校長室
十人十色に百花繚乱、恋の形は千差万別
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第二十三篇:エヴァルト・マルトリッツ×ミュリエル・クロンティリス×アドルフィーネ・ウインドリィ エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は困惑していた。 ――妹分が張り切ってるな……何か嫌な予感がちょっぴりするが、まぁ、悪いことはないだろう、多分。む、ミュリエルが依頼の話を聞き、その上で誘うとは、珍しい。 それが事の発端だった。 「ワルプルギスさんからの依頼となると、賢者の石関連か?ミュリエルが内容を詳しく言わなかったのは、専門用語が沢山あったからだろうか? とにかく行ってみるとしよう」 そう言って、詳しく話を聞きもせずに、ミュリエル・クロンティリス(みゅりえる・くろんてぃりす)に同行した彼は、一冊の『本』の前に立たされた。そして、困惑を禁じえない事態に巻き込まれたのだ。 ……そして。頭の中では疑問ばかりだが、見知らぬ場所で、生身で、騎士として普通に過ごしている彼がいた。 翼や角が出ていては世界観的にマズイだろうと思い、布をかぶせせようとして、エヴァルトはミュリエルの背中と頭が普通の人間と同じような姿になっているのに気付いた。 そして、気付けば自分たちはベンチに座っている。それに、さっきからあからさまにラブコメなハプニングを誘発しそうな横風がひっきりなしに吹いてくる。 「アゾートって人からの依頼? 勿論、受けましょう。面白そうだし、演出のし甲斐がありそうね。特に、キミが恋愛に関わるなんて、なかなか見れるものじゃないわ。……ひっそり片思いされてるのはいつもだけど」 そう言って色々とアドバイスしてきたアドルフィーネ・ウインドリィ(あどるふぃーね・ういんどりぃ)が件の横風を吹かせているのだ。ちなみに、彼女はこの世界ではエヴァルトの家に居候している魔女という設定らしい。 砂埃を含んだ横風がミュリエルにあたらないよう、エヴァルトは彼女を抱きしめて守ってやる。強烈な横風を、大きな身体で遮るようにして、大事な妹を抱きしめてやる優しい兄という微笑ましい光景だ。 道を行く通行人の誰もが微笑ましく見ていた時だった。突如としてエヴァルトの頭上に『▼ロリコン』という文字が表示されたのだ。 『本』の中の世界ということもあって、こんなことも可能らしい。ちなみに、これはアドルフィーネの仕業である。 すると、周囲の通行人たちが、ある者は距離を取り始め、ある者は遠巻きにエヴァルトを見つめ、またある者はひそひそと言葉を交わし始めた。 何か気まずい空気をエヴァルトが感じた瞬間、その空気を裂くようにして、無邪気な子供の声が響き渡った。 「ママー、ロリコンってなにー?」 まったく悪意なく、エヴァルトを指差して母親に問いかける子供。 「しっ! 見ちゃいけません!」 そして、直後に響き渡る母親の声。母親は子供の手を掴むと、即座にその場を立ち去った。 ロリコンとか言った奴は睨みつけて殺気を放つ……とは言いつつも、小さな子供が相手ではそれもできない。件の親子が去った後、たまりかねてエヴァルトはベンチから立ち上がって叫んだ。 「誰がロリコンだァァァッッ!」 身体の大きな彼が凄まじい剣幕で叫べば、その迫力は相当なものだ。周囲の通行人は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。 そして、すっかり閑散としてしまった一帯にアドルフィーネの声が響き渡る。 「最後に一言。ロリコンの騎士と夢魔の女の子は、支え合って、末永く幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし」 そんなナレーションが流れるのを聞ききながら、ぷるぷると震えたエヴァルトは、再び叫んだという。 「……最後までロリコン呼ばわりのどこがめでたいんだァァァッッ!!!」 彼らの日常は今日も平和である。めでたしめでたし。