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イルミンスールの割りと普通な1日

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イルミンスールの割りと普通な1日

リアクション



●ペットのお世話は大事ですよ!

 五月葉終夏(さつきば・おりが)は自分のペットである牧神の猟犬の冬子さんと一緒にいた。
 普段から大人しい冬子さんだが、終夏は本当に冬子さんが嫌がっていたりしないだろうかと不安になったのだ。
「普段から滅多に起こったりしないんですけれど、大丈夫でしょうか」
 飼育員の人に声をかけ、状況を説明した。
「では、少し見てみますね」
 飼育員は冬子さんと視線を合わせた。
 それから、首周り、胴、尻尾と撫で、終夏の下へと戻ってくる。
「うん、大分君に懐いていますし、嫌がってはいなさそうですね。今のまま、特に何も変えずに接してあげるほうがこの子のためになりますよ」
 飼育員は笑顔で、終夏に伝えた。
「体調などはすぐ毛並みなどにも出てしまいますから、もし何かおかしな所があればすぐに聞きに来てください。基本的に今までどおりで大丈夫ですよ」
 それで安心したのか、終夏もほっと胸を撫で下ろし、飼育員にお礼を言う。
 そして、いつものように、慈しむ様に冬子さんのふさふさの毛を心おきなくもふもふする終夏だった。



 南部豊和(なんぶ・とよかず)は初めて触れあう幻獣におっかなびっくりしている。
 自分が、怖がれば相手にもそれは伝わってしまうと、飼育員に言われてしまったが、目の前にいるヒポグリフの巨体を見ると萎縮してしまうものがあるのだ。
「だ、大丈夫かな……」
 前半身は鷲、後半身は馬という姿のヒポグリフだが、その巨体からは考えられないほど大人しい生物だ。
 豊和は目の前のヒポグリフに、自分には敵意がないと伝えるために、目線を合わせる。
 そうして、理解してもらえたのだろうかヒポグリフは豊和に擦り寄ってきた。
「わっ、くすぐったいですよ」
 ははっと笑いながらも、豊和はヒポグリフの毛にブラシをいれ、翼は念入りに毛づくろいをした。
 それから餌をやり少しずつだが仲良くなってきたように豊和は思った。
 これなら、お願いを聞いてもらえるだろうか?
「背中に乗せてもらえないかな?」
 ヒポグリフの顎の下に手を置き、豊和はそう語りかけた。
 いつか自由に空を飛んでみたい。そんな豊和の思いが伝わったのだろうか、ヒポグリフは一鳴き。
「いいのかな?」
 その豊和の問いに、ヒポグリフはグルルと唸る。怖がらせるような様子でもないしきっと大丈夫なのだろう。
 そしてヒポグリフに跨ると、空へと舞い上がるのだった。



 笹野朔夜(ささの・さくや)の体を借りた笹野桜(ささの・さくら)は、アンネリーゼ・イェーガー(あんねりーぜ・いぇーがー)にフライングポニーの乗り方を教えている笹野冬月(ささの・ふゆつき)たちの二人を見ている。
 アンネリーゼはワイルドペガサスに乗りたがっていたようだが、流石にそれは危ないと言うことで、フライングポニーを妥協点としたのだ。
 既に、目の前のフライングポニーには鞍と手綱が付けられている。
 冬月がまずお手本として、フライングポニーに乗ってみせる。
「いいか、まずは馬にこれから乗ることを教えるんだ」
 まるで先生と生徒のように、アンネリーゼは冬月の話を聞いている。
「こうやって、馬の横に立って口元の手綱を持つ」
 冬月はフライングポニーの横に立ち、実践して見せた。
「それから、手綱は持ったまま馬に乗るときはこのあぶみと言うところに足を乗せて、空いている手で鞍をしっかり持ってフライングポニーを驚かさないようにゆっくりと乗るんだ」
 乗るところまで、やって見せる。それからフライングポニーから降りると冬月はアンネリーゼの傍に行き、
「最初はなれないだろうから、補助をしてあげるよ」
「今の説明を聞けばわたくしだって、一人でやれますわ!」
 冬月ははぁっとため息をついて苦笑。やっぱりそうだと思ったといわんばかりだ。
「じゃあ、やってみて。どうしてもできなかったら手伝ってあげるから」
「う、うん」
 アンネリーゼは恐る恐る、言われた通りにフライングポニーの口元の手綱を持った。
 それから、あぶみに足を掛けたところで、フライングポニーが暴れる。
「わっ!」
 前足を上げ、フライングポニーはアンネリーゼが乗ることを拒否した。
 思い切り尻餅をつき、アンネリーゼはフライングポニーを恨みがましい目で見た。
「そんなに自分が怖がっていたら、乗せられないぞ」
「あーちゃん、怖がることは何も無いですよ」
 冬月と桜がアンネリーゼを安心させるように優しく言う。
「わかりましたわ」
 先ほどよりも緊張が薄れた様子で、同じ所作を行う。
 そして今度は勢いがつきすぎて、反対側へ顔から地面にダイブ。
「ぐすっ……」
 アンネリーゼは涙目だ。すぐさま桜が、アンネリーゼの下へ行きハンカチで顔の泥を拭う。
「あーちゃん、もうちょっとです。頑張るのですよ!」
「うん」
 桜の励ましにこくりと頷くと、果敢にもう一度トライ。
 しかし、今度はフライングポニーが勝手に動き出してしまった。
 完全に遊ばれている。
 ぐしゅぐしゅと顔を歪めるアンネリーゼ。
 やれやれと、冬月は肩をすくめた。
「ほら、アンネリーゼ。もう一回だ」
「はい、冬月お兄様」
 手綱をアンネリーゼに持たせ、今度はフライングポニーが動かないように、冬月がしっかりと支えた。
 そして四度。今度こそアンネリーゼはフライングポニーに乗ることができた。
「わぁ! すごいですわ!」
 馬上から見える景色に、アンネリーゼはうっとりとした。
「それじゃあ、少し歩こうか」
 冬月が先導し、アンネリーゼとフライングポニーは歩き出した。
 そして、二人の姿が小さくなると、
『桜さん桜さん』
「はいはい、なんでしょうか」
『アンネリーゼさんが戻ってきたら、よく出来ましたと頭を撫でてあげてください』
「あきらめずに頑張りましたものね。承知しました」
 朔夜と桜の短いやりとり。
 少しして二人が戻ってくると、アンネリーゼはすっかり興奮していた。
 それから桜は朔夜に言われた通りに、アンネリーゼの頭を撫でたのだった。