基礎と思ってもらってもいい」
 アルツールは説明を続ける。
「迷宮に入る前に、チームを組む。そして、そのチームのリーダーはこちらが用意したダイスを二つ振り、その出目の合計値に対応したゴーレムを倒してもらう。ただし、ゾロ目は例外だ」
 ゾロ目を出したチームにはミスリルゴーレムと戦ってもらうと伝える。
 そして、アルツールは出目に対するゴーレムの基本的なスペックを伝えた。
「注意してほしいことが2点ある。この授業での物理攻撃はゴーレムの文字を削る以外使うことを禁止する。もし物理攻撃でゴーレムの破壊が確認されたら、そのチームは本日の授業の単位は授けることができなくなる。それともうひとつ。同じように、自分たちの魔法の力だけで戦ってもらうため、装備品による自身の強化、および弱体化を禁止とする。以上だ。何か質問はあるか?」
 アルツールがあたりを見回すが、質問があるような生徒は一人としていないようだ。
「では、まずは一番強いゴーレムの危険性というものを実践でお見せしましょう」
 アルツールから話を引き継いだのはラムズ・シュリュズベリィ(らむず・しゅりゅずべりぃ)だ。
 ファイルを手に持ち生徒の状況を逐一記録できるようにしている。
「例え、制限時間が一時間とはいえ、自分たちの力量に見合わないゴーレムを引いてしまったら逃げることを考える、というのもひとつの手です。逃げるのは恥ではありませんので。では、既にスタンバイしているスタッフに実演してもらいましょうか」
 そういって、生徒たちの前に大画面を広げて見せた。
 そこには、音井博季(おとい・ひろき)リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)がミスリルゴーレムと対峙していた。
「音井さんにもダイスを振ってもらいましたが、ゾロ目を出してしまいましてね。まぁ、折角なのでチームを組んでもらってミスリルゴーレムの強さを分かってもらおうという魂胆です」
 ラムズは事も無げに言ってのけた。
 画面に映る博季はもう今にも逃げ出したくて、泣きそうで。自分の不運を呪っているような風に取れてしまう。
 それでも、逃げ出さなかったのは恋人であるリンネと一緒だからだろう。
 そして、ミスリルゴーレムが襲い掛かってくる。
「リンネさん!」
 博季はリンネへ声をかけるとともに、ヒロイックアサルトで自身を強化。
「分かってるって、博季ちゃん! 行くよー!」
 リンネも元気よくファイアストームを放つ。
 それに合わせて、博季もファイアストームを被せる。
 二重の業火がミスリルゴーレムを襲うが、ミスリルゴーレムの足が止まることはない。
 地鳴りのような足音を響かせつつも、とても素早くミスリルゴーレムは動く。
 そして、リンネへ拳を振るう。
「こっちですよ!」
 博季が歴戦の魔術でミスリルゴーレムの気を引いた。
 その隙にリンネもその場から離れ、次の魔法の準備へと取り掛かった。
「サンダーブラストッ!」
 リンネの手から放たれたサンダーブラストはミスリルゴーレムに直撃はする。
 だが、少しふらつくばかりで一向にミスリルゴーレムの動きは衰えない。
 ミスリルゴーレムはズシンズシンと足音を響かせ、リンネと距離を縮める。
 そして、振るわれた拳が魔法を撃った隙のできているリンネへと直撃しそうな瞬間、
「リンネさん!」
 博季がミスリルゴーレムとリンネの間に割って入った。
 致命的な一撃が博季を襲う。
 痛みに顔をしかめ、それでもリンネを守れたことが誇らしいのか、リンネに向かって浮かべる表情は苦しいながらも笑顔だ。
「だ、大丈夫!?」
「リンネさんが怪我するよりは、全然……ですよ!」
 リンネを抱きかかえ、博季はミスリルゴーレムから距離をとった。
「さ、流石にミスリルゴーレムは手ごわいですね……でも……」
 リンネさんだけは絶対に怪我はさせませんから、という言葉を飲み込んでミスリルゴーレムを見上げる。
 改めて大きいと思った。
 攻撃力、防御力、素早さ。そのどれもが高水準で纏まっている。
 善戦はしているように思えるが、やはり実力不足な面がある。
「リンネさん。ミスリルゴーレムは僕が引き付けるので、リンネさんは文字を探して消してください」
 役割分担と、リンネに文字を探させることのほうが彼女の安全につながるだろうと考えた博季。
「うん、わかったよ。でも、博季ちゃん、絶対無理しないでね!」
 そうして、二人は左右に別れた。
 博季がミスリルゴーレムの注意を引き、リンネが文字を探り当て、文字へスキルを使うところまでは行ったが、消しきれない。
 そうこうしているうちに、博季が戦闘不能になり、リンネも続いてダウン。
 広間へつれてこられる。
「ごめんね、リンネさん。格好いいところ見せられなかったね」
 やはり、博季も男。恋人に格好いいところを見せたかったのだろう。悔しそうに顔を歪めた。
 リンネは、そんな博季の頭を撫でてぎゅっと抱きしめた。
「博季ちゃんはすっごいがんばったよ! あいつに勝てなかったのはリンネちゃんが博季ちゃんの足を引っ張ってしまったからだもん! 博季ちゃんはとってもかっこよかったよ!」
 ミスリルゴーレムには負けてしまったけれども、博季とリンネの絆はしっかりと繋がっていることを気づけただけでも、収穫ではないだろうかと博季は思い直すことにしたのだった。
 しかし、どうやらこのデモンストレーションは成功しているようで、一人で参加しようとしている人に対しての牽制の意味合いはあったようだ。 慌しく急造のチームを作る人たちが増えた。
 その様子を見れただけでも、負けた甲斐はあったのだろう。